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 「わたくしが幼少の頃は、食事も一日一食。小鳥のエサ程の量しか貰えず、年齢と体が釣り合わないほどでした」
 四人の目がさらに大きくなる。
 「これでは足りない、と言えば、わがままを言うなとメイドに叩かれました」
 あのクソメイド。食事を床に落としたこと、忘れてないからな。食べ物の恨みは怖いぞ。
 「部屋から出ることも許されず、ただ日がな一日窓から空を見つめる日々」
 躾も教育もされることなく、ただ生かされていただけの毎日。
 「このままわたくしは朽ちていくのだと、そう思っておりました」
 静まり返る室内。
 「けれど、ある日、本当に何の前触れもなく、このままではいけない、と思いました」
 前世の記憶が蘇ったときのことだ。そんなことは言うわけないけど。
 「夜、みんなが寝静まった後、こっそり部屋から抜け出すようになりました。そうして、自分で食事を調達し、あらゆることを学習していきました」
 独学なので無礼なことも多々ありましょうが、そこはご容赦ください、と頭を下げておく。
 「ただ生かされていただけの日々を、自分自身で終わらせました」
 誰の手を借りるでもなく、自分でもぎ取ったせいだと主張してみる。
 「わたくしがかどわかされたときも、探しもしない」
 さっさと断ち切りたかった縁。探す価値もない。侯爵家としては断ち切るきっかけをくれてありがとう、といったところか。
 「わたくしは、王太子殿下たちに保護されるまで、自分の名前すら存じ上げませんでした」
 もう四人はかける言葉さえ見つからない。
 「親であれば、そんな非道な仕打ち、いたしませんでしょう?」
 笑えていないだろうけど、笑う。
 「けれど、孤児みなしごのわたくしを憐れんで、部屋もささやかな食事も与えていたというのであれば、本来ならどこぞで野垂れ死んでいたわたくしを救ってくださった神の如きお人」
 ひとつ、息を吐く。
 「どちらでしょうね。親だというのに非道を行ったのか、親でもないのに見ず知らずの私を救ってくださったのか」
 非道を行う者を親とは呼ばない。孤児であれば本当に親ではない。
 「どちらにせよ、親ではないのです。だから、義務など存在しないのです」
 「どう、して」
 弟が震えながら言葉を発した。
 「どうして、そんな、何でもないことのように、言うんだ」
 弟の頬を、一粒、涙が流れた。
 「どうしてっ、シラユキッ」
 縋るように私の両肩に両手を乗せ、俯いている。
 「王子様、泣かなくていいのです」
 キラキラと、綺麗な雫が床に落ちていく様が綺麗。
 「私は、本当に、何とも思っていないのですよ」
 弟がガバッと顔を上げる。泣き顔も、綺麗だね。
 「そんな、そんな人間などいない!そんな扱いをされて、平気な人間などっ」
 「では私は人ではないのでしょう」
 「シラユキ」
 弟は、ひどく傷ついたような顔をした。
 「私のためになど、泣かなくていいのです。だって、王子様」
 僅かに首をかしげて弟を見る。
 「あなたが泣く理由を、私は本当の意味で知ることはないでしょう」
 なぜ泣いているのかは、理解出来る。理解が出来るだけで、自分が同じように出来るとは思えないからだ。
 「でも、ありがとうございます。泣いてくださった恩は、いつかお返しします」
 「泣いた、恩?」
 「私のためにしてくださったことでしょう」
 「ちがう、ちがうよ、しらゆき、そうじゃない」
 さらに涙を零しながら、弟は私の肩を掴む手に力を込める。
 「こんなことに、恩とか、そんなもの、感じる必要は、ないんだ。しらゆき、しらゆき」
 何かを埋めるように、弟は私を抱き締めた。


*つづく*
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