82 / 320
82 カオルVS不知火
しおりを挟む
カオルの試合が始まる。勇太達4人、そして桜塚ハルネ部長の頑張りに背中を押され、カオルはしっかり立っている。
桜塚ハルネとカオルは、軽くグータッチだけした。言葉はない。
他の試合が全部終了して、これが柔道インターハイの最後の試合。
柔道アイドル不知火マイコと、人気上昇中・今川カオルの対戦。観客の大半が残っているし、試合を終えた選手も多くが観覧席から見ている。
関係者が期待していた最高のカード。
63キロ級が最後になるように、運営委員会が調整した甲斐があったようだ。
その上に、歓声に拍車をかける人まで登場した。伊集院光輝君だ。
関係者ではないけど、役員席に通された。
インターハイサッカーの閉会セレモニーに参加したあと、ここに来た。
仕事が去年から決まっていて、そちらが終わって駆けつけてくれた。婚約者の1人を連れている。
見たことがない和風美人で政略結婚の相手。20歳の足利登美子。お互いに会釈だけした。
「いやあ、カオル君の試合に間に合って良かった。本当は観客席に行こうと思ったけど、こちらに通されてね」
「光輝さん、パラレル市内とここでは違いますわよ。だけど、女の子に囲まれて慌てる光輝さんはおかしかったです。おほほ」
混乱を避けるためには大事だ。
伊集院君はパラレル市民体育館のときのような、自由な感じを期待してきた。
パラレル市では周囲の女性達が伊集院君や勇太の出現に少しは慣れている。
連れがいるときは遠慮してくれてるから、同じ扱いをイメージしていた。
伊集院君を見慣れない女子ばかりの東京の体育館。地元と同じように現れて、いきなり騒ぎになったそうだ。
当たり前だわな、と勇太、ルナ、梓はみんな思った。
婚約者さんは、伊集院君が初めて怯んだ姿を見て、嬉しそうにクスクスと笑っていた。
「ユウ兄ちゃん、カオルちゃんが出てきた」
挨拶もそこそこに、カオルにみんな集中した。
不知火はアイドルらしく観客席に手を振った。カオルは前だけを向いている。
名前が呼ばれ、カオルと不知火が試合場に立った。
「開始!」
不知火より勝っているパワーを出し切って、カオルの勝率は4割と言われていた。
そのパワーを伝える左手が、まともに動いていない。やはり怪我のダメージは大きかった。
試合は一方的だ。
不知火マイコだって、きっと死ぬほど努力している。そして集中力を研ぎ澄ましている。
勇太とのファーストコンタクトでは残念な部分もあったが、一流のアスリートだ。
だから、手負いのカオルには自分のペースに持ち込ませたりしない。
今の瞬間の不知火とカオルの戦力差は、66キロ級決勝の桜塚ハルネとサクラリンゴどころじゃない。
勇太の中にある女神印の回復力が他人に使えたなら、差は埋まる。
だけど、反則技を使ってもカオルは喜ばない。使えば不知火の努力を汚すことになると考える。
もし使えたら、勇太はカオルに使うかどうか聞いている。きっとカオルに断られていただろう。
カオルは、真っ直ぐだ。
自分だけずるをして勝っても喜ぶはずがない。
だから勇太はカオルを一瞬でも見逃さないように前を向いている。
カオルが不知火の襟を取った瞬間に、簡単に左手を外された。
梓は祈っている。
だけど、カオルが不知火の射程圏内に踏み込んだ瞬間、斜めに腰に乗せられ倒された。
技ありになった。残り2分半。
ルナは、カオルがこれ以上怪我を悪化させず帰ってきてくれと思っている。
カオルの消耗が激しい。けれどカオルは前に出る。
時間を使うほど、不利になるだけだと分かっている。カオルは次の組み手で狙うしかない。
試合に集中したいのに左手首から左肘まで、ずきずきと痛む。
力一杯に痛めた左手を伸ばした。払われた。脳天まで響くような激痛。
だけど決めていた通りに一気に踏み込んで、右手で不知火の柔道着をつかんだ。
勇太を練習中にけがさせてしまった、その変形投げ技。失敗した位置より半歩前に出た。
右手一本で投げる体勢に入った。
「ぐおおおおおお!」
一瞬、不知火の体が浮いた。左手の補助がない不完全な技。
あるいは、カオルと同じ身長のパワータイプ同士なら通じかもしれない。
しかし、不知火も危険を察知して、カオルの肩に左手を滑らせていた。
体操部や陸上部のスカウトも来たという、不知火のセンス。
バレリーナ並の平衡感覚を生かし、足を大きく開いて投げられる右側に跳んだ。
力を流しながら着地した瞬間に、力尽きかけていたカオルの右足を払った。
カオルは簡単に倒れた。
技あり。合わせ技で一本。
わあああ、とマイコの華麗な跳躍と返し技に会場が沸いた。
奇跡は起きなかった。
桜塚ハルネとカオルは、軽くグータッチだけした。言葉はない。
他の試合が全部終了して、これが柔道インターハイの最後の試合。
柔道アイドル不知火マイコと、人気上昇中・今川カオルの対戦。観客の大半が残っているし、試合を終えた選手も多くが観覧席から見ている。
関係者が期待していた最高のカード。
63キロ級が最後になるように、運営委員会が調整した甲斐があったようだ。
その上に、歓声に拍車をかける人まで登場した。伊集院光輝君だ。
関係者ではないけど、役員席に通された。
インターハイサッカーの閉会セレモニーに参加したあと、ここに来た。
仕事が去年から決まっていて、そちらが終わって駆けつけてくれた。婚約者の1人を連れている。
見たことがない和風美人で政略結婚の相手。20歳の足利登美子。お互いに会釈だけした。
「いやあ、カオル君の試合に間に合って良かった。本当は観客席に行こうと思ったけど、こちらに通されてね」
「光輝さん、パラレル市内とここでは違いますわよ。だけど、女の子に囲まれて慌てる光輝さんはおかしかったです。おほほ」
混乱を避けるためには大事だ。
伊集院君はパラレル市民体育館のときのような、自由な感じを期待してきた。
パラレル市では周囲の女性達が伊集院君や勇太の出現に少しは慣れている。
連れがいるときは遠慮してくれてるから、同じ扱いをイメージしていた。
伊集院君を見慣れない女子ばかりの東京の体育館。地元と同じように現れて、いきなり騒ぎになったそうだ。
当たり前だわな、と勇太、ルナ、梓はみんな思った。
婚約者さんは、伊集院君が初めて怯んだ姿を見て、嬉しそうにクスクスと笑っていた。
「ユウ兄ちゃん、カオルちゃんが出てきた」
挨拶もそこそこに、カオルにみんな集中した。
不知火はアイドルらしく観客席に手を振った。カオルは前だけを向いている。
名前が呼ばれ、カオルと不知火が試合場に立った。
「開始!」
不知火より勝っているパワーを出し切って、カオルの勝率は4割と言われていた。
そのパワーを伝える左手が、まともに動いていない。やはり怪我のダメージは大きかった。
試合は一方的だ。
不知火マイコだって、きっと死ぬほど努力している。そして集中力を研ぎ澄ましている。
勇太とのファーストコンタクトでは残念な部分もあったが、一流のアスリートだ。
だから、手負いのカオルには自分のペースに持ち込ませたりしない。
今の瞬間の不知火とカオルの戦力差は、66キロ級決勝の桜塚ハルネとサクラリンゴどころじゃない。
勇太の中にある女神印の回復力が他人に使えたなら、差は埋まる。
だけど、反則技を使ってもカオルは喜ばない。使えば不知火の努力を汚すことになると考える。
もし使えたら、勇太はカオルに使うかどうか聞いている。きっとカオルに断られていただろう。
カオルは、真っ直ぐだ。
自分だけずるをして勝っても喜ぶはずがない。
だから勇太はカオルを一瞬でも見逃さないように前を向いている。
カオルが不知火の襟を取った瞬間に、簡単に左手を外された。
梓は祈っている。
だけど、カオルが不知火の射程圏内に踏み込んだ瞬間、斜めに腰に乗せられ倒された。
技ありになった。残り2分半。
ルナは、カオルがこれ以上怪我を悪化させず帰ってきてくれと思っている。
カオルの消耗が激しい。けれどカオルは前に出る。
時間を使うほど、不利になるだけだと分かっている。カオルは次の組み手で狙うしかない。
試合に集中したいのに左手首から左肘まで、ずきずきと痛む。
力一杯に痛めた左手を伸ばした。払われた。脳天まで響くような激痛。
だけど決めていた通りに一気に踏み込んで、右手で不知火の柔道着をつかんだ。
勇太を練習中にけがさせてしまった、その変形投げ技。失敗した位置より半歩前に出た。
右手一本で投げる体勢に入った。
「ぐおおおおおお!」
一瞬、不知火の体が浮いた。左手の補助がない不完全な技。
あるいは、カオルと同じ身長のパワータイプ同士なら通じかもしれない。
しかし、不知火も危険を察知して、カオルの肩に左手を滑らせていた。
体操部や陸上部のスカウトも来たという、不知火のセンス。
バレリーナ並の平衡感覚を生かし、足を大きく開いて投げられる右側に跳んだ。
力を流しながら着地した瞬間に、力尽きかけていたカオルの右足を払った。
カオルは簡単に倒れた。
技あり。合わせ技で一本。
わあああ、とマイコの華麗な跳躍と返し技に会場が沸いた。
奇跡は起きなかった。
58
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
男が少ない世界に転生して
美鈴
ファンタジー
※よりよいものにする為に改稿する事にしました!どうかお付き合い下さいますと幸いです!
旧稿版も一応残しておきますがあのままいくと当初のプロットよりも大幅におかしくなりましたのですいませんが宜しくお願いします!
交通事故に合い意識がどんどん遠くなっていく1人の男性。次に意識が戻った時は病院?前世の一部の記憶はあるが自分に関する事は全て忘れた男が転生したのは男女比が異なる世界。彼はどの様にこの世界で生きていくのだろうか?それはまだ誰も知らないお話。
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる