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第六話 裏

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 学園が夏の長期休みに入る前日の、聖女シオンのお披露目会。挨拶に訪れる貴族たちの対応に、もう疲れた。どんだけいるんだ。みんな焼き尽くしちゃおうかな。
 あらゆるものが摩耗しきって疲れ切った後の歓談の時間に、それは起こった。
 誰かに背中を押された。すると、危ない、と前にいた男が支えてくれたのだが、別に転びそうになったわけでもない。まあ、聖女仮面を被っているから、礼は言う。男はなんだかイヤらしい笑みを浮かべて去って行った。何だ?と思っていると、ウザいのに絡まれた。
 「まあ、聖女様。男性であればどなたでもよろしいのですか」
 「さすがシャレージュ公爵令嬢様という、素晴らしい婚約者がいらっしゃる第二王子殿下に、色目を使うだけありますわ」
 「このような場でもそんなことをなさるなんて」
 「慎みやはしたないなどと言う言葉をご存じないようですもの」
 ああ、人を貶めたいくだらない連中の差し金か、と納得。
 「今、どなたかに、背中を押されて」
 一応反論するが、どうせ聞く耳持たないだろう。
 「まあイヤだわ。ご自分に非はなく、あくまでも偶然だと装うなんて」
 「清廉な聖女のフリをして、ずいぶんと、ねえ?」
 「そのようなことをなさってまで、男性からのちょうをいただきたいのかしら」
 とてつもなくくだらないことに巻き込まないでください。誰かをイジメたいなら他あたってください。えらい疲れてて何もかもどうでも良くなりそうなので。
 「シークワント伯爵家は何を教えていたのやら」
 何だって?
 「本当に。聖女の教育係に相応しいとはとてもとても」
 「ああ、ほら、ファニアーラ様はまだご婚約者もいらっしゃらないでしょう?」
 「なかなか、あの見た目では、ねえ」
 「ご自分が出来ない代わりに、聖女様にいろいろとご指南なさっていらっしゃるのでは?」
 「イヤだわ、はしたない」
 「黙れ」
 自分でも思っている以上に低い声が出た。
 「人が黙って聞いてれば」
 今、伯爵様たちを、ファニアーラを貶めたな。
 「私のことは何を言ってもいいよ。何でシークワント家の、ファニーの話になるんだよ」
 怒りから、魔力が漏れる。
 「シークワント家のみんなは本当に素晴らしい。ファニーなんて最高にいい女だ。おまえたちのように人を貶めて優越感に浸るような、軟弱な精神なんざ持ち合わせてねぇよ」
 シークワント家のみんながそうだ。誇り高い人たちだ。
 「なあ、だったら私をおまえの養子にしろよ。その軟弱な精神で、余程うまく私を調教出来るんだろうなあ」
 教育云々と言った女に近付いていくと、女は怯えて後退あとじさる。
 「十年以上もおまえたちと違う世界で生きてきたんだぞ。普通に考えて一年でどうにかなるワケねぇだろ。それがおまえらに話を合わせられる程度にまでなったのは、伯爵様たちの人柄のおかげだ」
 そんな人たちを、人を嗤いたいがためだけに貶めるとは。
 そもそも男に色目なんざ使うか、気色悪ぃ。
 「おまえたちの行いの方が、余程はしたない。どの口がファニアーラを、シークワント家を侮辱する」
 ふざけるなよ。
 脅しとして雷を落としてやる。通常では雷を操る魔法はない。例外として、複数の属性を持つ者の組み合わせでは、可能だ。けれど、シオンは光属性しかないと思われているから、大混乱だ。まあ、周囲の反応などどうでもいい。
 「あー、めんどくせぇ。もういいや。マジで胸クソ悪ぃ」
 もういいや。村には謝る。一年以上の我慢が水の泡だけど、こればかりは赦せねぇ。
 近くにいるシークワント家に目を向けると、心配そうに見つめている。まったく。こんな時でも、自分たちを貶めた人間に怒るより、他人シオンの心配しちゃうお人好しなんだから。でも、だから。
 「伯爵様たち、ごめんね」
 折角良くしてくれたのに。
 だけど、大切な人たちを嗤われてまで、我慢なんて出来るかよ。
 左腕を上げ、手のひらを上に向けて、魔力を流す。
 「そうそう、教えてやるよ。私が本当はどこの出身か」
 誰を怒らせたか。
 「デイアボロス」
 その名に、その場の全員が青ざめた。
 「何の村か、わかるよな?」
 ニヤリと、見せつけるように口角をつり上げた。



*つづく*
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