26 / 54
第五章
Ⅳ
しおりを挟む時々ポツポツと舞台の感想を話しながら、食事は進む。
途中でワインを勧められた。
少しだけ、とグラスワインを注文する。
話題は今日の舞台の結末へと移った。
「やっぱりハッピーエンドは観ていて安心します」
「そうか。」
「あんなにまっすぐ想いを伝えられたら、素敵ですよね。」
「…ああいう男が好きなのか。」
「えっ。そういうわけではないですが…」
どんな男性が好きかなんて、考えたこともない。
「最後のシーン、納得できなかったか。」
「あ…」
「そんな顔をしていた。」
見られていたのか。
「…マリーがアレクをすんなりと受け入れたことが、凄いな、と。」
アルコールが回ってきたのか、正直に話してしまう。
「恋人は家族を失った穴を埋められるものなのか、と。」
「…」
「恋なんて、縁がなかったので。
恋人ができたら分かることなのかな。」
「恋をしたことが、ない、のか?」
「お恥ずかしながら。」
もしかして、今、私は龍海さんと恋バナをしているのだろうか。
こういうのは普通、女友達と盛り上がるものではないのだろうか。
「そう、なのか…」
龍海さんがワインを飲み干した。
私の恋愛経験の無さに呆れているのだろうか。
「龍海さんは恋をしたことはありますか。」
私も少し気が大きくなっているようだ。
こんなことを聞くなんて。
「…ああ。」
龍海さんが私の目を見て答える。
「俺も、初めて恋をしたのは、最近だ。」
「そうなんですか?」
意外だ。
「お相手の方とは?」
「…まだ、何も。」
「そうなんですか…良い結果になるといいですね。」
「…あぁ。」
龍海さんがふっと微笑む。
凄いな、恋の力は。
この人もこんなに優しい顔で笑うんだなぁ。
…良いな。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
12
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる