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学園編

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 それからも何度か似たようなことがあった。
 タイカ・コカトリテアに思いを寄せていた男爵子女が、今回の出来事をやり過ぎだ、謝れと詰め寄って来た。あまりのしつこさに壁に押さえつけて喉を締め上げた。まさか女性に手を上げるなんて夢にも思っていなかったのだろう。子女は恐ろしさから白目をむいて失禁した。
 また、エリアストに何度も釣書を送っては袖にされている一つ年下の伯爵子女は、思いあまって放課後にエリアストの教室に押しかけ、どれだけ想っているかを涙ながらに訴え、なんと短剣を取り出した。武器の持ち込みは御法度ごはっとだが、周囲はそこを気にする余裕などない。刃傷沙汰にんじょうざたに、と周囲は危惧したが、子女は自分の喉元にそれを突きつけた。一緒になってくれないなら死んでやる、と自殺をほのめかしたのだ。しかしエリアストは子女に目を向けることもなく、そのまま教室を後にした。クラスメイトや騒ぎに野次馬をしていた者たちは呆気にとられ、子女は失意のまま学園を後にした。
 一番鮮烈だったのは、一つ年下の公爵子息との出来事だ。
 エリアストと同じ爵位ではあるが、筆頭公爵家嫡男であるエリアストと、スペアのスペア、つまり三男坊である公爵子息は、将来の立場は雲泥の差があった。それでも腐らず、しっかり家のことをしていれば問題はなかったのだ。公爵子息は甘やかされて育ったことが災いし、いいことは自分のおかげ、悪いことは周囲のせい、と貴族の義務も忘れた、権力を笠に着た残念な者に仕上がっていた。
 ちなみにこの公爵家のスペアである次男は、エリアストの一つ上の学年に在籍している。嫡男と次男は申し分ない人たちであったが、三男が残念すぎた。学園で次男が頭を抱える姿を見た者は少なくない。
 時々起こるのだ、こういう現象は。同じ家で育っているはずなのに、と思わずにはいられない謎現象。上は厳しく躾をしなくてはいけなかったから甘やかせなかった分、思い切り下を甘やかそうとした結果なのかもしれないが。それでもしっかりした兄弟を目の当たりにしていると、自ずとならうものでもあるのだが。
 三男のやらかしに、次男がいつも謝罪をする。次男は特にエリアストに関わりたくないので、三男にもより厳しく注意するのだが、どこ吹く風。エリアストの危うさを目の当たりにしているはずなのに、なぜ危機感を覚えられないのか不思議でたまらない。
 自分の手には負えないと判断をした次男は、父である公爵に訴えた。公爵もエリアストの危険性は認識している。事態を重く見た公爵に三男は呼び出され、きつく注意を受けることとなる。それに不満を覚えた三男は、母親に泣きついた。公爵も三男には甘かったが、母親は溺愛していた。そしてこの母親は、公爵夫人にあるまじき、社交があまり得意ではなかった。きちんと社交が出来ていれば、少なくともエリアストの噂くらいは耳に入っていただろう。そして公爵も、夫人がまさかエリアストの噂を知らないなどとは思いもしなかった。して同じ公爵という爵位。
 母親は三男を赦してしまった。それだけではなく、三男をより増長させる慰め方をしてしまったのだ。
 これにより、一つの公爵家がなくなることになろうとは。


 *つづく*
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