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第六章
Ⅰ
しおりを挟む「この前の休みはどこに行ったんだ」
「本屋さんに行きました。
それからカフェで本を読んで…」
龍海さんには会うたび休日何をしていたか訊ねられるようになった。
獅音さんからは行き先を訊くというより、今週も外に出たよね?という圧をいただく。
「何の本を買ったんだ。」
「ヨルと森っていう、文庫本です。
あっこれも舞台化するそうですよ。」
龍海さんは思っていたより会話を続けようとするタイプみたいだ。
お互いに、二人でいることに慣れてきたのかもしれない。
「本屋はよく行くのか。」
「…前はよく行ってましたけど…
久しぶりに行きましたね。」
「何か、面白い本はあるか。」
「う~ん…今はヨルと森の余韻が凄くて…
面白かったです。良かったら読んでみます?」
「いいのか?」
「はい、家に着いたら部屋に取りに行きますね」
「あぁ。」
二人の帰り道は、どんどん短くなっているように思う。
「今日もありがとうございました。」
「あぁ。」
「本取ってきますね。」
そこで、職場の同僚からドーナツのお裾分けを貰ったことを思い出す。
一人で食べきるには量がある。
「龍海さん、良かったらお茶でも飲んでいってください。」
「…はぁ?!」
「えぇ?!ちょ、しーっ!龍海さん、夜なので…!」
びっくりした…
「な、何を…」
「え…?いや、実は同僚にドーナツのお裾分けを貰ったので、食べていかないかな、と…」
「よ、夜に男を部屋に入れようとするな!」
「えぇ?前も入ったことあるじゃないですか、獅音さんと一緒に。」
あの日は雨だった。
「そ、それは…」
「あっ、早く帰らなきゃいけない用事ありました?
ごめんなさい、呼び止めてしまって…」
「いいや!!」
「だっ、だから、龍海さん、夜なので!」
「す、すまない…」
テンポの速い会話に、何だか息があがる。
龍海さんがはぁ、と息を吐く。
「…別に…急ぎの用はない。
…ぁ、あがらせてもらう。」
「あ、はい…どうぞ…」
カチャリ、と鍵が開く音がした。
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