本当は、愛してる

双子のたまご

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第五章

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「おい。」

龍海さんの声に、周りの観客も帰り始めているのに気がつく。

「大丈夫か。」

「あ、はい…すみません。ちょっと圧倒されちゃって。」

「…そうか。」

龍海さんを待たせてしまっている。
慌てて席を立つ準備をした。


劇場を出るともう太陽は沈んでいた。
寒さを感じる季節。日が短くなった。

「食事に行こう。」

最近よく龍海さんにご飯に誘われるな。
そして段々気まずさは感じなくなっている。
でもそれは龍海さんの優しさに胡座をかいているからだ。
龍海さんにはいつも気を遣わせている。

「…お疲れじゃないですか?」

「…いいや。」

「いつも食事に連れていってくださって…無理してないですか?」

まっすぐ気持ちをぶつけ合う舞台役者の演技に当てられたのか、いつもなら言わない本音が勝手に口から出る。

「無理などしていない。」

「…」

「俺と食事は、嫌なのか。」

いつか、同じ台詞を聞いた気がする。
答えは変わらない。

「そんなことないです。」

「じゃあ行こう。」

今日はなんだか、押しが強いな。
そう思いつつ、はい、と返事をした。





何故だ…

「何にするんだ」

目の前に広げられる、聞いたことがないような料理名が並ぶメニュー表。
龍海さんは獅音さんと比べると、庶民的な方だと思っていたのに…油断していた。
連れてこられたのはフレンチ。
作法などは咎められなさそうなカジュアルな雰囲気だが、値段は張るお店。

「あの、こういうところはあまり来たこと無くて…
龍海さんにお任せしていいですか?」

「…食べられないものはないか?」

「大丈夫、だと思います…」

「分かった。」

龍海さんがウェイターに声をかけ、注文を始める。

「…舞台はどうだった。」

注文を終えた龍海さんが話しかける。

「初めて観ましたけど、凄いですね。
魔法使いの杖から火が出たの、どうやったんだろう…」

グラスに注がれた水に口をつけながら答える。

「今度聞いておこう。」

「え?」

「知り合いというのは、あの魔法使いの役で出ていた奴だ。」

「えっ、そうなんですか。凄い…」

目の前にスープが運ばれてきた。
もしかして、コースなのか…
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