24 / 48
23.
翌朝
しおりを挟む
### 翌朝
キッチンから芳しい香りが漂ってくる。
目覚めたハヤトは、その香りに誘われるようにベッドから起き上がり、パジャマのままキッチンへと向かった。
「おはよう」
そう言って、姿を現したハヤトは、キッチンにいるカズに声をかける。
カズはフライパンを手に、目玉焼きを静かに返しながら振り返った。
「おはよう、ハヤト。起きたのか? ちょうど朝ごはん、仕上げのところだよ」
「いい匂いだな。何か手伝おうか?」
「なら、リビングテーブルに皿とか用意してくれないか?」
「了解」
ハヤトは冷蔵庫の横にある食器棚を開け、白い陶器の皿を三枚取り出す。
フォークとナイフ、スプーンも揃え、リビングのテーブルに丁寧に並べ始めた。
そのとき、ドアの向こうから小さな足音が近づいてきた。
「おはよう、カズ」
マサシがパジャマ姿で部屋から顔を出した。
髪はまだ寝ぐせのまま、目は半分閉じている。
それでも、キッチンの香りに誘われたのか、無意識に喉を鳴らしている。
「おはよう、マサシ。今日からはハヤトが一緒に居るんだぞ?」
カズは笑いながらそう言い、ふとマサシの股間へと視線を滑らせた。
「はっ!」
マサシは突然の指摘に飛び上がったように身を引いて、慌てて両手で股間を隠す。
「何? いつもはあの状態で起きてくるわけ?」
ハヤトがにやりと笑いながら、カズに尋ねる。
「あぁ。ほとんど毎日あの状態で起きてくるぜ」
カズも肩をすくめ、悪びれず答える。
「二人とも、もうやめて!」
マサシは耳まで真っ赤に染め、声を上げる。
頬は熱を持ち、目は泳いでいる。
「まだ若いんだし、朝勃ちくらい皆んなするだろ?」
カズが平然と肩をすくめる。
「さぁ?」
ハヤトも肩をすくめて、無邪気に笑う。
「もう、二人とも!」
マサシが叫ぶと、カズは思わず吹き出し、フライパンを手に笑い転げる。
「ほら、マサシも食器の用意をして。そろそろ出来上がるよ」
カズが笑いを堪えながら言うと、マサシは「はぁ⋯⋯」とため息をつき、渋々キッチンへと近づいた。
「⋯⋯なんで俺まで手伝わなきゃなんないの⋯⋯」
「だって、食べるんだろ? なら手伝えよ」
「ハヤトが来たばっかりに、朝からこんな目に⋯⋯」
それでもマサシは、トーストを焼くオーブンから取り出した食パンを皿に載せ、バターとジャムを添える。
ハヤトはそれを黙って見守りながら、内心「この二人、本当に仲がいいな」と感じていた。
朝食の準備が整い、三人はリビングのテーブルを囲んだ。
目玉焼き、ベーコン、トースト、それに新鮮なフルーツサラダ。
カズの作る朝食はいつも手が込んでいて、ハヤトは思わず感嘆の声を漏らす。
「うまいな、これ。プロ並みだろ」
「まあ、小説の合間に料理でもしてないと、頭が煮詰まっちまうからな」
カズがコーヒーを啜りながら言う。
「でも、ハヤト、今日は出版社に行くんだったよね?」
マサシが口を挟む。
「ああ、そうなんだ。新作の原稿の打ち合わせがある。編集者が待ってるってことで、午前中には着かなきゃいけない。」
「またあの怖い編集長か⋯⋯」
マサシが顔をしかめる。
「別に怖くないよ。ただ、厳しいだけだ。でも、ちゃんと原稿を読んでもらえるなら、それでいい」
「でも、あの人はハヤトの原稿をいつも絶賛してるじゃん。前回の小説、文芸賞の候補にもなったし」
「マサシ、そこまで俺の仕事のこと知ってるのか?」
ハヤトが驚いたように目を見開く。
「もちろん。カズが毎回、『ハヤトの新作、またすごい出来だぞ』って言ってるから、俺もチェックしてるんだよ。」
「へぇ⋯⋯」
ハヤトは少し照れくさそうに笑った。
「でも、今日の打ち合わせ、大丈夫か? 最近、ちょっと無理してないか?」
カズが真剣な目でハヤトを見る。
「⋯⋯まぁ、ちょっと睡眠不足気味だけど、大丈夫だよ。新作のラストシーンがどうしてもうまく書けなくて、昨日も夜中まで起きてたんだ」
「また徹夜かよ⋯⋯」
マサシが呆れたように言う。
「でも、ようやく昨日の夜、ラストの一行が浮かんだんだ。『彼の手の中にあるのは、希望ではなく、過去の残骸だった』⋯⋯どうだ?」
「⋯⋯うわ、重い」
マサシが思わず身を引く。
「いいな。その一文だけで物語の全体像が見えてくる。編集長も気に入るはずだ」
カズがうなずく。
「でも、無理はするなよ。小説は書けるときに書けばいい。命より作品が大事ってわけじゃないだろう?」
カズの言葉に、ハヤトは少し黙り込んだ。
「⋯⋯わかってるよ。でもさ、ある瞬間、言葉が降ってくる感じがあるだろ? そのときを逃したら、二度と戻ってこない気がして⋯⋯」
「それはわかる。でも、俺たちも心配なんだよ」
マサシが珍しく真剣な顔で言う。
ハヤトはその言葉に胸を打たれ、静かにうなずいた。
「⋯⋯ごめん。気をつけるよ」
朝食を終え、ハヤトはシャワーを浴びて身支度を整える。
黒のシャツにグレーのジャケット、手には原稿をまとめたファイル。
カズがマンションの玄関まで見送りに来てくれた。
「頑張ってこいよ。でも、無理はするな」
「うん。帰ったら、今度は俺が夕飯作るよ」
「え、マジで? 楽しみだな」
カズが笑う。
「じゃあ、マサシにもよろしくな」
「ああ、伝えるよ」
ハヤトは外へ出ると、朝の空気を深く吸い込んだ。
春の風が頬を撫でる。
出版社までは電車で三十分。
原稿を抱え、彼は駅へと歩き始めた。
一方、マンションの部屋に戻ったカズは、リビングのソファに座り、コーヒーを飲みながら窓の外を見る。
マサシがキッチンで食器を洗っている。
「⋯⋯ハヤト、最近、ちょっと無理してるように見えるよな」
カズがぽつりと言う。
「うん⋯⋯でも、あの人、自分のことより作品を優先しちゃうタイプだもんね」
「あぁ。昔からそうだった。新人時代、原稿の締め切り前に倒れたこともあったよ」
「えっ、マジで? そんなこと知らなかった⋯⋯」
「本人は誰にも言いたくないみたいで。でも、オレはそのとき病院に付き添ったからな」
マサシは洗い物の手を止め、カズの言葉に聞き入った。
「⋯⋯でも、今は俺たちがいる。無理させないで、ちゃんと休ませてあげないと」
「そうだな」
カズが微笑む。
「今度、みんなでどこかに遊びに行こうよ。ハヤトも、ちょっと気分転換が必要だと思う」
「いいね。山とか、温泉とか。自然の中なら、インスピレーションも湧きそうだし」
「それな。今度、計画立てよう」
その頃、ハヤトは出版社のビルの前で深呼吸をしていた。
エレベーターに乗る前に、彼はファイルを軽く叩いた。
「⋯⋯大丈夫、今回もきっとうまくいく」
扉が開き、彼は中へと足を踏み入れた。
廊下を歩きながら、頭の中ではもう次の小説のプロットが動き出していた。
しかし、心のどこかで、カズとマサシの笑顔がよぎる。
「⋯⋯帰ったら、ゆっくり話そう」
打ち合わせの部屋に入る前に、彼はそう心に決めた。
作品も大切。
でも、そこに自分を支えてくれる人がいること――。
それも、また、大切な物語の一部なのだと、ようやく気づき始めていた。
キッチンから芳しい香りが漂ってくる。
目覚めたハヤトは、その香りに誘われるようにベッドから起き上がり、パジャマのままキッチンへと向かった。
「おはよう」
そう言って、姿を現したハヤトは、キッチンにいるカズに声をかける。
カズはフライパンを手に、目玉焼きを静かに返しながら振り返った。
「おはよう、ハヤト。起きたのか? ちょうど朝ごはん、仕上げのところだよ」
「いい匂いだな。何か手伝おうか?」
「なら、リビングテーブルに皿とか用意してくれないか?」
「了解」
ハヤトは冷蔵庫の横にある食器棚を開け、白い陶器の皿を三枚取り出す。
フォークとナイフ、スプーンも揃え、リビングのテーブルに丁寧に並べ始めた。
そのとき、ドアの向こうから小さな足音が近づいてきた。
「おはよう、カズ」
マサシがパジャマ姿で部屋から顔を出した。
髪はまだ寝ぐせのまま、目は半分閉じている。
それでも、キッチンの香りに誘われたのか、無意識に喉を鳴らしている。
「おはよう、マサシ。今日からはハヤトが一緒に居るんだぞ?」
カズは笑いながらそう言い、ふとマサシの股間へと視線を滑らせた。
「はっ!」
マサシは突然の指摘に飛び上がったように身を引いて、慌てて両手で股間を隠す。
「何? いつもはあの状態で起きてくるわけ?」
ハヤトがにやりと笑いながら、カズに尋ねる。
「あぁ。ほとんど毎日あの状態で起きてくるぜ」
カズも肩をすくめ、悪びれず答える。
「二人とも、もうやめて!」
マサシは耳まで真っ赤に染め、声を上げる。
頬は熱を持ち、目は泳いでいる。
「まだ若いんだし、朝勃ちくらい皆んなするだろ?」
カズが平然と肩をすくめる。
「さぁ?」
ハヤトも肩をすくめて、無邪気に笑う。
「もう、二人とも!」
マサシが叫ぶと、カズは思わず吹き出し、フライパンを手に笑い転げる。
「ほら、マサシも食器の用意をして。そろそろ出来上がるよ」
カズが笑いを堪えながら言うと、マサシは「はぁ⋯⋯」とため息をつき、渋々キッチンへと近づいた。
「⋯⋯なんで俺まで手伝わなきゃなんないの⋯⋯」
「だって、食べるんだろ? なら手伝えよ」
「ハヤトが来たばっかりに、朝からこんな目に⋯⋯」
それでもマサシは、トーストを焼くオーブンから取り出した食パンを皿に載せ、バターとジャムを添える。
ハヤトはそれを黙って見守りながら、内心「この二人、本当に仲がいいな」と感じていた。
朝食の準備が整い、三人はリビングのテーブルを囲んだ。
目玉焼き、ベーコン、トースト、それに新鮮なフルーツサラダ。
カズの作る朝食はいつも手が込んでいて、ハヤトは思わず感嘆の声を漏らす。
「うまいな、これ。プロ並みだろ」
「まあ、小説の合間に料理でもしてないと、頭が煮詰まっちまうからな」
カズがコーヒーを啜りながら言う。
「でも、ハヤト、今日は出版社に行くんだったよね?」
マサシが口を挟む。
「ああ、そうなんだ。新作の原稿の打ち合わせがある。編集者が待ってるってことで、午前中には着かなきゃいけない。」
「またあの怖い編集長か⋯⋯」
マサシが顔をしかめる。
「別に怖くないよ。ただ、厳しいだけだ。でも、ちゃんと原稿を読んでもらえるなら、それでいい」
「でも、あの人はハヤトの原稿をいつも絶賛してるじゃん。前回の小説、文芸賞の候補にもなったし」
「マサシ、そこまで俺の仕事のこと知ってるのか?」
ハヤトが驚いたように目を見開く。
「もちろん。カズが毎回、『ハヤトの新作、またすごい出来だぞ』って言ってるから、俺もチェックしてるんだよ。」
「へぇ⋯⋯」
ハヤトは少し照れくさそうに笑った。
「でも、今日の打ち合わせ、大丈夫か? 最近、ちょっと無理してないか?」
カズが真剣な目でハヤトを見る。
「⋯⋯まぁ、ちょっと睡眠不足気味だけど、大丈夫だよ。新作のラストシーンがどうしてもうまく書けなくて、昨日も夜中まで起きてたんだ」
「また徹夜かよ⋯⋯」
マサシが呆れたように言う。
「でも、ようやく昨日の夜、ラストの一行が浮かんだんだ。『彼の手の中にあるのは、希望ではなく、過去の残骸だった』⋯⋯どうだ?」
「⋯⋯うわ、重い」
マサシが思わず身を引く。
「いいな。その一文だけで物語の全体像が見えてくる。編集長も気に入るはずだ」
カズがうなずく。
「でも、無理はするなよ。小説は書けるときに書けばいい。命より作品が大事ってわけじゃないだろう?」
カズの言葉に、ハヤトは少し黙り込んだ。
「⋯⋯わかってるよ。でもさ、ある瞬間、言葉が降ってくる感じがあるだろ? そのときを逃したら、二度と戻ってこない気がして⋯⋯」
「それはわかる。でも、俺たちも心配なんだよ」
マサシが珍しく真剣な顔で言う。
ハヤトはその言葉に胸を打たれ、静かにうなずいた。
「⋯⋯ごめん。気をつけるよ」
朝食を終え、ハヤトはシャワーを浴びて身支度を整える。
黒のシャツにグレーのジャケット、手には原稿をまとめたファイル。
カズがマンションの玄関まで見送りに来てくれた。
「頑張ってこいよ。でも、無理はするな」
「うん。帰ったら、今度は俺が夕飯作るよ」
「え、マジで? 楽しみだな」
カズが笑う。
「じゃあ、マサシにもよろしくな」
「ああ、伝えるよ」
ハヤトは外へ出ると、朝の空気を深く吸い込んだ。
春の風が頬を撫でる。
出版社までは電車で三十分。
原稿を抱え、彼は駅へと歩き始めた。
一方、マンションの部屋に戻ったカズは、リビングのソファに座り、コーヒーを飲みながら窓の外を見る。
マサシがキッチンで食器を洗っている。
「⋯⋯ハヤト、最近、ちょっと無理してるように見えるよな」
カズがぽつりと言う。
「うん⋯⋯でも、あの人、自分のことより作品を優先しちゃうタイプだもんね」
「あぁ。昔からそうだった。新人時代、原稿の締め切り前に倒れたこともあったよ」
「えっ、マジで? そんなこと知らなかった⋯⋯」
「本人は誰にも言いたくないみたいで。でも、オレはそのとき病院に付き添ったからな」
マサシは洗い物の手を止め、カズの言葉に聞き入った。
「⋯⋯でも、今は俺たちがいる。無理させないで、ちゃんと休ませてあげないと」
「そうだな」
カズが微笑む。
「今度、みんなでどこかに遊びに行こうよ。ハヤトも、ちょっと気分転換が必要だと思う」
「いいね。山とか、温泉とか。自然の中なら、インスピレーションも湧きそうだし」
「それな。今度、計画立てよう」
その頃、ハヤトは出版社のビルの前で深呼吸をしていた。
エレベーターに乗る前に、彼はファイルを軽く叩いた。
「⋯⋯大丈夫、今回もきっとうまくいく」
扉が開き、彼は中へと足を踏み入れた。
廊下を歩きながら、頭の中ではもう次の小説のプロットが動き出していた。
しかし、心のどこかで、カズとマサシの笑顔がよぎる。
「⋯⋯帰ったら、ゆっくり話そう」
打ち合わせの部屋に入る前に、彼はそう心に決めた。
作品も大切。
でも、そこに自分を支えてくれる人がいること――。
それも、また、大切な物語の一部なのだと、ようやく気づき始めていた。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる