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308 妹を託す儀式
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勇太は3月3月にルナ、カオル、梓と一緒に結婚式を挙げる教会に来た。
教会兼式場なので、ブライダル用のレンタルもあるし、スタッフも揃っている。
教会の下見と衣装合わせが本日のメインの目的。
4人だけでなく、異母妹のメイちゃんと、彼氏以外に見えないゲンジも誘った。
冬木ゲンジは今、困惑している。
ほぼ100パーセントの確率で分かっていたとはいえ、教会に入る前に勇太がメイちゃんのことを『妹』と言った。
公的には明かせない異母兄妹だが当然、ルナ、カオル、梓の3人は知っていた。
ただ、なぜ部外者の自分の前で明かすようなことをしたのか、ゲンジは理由が分からない。
勇太は自分がメイちゃんを好きだと知っている。
自分達がうまくいくように励ましてくれたり、手助けしてくれたりするけど、兄として認めてもらっている感じではない。
ゲンジ自身も仕方ないと思う。
頑張り始めたけど、まだ半年も経っていない。自分でも頼りないと思う。
メイちゃんが立ててくれるから、周囲の女の子に好感を持たれてると思っている。
本人は自分をモブ顔と言っているけど、メイちゃんはモテている。
なにせ、彼女に積極的に接している男子が、作詞作曲家の勇太、ハイスペック超人伊集院君。最近は、歌ったりしてネット上で注目されてきたヤマモトタロウも加わった。
そのせいで、大人しい男子数人がメイちゃんに興味を持ち始めた。
接してみると話しやすくて、柔らかな口調がウケている。
最近、メイちゃんの周囲で見た男子の中では、自分が一番レベルが低い。
今、教会の控室の前にゲンジはメイちゃんと並んで椅子に座っている。
今から勇太達4人が結婚式当日に使う衣装に着替えるから、そこで待つつもり。
「・・そういえば、今日はメイちゃんだけじゃなくて、俺も勇太さんから直接、来いって言われたんだった」
漠然と理由を考えていると、勇太に呼ばれた。
「おいゲンジ、お前もこっちの部屋に来いよ。メイちゃんは梓達と一緒にあっちね~」
「え」「なんでお兄ちゃん」
驚くふたりを式場スタッフが取り囲んで、控室に連れ込んだ。
「ゲンジ、お前の身長だとそのへんだな」
「え、なんで俺まで着替えるんですか」
「ほら、式場に入ったところに、色んな写真が飾ってあっただろう。俺達のやつも撮って飾りたいらしいから、お前も協力しろよ」
確かにパネル写真はあった。
男子と女子が1対1で写った珍しいものもあれば、女子だけ3人のウエディングドレス姿もあった。
多かったのは一般的なハーレム婚を写したもので、男子1に女子3~4人だった。
なぜ自分が? と思う間もなくゲンジは着替えさせられた。
写真なんて撮らない。
これが勇太が企画したサプライズだと、まだゲンジは知らない。
◆
ゲンジは今、聖堂の最奥の階段の上に立たされている。
そして白いスーツに着替えさせられている。
この場にメイちゃんと勇太がいない。
なぜかルナ、カオル、梓だけがいて、参列者の席に座っている。ルナ達の衣装合わせは終わり、今度は礼服を着ている。
ゲンジが戸惑っていると、教会の入り口が空いた。それを見てショックを受けた。
「…メ、メイちゃん」
メイちゃんが純白のウエディングドレスを着ている。
けれど彼女の左側には、グレーのスーツを着た勇太が立っている。
勇太が右手を差し出し、その上にメイちゃんの左手を乗せた。
ゲンジは動揺している。目の前のふたりは結婚式に臨むカップルに見える。
…これは、メイちゃんが勇太をあきらめ切れず、勇太もそれに応えたということか。
この場には6人だけ。ということは、非公式なメイちゃんと勇太の結婚式なのだろうか。
ゲンジは混乱している。
ふたりは歩き出して、ゲンジに近付いてきた。
一歩、一歩、近付いてくるメイちゃんは、勇太の手を取って幸せそうな顔を見せている。
階段の下まで来たふたりは、立ち止まった。
そしてメイちゃんが勇太から手を離し、真っ赤な顔でゲンジに言った。
「ゲンジ君、そこで待っててね」
「・・え?」
勇太はあらかじめメイちゃんにも話していたことをゲンジにも語り出した。
「あのさ、男女比が狂う前のヨーロッパの教会では、娘の結婚式に父親がエスコートをしてた国もあるらしいんだ」
何を言われているか分からないゲンジの元に、メイちゃんが階段を登って近付いてくる。
「花嫁の父親は、大切に育ててきた娘を幸せにしてくれって言って、祭壇の前で花婿に娘を託してたんだってさ」
ルナ達も最初に聞いたときはピンとこなかった。歴史上で聞いたことがあるような儀式。現代には残っていない。
勇太は、前世の西洋風な結婚式はこうだったかなと、思いついてやってみた。
実際に父親がエスコートする理由や細かい作法の意味は知らないけど、今回の目的ははっきりしている。
「『俺達』の父親はどこにいるか分からないから、代わりに兄の俺が妹をエスコートしてみた」
はにかむメイちゃんを見て、ゲンジは何か察した。
「け、けど、俺はまだ・・」
「関係ない。兄の俺が、妹を幸せにしてくれると思った男に、この手を託すんだよ」
にかっと笑う勇太。
「兄の俺の役割はここまでだ。あとはふたり次第だよ」
メイちゃんは、ゲンジと並んで自分の右手を差し出した。
「ゲンジ君、きちんと女から言わせてください。誰よりも大好きだから、私を彼女にして下さい」
「もちろん。俺も大好き…」
ゲンジは差し出されたメイちゃんの手を取った。
「ゲンジ。これからも妹のことよろしくな~」
「…は、はい」
勇太は、すでにゲンジのことは認めていた。
本当なら自分達の結婚式のときにゲンジとメイちゃんを呼んで、ゲンジとメイちゃんへのサプライズを仕掛けたかった。
けれど法的な身内と伊集院君しか呼べない状態になってしまったから、この場を用意して自分の意思を示そうと決めた。
ルナが拍手した。勇太、梓、カオルも続いて拍手した。みんなメイちゃんのことが心配だった。
勇太と結ばれてはならない関係だと知って泣いたメイちゃんが立ち直れたのはゲンジのおかげ。
ただ好きな気持ちを垂れ流しするのではなく、希少な男子なのに寄り添ってくれた。
だからゲンジへのため、サプライズを用意した。
教会兼式場なので、ブライダル用のレンタルもあるし、スタッフも揃っている。
教会の下見と衣装合わせが本日のメインの目的。
4人だけでなく、異母妹のメイちゃんと、彼氏以外に見えないゲンジも誘った。
冬木ゲンジは今、困惑している。
ほぼ100パーセントの確率で分かっていたとはいえ、教会に入る前に勇太がメイちゃんのことを『妹』と言った。
公的には明かせない異母兄妹だが当然、ルナ、カオル、梓の3人は知っていた。
ただ、なぜ部外者の自分の前で明かすようなことをしたのか、ゲンジは理由が分からない。
勇太は自分がメイちゃんを好きだと知っている。
自分達がうまくいくように励ましてくれたり、手助けしてくれたりするけど、兄として認めてもらっている感じではない。
ゲンジ自身も仕方ないと思う。
頑張り始めたけど、まだ半年も経っていない。自分でも頼りないと思う。
メイちゃんが立ててくれるから、周囲の女の子に好感を持たれてると思っている。
本人は自分をモブ顔と言っているけど、メイちゃんはモテている。
なにせ、彼女に積極的に接している男子が、作詞作曲家の勇太、ハイスペック超人伊集院君。最近は、歌ったりしてネット上で注目されてきたヤマモトタロウも加わった。
そのせいで、大人しい男子数人がメイちゃんに興味を持ち始めた。
接してみると話しやすくて、柔らかな口調がウケている。
最近、メイちゃんの周囲で見た男子の中では、自分が一番レベルが低い。
今、教会の控室の前にゲンジはメイちゃんと並んで椅子に座っている。
今から勇太達4人が結婚式当日に使う衣装に着替えるから、そこで待つつもり。
「・・そういえば、今日はメイちゃんだけじゃなくて、俺も勇太さんから直接、来いって言われたんだった」
漠然と理由を考えていると、勇太に呼ばれた。
「おいゲンジ、お前もこっちの部屋に来いよ。メイちゃんは梓達と一緒にあっちね~」
「え」「なんでお兄ちゃん」
驚くふたりを式場スタッフが取り囲んで、控室に連れ込んだ。
「ゲンジ、お前の身長だとそのへんだな」
「え、なんで俺まで着替えるんですか」
「ほら、式場に入ったところに、色んな写真が飾ってあっただろう。俺達のやつも撮って飾りたいらしいから、お前も協力しろよ」
確かにパネル写真はあった。
男子と女子が1対1で写った珍しいものもあれば、女子だけ3人のウエディングドレス姿もあった。
多かったのは一般的なハーレム婚を写したもので、男子1に女子3~4人だった。
なぜ自分が? と思う間もなくゲンジは着替えさせられた。
写真なんて撮らない。
これが勇太が企画したサプライズだと、まだゲンジは知らない。
◆
ゲンジは今、聖堂の最奥の階段の上に立たされている。
そして白いスーツに着替えさせられている。
この場にメイちゃんと勇太がいない。
なぜかルナ、カオル、梓だけがいて、参列者の席に座っている。ルナ達の衣装合わせは終わり、今度は礼服を着ている。
ゲンジが戸惑っていると、教会の入り口が空いた。それを見てショックを受けた。
「…メ、メイちゃん」
メイちゃんが純白のウエディングドレスを着ている。
けれど彼女の左側には、グレーのスーツを着た勇太が立っている。
勇太が右手を差し出し、その上にメイちゃんの左手を乗せた。
ゲンジは動揺している。目の前のふたりは結婚式に臨むカップルに見える。
…これは、メイちゃんが勇太をあきらめ切れず、勇太もそれに応えたということか。
この場には6人だけ。ということは、非公式なメイちゃんと勇太の結婚式なのだろうか。
ゲンジは混乱している。
ふたりは歩き出して、ゲンジに近付いてきた。
一歩、一歩、近付いてくるメイちゃんは、勇太の手を取って幸せそうな顔を見せている。
階段の下まで来たふたりは、立ち止まった。
そしてメイちゃんが勇太から手を離し、真っ赤な顔でゲンジに言った。
「ゲンジ君、そこで待っててね」
「・・え?」
勇太はあらかじめメイちゃんにも話していたことをゲンジにも語り出した。
「あのさ、男女比が狂う前のヨーロッパの教会では、娘の結婚式に父親がエスコートをしてた国もあるらしいんだ」
何を言われているか分からないゲンジの元に、メイちゃんが階段を登って近付いてくる。
「花嫁の父親は、大切に育ててきた娘を幸せにしてくれって言って、祭壇の前で花婿に娘を託してたんだってさ」
ルナ達も最初に聞いたときはピンとこなかった。歴史上で聞いたことがあるような儀式。現代には残っていない。
勇太は、前世の西洋風な結婚式はこうだったかなと、思いついてやってみた。
実際に父親がエスコートする理由や細かい作法の意味は知らないけど、今回の目的ははっきりしている。
「『俺達』の父親はどこにいるか分からないから、代わりに兄の俺が妹をエスコートしてみた」
はにかむメイちゃんを見て、ゲンジは何か察した。
「け、けど、俺はまだ・・」
「関係ない。兄の俺が、妹を幸せにしてくれると思った男に、この手を託すんだよ」
にかっと笑う勇太。
「兄の俺の役割はここまでだ。あとはふたり次第だよ」
メイちゃんは、ゲンジと並んで自分の右手を差し出した。
「ゲンジ君、きちんと女から言わせてください。誰よりも大好きだから、私を彼女にして下さい」
「もちろん。俺も大好き…」
ゲンジは差し出されたメイちゃんの手を取った。
「ゲンジ。これからも妹のことよろしくな~」
「…は、はい」
勇太は、すでにゲンジのことは認めていた。
本当なら自分達の結婚式のときにゲンジとメイちゃんを呼んで、ゲンジとメイちゃんへのサプライズを仕掛けたかった。
けれど法的な身内と伊集院君しか呼べない状態になってしまったから、この場を用意して自分の意思を示そうと決めた。
ルナが拍手した。勇太、梓、カオルも続いて拍手した。みんなメイちゃんのことが心配だった。
勇太と結ばれてはならない関係だと知って泣いたメイちゃんが立ち直れたのはゲンジのおかげ。
ただ好きな気持ちを垂れ流しするのではなく、希少な男子なのに寄り添ってくれた。
だからゲンジへのため、サプライズを用意した。
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