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幸せになる方法

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 さて。
 何の前触れもなく、突然前世を思い出した私ことサファイア。鏡に映るこの姿は、まだ三歳くらいだろうか。
 あのゲームは学園に通っていたから、十五歳くらいにゲームスタート。
 ところで、私という存在は一人しかいないのだが、ゲームだと攻略対象たちの婚約者である私は、一体どうなってしまうのだろう。
 ヒロインが現れてルート確定するまで婚約者が決まらない?
 それはおかしい。
 なぜなら、設定では、十歳くらいに婚約者が決まっていることになっている。
 わけがわからなくなったので、考えるのを止めることにする。婚約者とか関係ない。とにかくヒロインの邪魔をしまくればいいのである。折角サファイアに生まれ変わったのだ。ゲーム通り、ヒロインと攻略対象のスパイスとして君臨し、立派に制裁を加えていただこうではないか。
 考えただけで子宮が疼くぜ。
 特にあの攻略対象の制裁がときめく。
 あれだ。あの、ほら、あれ。あの人。
 うむ。
 重大なことに気付いた。
 制裁行為にばかり夢中で、攻略対象たちの名前も容姿もまったく記憶にない。
 いや待て。大丈夫、落ち着け。大丈夫だ。
 十歳くらいに婚約者が決まっていることを覚えていたではないか。
 そう、そうだ。セリフ。セリフならバッチリ覚えている。
 “今日は息を止めて何分オチずにいられるかな。ああ、誕生日だったね。じゃあ今日は特別にボクの手でその穢れた首を絞めてあげよう”
 “あーあ。キミの穢れた血がボクの指についた。不快だよ。穢れた血を流しているその足を切り落としてあげよう”
 “たまにはキミの要望を聞いてあげようと思うんだ。さあ、どこを切り刻んであげようか。と言っても、選べる場所はもうあまりないけどね”
 ああああああああ!神!!もう、神!!
 思い出しただけで孕める!
 あのゲームが十八禁指定なのは、ヒロインとのイチャラブではなく、絶対にこの制裁シーンによるものだ。
 姿見の前で、突然顔を覆いながら転がり始めた私に、一緒に部屋にいた侍女のコニーが驚いて駆け寄ってきた。
 「お嬢様っ?!お嬢様っ!如何されました、お嬢様っ!」
 コニーの声で現実に戻って来た。急にピタリと動きを止め、手で顔を覆ったまま舌打ちをした。
 「私の幸せの邪魔をするとは」
 三歳児とは思えない口調と、おっとりとした見た目の私が、怨嗟の漏れる声を出したことに、コニーは止まった。指の隙間から光の消えた目で睨みつけると、コニーがビクリと震えた。
 「ねえ、コニー?責任、取りなさい?」
 激しく転がっていたためスカートがめくれ、かぼちゃパンツ丸出しのまま、私はコニーに微笑んだ。
 幸せの邪魔をしたのだから、その分私を幸せにしてくれなくては、ね。

 自分がされて嫌なことは、人にしてはいけません。

 と、言うことは、だ。
 「お、おじょう、さま?」
 ゆっくり起き上がり、ゆっくりコニーに近付く。
 コニーは一歩ずつ後退する。

 自分がされたい、して欲しい、と思うことを、人にやればいいと言うことだ。

 私はコニーに微笑んだ。
 その教えを忠実に守った結果。

 私は“鬼畜令嬢”と呼ばれるようになった。

 解せぬ。



*つづく*
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