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フルシュターゼの町編

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 「ディレイガルド公爵様、お疲れのところ大変申し訳ございません」
 ケーシー家が帰ると、支配人のレストーニアから声がかかる。
 「アルシレイス公爵家から、明日、ご挨拶に伺いたいと、打診がございました」
 エリアストはいぶかしむ。リスフォニアはアルシレイスの領地から近いわけでもない。わざわざ出向いてまで何の用があるというのか。同じ公爵家。交流がないわけではないが、親しくもない。
 「何でも、留学していたご令嬢が戻って来たため、ご挨拶をさせたいとか。如何いたしましょう」
 そう、レストーニアが付け加える。
 「明日、ということは、既にリスフォニアに入っているか、すぐ近くまでいらっしゃっていることになりますね、旦那様」
 「受けた方がいいか、エルシィ」
 頭に、顔に、手にくちづけられながら、アリスはくすぐったそうに答えた。
 「そうですわね。わたくしたちは休暇中です。近隣の方々とのご挨拶は大切なことと思い受けましたが、遠方から出向いてまで、となると、切りがありませんわ。偶々近くにいて、ということでしたら仕方がないとは思いますが、そうではないようですので、旦那様のお心のままになさることが最善ですわ」
 なんと珍しい。アリスが少し怒っている。
 「エルシィ、怒っているのか」
 アリスがハッとして両手で頬を押さえる。
 「も、申し訳、ありません。必要なこと以外に、折角の旦那様との休暇をんぅっ」
 エリアストの唇がアリスのそれを塞ぐ。レストーニアは、お断りしておきましょう、そう言って部屋を出て行った。
 「エルシィ、可愛い、エルシィ」
 晩餐も摂らず、翌朝まで寝室に籠もることになりました。


 「予定が合わないから無理、だと?」
 アルシレイス公爵は、遣いが持ち帰った返答の手紙をグシャリと握り締めた。それを遣いの者に向けて投げつける。遣いはそれを拾うと、身を縮めて部屋の隅に寄る。
 「アグリューシャ!隣に宿泊しているからいつでもいいから時間を空けろと打診しろ!」
 その言葉に、遣いはさらに身を縮める。断られたものを、再度自分が届けなくてはならないことに青ざめる。アルシレイス公爵も怖いが、正直、ディレイガルドの方がヤバいと思っている。噂を鵜呑みにしているのではない。実際目にして肌で感じる空気感というのだろうか。それが、警告をしてくる。近付いてはならない人物だ、と。
 そんな遣いの思いなど知る由もなく、アグリューシャは、かしこまりました、と再度面会の手紙をしたために部屋に戻った。
 「いつまでも調子に乗りおって、若造が。今に筆頭の座を明け渡してもらうぞ」
 冷酷だ残酷だと言われているが、それだけだ。その容赦のなさが際立って、誰も逆らえないだけ。実態など、大したことはないのだ。虚勢を張っているだけだと知っている。
 「見かけ倒しの筆頭公爵家など、この国の恥でしかない。ワシらアルシレイス家こそが、筆頭を名乗るに相応しい」
 公爵は立ち上がり、窓から外を見た。
 「もう充分甘い汁は吸っただろう。そろそろ夢から覚めてもいい頃だ。ディレイガルド」



*つづく*
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