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02 : 嫌な思い出にさよなら
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ーーとまあ、そういった事があり。
無事、ギルラート様と婚約の約束をした私は。
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるグレイスを置いて、屋敷の中庭へと出ていた。
中庭の中心には馬を模した立派な噴水が置いてあり、その周りを囲むようにして庭園が広がっている。
「この中庭に来ると、グレイスに初めて会った時の事を思い出すわ……」
借金のかたに出され、どうせ金持ちの変態かどこ知らぬ馬の骨に買われるのだろうと見積もっていたが、私の街を治める領主の息子に買われたと知った時は、バカなことに少し嬉しくもあった。
私たち一般庶民が、領主の息子というくらいの高い人の顔を見られる機会なんてそうそう無い。
だから、彼は器量が良くて教養あふれる優しい人なのかと勝手に思っていたのーーだが。
「おい女。そんな薄汚い格好で僕の中庭をうろつくな。まずはその服を着替えてこい」
これがグレイスとの初めての会話だった。
「確かに服が汚かったとしても、妻に向かってその口の聞き方は些か配慮が足さないのではなくて?」
そんな慣れないお嬢様言葉が喉から出そうなほど、この発言にはカチンと来たものだ。
というか今思い出せば僕の中庭って何様のつもり!?アンタのじゃなくてアンタの父親が所有する中庭でしょうが!自ら手入れもしないくせに「僕の」って傲慢すぎなんだよあの男!
……とまあこの時から、子どもの頃から密かに抱いていた「理想の王子様と結構する夢」が音を立てて崩壊していったのだ。
それと、息子が息子なら父親も父親。
蛙の子は蛙とはよく言ったもので、グレイスのわがままをなんでも容認するわ、成人を越えた息子に自立もさせずとにかく甘やかすわで、私の居場所なんか何処にも無かった気がする。
一方で使用人の方々は凄く良い方ばかりだったのがまだ救いだった。
こんな境遇の私に同情してくれたのか、いつも2人でこっそりとグレイスの悪口を言い合ったメイドもいた。
今日だってグレイスが邪魔をしてきた時、メイド数人でグレイスを半ば無理やり押さえつけるようにして私を外に出してくれたのだ。
本当に、感謝しても仕切れないくらい、使用人の方々には助かった。
「……月が綺麗ですわね」
ふと、星の綺麗な夜空を見上げる。
季節の花々が植えられ丁寧に剪定されている中庭から見る月は、どこかいつもとは違った、爛々とした輝きがあった。
「月を見ているのかい?」
「わっ、ギルラート様!?」
見上げていた顔を下げ歩こうとした私の背後から、ギルラート様が声をかけてきた。
……こういういきなりの登場は、心臓に悪いからやめてほしいっ!
「君が遅いから心配してね。爺に無理を言って君の様子を見にきたんだ」
「あ、ありがとうございます……」
「礼はいいよ。グレイス伯爵の我儘ぶりは有名だから、屋敷を出る君にもし何かあったらと心配してたんだ……。でも杞憂だったみたいで良かったよ」
そう言ってにこりと笑うと、私の方に手を出してきて。
「さあ馬車に行こう、アリス。積もる話とか色々と、君と話したい事が沢山あるんだ」
「……はいっ!」
その手を取ってロイド家の門を抜け、彼と一緒に馬車に乗り込んだ。
無事、ギルラート様と婚約の約束をした私は。
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるグレイスを置いて、屋敷の中庭へと出ていた。
中庭の中心には馬を模した立派な噴水が置いてあり、その周りを囲むようにして庭園が広がっている。
「この中庭に来ると、グレイスに初めて会った時の事を思い出すわ……」
借金のかたに出され、どうせ金持ちの変態かどこ知らぬ馬の骨に買われるのだろうと見積もっていたが、私の街を治める領主の息子に買われたと知った時は、バカなことに少し嬉しくもあった。
私たち一般庶民が、領主の息子というくらいの高い人の顔を見られる機会なんてそうそう無い。
だから、彼は器量が良くて教養あふれる優しい人なのかと勝手に思っていたのーーだが。
「おい女。そんな薄汚い格好で僕の中庭をうろつくな。まずはその服を着替えてこい」
これがグレイスとの初めての会話だった。
「確かに服が汚かったとしても、妻に向かってその口の聞き方は些か配慮が足さないのではなくて?」
そんな慣れないお嬢様言葉が喉から出そうなほど、この発言にはカチンと来たものだ。
というか今思い出せば僕の中庭って何様のつもり!?アンタのじゃなくてアンタの父親が所有する中庭でしょうが!自ら手入れもしないくせに「僕の」って傲慢すぎなんだよあの男!
……とまあこの時から、子どもの頃から密かに抱いていた「理想の王子様と結構する夢」が音を立てて崩壊していったのだ。
それと、息子が息子なら父親も父親。
蛙の子は蛙とはよく言ったもので、グレイスのわがままをなんでも容認するわ、成人を越えた息子に自立もさせずとにかく甘やかすわで、私の居場所なんか何処にも無かった気がする。
一方で使用人の方々は凄く良い方ばかりだったのがまだ救いだった。
こんな境遇の私に同情してくれたのか、いつも2人でこっそりとグレイスの悪口を言い合ったメイドもいた。
今日だってグレイスが邪魔をしてきた時、メイド数人でグレイスを半ば無理やり押さえつけるようにして私を外に出してくれたのだ。
本当に、感謝しても仕切れないくらい、使用人の方々には助かった。
「……月が綺麗ですわね」
ふと、星の綺麗な夜空を見上げる。
季節の花々が植えられ丁寧に剪定されている中庭から見る月は、どこかいつもとは違った、爛々とした輝きがあった。
「月を見ているのかい?」
「わっ、ギルラート様!?」
見上げていた顔を下げ歩こうとした私の背後から、ギルラート様が声をかけてきた。
……こういういきなりの登場は、心臓に悪いからやめてほしいっ!
「君が遅いから心配してね。爺に無理を言って君の様子を見にきたんだ」
「あ、ありがとうございます……」
「礼はいいよ。グレイス伯爵の我儘ぶりは有名だから、屋敷を出る君にもし何かあったらと心配してたんだ……。でも杞憂だったみたいで良かったよ」
そう言ってにこりと笑うと、私の方に手を出してきて。
「さあ馬車に行こう、アリス。積もる話とか色々と、君と話したい事が沢山あるんだ」
「……はいっ!」
その手を取ってロイド家の門を抜け、彼と一緒に馬車に乗り込んだ。
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