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228 不器用なふたり
ゲンジは、メイちゃんを連れて大きな通りを歩いている。
目的地は駅から300メートル離れた公園。男子誘拐防止用の監視カメラが設置されている。
そこなら護衛少なめのカップルかハーレムグループがいたりする。
気がせいているゲンジは、メイちゃんの腕を強引に引っ張ってきた。
もう公園。寒くて誰もいない。
公園の中央で2人は立ったまま向き合った。
黙って手を引かれてきたメイちゃんにゲンジが謝った。
「ごめん、手首引っ張って」
「ううん、いい。それで・・」
メイちゃんは言葉に詰まった。ゲンジはリーフカフェで自分のために歌った。
そして駅前で偶然に独り言を聞いた。自分のことを・・・好きだと口に出した。
「お、俺さ・・あの」
「・・無理して言葉にしなくていいよ。私だって同じだったから」
メイちゃんが笑っている。けれどゲンジに肝心なことを言わせない。
「5月に勇太お兄さんに何か感じて会いに行った。だけど、言葉が出なかった」
「え、そうなの」
「勇太お兄さんがネットに流れないようにしてくれたけど、私、まともに話せずに泣いちゃった」
「それで、勇太さんは・・」
「私が泣き止んで話すまで手を握ってくれて、とっても優しくしてくれた」
メイちゃんが、本当に優しい笑顔になっている。
「それでね私、勇太お兄さんに恋したの」
ゲンジは分かっていた。だけど改めてメイちゃんの口から聞くと胸が痛い。
「すっごく優しくされて、ルナさん、梓さん、カオルさんと一緒に、勇太お兄さんのお嫁さんになれると思った。けど8月にね・・」
ゲンジは、その後が予測できた。
改めて見るとメイちゃんは勇太に似ている。従妹の梓より、はるかに似ている。
「結ばれちゃいけない間柄だってこと知った。私、失恋したの」
『異母兄妹』。それしか考えられない。
「ありがとう冬木君」
「俺、なんもしてない・・」
「ううん、9月のあの時に冬木君が声かけてくれて・・。一緒にいてくれて、気付いたら気持ちが楽になってた」
10月までは、ゲンジと離れることを考えていた。
メイちゃんは勇太と恋人になれなくても、好きだった気持ちを忘れたくなかった。
ゲンジが懐いてくれた。同時にゲンジには美形の女の子も寄ってきた。
ゲンジに綺麗な彼女が増えるたび、自分はモブ女子の中に埋もれ、忘れられていくんだろうと思っていた。
パラレル高校にさえ受かれば、勇太ファミリーと普段から接することができる。
伊集院君も気にかけてくれる。
ちょっと同級生に羨ましがられる程度。一歩下がった、恋愛とは無縁の立ち位置で過ごそうと思っていた。
「・・ゲンジ君、ごめんね」
「え・・」初めてメイちゃんにゲンジと呼ばれた。
「私、もしかしたらゲンジ君が好意を持ってくれてるような気がしてた。けど、失恋した後だし、勘違いしてたときが怖かった」
「勇太さん、好きなの?」
「多分、まだ恋心としての『好き』が残ってる。貴重な男子のゲンジ君が頑張ってくれるのに、私って馬鹿でしょ」
「ううん。お、俺、そのメイちゃんだから、勇気を出して話しかけたんだと思う。だからメイちゃん・・」
「もう言わないで。ネットで見た・・あんなセリフに、どう答えていいか分かんない」
「メイちゃん・・」
「勇太お兄ちゃんへの『好き』を、これ以上減らさないで。これ以上、ゲンジ君で塗り替えないで」
「へ・・、ぬりかえ?」
「・・・え、私ってなに言ったの?」
ゲンジはメイちゃんの顔を見た。メイちゃんは口を押さえている。
無自覚だった気持ちの傾き。自分でも何を言ったんだろうと思っている。
メイちゃん自身が、自分の口から出た言葉に驚いている。
「初恋を忘れたくない。これじゃ、ゲンジ君に悪い」
ゲンジも目に涙が浮かんできた。情けなくて・・
結局は自分のことしか考えていなかった。
そう、メイちゃんを好きになり始めて浮かれていたとき、メイちゃんは勇太に失恋して悲しんでいた。
10月にヤマモトタロウとトラブりそうになったときメイちゃんの口から聞いた。
『勇太さんの彼女になれることはないよ、絶対・・絶対に・・ない』
きっと傷が癒えきっていない。今、どんな選択をしてもメイちゃんは苦しい。
当たり前だ。だってゲンジが本当の意味では寄り添っていない。
「ゲンジ君。歌ってる姿も格好良かった。君は素敵になったよね」
「違う・・」
ゲンジは涙が込み上げてきて言葉が出ない。メイちゃんは涙声だけど話を続けている。
「君は勉強して、色んなこと教えてくれたよね。体も鍛えてる」
メイちゃんは、変えた髪型なんかより、そういう部分を最初に褒めてくれた。
「だからモテるようになったんだよ。可愛いくて思いやりがある彼女ができるよ。モブ顔で面倒くさい私なんか、そのうち、嫌いになる・・」
「ならない」
「なる」
「ならない」
「なるよ」
「絶対にならない」
「・・・どうして・・えっ、うえっ」
メイちゃんは泣き出した。
「ならない! 嫌いになれるわけないだろ! 」
ゲンジまで泣き出した。
ゲンジはメイちゃん右手を伸ばした。メイちゃんは最初、首を横に振った。ゲンジの手を取らなかった。
ゲンジは前に出てメイちゃんの頬に手を当てた。メイちゃんは目を閉じて、涙を流しながらゲンジの手に自分の手を重ねた。
この2人、この世界ではマイノリティな性癖に分類される。
将来は分からないけど、男女比1対12の世界なのに、同時に多数の相手を愛せない。
所詮は中3。そして2人は去年まで、異性とろくに話したこともなかった。
最適解なんて知らない。
だけど、少しずつ前に進んでいる。そのことすら、ふたりは気付いていない。
目的地は駅から300メートル離れた公園。男子誘拐防止用の監視カメラが設置されている。
そこなら護衛少なめのカップルかハーレムグループがいたりする。
気がせいているゲンジは、メイちゃんの腕を強引に引っ張ってきた。
もう公園。寒くて誰もいない。
公園の中央で2人は立ったまま向き合った。
黙って手を引かれてきたメイちゃんにゲンジが謝った。
「ごめん、手首引っ張って」
「ううん、いい。それで・・」
メイちゃんは言葉に詰まった。ゲンジはリーフカフェで自分のために歌った。
そして駅前で偶然に独り言を聞いた。自分のことを・・・好きだと口に出した。
「お、俺さ・・あの」
「・・無理して言葉にしなくていいよ。私だって同じだったから」
メイちゃんが笑っている。けれどゲンジに肝心なことを言わせない。
「5月に勇太お兄さんに何か感じて会いに行った。だけど、言葉が出なかった」
「え、そうなの」
「勇太お兄さんがネットに流れないようにしてくれたけど、私、まともに話せずに泣いちゃった」
「それで、勇太さんは・・」
「私が泣き止んで話すまで手を握ってくれて、とっても優しくしてくれた」
メイちゃんが、本当に優しい笑顔になっている。
「それでね私、勇太お兄さんに恋したの」
ゲンジは分かっていた。だけど改めてメイちゃんの口から聞くと胸が痛い。
「すっごく優しくされて、ルナさん、梓さん、カオルさんと一緒に、勇太お兄さんのお嫁さんになれると思った。けど8月にね・・」
ゲンジは、その後が予測できた。
改めて見るとメイちゃんは勇太に似ている。従妹の梓より、はるかに似ている。
「結ばれちゃいけない間柄だってこと知った。私、失恋したの」
『異母兄妹』。それしか考えられない。
「ありがとう冬木君」
「俺、なんもしてない・・」
「ううん、9月のあの時に冬木君が声かけてくれて・・。一緒にいてくれて、気付いたら気持ちが楽になってた」
10月までは、ゲンジと離れることを考えていた。
メイちゃんは勇太と恋人になれなくても、好きだった気持ちを忘れたくなかった。
ゲンジが懐いてくれた。同時にゲンジには美形の女の子も寄ってきた。
ゲンジに綺麗な彼女が増えるたび、自分はモブ女子の中に埋もれ、忘れられていくんだろうと思っていた。
パラレル高校にさえ受かれば、勇太ファミリーと普段から接することができる。
伊集院君も気にかけてくれる。
ちょっと同級生に羨ましがられる程度。一歩下がった、恋愛とは無縁の立ち位置で過ごそうと思っていた。
「・・ゲンジ君、ごめんね」
「え・・」初めてメイちゃんにゲンジと呼ばれた。
「私、もしかしたらゲンジ君が好意を持ってくれてるような気がしてた。けど、失恋した後だし、勘違いしてたときが怖かった」
「勇太さん、好きなの?」
「多分、まだ恋心としての『好き』が残ってる。貴重な男子のゲンジ君が頑張ってくれるのに、私って馬鹿でしょ」
「ううん。お、俺、そのメイちゃんだから、勇気を出して話しかけたんだと思う。だからメイちゃん・・」
「もう言わないで。ネットで見た・・あんなセリフに、どう答えていいか分かんない」
「メイちゃん・・」
「勇太お兄ちゃんへの『好き』を、これ以上減らさないで。これ以上、ゲンジ君で塗り替えないで」
「へ・・、ぬりかえ?」
「・・・え、私ってなに言ったの?」
ゲンジはメイちゃんの顔を見た。メイちゃんは口を押さえている。
無自覚だった気持ちの傾き。自分でも何を言ったんだろうと思っている。
メイちゃん自身が、自分の口から出た言葉に驚いている。
「初恋を忘れたくない。これじゃ、ゲンジ君に悪い」
ゲンジも目に涙が浮かんできた。情けなくて・・
結局は自分のことしか考えていなかった。
そう、メイちゃんを好きになり始めて浮かれていたとき、メイちゃんは勇太に失恋して悲しんでいた。
10月にヤマモトタロウとトラブりそうになったときメイちゃんの口から聞いた。
『勇太さんの彼女になれることはないよ、絶対・・絶対に・・ない』
きっと傷が癒えきっていない。今、どんな選択をしてもメイちゃんは苦しい。
当たり前だ。だってゲンジが本当の意味では寄り添っていない。
「ゲンジ君。歌ってる姿も格好良かった。君は素敵になったよね」
「違う・・」
ゲンジは涙が込み上げてきて言葉が出ない。メイちゃんは涙声だけど話を続けている。
「君は勉強して、色んなこと教えてくれたよね。体も鍛えてる」
メイちゃんは、変えた髪型なんかより、そういう部分を最初に褒めてくれた。
「だからモテるようになったんだよ。可愛いくて思いやりがある彼女ができるよ。モブ顔で面倒くさい私なんか、そのうち、嫌いになる・・」
「ならない」
「なる」
「ならない」
「なるよ」
「絶対にならない」
「・・・どうして・・えっ、うえっ」
メイちゃんは泣き出した。
「ならない! 嫌いになれるわけないだろ! 」
ゲンジまで泣き出した。
ゲンジはメイちゃん右手を伸ばした。メイちゃんは最初、首を横に振った。ゲンジの手を取らなかった。
ゲンジは前に出てメイちゃんの頬に手を当てた。メイちゃんは目を閉じて、涙を流しながらゲンジの手に自分の手を重ねた。
この2人、この世界ではマイノリティな性癖に分類される。
将来は分からないけど、男女比1対12の世界なのに、同時に多数の相手を愛せない。
所詮は中3。そして2人は去年まで、異性とろくに話したこともなかった。
最適解なんて知らない。
だけど、少しずつ前に進んでいる。そのことすら、ふたりは気付いていない。
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