続・性春時代

あかいとまと

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仲間入り

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### 仲間入り

 小説家として活躍したことにより、ハヤトはカズのマンションに迎え入れられていた。

「この部屋を使えよ」

 そういうカズに、ハヤトは、

「でも、いいのかなぁ⋯⋯ここは二人の愛の巣だろ?」

 と、申し訳無さそうに言う。

「どこかに一人で住むよりは、三人で暮らしたほうがいいだろ?」

 カズが「遠慮するな」と、ハヤトに言う。

 マサシも、

「俺たちの仲を邪魔さえしなければ何の問題も無いですよ?」

 と、さり気なく言う。

「しかしさぁ~、いろいろと問題が起きないか?」

 心配そうに言うハヤトに、

「そん時はそん時だ」

「そうですよ」

 と、二人が答える。

「なら、住まわせてもらうけど⋯⋯」

 再び、申し訳無さそうにハヤトが言う。

「荷物を解いたらリビングに来い。今日はハヤトの歓迎パーティーだ」

「カズがいろいろと手を尽くして料理を用意してるんですよ」

 マサシがそう言うと、カズが、

「ま、簡単な物しか用意は出来ないが、それでも無いよりはマシだろ」

 そう言って、キッチンへと姿を消す。

「荷解き手伝うよ」

 マサシがそう言って、ハヤトの部屋に向かう。

「見られてマズイものとかは無いよね?」

「あぁ、あったとしても下着ぐらいだよ」

 そう言って、マサシのあとを追う。

 ハヤトが部屋に荷物を運び終えると、マサシはベッドの端に腰を下ろし、少し疲れた様子で息を吐いた。

「それにしても、こんなに荷物あるなんて知らなかったよ。作家って意外と物持ちなんだな」

「いや、全部が全部、必要なもんじゃねぇよ。でも、引っ越すってなると、ついつい“これもいるかも”って思って詰め込んでしまうんだよ」

 ハヤトは苦笑いしながら、ダンボールの山を眺めた。
 その中には、原稿の下書き、取材ノート、編集者からのフィードバックがびっしりと書き込まれた校正刷り、そして何冊もの未読の小説が詰まっている。
 彼の人生そのものが、ここに詰まっているようだった。

「でも、カズが迎えてくれたのは⋯⋯ホントにありがたいよ。正直、一人暮らしはもうちょっと寂しくなってた」

 マサシは静かに頷いた。

「カズも、お前がこのマンションに引っ越すって聞いた時、すごく嬉しそうだったよ。昔の仲間がまた一緒に暮らせるなんて、夢みたいだって言ってた」

「そうか⋯⋯」

 ハヤトの胸に、懐かしさと温かさが広がった。
 幼なじみのカズとは、幼稚園の頃からずっと一緒だった。
 喧嘩もしたし、泣いたこともあった。
 でも、どんな時も、カズは彼の味方だった。
 高校時代にカズがマサシと付き合い始めた時も、ハヤトは最初は戸惑った。
 でも、二人の関係を見て、彼らが本当に慕い合っていることを知ったとき、彼は心から祝福した。

「それにしても、カズの料理ってどんな感じなんだ? 昔はカレーのルーを焦がして消防車呼んだよな?」

 マサシは吹き出した。

「あれは伝説だよ。でも、最近は全然違う。マジで上達した。料理教室にも通ってるし、真剣に包丁握ってるもん」

「マジかよ⋯⋯」

「信じられない? 見てみなよ。今日のメニューは、鶏のトマト煮込みと、マサシ特製のポテトサラダ。デザートはカズの手作りチーズケーキだって」

「⋯⋯マジで? カズがチーズケーキ?」

「驚くな。お前が住み始めたってことで、気合い入れてるんだよ。『ハヤトの歓迎パーティーだ』って、昨日からずっとキッチンにこもってた」

 ハヤトは少し胸が熱くなった。
 そんなことまでしてくれるなんて⋯⋯。

「俺、なんか重荷になってないか?」

 マサシは眉をひそめた。

「何言ってんの。俺たち、家族みたいなもんだろ? カズもそう言ってる。『ハヤトが戻ってきたら、オレたちの家が本当の家になる』って」

 ハヤトは言葉を失った。
 目頭が少し熱くなったが、慌てて目をこすった。

「⋯⋯ありがとな、マサシ」

「ん? 何が?」

「いや⋯⋯何でもない。早くリビング行こう。カズが待ってるだろう?」

 二人は荷解きをひとまず中断し、リビングへ向かった。

 キッチンからは、トマトとハーブの香りが漂っている。
 カズはエプロンを着て、鍋をかき混ぜていた。
 その横顔は、昔と変わらず、どこかのんびりとした雰囲気を漂わせている。

「おっ、来たな。ちょうどいいところだ。マサシ、ワイン開けてくれ。ハヤト、グラス持ってきて」

「あ、あぁ、了解」

 ハヤトは戸棚からグラスを取り出し、テーブルに並べた。
 マサシが冷やしておいた白ワインの栓を抜く。
 コルクが「ポン」と音を立てて跳ねる。

「乾杯しよう」

 カズが鍋を火から下ろし、三人でテーブルに着いた。

「ハヤトの新生活、そして、三人での新しい暮らしに——」

「乾杯!」

 グラスが重なり、澄んだ音が部屋に響いた。

 料理は、見た目はともかく、味は驚くほど美味しかった。
 鶏肉は柔らかく、トマトの酸味とハーブの香りが絶妙に絡み合う。
 ポテトサラダはマサシの手作りらしく、マヨネーズの量が絶妙で、ハヤトは思わず「これ、マジで売れるレベル」と絶賛した。

「チーズケーキもどうだ?」

 カズが少し不安そうに聞く。

 ハヤトは一口食べて、目を見開いた。

「⋯⋯うまい。めっちゃうまい。カズ、お前、天才じゃねえか?」

 カズは照れくさそうに頭を掻いた。

「そ、そうか? 実はレシピ本三冊読み込んだんだよ。マサシに教えてもらった“愛情を込める”ってやつを、真剣にやってみた」

 マサシは笑いながら言った。

「カズ、お前の愛情の分量、ちょっと多すぎたんじゃない? オーブンの温度設定間違えて焦げそうになってたじゃん」

「うるせえ! でも、結果オーライだろ!」

 三人は笑い合った。
 その笑い声は、まるで昔に戻ったかのようだった。

 食後、ハヤトはソファに沈み、満足げにため息をついた。

「⋯⋯こういうの、久しぶりだな。誰かと一緒にご飯を食べて、笑って、話すって」

「一人暮らしは寂しいもんね」

 マサシが言った。

「でも、これからは大丈夫。朝も晩も、誰かがいる。カズは朝ごはん作るし、俺は洗濯担当。ハヤトは⋯⋯掃除当番でどう?」

「え? なんで俺が?」

「作家は頭使うから、体を動かす方がバランスいいって言うじゃん」

「それ、都合良すぎだろ!」

 カズが笑いながら仲裁に入った。

「まあまあ、掃除は週一でいいだろ。ハヤトは原稿書くのが仕事なんだから、無理させないでやれよ」

「⋯⋯ありがとな、カズ」

「それに、お前の小説、最近また評判だろ? 今度の連載、編集者が大絶賛してたって聞いたぞ」

 ハヤトは少し照れくさそうに頷いた。

「うん⋯⋯でも、まだ不安だよ。読者に届くか、ちゃんと伝わるか⋯⋯」

「心配すんな」

 カズが真剣な顔で言った。

「お前の文章には、いつも“誠実さ”がある。それが伝わるから、みんな読むんだよ。オレも最初の短編、泣いたぜ」

「⋯⋯マジかよ」

「当たり前だ。お前が書くのは、ただの物語じゃなくて、お前の心そのものだろ?」

 ハヤトは黙った。
 胸の奥がじんわりと温かくなる。
 そんな風に思ってくれている人がいる。
 それだけで、書く意味が生まれる。

「⋯⋯ありがとうよ、カズ。マサシもな」

「ん? 何が?」

「いや⋯⋯こうして、迎え入れてくれて。一緒に暮らしてくれて。俺、本当に幸せだ」

 マサシは微笑んだ。

「こっちこそだよ。ハヤトがいることで、この家がもっと“家”らしくなった気がする」

 その夜、三人は久しぶりに深夜まで語り合った。
 昔の思い出、今の悩み、未来の夢。
 ハヤトの小説の話、マサシのマンガ家の仕事の話、カズの料理の失敗談や小説家としての活躍。
 笑いもあれば、しんみりとした話もある。

 やがて、眠気につられてマサシとカズが寝室へと向かう。

「おやすみ、ハヤト。明日からよろしくな」

「ああ、おやすみ。ありがとうな、色々と」

 一人になったハヤトは、リビングの窓から夜の街を見下ろした。
 星は見えないけれど、街の灯りがきらきらと瞬いている。
 この部屋に、自分の居場所がある。
 それだけで、心が満たされていく。

 彼はノートを取り出し、一文を書き記した。

『——誰かと分かち合える日常が、一番の物語だった』

 そして、そっとペンを置き、静かに微笑んだ。

 これから始まる、三人の暮らし。
 喧嘩もあるだろう。
 誤解もあるだろう。
 でも、それも全部、愛の形だと、ハヤトは思った。

 幼なじみと、そのパートナーと、そして自分。

 この5LDKのマンションで、新しい物語が、今、動き出していた。





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