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52 パンの『ウスヤ』
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勇太がパラレル高校で会うかと思っていたのに遭遇していなかった同級生2人。
ひとりはルナの双子の妹・花木純子。
もうひとりは去年、パラレル勇太が自信を持って告白。そして見事にフラれた臼鳥麗子。
同じ日に見つけた。7月9日、火曜日のパン屋で。
パン屋の名前は『ウスヤ』。
純子が断罪のようなものを食らって居場所をなくした2ヶ月前、麗子が見かねて声をかけたそうだ。
そう、麗子は優しいのだ。
それから2人は行動を共にしている。
麗子の家のパン屋は経営がギリギリな上に人手不足。純子は接客や掃除などを手伝っている。
報酬はお昼ご飯のパン。そして泊まるときの夕御飯。
朝は臼鳥麗子の母親が朝4時起きでパンを作る。麗子が6時から開店準備をする。純子は家から合流するか、泊まって手伝う。
放課後も店で過ごし、休みの日は純子も麗子と一緒にフルタイム稼働だ。
普段は2人で学校にギリギリで来て、学校終了と同時に純子と一緒にパン屋に直行していた。
以前のパン屋はここまで厳しくはなかった。
麗子の母親の片方が4月から病気で入院中のため、パートさんにもシフトを増やしてもらい、純子も手伝って今をしのいでいる。
勇太は目の前の麗子を見て美人だと感心している。
1年前にパラレル勇太が無謀な告白をして玉砕した。
その記憶を引き出したから迷惑をかけた引け目はあるが、今の勇太からしたら初対面のようなもの。
そこまで気後れはしない。
知り合いではないが、パラレル人物としては心当たりがあった。2学年上の先輩男子にハンサムがいた。その人の名字が臼鳥だった気がする。
その程度しか分からないが、美男のパラレル人物が美女のパターンだ。
カオルは西郷どんが、西郷ちゃんに変身したようだ。
麗子、純子の美女2人が並ぶと壮観だなと思った。
ちなみにルナ、純子、カオルには、ここまでの流れをチャットで知らせている。
臼鳥麗子にフラれた経緯の記憶を今、勇太が改めて正確にに辿った。
苦すぎる思い出だから、最初に引き出したときパラレル勇太の感情に引っ張れて苦しかった。だから封印気味だった。
しかし目の前に本人がいる。状況を詳しく引き出す必要性を感じた。
そして慌てて頭を下げた!
「臼鳥さん。1年前に失礼なとこをしてごめんなさい、迷惑をかけました!」
即座に謝った。土下座しようかと思ったくらいだ。
勇太はパラレル勇太が正攻法から告白して、臼鳥麗子に玉砕しただけだと思っていた。
なんか違った。
去年の6月、麗子の教室に行くと、いきなり麗子呼び。
女子に侮られていたパラレル勇太にも、たまに挨拶していた麗子。それだけの理由でパラレル勇太は『麗子は俺に惚れている』と確信した。
心の中でひえー、と叫んだ。
記憶と共に意識がシンクロして、パラレル勇太の傲慢な感情まで流れ込んでくる。読み取っただけで顔から火が出そうだ。
交際を断られると、パラレル勇太は『けっ』と麗子に言った。
2年6組の教室前。横柄に告白したくせに、最後は舌打ちまでしている。
勇太は自分じゃないと言いたい。けれど間違いなく、それをやった男の体を使わせてもらっている。ギャラリーもわんさかいた。
勇太は目眩がしそうになって、よろけた。
走りまくって体幹が鍛えられている勇太が、だ。
「足元がふらついてるけど大丈夫ですか、坂元君」
「あ、あ、はい、臼鳥さん」
「坂元君、謝罪は受け取ります。ご丁寧にありがとうございます。ところで今日は・・」
パラレル勇太はフラれたあと、麗子とすれ違うたびに恨みがましい目で見ていたようだ。変身した勇太をどう判断していいか、決めかねている。
純子が勇太の代わりに、麗子にリーフカフェのオーナー葉子からされた話をした。
・・・・・・・
「正直、助かる。ありがとう純子、坂元君。けど私だけじゃ決められないし。これ以上の負担をユリエ母さんだけにかけるのは・・。それに坂元君にも悪いな」
「俺は、今まで迷惑をかけてきたお詫びってことで」
◆◆
すでに就寝前だった母親に、麗子は話のあらましだけ伝えにいった。
リーフカフェの電話番号も勇太が書いて渡した。まだ葉子はカフェにいてくれる。
純子と勇太はパン屋の前で待っている。先に勇太は梓達にチャットをして、ルナの妹を助けたいと書き込んだ。
「なんか、すごい急な話になったけど、うまくいくといいな」
「ありがとう。坂元・・勇太君。いきなり・・私の心配ごとを聞いてくれて」
「ルナの妹は、俺の妹みたいなもんだろ。頼ってくれ」
「えっ妹って・・。確かにルナお姉ちゃんから見たらそうだけど・・」
さすがの勇太も距離を詰めすぎたと思った。
だけど純子は、前世では勇太とルナカップルの妹みたいなところもあった。
前世純子と同じ顔。その上に気質もそっくりに感じる。
勝手なイメージで純子を避けてきたし、説明できない罪悪感がある。
そして勇太は臼鳥麗子に対しても、間違いなく迷惑をかけている。したくもない公開処刑をさせた上に恨んだ・・・
まあ・・・勇太は、パンも焼いてみたい。
最近は家でクッキーを焼いている。天然酵母のパン作りにも挑戦したけど美味しくなかった。
さすがのルナも食べて苦笑いしていた。美味しいパンをルナの口に放り込みたい。
拾った人生で体力チート。思いついたことは何でも挑戦しているのだ。
経営能力など皆無なので、叔母葉子の判断待ちだ。
◆
麗子が店舗兼住居から出てきた。
「坂元君、ありがとうございます。明日、うちの母がリーフカフェでオーナーさんと話をさせてもらいます。けれど・・」
やはり人手不足が問題。
現在のところ、パンを焼く量は決して多くないが、麗子の片方の母親だけで作る量としてはギリギリ。
せめて、鉄板や小麦粉を運んだりする、助手の1人でも欲しいところだと言われた。
麗子がやる手もあるが、すでに店を手伝っていて、その上に家事もしている。限界が近そうだ。
「ああ、それなら俺が手伝わせてもらっていいかな」
「けれど朝の4時過ぎから7時くらいだよ」
「余裕。明日、学校が終わったら、打ち合わせに寄らせてもらうね」
「え、そんな無茶な」
「まあまあ、その辺だけは任せてよ」
リーフカフェに押しかけてときと同様に、パワーで乗り切ろうとする勇太だ。
今回は純子、麗子と女子2人が絡む。あくまでも、ルナ、梓、カオルと話してからだが、勇太はやる気だ。
ひとりはルナの双子の妹・花木純子。
もうひとりは去年、パラレル勇太が自信を持って告白。そして見事にフラれた臼鳥麗子。
同じ日に見つけた。7月9日、火曜日のパン屋で。
パン屋の名前は『ウスヤ』。
純子が断罪のようなものを食らって居場所をなくした2ヶ月前、麗子が見かねて声をかけたそうだ。
そう、麗子は優しいのだ。
それから2人は行動を共にしている。
麗子の家のパン屋は経営がギリギリな上に人手不足。純子は接客や掃除などを手伝っている。
報酬はお昼ご飯のパン。そして泊まるときの夕御飯。
朝は臼鳥麗子の母親が朝4時起きでパンを作る。麗子が6時から開店準備をする。純子は家から合流するか、泊まって手伝う。
放課後も店で過ごし、休みの日は純子も麗子と一緒にフルタイム稼働だ。
普段は2人で学校にギリギリで来て、学校終了と同時に純子と一緒にパン屋に直行していた。
以前のパン屋はここまで厳しくはなかった。
麗子の母親の片方が4月から病気で入院中のため、パートさんにもシフトを増やしてもらい、純子も手伝って今をしのいでいる。
勇太は目の前の麗子を見て美人だと感心している。
1年前にパラレル勇太が無謀な告白をして玉砕した。
その記憶を引き出したから迷惑をかけた引け目はあるが、今の勇太からしたら初対面のようなもの。
そこまで気後れはしない。
知り合いではないが、パラレル人物としては心当たりがあった。2学年上の先輩男子にハンサムがいた。その人の名字が臼鳥だった気がする。
その程度しか分からないが、美男のパラレル人物が美女のパターンだ。
カオルは西郷どんが、西郷ちゃんに変身したようだ。
麗子、純子の美女2人が並ぶと壮観だなと思った。
ちなみにルナ、純子、カオルには、ここまでの流れをチャットで知らせている。
臼鳥麗子にフラれた経緯の記憶を今、勇太が改めて正確にに辿った。
苦すぎる思い出だから、最初に引き出したときパラレル勇太の感情に引っ張れて苦しかった。だから封印気味だった。
しかし目の前に本人がいる。状況を詳しく引き出す必要性を感じた。
そして慌てて頭を下げた!
「臼鳥さん。1年前に失礼なとこをしてごめんなさい、迷惑をかけました!」
即座に謝った。土下座しようかと思ったくらいだ。
勇太はパラレル勇太が正攻法から告白して、臼鳥麗子に玉砕しただけだと思っていた。
なんか違った。
去年の6月、麗子の教室に行くと、いきなり麗子呼び。
女子に侮られていたパラレル勇太にも、たまに挨拶していた麗子。それだけの理由でパラレル勇太は『麗子は俺に惚れている』と確信した。
心の中でひえー、と叫んだ。
記憶と共に意識がシンクロして、パラレル勇太の傲慢な感情まで流れ込んでくる。読み取っただけで顔から火が出そうだ。
交際を断られると、パラレル勇太は『けっ』と麗子に言った。
2年6組の教室前。横柄に告白したくせに、最後は舌打ちまでしている。
勇太は自分じゃないと言いたい。けれど間違いなく、それをやった男の体を使わせてもらっている。ギャラリーもわんさかいた。
勇太は目眩がしそうになって、よろけた。
走りまくって体幹が鍛えられている勇太が、だ。
「足元がふらついてるけど大丈夫ですか、坂元君」
「あ、あ、はい、臼鳥さん」
「坂元君、謝罪は受け取ります。ご丁寧にありがとうございます。ところで今日は・・」
パラレル勇太はフラれたあと、麗子とすれ違うたびに恨みがましい目で見ていたようだ。変身した勇太をどう判断していいか、決めかねている。
純子が勇太の代わりに、麗子にリーフカフェのオーナー葉子からされた話をした。
・・・・・・・
「正直、助かる。ありがとう純子、坂元君。けど私だけじゃ決められないし。これ以上の負担をユリエ母さんだけにかけるのは・・。それに坂元君にも悪いな」
「俺は、今まで迷惑をかけてきたお詫びってことで」
◆◆
すでに就寝前だった母親に、麗子は話のあらましだけ伝えにいった。
リーフカフェの電話番号も勇太が書いて渡した。まだ葉子はカフェにいてくれる。
純子と勇太はパン屋の前で待っている。先に勇太は梓達にチャットをして、ルナの妹を助けたいと書き込んだ。
「なんか、すごい急な話になったけど、うまくいくといいな」
「ありがとう。坂元・・勇太君。いきなり・・私の心配ごとを聞いてくれて」
「ルナの妹は、俺の妹みたいなもんだろ。頼ってくれ」
「えっ妹って・・。確かにルナお姉ちゃんから見たらそうだけど・・」
さすがの勇太も距離を詰めすぎたと思った。
だけど純子は、前世では勇太とルナカップルの妹みたいなところもあった。
前世純子と同じ顔。その上に気質もそっくりに感じる。
勝手なイメージで純子を避けてきたし、説明できない罪悪感がある。
そして勇太は臼鳥麗子に対しても、間違いなく迷惑をかけている。したくもない公開処刑をさせた上に恨んだ・・・
まあ・・・勇太は、パンも焼いてみたい。
最近は家でクッキーを焼いている。天然酵母のパン作りにも挑戦したけど美味しくなかった。
さすがのルナも食べて苦笑いしていた。美味しいパンをルナの口に放り込みたい。
拾った人生で体力チート。思いついたことは何でも挑戦しているのだ。
経営能力など皆無なので、叔母葉子の判断待ちだ。
◆
麗子が店舗兼住居から出てきた。
「坂元君、ありがとうございます。明日、うちの母がリーフカフェでオーナーさんと話をさせてもらいます。けれど・・」
やはり人手不足が問題。
現在のところ、パンを焼く量は決して多くないが、麗子の片方の母親だけで作る量としてはギリギリ。
せめて、鉄板や小麦粉を運んだりする、助手の1人でも欲しいところだと言われた。
麗子がやる手もあるが、すでに店を手伝っていて、その上に家事もしている。限界が近そうだ。
「ああ、それなら俺が手伝わせてもらっていいかな」
「けれど朝の4時過ぎから7時くらいだよ」
「余裕。明日、学校が終わったら、打ち合わせに寄らせてもらうね」
「え、そんな無茶な」
「まあまあ、その辺だけは任せてよ」
リーフカフェに押しかけてときと同様に、パワーで乗り切ろうとする勇太だ。
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