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ばんがいへん
愛執 4
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アリスは、俺を選んだ。
記憶が戻っても、俺と共にいることを、自ら選んでいた。
全身を、歓喜が襲う。
それと同時に、手放されることを恐れていたことに、愛しいと思いつつ、無性に腹が立った。何をどうしたら手放せるのか、俺にはわからない。何がアリスにそう思わせたのか。どんなに自分の行動を振り返っても、手放せない要素しかないではないか。
言葉でも行動でも伝わらない。
ならば、体に教えるしかない。
「アリス」
意識を失う愛しい人の頭にくちづける。
やり過ぎたとは思わない。まだ足りない。まだまだこんなものでは、伝わらない。
アリスを抱き上げ、浴室へ向かう。全身を綺麗にし、ソファに横たえる。情事でぐちゃぐちゃのシーツを綺麗なものに取り替えると、アリスをそこに移す。
「アリス」
愛しい人の名を呼び、くちづける。
何度も何度も、くちづける。
「アリス」
どうすればいい。どうすれば伝わるのだろう、この想いは。
何がおまえを悩ませる。何がおまえを不安にさせる。
「アリスッ」
涙が落ちた。
エリアストの涙を受け、アリスが目覚める。
「えるさま」
酷い声だ。どれほど酷使したのだろう。エリアストが水を取ろうと動くと、それよりも早く、アリスの手がエリアストを抱き締めた。
「エル様」
アリスの唇が、エリアストの頭に落ちる。
「エル様」
額に、頬に、くちづける。
「エル様」
瞼に、くちづける。
「アリス」
「エル様」
唇が、重なった。
この手を、離さないで。
わたくしは、いつからか記憶を少しずつ取り戻しておりました。婚約者がいたことも、思い出したのです。隣国の第三王子様です。手紙のやり取りや、年に片手で充分足りるくらいの顔合わせだけでしたが、とてもお人柄の良い方だとわかりました。体に触れてくる方もいると伺っておりましたが、殿下は決してそのようなことはなさらず、適切な距離を保ってくださる紳士でした。穏やかな家庭が築けると、嬉しく思っておりました。
そんなある日、外交の帰りのことです。それは、本当に一瞬でした。護衛の方たちもどうすることも出来ないほど、規模の大きな落石。
わたくしは馬車から投げ出され、幸運にも、被害のない場所へ倒れていたのです。それを見つけてくださったのが、エル様でした。
目覚めて初めてエル様を見たとき、天使様かと思いました。とても美しい、これほど美しい人が、この世にいるとは思えなかったのです。けれど、その天使様は、あろうことかわたくしの手にくちづけ、わたくしを欲しいと、仰ったのです。記憶がなくても、それは不要だと、エル様のことだけ覚えていれば良いと、唇を、重ねたのです。体に触れるどころではありません。それなのに、確かにわたくしは、喜びに全身が包まれたのです。
街で恐ろしい目に遭ったときも、エル様がすぐに駆けつけてくださいました。わたくしの手を、耳を、遠慮なく、それも、公の場で、その唇で、舌で、恐怖を、羞恥へ、喜びへと、変えてくださいました。
殿下がいらっしゃったときは、とても驚きました。けれど、わたくしの心は、最初から殿下にはなかったのだと気付いてしまっておりました。エル様と出会って、わかってしまったのです。殿下への愛は、家族への親愛。
その手を取ることは、出来ません。
エル様への熱を知ってしまった以上、もう、戻れない。
縋るようにエル様の上着を掴むと、エル様がその手を力強く握ってくださいました。
この手を、離さないで。
ずっと、永遠に、離さないで。
離すというなら、いっそ……。
わたくしには、何もない。
エル様への愛しか、持っておりません。
わたくしは、アリス。
エル様がくださった人生が、すべてなのです。
名を呼び合い、抱き締め合う。
どのくらいそうしていただろう。エリアストが動いた。
「エルシィ、体はつらくないか」
「あの、う、動けません」
「そうか。俺がいないと何も出来ないように、この手足の腱を切ってしまおうか」
アリスの左足を持ち上げ、その足首を舐める。アリスはふるりと体を震わせた。
「そうしたら、エル様と、ずっと一緒に、いられますか」
エリアストは目を見開く。そして、アリスの両頬を片手で掴む。
「何が、何がおまえを不安にさせている。俺の何が足りない。何が悪い。どうすれば、おまえは俺が、おまえを手放せないと、理解するんだ」
ギリ、と掴む手に力が入る。
「エル様ではありません。わたくしが、足りないのです。わたくしが、エル様に、届かない」
アリスは苦しそうに、そう言った。
「わたくしには、何も、ありません。何も」
アリスの目から、涙が零れた。
「エル様への愛しか、持っていないのです」
エリアストの頬を掴む手が離れ、今度は両手がそっと頬を包む。
「それ以外、何がいる」
至近距離で見つめあう。
「俺も、おまえへの愛しかない、アリス」
流れる涙にくちづける。
「いいだろう、アリス。おまえを手放せないと、一生を懸けて証明してやる」
獰猛な目がギラギラと光る。
「悩みも不安も、すべて無駄だったと思い知れ」
噛みつくように、唇を塞いだ。
*最終話へつづく*
記憶が戻っても、俺と共にいることを、自ら選んでいた。
全身を、歓喜が襲う。
それと同時に、手放されることを恐れていたことに、愛しいと思いつつ、無性に腹が立った。何をどうしたら手放せるのか、俺にはわからない。何がアリスにそう思わせたのか。どんなに自分の行動を振り返っても、手放せない要素しかないではないか。
言葉でも行動でも伝わらない。
ならば、体に教えるしかない。
「アリス」
意識を失う愛しい人の頭にくちづける。
やり過ぎたとは思わない。まだ足りない。まだまだこんなものでは、伝わらない。
アリスを抱き上げ、浴室へ向かう。全身を綺麗にし、ソファに横たえる。情事でぐちゃぐちゃのシーツを綺麗なものに取り替えると、アリスをそこに移す。
「アリス」
愛しい人の名を呼び、くちづける。
何度も何度も、くちづける。
「アリス」
どうすればいい。どうすれば伝わるのだろう、この想いは。
何がおまえを悩ませる。何がおまえを不安にさせる。
「アリスッ」
涙が落ちた。
エリアストの涙を受け、アリスが目覚める。
「えるさま」
酷い声だ。どれほど酷使したのだろう。エリアストが水を取ろうと動くと、それよりも早く、アリスの手がエリアストを抱き締めた。
「エル様」
アリスの唇が、エリアストの頭に落ちる。
「エル様」
額に、頬に、くちづける。
「エル様」
瞼に、くちづける。
「アリス」
「エル様」
唇が、重なった。
この手を、離さないで。
わたくしは、いつからか記憶を少しずつ取り戻しておりました。婚約者がいたことも、思い出したのです。隣国の第三王子様です。手紙のやり取りや、年に片手で充分足りるくらいの顔合わせだけでしたが、とてもお人柄の良い方だとわかりました。体に触れてくる方もいると伺っておりましたが、殿下は決してそのようなことはなさらず、適切な距離を保ってくださる紳士でした。穏やかな家庭が築けると、嬉しく思っておりました。
そんなある日、外交の帰りのことです。それは、本当に一瞬でした。護衛の方たちもどうすることも出来ないほど、規模の大きな落石。
わたくしは馬車から投げ出され、幸運にも、被害のない場所へ倒れていたのです。それを見つけてくださったのが、エル様でした。
目覚めて初めてエル様を見たとき、天使様かと思いました。とても美しい、これほど美しい人が、この世にいるとは思えなかったのです。けれど、その天使様は、あろうことかわたくしの手にくちづけ、わたくしを欲しいと、仰ったのです。記憶がなくても、それは不要だと、エル様のことだけ覚えていれば良いと、唇を、重ねたのです。体に触れるどころではありません。それなのに、確かにわたくしは、喜びに全身が包まれたのです。
街で恐ろしい目に遭ったときも、エル様がすぐに駆けつけてくださいました。わたくしの手を、耳を、遠慮なく、それも、公の場で、その唇で、舌で、恐怖を、羞恥へ、喜びへと、変えてくださいました。
殿下がいらっしゃったときは、とても驚きました。けれど、わたくしの心は、最初から殿下にはなかったのだと気付いてしまっておりました。エル様と出会って、わかってしまったのです。殿下への愛は、家族への親愛。
その手を取ることは、出来ません。
エル様への熱を知ってしまった以上、もう、戻れない。
縋るようにエル様の上着を掴むと、エル様がその手を力強く握ってくださいました。
この手を、離さないで。
ずっと、永遠に、離さないで。
離すというなら、いっそ……。
わたくしには、何もない。
エル様への愛しか、持っておりません。
わたくしは、アリス。
エル様がくださった人生が、すべてなのです。
名を呼び合い、抱き締め合う。
どのくらいそうしていただろう。エリアストが動いた。
「エルシィ、体はつらくないか」
「あの、う、動けません」
「そうか。俺がいないと何も出来ないように、この手足の腱を切ってしまおうか」
アリスの左足を持ち上げ、その足首を舐める。アリスはふるりと体を震わせた。
「そうしたら、エル様と、ずっと一緒に、いられますか」
エリアストは目を見開く。そして、アリスの両頬を片手で掴む。
「何が、何がおまえを不安にさせている。俺の何が足りない。何が悪い。どうすれば、おまえは俺が、おまえを手放せないと、理解するんだ」
ギリ、と掴む手に力が入る。
「エル様ではありません。わたくしが、足りないのです。わたくしが、エル様に、届かない」
アリスは苦しそうに、そう言った。
「わたくしには、何も、ありません。何も」
アリスの目から、涙が零れた。
「エル様への愛しか、持っていないのです」
エリアストの頬を掴む手が離れ、今度は両手がそっと頬を包む。
「それ以外、何がいる」
至近距離で見つめあう。
「俺も、おまえへの愛しかない、アリス」
流れる涙にくちづける。
「いいだろう、アリス。おまえを手放せないと、一生を懸けて証明してやる」
獰猛な目がギラギラと光る。
「悩みも不安も、すべて無駄だったと思い知れ」
噛みつくように、唇を塞いだ。
*最終話へつづく*
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