吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます

リオール

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第一部

35、吸血鬼と王太子(2)

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「ぐえあぼっ!!」

 気持ち悪い意味不明な悲鳴と共に、レイオンが床に倒れ込んだ。股間に手を当てて気を失ってることから、痛みは私の股間蹴りの方が強かったということだろう。ざまぁ!

 気絶に至ったのは、目の前に立つ存在の一撃だろうが。

「えっと……」

 戸惑って見上げてると、ニッコリと微笑まれた──その笑顔だけなら、公爵に匹敵するほどの美形なんだろうけど。いかんせん、私の目は公爵を贔屓しすぎていて、全くもってときめかない。

「我が名はゼンソン。以後お見知りおきを、美しいお嬢さん」
「ああはい、全損王子。……フィーリアラと申します」
「(?なんか発音がおかしいな……)危ないところだったね」
「ええ。助けてくださりありがとうござ……って、貴方が私をさらったからこうなったんでしょうが!」

 思わず礼を言いかけたわ!

 そもそもお前が私を公爵邸から引っさらったから!
 私をこんなとこに連れて来たから!
 そしてよりによってレイオンなんかを呼ぶから!

 相手が王太子だろうと関係ないわ!文句は言わせてもらいます!

「あはは、気付いたか!」
「気付かんでか!」

 くっくっく、と笑う様は、公爵より幼げで表情豊かだ。
 そりゃそうか、公爵はいつ生まれたかも分からない年齢だけど、王太子は確実に今の国王夫妻から生まれたわけで。

 吸血鬼としては赤子同然とも言えるし、人間としてもまだ青年な年齢──のはずだ。
 興味ないから王太子の年齢なぞ知らん。

「太陽より眩い美しさで、あの公爵の心を掴んだのかと思ったが。どうしてどうして……キミはとても面白い、珍しいタイプで魅力たっぷりの女性のようだね」
「それはどうも」

 全然褒められてる気がしないし嬉しくもない。

 生まれてこの方18年間、容姿に騙されて寄ってきた男は数多いたけれど、この性格を気に入ってくれたのはゼル様くらいだった。
 が、ここに来て私はモテ期が来たようだ。
 吸血鬼の好みはちょっと人間とずれてるのだろうか……って自分で言ってて悲しくなるわ!

「そういえばこの男は元婚約者なんだろう?色々あったのかい?」
「何もございません」

 王太子が足でゲシゲシ蹴りながら、レイオンを指さして聞いてきた。
 本当に何も無かったので即答。
 本当にねえ……デートや手を繋ぐどころか、二人きりで会話したことあったっけ?てくらいの関係でしたよ。

「そうか、それは良かった」

 何が良かった、どう良かった。

 聞きたいけど、それより私は逃げの体制に入る方に意識がいく。

「近いです」
「そりゃ近づいてるからね」

 ベッドの端まで来たけれど、ギシリと音をたてて王太子もベッドに乗ってきた。

 いやいやいやいや
 これではレイオンと変わらんではないか。

「ちなみに」

 私の髪に指をからめて言葉を紡ぐ。ぞわっと寒気するからやめて!

 髪を取り戻して睨んだら、ニヤッと笑われた。

「ゼルストアとは、どこまでしたの?」

 言うか!誰がゼル様との大切な思い出を語るか!
 口を堅く結んでいたら、また髪を絡めとられて……髪に口づけられた。

 いいいいいやああああああ!!!!!

 なにこれナニコレ何これ!!!



 ……気持ち悪い!!!



 なるほど。
 好きな相手にされたら真っ赤になるシチュエーションも、そうじゃない相手にされると砂を吐きたくなるほどに気持ち悪くなるわけだ。
 恋愛経験なかったから知らなかったよ!

「ひょっとして」

 ちぃかぁづぅくぅなぁ!!!

 その距離はもう鼻と鼻がくっ付きそうな距離。
 ちなみに私は限界まで体をのけぞらせてるんだけどね。
 これ以上後退するとベッドから落ちる。降りようにも体制が悪くて動けない……けど、これ以上近づかれるようなら、痛みを覚悟して後頭部から床に落ちる!

「キスもまだしてないとか?」

 グッと王太子が顔を近づけてきた。王太子の胸に手を当てて押し戻そうとしても、吸血鬼の力を持つ彼には到底敵わない。

「や……い、いや……!わ、私は……私が──」

「うん?」

 唇が私のそれに触れそうになる直前──私は、あらん限りの叫びを上げた!

「私が好きなのはゼル様だけなんだからぁぁ!!!!」

 直後。

 耳をつんざく轟音が、部屋を満たした──




 

    
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