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88 ~サリュアside~
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どうして、どうしてどうしてどうしてよ。
私は千年聖女よ。ずっとみんなを、この国を守ってきたじゃない。
ウェンリアイン様は恐ろしい。私を殺すことを何とも思っていないようだった。
そう、よ。これ、どこに向かっているの。私の首を絞めて殺そうとした人よ。本当に私を逃がしてくれるの?どこに?
チラリとウェンリアイン様を見ると、目が合った。口元には笑みを作ってくれたけど、目が。目が、ちっとも笑っていない。
怖くて目を逸らす。
何、やっているのよ、私。どうして、手を取ってしまったの。このままでは殺される。逃げなくては。何としても、この男から逃げなくては。馬車を、止めさせないと。何て言って?馬車を降りてどこへ行くの?大丈夫、私は千年聖女。国民から最も親しまれ、愛されている千年聖女よ。みんなが、私を助けてくれるわ。とにかくここから、この男から離れなくては。
「あ、あの、ウェ、あ、お、王太子殿下」
「ん?何だい、サリュア」
以前と変わらない、優しい声。それが、恐ろしい。私にあんなことをしておいて、いつも通りだということが、とても恐ろしい。
「き、緊張、して、具合が」
「ああ、無理もない。いろいろ大変だったからね。この辺りならまあ大丈夫かな。少し休もうか」
「あ、りがとう、ございます」
良かった。向こうから馬車を止めてくれた。後は、逃げないと。この護衛たちを撒けるだろうか。いいえ、撒かないと。私の命がかかっているのよ。今来た道を戻って人を探さないと。でも道を使うわけにはいかない。この道を見失わないように、隠れながら戻らないと。
いざとなったら魅了を使えばいい。とにかくあの男から離れさえすれば、護衛たちなど何とでも出来る。あの男は魔法においても天才。私の魔法が効かない可能性が高い。だから、少しでもあの男からは離れないと。
「向こうに小川があるよ。顔でも洗っておいで。少しはさっぱりするよ」
「は、はい、ありがとうございます」
護衛が一人、ついて来た。一人なら、撒ける。
「あ、あの、ちょっと、私、その」
足を擦り合わせる仕草をすると、護衛は察したようだ。
「これは気付かず失礼しました。少し離れますので、何かありましたら大きな声を出して下さい。すぐに駆けつけます」
「はい、ありがとうございます。すぐ、戻ります」
逃げないと。今すぐ、ここから離れないと。
大きな木の陰に身を隠し、用を済ませるフリをする。
今なら誰も見ていない。身を潜めながら、慎重に、でも急いで。余計なことは考えないで、ただ足を動かすのよ。
後ろを確認しながら、徐々に速度を上げる。心臓がうるさい。息が上がる。捕まったら殺される。いやよ、死にたくないっ。まだまだ私はやりたいことがあるんだから。聖女になる前の惨めな暮らしなんて絶対に嫌。誰もが羨む最高の地位について、誰からも愛される聖女になるのよ。こんなところで死ぬような人間じゃないの。私は、すべての者から愛されるべき存在よ。だって、そうでしょう?私は千年前の聖女の再来と言われているのよ。
だから、こんな状況、何かの間違いよ。
みんな、私の姿を見ただけで、涙を流して喜ぶんだから。
私は、そういう存在なのよ。
こんなところで、追われて人知れず死ぬような、そんな存在じゃないわ。
*つづく*
私は千年聖女よ。ずっとみんなを、この国を守ってきたじゃない。
ウェンリアイン様は恐ろしい。私を殺すことを何とも思っていないようだった。
そう、よ。これ、どこに向かっているの。私の首を絞めて殺そうとした人よ。本当に私を逃がしてくれるの?どこに?
チラリとウェンリアイン様を見ると、目が合った。口元には笑みを作ってくれたけど、目が。目が、ちっとも笑っていない。
怖くて目を逸らす。
何、やっているのよ、私。どうして、手を取ってしまったの。このままでは殺される。逃げなくては。何としても、この男から逃げなくては。馬車を、止めさせないと。何て言って?馬車を降りてどこへ行くの?大丈夫、私は千年聖女。国民から最も親しまれ、愛されている千年聖女よ。みんなが、私を助けてくれるわ。とにかくここから、この男から離れなくては。
「あ、あの、ウェ、あ、お、王太子殿下」
「ん?何だい、サリュア」
以前と変わらない、優しい声。それが、恐ろしい。私にあんなことをしておいて、いつも通りだということが、とても恐ろしい。
「き、緊張、して、具合が」
「ああ、無理もない。いろいろ大変だったからね。この辺りならまあ大丈夫かな。少し休もうか」
「あ、りがとう、ございます」
良かった。向こうから馬車を止めてくれた。後は、逃げないと。この護衛たちを撒けるだろうか。いいえ、撒かないと。私の命がかかっているのよ。今来た道を戻って人を探さないと。でも道を使うわけにはいかない。この道を見失わないように、隠れながら戻らないと。
いざとなったら魅了を使えばいい。とにかくあの男から離れさえすれば、護衛たちなど何とでも出来る。あの男は魔法においても天才。私の魔法が効かない可能性が高い。だから、少しでもあの男からは離れないと。
「向こうに小川があるよ。顔でも洗っておいで。少しはさっぱりするよ」
「は、はい、ありがとうございます」
護衛が一人、ついて来た。一人なら、撒ける。
「あ、あの、ちょっと、私、その」
足を擦り合わせる仕草をすると、護衛は察したようだ。
「これは気付かず失礼しました。少し離れますので、何かありましたら大きな声を出して下さい。すぐに駆けつけます」
「はい、ありがとうございます。すぐ、戻ります」
逃げないと。今すぐ、ここから離れないと。
大きな木の陰に身を隠し、用を済ませるフリをする。
今なら誰も見ていない。身を潜めながら、慎重に、でも急いで。余計なことは考えないで、ただ足を動かすのよ。
後ろを確認しながら、徐々に速度を上げる。心臓がうるさい。息が上がる。捕まったら殺される。いやよ、死にたくないっ。まだまだ私はやりたいことがあるんだから。聖女になる前の惨めな暮らしなんて絶対に嫌。誰もが羨む最高の地位について、誰からも愛される聖女になるのよ。こんなところで死ぬような人間じゃないの。私は、すべての者から愛されるべき存在よ。だって、そうでしょう?私は千年前の聖女の再来と言われているのよ。
だから、こんな状況、何かの間違いよ。
みんな、私の姿を見ただけで、涙を流して喜ぶんだから。
私は、そういう存在なのよ。
こんなところで、追われて人知れず死ぬような、そんな存在じゃないわ。
*つづく*
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