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第五章
Ⅴ
しおりを挟む「獅音兄さん…奏とは、どう…?」
ある日突然、琥珀はそんなことを聞いてきた。
「奏ちゃん?
いつでも可愛いけど。」
「あ、はい…
あの、それはいつも伺ってますので…」
「なに?」
「いや、あの、聞きづらいんですけれども…」
はっきりものを言わない琥珀は珍しい。
「あの~…浮気、とか、してないよね?」
「はぁ?」
誠に遺憾である。
隣で携帯を触っていた龍海までも、え?、という顔で僕を見ている。
琥珀ではなく、僕を。
こいつまで僕を疑っているのか。
「そんなことするわけないじゃん。
僕には奏ちゃんがいるのに。」
「そう、だよね。
…良かったぁ。」
「…なんでそんなこと聞くの。」
急に浮気してないかと確認され、むっとする。
でも琥珀がこんなことを聞くのには理由があるはず。
…まさか、奏ちゃんもそう思ってるの?
さっと血の気が引いていく。
「奏ちゃんが、僕が浮気してるかもって言ってたの…?」
どうしてそんなことに。
いや、とにかく誤解を解かねば。
一人焦っていると、
「え、あ!ごめん!
違う違う!
奏からは何も聞いてない!」
「…ほんと?」
「あ~…いや、
何も聞いてないってのは嘘だけど、獅音兄さんが浮気してるとかは一言も言ってない!本当!」
「じゃあなんで、琥珀は僕にそんなこと聞いたの。」
「…念のため言っておくけど、これは奏が自主的に話したんじゃない。
私が興味が湧いて奏に色々質問したせいだから。
なんなら、奏には勝手に獅音兄さんとのことは話せないって怒られてるから。
だから…」
「はいはい、わかった。
奏ちゃんのこと責めたりしないよ。」
いいから、早く話せ。
そんな気持ちを込めて琥珀を見ると
「…いやぁ、あの…
半年も経つのに、凄く清い交際をしていらっしゃるようで…」
…なるほど。
奏ちゃんに全く手を出してないからか。
いや、全くでもない。
「デートの時はいつも手は繋いでるよ。
この前はハグしたし。」
「え?!」
驚愕の声をあげた龍海の方を見ると、しまった、というように手で口を塞いだ。
「…なに。」
「…いや。」
龍海はそれ以上何も言わず、ふいと顔をそらした。
その横顔をじっと見る。
こいつは最近、紆余曲折を経てめでたく翠ちゃんとの恋を成就させた。
携帯を触っていたのだって、翠ちゃんと連絡を取り合っていたとかだろう。
思えばこいつは、付き合う前から手をどんどん出してたなぁ。
そのせいでかなり遠回りもしていたけれど。
自分は恋人でもう堂々とキスできますよ
その先だって行っちゃいますよ。
だって恋人だもの。
え?半年経ってハグまで?恋人なのに?
それは、かわいそうに…
って?
あぁ、そうですかそうですか。
「だ、だから!
他で発散とかしてないかなって確認しただけ!
いや、そんなわけなかったよね。
そんなことしたら、獅音兄さんを市中引きずり回しの刑に処すところだったわ!」
琥珀は沈黙を破ってそう捲し立て、良かった良かった、と言ってそそくさと部屋を出ていった。
隣で龍海が固まっている。
「…龍海。」
「…あぁ。」
「いいんだよ?携帯見てても。」
「いや…あの、兄さん。
コーヒーでも淹れようか…?」
「そう?ありがとう。」
答えた瞬間、龍海はさっと席を立った。
…二人ともなんなのさ。
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