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第三話
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「で、殿下っ」
「こ、これは、その」
「シオン」
ハクアは女生徒を無視して、躊躇いもなく噴水へと入る。女生徒たちが悲鳴を上げる。お止めください、と口々に言うが、その体に触れることは不敬とされるため、実力行使することは出来ない。
「シオン、着替えよう。このまま帰ったら、家の人が心配してしまうからね」
水の中からシオンを抱き上げる。シオンの顔は青ざめていた。体も小刻みに震えている。ハクアは胸が締めつけられた。
「シオン、大丈夫だよ、シオン。私が守る。私がシオンを守るから」
潤んだ瞳がハクアを見つめた。
ああ、シオン。キミをこんなつらい目に遭わせたこいつらを、赦せない。
ハクアは、温度のない目をロゼアに向けた。
「私の態度にはご立派に講釈をたれるが、おまえのその態度こそどうなんだ」
ロゼアがいると思わなかったのだろう。女生徒たちは驚き、慌てている。
ロゼアは何も言えなかった。女生徒に囲まれ、責められていたシオンを庇うこともせず、責める女生徒を諫めることもしなかった。悔しさに唇を噛むロゼアをハクアは一瞥すると、それ以上何も言わずに背を向けた。
女生徒たちはオロオロとするばかりだ。ロゼアは自身を落ち着かせようと、何度か深呼吸をした。そして、困ったように女生徒たちに微笑んだ。
「みっともないところを見せてしまいましたわね。出来れば、見なかったことにしていただきたいですわ。さあ、みなさまも、もうお帰りなさい。御者が心配してしまいますわよ」
赦せない。
女生徒たちを帰し、自身も迎えの馬車に乗り込んで。ロゼアは拳を握り締めた。
わたくしの態度を責めるなど。元はと言えば、誰が撒いた種か。それを衆目の中、わたくしに非があるかのような発言。確かにわたくしの態度は褒められたものではありません。非を、認めましょう。
ですから殿下。ご自身の行いも省みてください。
責められるべきは、わたくしだけですか。
*~*~*~*~*
「シオン、着替えられる?」
医務室へ着いて、シオンを椅子に下ろす。少し落ち着いたのだろう。先程までの顔色から、元に戻りつつある。ゆっくりと柔らかなピンクブロンドを撫でると、シオンはゆるゆると頷いた。
「はい。助けて、いただき、ありがとう、ございました」
弱々しい声。余程怖かったのだろう。いつも見せてくれる、控え目な笑顔さえ今はない。
「シオン」
ハクアは思わず抱き締めていた。
「で、ん、か」
戸惑ったようなシオンの声。
「シオン、大丈夫。もう、こんなことが起こらないよう対処する。だから、それが済んだら」
ハクアは抱き締めていた腕を緩めると、シオンを覗き込んだ。続く言葉を言えずに、切なそうに見つめ続けた。
そんな空気を破ったのは、ハクアの護衛だ。
「殿下、シークワント伯爵家の迎えの方がお見えになりました」
シオンを養子に迎えた伯爵家の御者に、護衛が報せていたようだ。御者が伯爵家に急ぎ伝えに戻り、迎えの者が来たようだ。
余計なことを、とハクアは思った。自分がシークワント家へ送ろうと考えていた。それなのに。護衛に冷たい眼差しを向けると、護衛は一歩下がって頭を下げただけだった。ハクアの怒りに気付いていながら、気付かないフリをしているのだ。ハクアはわざとらしく溜め息を吐くと、シオンを解放した。
「シオン。迎えが来たようだ。私は外に出るから、着替えたら、声をかけてね」
耳元でそっと話をし、離れる際、頬に唇を微かに触れさせた。それだけで、ハクアの唇は甘く痺れた。
*つづく*
「こ、これは、その」
「シオン」
ハクアは女生徒を無視して、躊躇いもなく噴水へと入る。女生徒たちが悲鳴を上げる。お止めください、と口々に言うが、その体に触れることは不敬とされるため、実力行使することは出来ない。
「シオン、着替えよう。このまま帰ったら、家の人が心配してしまうからね」
水の中からシオンを抱き上げる。シオンの顔は青ざめていた。体も小刻みに震えている。ハクアは胸が締めつけられた。
「シオン、大丈夫だよ、シオン。私が守る。私がシオンを守るから」
潤んだ瞳がハクアを見つめた。
ああ、シオン。キミをこんなつらい目に遭わせたこいつらを、赦せない。
ハクアは、温度のない目をロゼアに向けた。
「私の態度にはご立派に講釈をたれるが、おまえのその態度こそどうなんだ」
ロゼアがいると思わなかったのだろう。女生徒たちは驚き、慌てている。
ロゼアは何も言えなかった。女生徒に囲まれ、責められていたシオンを庇うこともせず、責める女生徒を諫めることもしなかった。悔しさに唇を噛むロゼアをハクアは一瞥すると、それ以上何も言わずに背を向けた。
女生徒たちはオロオロとするばかりだ。ロゼアは自身を落ち着かせようと、何度か深呼吸をした。そして、困ったように女生徒たちに微笑んだ。
「みっともないところを見せてしまいましたわね。出来れば、見なかったことにしていただきたいですわ。さあ、みなさまも、もうお帰りなさい。御者が心配してしまいますわよ」
赦せない。
女生徒たちを帰し、自身も迎えの馬車に乗り込んで。ロゼアは拳を握り締めた。
わたくしの態度を責めるなど。元はと言えば、誰が撒いた種か。それを衆目の中、わたくしに非があるかのような発言。確かにわたくしの態度は褒められたものではありません。非を、認めましょう。
ですから殿下。ご自身の行いも省みてください。
責められるべきは、わたくしだけですか。
*~*~*~*~*
「シオン、着替えられる?」
医務室へ着いて、シオンを椅子に下ろす。少し落ち着いたのだろう。先程までの顔色から、元に戻りつつある。ゆっくりと柔らかなピンクブロンドを撫でると、シオンはゆるゆると頷いた。
「はい。助けて、いただき、ありがとう、ございました」
弱々しい声。余程怖かったのだろう。いつも見せてくれる、控え目な笑顔さえ今はない。
「シオン」
ハクアは思わず抱き締めていた。
「で、ん、か」
戸惑ったようなシオンの声。
「シオン、大丈夫。もう、こんなことが起こらないよう対処する。だから、それが済んだら」
ハクアは抱き締めていた腕を緩めると、シオンを覗き込んだ。続く言葉を言えずに、切なそうに見つめ続けた。
そんな空気を破ったのは、ハクアの護衛だ。
「殿下、シークワント伯爵家の迎えの方がお見えになりました」
シオンを養子に迎えた伯爵家の御者に、護衛が報せていたようだ。御者が伯爵家に急ぎ伝えに戻り、迎えの者が来たようだ。
余計なことを、とハクアは思った。自分がシークワント家へ送ろうと考えていた。それなのに。護衛に冷たい眼差しを向けると、護衛は一歩下がって頭を下げただけだった。ハクアの怒りに気付いていながら、気付かないフリをしているのだ。ハクアはわざとらしく溜め息を吐くと、シオンを解放した。
「シオン。迎えが来たようだ。私は外に出るから、着替えたら、声をかけてね」
耳元でそっと話をし、離れる際、頬に唇を微かに触れさせた。それだけで、ハクアの唇は甘く痺れた。
*つづく*
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