201 / 320
201 名乗れないふたり
しおりを挟む
勇太とルナが熱い夜を過ごした12月17日。
時間をさかのぼり、勇太とルナが代役で純子とライブハウスに出演している時間帯。
間門由乃を手術した病院。そこには由乃だけでなくドナーの周防風花も入院している。
術後の回復は普通より少し遅い。退院予定日は22日。
クリスマスイベントには顔を出したいけど、仕事としては十全に機能しない。
鈍ったギターの腕を取り戻す時間もないし、参加も微妙である。
今、その風花はスマホで自分が出るはずだったステージを特別にリアルタイムで流してもらって見ている。
彼女になった葉子も一緒だ。
スマホから、演奏と歓声が聞こえる。途中から、かなりヒートアップしている。
「うわあ、ライブハウスが加速的に盛り上がってるよ・・私、復帰しても居場所あるかな」
盛り上がりの加速材料が、画面に映っていない勇太の乳首だと気付かない風花は、ちょっと落ち込んでいる。
「大丈夫だよ。風花が出てれば、この倍は盛り上がってるよ」
「ホント? 葉子さん」
「私が保証する」
「ありがと」
「ふふふ」
そのとき病室のドアがノックされた。
「は~い」
「今、いいかな」
今日も間門陽介が来た。
風花がドナーになった間門由乃の父親。要するに法律的には認められない風花の父親だ。
1日に1回は由乃と風花のお見舞いに来る。
「あ、どうも~」
「陽介さん、仕事だったんでしょ。お疲れ様」
「身体の方はどうだい風花さん」
「はい、いい部屋を用意してもらって快適です」
「ところで・・」
「金の話とかならストップだよ、陽介さん」
葉子からダメ出し。
間門側から風花に対して十分な謝礼を考えているが、風花は伊集院君に色々な相談して断った。
仕事のキャンセル手続きなどのみ、間門側に頼んだ。
伊集院君にハッキリ言われた。常識外の金銭、間門からの特別な仕事を受けるなと。
双方にデメリットがある。なにせ由乃と同じ病気でドナーが見つからず苦しんでいる人がいる。
企業と新人ギタリスト、評判を無視できない。
間門側『金を使い、ごり押しで風花にドナーを頼んだ』
風花側『今後の後ろ楯を条件にドナーになった』
大きな利益を風花が得ると、この二つの噂が事実と見なされる。
本当の動機は、異母姉妹を助けたい風花の善意。
だけど由乃は陽介の正式な娘。風花は無作為の提供精子で生まれた娘。法律上、名乗ってはいけない。
病気自体の問題もデリケートすぎる。
『普通のドナー』の範囲を逸脱してはいけないと、世話になっている伊集院君に念を押されている。それは葉子も一緒に聞いた。
「陽介さん」
「なんだい、葉子」
「退院後の風花は私が面倒みるから、気にしなくていいって」
気楽に笑っている。思わず陽介も笑った。
陽介は、葉子のこういうシンプルなところに惹かれた。そうして他の嫁に紹介した日に隙を見せたら、押さえ込まれた。
一発で妊娠して14人目の嫁に迎えた。
なのに葉子が別居を選んだ。無茶苦茶な女だけど、それでも愛情はある。
葉子が時計を見た。
「私、明日はカフェに早出だし、そろそろ帰るね~」
「気をつけて帰ってね~」
「葉子、またな」
「陽介さん」
「ん?」
「風花に手を出しちゃダメだよ」
「出さないよ」
「風花、私の彼女だからね」
「ははは。分かってるよ。この話、5回目だぞ」
葉子が帰った。
陽介と風花で初めて2人だけになった。
葉子から見ると、風花は彼女。陽介は夫。
関係だけ聞くと、まるで三角関係。そして陽介と風花は恋敵のようだ。
本当は、名乗れない親子関係。
「風花さん」
「はい間門陽介さん」
「改めまして、由乃のためにドナーになってくれてありがとうございます」
風花は、自分が梓や由乃と異母姉妹だと知った。
そして当然、陽介が遺伝子的な父親だと知った。
だけと法律的に名乗れない。
本当は『妹を助けるのは当たり前だよ、お父さん』。そう言いたい。
だけど言えない。
陽介も風花の出生番号を確認している。これは医者にごり押しした。厳密には違法。
だから風花も提供精子から生まれた自分の娘だと知っている。
そうした上で、由乃の産みの母親の香里奈、間門の妻と子供達に、風花の出生番号を探るなと言ってある。
それで答えはバレバレだけど、外に漏れて、意外なところから恩人に傷が付かないように心がけている。
間門の妻達と娘達も理解している。
陽介は本当は『風花、姉として妹を助けてくれたんだね。ありがとう』と言いたい。だけと言うわけにはいかない・・
「由乃の・・・お父さん」
「風花君、どうした」
「私にも、どこかにお父さんがいるんだよね。法的な呼び名は、精子提供者だけど」
どちらも分かっている。だけど明言できない。
「・・そうだろうね」
「私、今回は間門の人と家族ごっこのつもり」
「ごっこ?」
「陽介お父さんを見つけて、妹の由乃のドナーになったっていう設定」
「・・」
「だから、今回のことで特別なお礼はもらいたくないんだよね・・」
「え、それは」
「妹みたいなものを助けて、お父さんのような人に感謝される。その自己満足で完結したい」
陽介は、静かに語る風花を見つめている。
「思い込みと意地がなきゃ、ミュージシャンなんてやってられないからね。ふふふ」
陽介に顔を向けて、嬉しそうに微笑んでいる。だけど目尻から涙がこぼれている。
陽介も、自然と涙が溢れてきた。
時間をさかのぼり、勇太とルナが代役で純子とライブハウスに出演している時間帯。
間門由乃を手術した病院。そこには由乃だけでなくドナーの周防風花も入院している。
術後の回復は普通より少し遅い。退院予定日は22日。
クリスマスイベントには顔を出したいけど、仕事としては十全に機能しない。
鈍ったギターの腕を取り戻す時間もないし、参加も微妙である。
今、その風花はスマホで自分が出るはずだったステージを特別にリアルタイムで流してもらって見ている。
彼女になった葉子も一緒だ。
スマホから、演奏と歓声が聞こえる。途中から、かなりヒートアップしている。
「うわあ、ライブハウスが加速的に盛り上がってるよ・・私、復帰しても居場所あるかな」
盛り上がりの加速材料が、画面に映っていない勇太の乳首だと気付かない風花は、ちょっと落ち込んでいる。
「大丈夫だよ。風花が出てれば、この倍は盛り上がってるよ」
「ホント? 葉子さん」
「私が保証する」
「ありがと」
「ふふふ」
そのとき病室のドアがノックされた。
「は~い」
「今、いいかな」
今日も間門陽介が来た。
風花がドナーになった間門由乃の父親。要するに法律的には認められない風花の父親だ。
1日に1回は由乃と風花のお見舞いに来る。
「あ、どうも~」
「陽介さん、仕事だったんでしょ。お疲れ様」
「身体の方はどうだい風花さん」
「はい、いい部屋を用意してもらって快適です」
「ところで・・」
「金の話とかならストップだよ、陽介さん」
葉子からダメ出し。
間門側から風花に対して十分な謝礼を考えているが、風花は伊集院君に色々な相談して断った。
仕事のキャンセル手続きなどのみ、間門側に頼んだ。
伊集院君にハッキリ言われた。常識外の金銭、間門からの特別な仕事を受けるなと。
双方にデメリットがある。なにせ由乃と同じ病気でドナーが見つからず苦しんでいる人がいる。
企業と新人ギタリスト、評判を無視できない。
間門側『金を使い、ごり押しで風花にドナーを頼んだ』
風花側『今後の後ろ楯を条件にドナーになった』
大きな利益を風花が得ると、この二つの噂が事実と見なされる。
本当の動機は、異母姉妹を助けたい風花の善意。
だけど由乃は陽介の正式な娘。風花は無作為の提供精子で生まれた娘。法律上、名乗ってはいけない。
病気自体の問題もデリケートすぎる。
『普通のドナー』の範囲を逸脱してはいけないと、世話になっている伊集院君に念を押されている。それは葉子も一緒に聞いた。
「陽介さん」
「なんだい、葉子」
「退院後の風花は私が面倒みるから、気にしなくていいって」
気楽に笑っている。思わず陽介も笑った。
陽介は、葉子のこういうシンプルなところに惹かれた。そうして他の嫁に紹介した日に隙を見せたら、押さえ込まれた。
一発で妊娠して14人目の嫁に迎えた。
なのに葉子が別居を選んだ。無茶苦茶な女だけど、それでも愛情はある。
葉子が時計を見た。
「私、明日はカフェに早出だし、そろそろ帰るね~」
「気をつけて帰ってね~」
「葉子、またな」
「陽介さん」
「ん?」
「風花に手を出しちゃダメだよ」
「出さないよ」
「風花、私の彼女だからね」
「ははは。分かってるよ。この話、5回目だぞ」
葉子が帰った。
陽介と風花で初めて2人だけになった。
葉子から見ると、風花は彼女。陽介は夫。
関係だけ聞くと、まるで三角関係。そして陽介と風花は恋敵のようだ。
本当は、名乗れない親子関係。
「風花さん」
「はい間門陽介さん」
「改めまして、由乃のためにドナーになってくれてありがとうございます」
風花は、自分が梓や由乃と異母姉妹だと知った。
そして当然、陽介が遺伝子的な父親だと知った。
だけと法律的に名乗れない。
本当は『妹を助けるのは当たり前だよ、お父さん』。そう言いたい。
だけど言えない。
陽介も風花の出生番号を確認している。これは医者にごり押しした。厳密には違法。
だから風花も提供精子から生まれた自分の娘だと知っている。
そうした上で、由乃の産みの母親の香里奈、間門の妻と子供達に、風花の出生番号を探るなと言ってある。
それで答えはバレバレだけど、外に漏れて、意外なところから恩人に傷が付かないように心がけている。
間門の妻達と娘達も理解している。
陽介は本当は『風花、姉として妹を助けてくれたんだね。ありがとう』と言いたい。だけと言うわけにはいかない・・
「由乃の・・・お父さん」
「風花君、どうした」
「私にも、どこかにお父さんがいるんだよね。法的な呼び名は、精子提供者だけど」
どちらも分かっている。だけど明言できない。
「・・そうだろうね」
「私、今回は間門の人と家族ごっこのつもり」
「ごっこ?」
「陽介お父さんを見つけて、妹の由乃のドナーになったっていう設定」
「・・」
「だから、今回のことで特別なお礼はもらいたくないんだよね・・」
「え、それは」
「妹みたいなものを助けて、お父さんのような人に感謝される。その自己満足で完結したい」
陽介は、静かに語る風花を見つめている。
「思い込みと意地がなきゃ、ミュージシャンなんてやってられないからね。ふふふ」
陽介に顔を向けて、嬉しそうに微笑んでいる。だけど目尻から涙がこぼれている。
陽介も、自然と涙が溢れてきた。
41
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
男が少ない世界に転生して
美鈴
ファンタジー
※よりよいものにする為に改稿する事にしました!どうかお付き合い下さいますと幸いです!
旧稿版も一応残しておきますがあのままいくと当初のプロットよりも大幅におかしくなりましたのですいませんが宜しくお願いします!
交通事故に合い意識がどんどん遠くなっていく1人の男性。次に意識が戻った時は病院?前世の一部の記憶はあるが自分に関する事は全て忘れた男が転生したのは男女比が異なる世界。彼はどの様にこの世界で生きていくのだろうか?それはまだ誰も知らないお話。
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる