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第五章
Ⅴ
しおりを挟む「ご馳走さまでした。」
「あぁ。」
あのあと、私も龍海さんの勧めるまま、何杯かワインをおかわりした。
お酒は久しぶりだった。
アルコールで熱くなった頬は、冬の夜風に触れられてすぐに冷たくなっていった。
「家まで送る。」
「…はい。」
この兄弟の厚意には、甘えておくのが一番エネルギーを使わないことに最近気づいた。
結局二人とも譲らないからだ。
「……」
「……」
無言が気まずくない。
お酒でぼーっとしているからだろうか。
「おい。」
「っあ。」
ぼーっとしすぎた。
赤信号なのに横断歩道を渡ろうとしてしまった。
「す、すみません。」
「気を付けろ。」
「はい…」
やってしまった。
気をしっかり持って帰らなくては。
「……」
「っ、え。」
腕を掴んでいた龍海さんの手が、するりと下がって私の掌を掴む。
手を、繋がれた。
「えっと、龍海さん…」
「なんだ。」
「手…」
「また、赤信号を渡ろうとされたら困る」
「う、でも…」
「まだ何かあるのか。」
「龍海さん、好きな人がいるのに、他の人と手を繋ぐとか…」
「それは気にしなくていい。」
あっ、手を繋ぐくらいは別に恋人でなくても普通のこと?
分からない。
でもそれなら、こんなに過敏に反応するのは意識しているようで恥ずかしい。
「……」
「……」
繋がれた手が、暖かい。
男の人の手だ。骨ばった手。
龍海さんの顔は、見えない。
あれから何故か、仕事後のお迎えが復活してしまった。
それから、龍海さんから食事に誘われることが増えた。
逆に獅音さんから食事に誘われることは減った。
相変わらずお金は出させてくれない。
『せめて何かさせてください…!』
『何も気にしなくていいって言ってるのに…
龍海も僕も、一緒にご飯食べるのを楽しみにしてるんだよ。』
『でも…』
『う~ん。それじゃあ…翠ちゃん、仕事のお休みって週に二日だよね?』
『そうですけど…』
『じゃあその二日のうち、一日は外に出て。』
『それは…』
『特にやること無いなら龍海を呼べばいいよ。翠ちゃんが呼んだらすぐ来ると思うよ。』
『え…』
『そんなに困らなくても…別に呼ばなくてもいいから。でも外には出るようにして。』
『…出来るだけ、』
『出来るだけ?』
『い、いえ。必ず、外に出るようにします…』
絶対、お金を出させてもらう方が楽だと思う。
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