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番外編
人騒がせなクピド5
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「私の情報を流してどうするつもりだった」
簡素な灯りが一つ灯るだけの、小さな部屋。ディレイガルド邸の中に、このような部屋があったのか、と目隠しをされて連れて来られたトノイアは、現実逃避のようにそう思った。
部屋の中央に置かれた椅子には、銀の髪に水色の双眸を持つこの世のものとは思えない美貌の持ち主が座っている。
トノイアは、知らず息をのんだ。
初めて間近で見るエリアストは、トノイアにはただただ恐ろしかった。美しい、よりも、恐ろしさが上回った。
「私が、想いを寄せる方の、少しでも、喜ぶ顔を」
震える声で、やっとの思いでそう告げると、エリアストから不穏な空気が流れた。
「女のため?その女が私を手に入れようと動き、我が妻に何かをするかもしれないと考えなかったか」
あまりの発言に、トノイアは恐怖も忘れて咄嗟に反論していた。
「彼女はそんなことしませんっ」
「おまえがそうではないか。女のために、ディレイガルドを敵に回すかもしれなかった。それがどういうことか、僅かでも想像出来たはずだ」
トノイアは押し黙る。
「元の場所へ戻れ。その家とおまえの家は、今後ディレイガルド家とファナトラタ家に近付くことを許さん。今回のことはおまえの右足をもって罰とする」
出仕初日ですべてを暴かれ、与えられていた部屋にその日の夜から軟禁されたトノイア。その二日後の夕刻にエリアストの待つ部屋に連れて行かれると、刑を言い渡され、執行される。そしてその翌日には、ついこの間別れを告げたハルケイス家に、強制送還された。早すぎる展開に、トノイアは改めてディレイガルドの恐ろしさを認識したのだった。
*~*~*~*~*
ディレイガルドは使用人一人雇うことにも、惜しみなく金を使って調査をする。その徹底した慎重さが、世界に耳目を持つディレイガルドを作った。
トノイアの発言の整合性を取ることに要した時間と、その後ハルケイス家に事情を説明し、トノイアを受け入れるのであれば、今後ディレイガルドとファナトラタに関わってはならないことを伝えるまでの時間は、併せても二日とかからなかった。トノイアの家には、ハルケイス家の返事を聞いてから説明に向かった。
「元々あの二家は、自立している。他家からの恩恵を受けることが殆どなかったからね。二家に関わる家にまで圧をかけることはしないから、これまでと殆ど変わらない生活になるかな。ハルケイスがあの青年を受け入れたのも、そこが大きいかも」
ソファーに向かい合って座るライリアストとエリアスト。ライリアストは二人の間にあるローテーブルに、今回の報告書をバサリと置いた。エリアストはそれを一瞥すると、溜め息を吐いて手に取った。ライリアストは続ける。
「ハルケイスの娘は、学生時代は確かにおまえのことが好きだったようだけど。まあ年月と共に、いつも自分を見て支えてくれているのが誰なのか。ちゃんと周りが見える娘だったようだね」
「人騒がせな」
エリアストは、報告書を暖炉の中に放り投げた。
*おしまい*
簡素な灯りが一つ灯るだけの、小さな部屋。ディレイガルド邸の中に、このような部屋があったのか、と目隠しをされて連れて来られたトノイアは、現実逃避のようにそう思った。
部屋の中央に置かれた椅子には、銀の髪に水色の双眸を持つこの世のものとは思えない美貌の持ち主が座っている。
トノイアは、知らず息をのんだ。
初めて間近で見るエリアストは、トノイアにはただただ恐ろしかった。美しい、よりも、恐ろしさが上回った。
「私が、想いを寄せる方の、少しでも、喜ぶ顔を」
震える声で、やっとの思いでそう告げると、エリアストから不穏な空気が流れた。
「女のため?その女が私を手に入れようと動き、我が妻に何かをするかもしれないと考えなかったか」
あまりの発言に、トノイアは恐怖も忘れて咄嗟に反論していた。
「彼女はそんなことしませんっ」
「おまえがそうではないか。女のために、ディレイガルドを敵に回すかもしれなかった。それがどういうことか、僅かでも想像出来たはずだ」
トノイアは押し黙る。
「元の場所へ戻れ。その家とおまえの家は、今後ディレイガルド家とファナトラタ家に近付くことを許さん。今回のことはおまえの右足をもって罰とする」
出仕初日ですべてを暴かれ、与えられていた部屋にその日の夜から軟禁されたトノイア。その二日後の夕刻にエリアストの待つ部屋に連れて行かれると、刑を言い渡され、執行される。そしてその翌日には、ついこの間別れを告げたハルケイス家に、強制送還された。早すぎる展開に、トノイアは改めてディレイガルドの恐ろしさを認識したのだった。
*~*~*~*~*
ディレイガルドは使用人一人雇うことにも、惜しみなく金を使って調査をする。その徹底した慎重さが、世界に耳目を持つディレイガルドを作った。
トノイアの発言の整合性を取ることに要した時間と、その後ハルケイス家に事情を説明し、トノイアを受け入れるのであれば、今後ディレイガルドとファナトラタに関わってはならないことを伝えるまでの時間は、併せても二日とかからなかった。トノイアの家には、ハルケイス家の返事を聞いてから説明に向かった。
「元々あの二家は、自立している。他家からの恩恵を受けることが殆どなかったからね。二家に関わる家にまで圧をかけることはしないから、これまでと殆ど変わらない生活になるかな。ハルケイスがあの青年を受け入れたのも、そこが大きいかも」
ソファーに向かい合って座るライリアストとエリアスト。ライリアストは二人の間にあるローテーブルに、今回の報告書をバサリと置いた。エリアストはそれを一瞥すると、溜め息を吐いて手に取った。ライリアストは続ける。
「ハルケイスの娘は、学生時代は確かにおまえのことが好きだったようだけど。まあ年月と共に、いつも自分を見て支えてくれているのが誰なのか。ちゃんと周りが見える娘だったようだね」
「人騒がせな」
エリアストは、報告書を暖炉の中に放り投げた。
*おしまい*
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