続・性春時代

あかいとまと

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24.

温泉旅行

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### 温泉旅行

 ハヤトが帰宅した後、カズがハヤトに尋ねた。

「新作の原稿の打ち合わせ、うまくいったのか?」

「もちろん。快くOKをくれたよ」

「そうか。なら休みも取れるよな?」

「休み?」

「あぁ、骨休めに三人で温泉にでも行こうかと思ってな。今、マサシが予約を取ってる」

 ハヤトはカズの言葉に目を丸くした。

「三人で? 温泉? マサシが予約? ちょっと待てよ、今何の話をしてる?」

 カズはソファに深く腰を下ろし、片眉を上げて笑った。

「今度の週末だ。新作の打ち合わせも無事に決まったって話だったろ? なら、ちょっとくらい休んでもいいだろ。オレたち、最近、息ぴったりだったし。せっかくだから、のんびりしようって話になってな」

「マサシが? マサシが温泉の予約? 冗談だろ」

「いや、本気だよ。しかも、露天風呂付きの離れを取ったって。『大人の時間』って言ってたぞ、あの男」

 ハヤトは思わず吹き出した。

「マサシが『大人の時間』? そいつは笑えるな。あの男、前回の飲み会で『俺のモノ、最近デカくなってね?』とか言い出して、店中の注目浴びてたじゃんか」

「あれはあれで、自信の表れだろ。まあ、実際、ちょっとは大きくなった気もするが」

 カズは平然とそう言って、自分の股間を軽く叩いた。

 ハヤトは呆れながらも、思わず視線をその方向へ滑らせてしまった。
 そして、慌てて顔を背ける。

「⋯⋯お前ら、またそれかよ」

「何が? 男なら、当然の話だろ。サイズは、誇りだ」

「誇りって⋯⋯お前ら、もうすぐアラサーの大人だろうが」

「だからこそだ。若い頃は適当だったけど、今はちゃんと意識してる。マサシも、最近、ストレッチやってるって言ってたぞ。『温泉で比べるとき、恥ずかしくないように』って」

「⋯⋯マジで?」

 ハヤトは頭を抱えた。

「お前ら、本当にそれでいいのか? 俺たち、小説家だろ? 創作の話とか、今後の方向性とか、そういうのを温泉で語り合うもんじゃないのか?」

「もちろんそれもある。でもな、男と男の絆ってのは、言葉より、むしろそういう“実物”で測られるもんなんだよ」

 カズは真剣な顔で言った。

 ハヤトは、その真剣さに逆に笑いが込み上げてきた。

「⋯⋯お前、本気で言ってんの?」

「当たり前だ。マサシもそう思ってる。だから、離れにしたんだ。誰にも見られないように。純粋な比較のために」

「純粋な⋯⋯」

 ハヤトは絶句した。



 翌週末。
 山あいの静かな温泉郷に、三人は到着した。

 旅館は古き良き趣を残す木造の建物で、雪化粧をした山々が眼下に広がっていた。
 離れは、小川のせせらぎが聞こえる静けさの中、ぽつんと佇んでいた。

「⋯⋯ここ、本当に大丈夫か?」

 ハヤトが小声で言うと、マサシがにやりと笑った。

「もちろん。誰にも邪魔されない。完璧な環境だ」

「⋯⋯お前ら、本当にそれしか考えてないだろ」

 風呂に入る前、三人はまず部屋で乾杯した。

「まあ、まずはリラックスだ。これから一晩、心ゆくまで語り合おう。仕事の話も、人生の話も、そして⋯⋯」

 マサシが意味ありげに目を細める。

「そして、真の男の大きさの真実を、ここに刻もう」

「⋯⋯マジで、それしかないのかよ」

 ハヤトはため息をついたが、内心では、どこか楽しみでもあった。

 風呂上がり。
 湯気をまとった体をタオルで拭きながら、三人は再び離れの部屋に集まった。

「さて、そろそろか?」

 カズが言った。

「⋯⋯待てよ。本当にやるのか?」

 ハヤトはまだ半信半疑だった。

「もちろん。約束だろ? 男の約束は、絶対だ」

 マサシが真剣な眼差しで言う。

「それに、俺たち、ライバルだろ? 創作でも、プライベートでも。なら、ここはひとつ、すべてを晒して、真の勝負をしよう」

「⋯⋯お前ら、狂ってる」

 だが、ハヤトも立ち上がった。

「まあ、いいか。せっかくここまで来たんだ。やるなら、やるっきゃない」

 カズが笑う。

「それだ、ハヤト。覚悟を見せたな」

 そして、三人は同時に、タオルを腰から外した。

 部屋の中は、一瞬、静寂に包まれた。

「⋯⋯お?」

 マサシがまず口を開いた。

「カズ、お前⋯⋯マジでデカくなってるな」

 カズは胸を張る。

「言ったろ? ストレッチと、正しい生活習慣。あと、プロテインも毎日飲んでる」

「⋯⋯マジかよ」

 ハヤトは思わず見比べてしまった。

 学生の頃はまだ自分のほうがカズのモノよりは大きかった。

 でも、今はどうだろう?

「いや、でも、俺も⋯⋯最近、意識してたからな」

 ハヤトがそう言うと、マサシはにやりと笑った。

「じゃあ、比べてみるか。順番に並んで、客観的に評価しよう」

「⋯⋯客観的って、誰が?」

「俺が審査員だ。公平にジャッジする」

「お前が? お前のが一番小さいじゃん!」

「それは偏見だ! サイズより、存在感だ。存在感!」

 マサシは声を張り上げた。

 結局、三人は壁に向かって並び、カズがスマホで横からの写真を撮った。

「⋯⋯どうだ?」

 ハヤトが緊張した面持ちで聞く。

 カズが画面を確認し、うなずく。

「⋯⋯カズが一番でかいな。これは認めざるを得ない」

「おおっ! 勝利の女神が微笑んだか!」

 カズが拳を突き上げる。

「だがな、ハヤト。お前も悪くない。マサシよりは明らかに遥かに上だ」

「⋯⋯マジか?」

 ハヤトは思わず自分のを再確認した。

「いや、でも、角度の問題じゃね? もう一回撮ろうぜ」

 マサシが不服そうに言う。

「いい加減にしろよ。もう十分だろ」

 ハヤトが笑いながら言う。

「それに、俺たち、本当にこんなことで一喜一憂してるのか? クリエイターとして、どうなんだよ」

「いや、でも、これも人生だろ?」

 カズが肩をすくめる。

「オレたち、文字で世界を創ってるけど、男としてのプライドも、ちゃんと持ってるってことだ。それが、作品にも出る」

「⋯⋯そうか?」

「当たり前だ。読者は、無意識に作家の人間性を感じ取ってる。だからこそ、俺たちは、外見も中身も、完璧を目指す」

「⋯⋯完璧って、ちょっとオーバーだろ」

 マサシがまだ納得いかない様子で、自分のを手で包みながら言った。

「でもな、俺、形はいいと思うんだよ。長さはともかく、太さと、角度。これが大事なんだよ。女心をくすぐるのは、長さより、この“存在感”だ」

「⋯⋯お前、また変な理論展開しやがって」

 ハヤトが笑いながら、マサシの頭を軽く叩いた。

「まあ、でも、確かに、マサシのそれは、ちょっと上向きだな。オレのはまっすぐで、ハヤトのは⋯⋯まあ、自然なカーブか」

「⋯⋯お前ら、真剣に分析しすぎだろ!」

 三人はそこで、再び笑い合った。

 そして、酒を飲みながら、話は自然と仕事に戻った。

「でもな、今日のこの時間、悪くなかったよ」

 ハヤトがぽつりと言った。

「俺たち、最近、原稿のことでちょっとギスギスしてたよな。でも、こうやって、素のまま話せる関係って、大事だ」

「ああ。男同士ってのは、言葉より、こういう“実”を見せ合うことで、絆が深まるもんなんだよ」

 カズが言った。

「それに、オレたち、これからもライバルだし、仲間だ。大きさも、作品も、互いに高め合っていこう」

「⋯⋯お前ら、まだそれかよ」

 マサシが笑いながら言う。

「まあ、でも、俺も悪くないと思ってる。次は、もっと大きくしてやる。ハヤト、お前も油断するなよ」

「⋯⋯お前ら、本当に、終わってんな」

 ハヤトはそう言いながらも、心のどこかで、この関係が好きだった。

 夜が更け、三人は布団に横たわり、天井を見上げた。

「⋯⋯でもさ、」

 マサシがふと口を開いた。

「俺たち、本当に、女にモテてるのか? サイズとか、そんなの、女は本当に気にしてるのか?」

 一瞬、静寂が落ちた。

「⋯⋯知るかよ。それにマサシは女にモテたいのか?」

 カズが笑った。

「でもな、女は、自信のある男に惹かれる。サイズより、その“気”だ。オレたち、これからも、自信を持って生きてこう」

「⋯⋯それなら、まあ、いいか」

 ハヤトも微笑んだ。

 そして、三人は、そっと目を閉じた。

 翌朝。
 チェックアウトの際、女将がにこやかに言った。

「皆様、よくお休みになられましたか?」

「ええ、最高でした。特に、離れの静けさが⋯⋯」

 カズが答える。

「それは何より。でも、あの⋯⋯」

 女将が少し気まずそうに言った。

「お風呂の湯船に、何かの⋯⋯白い痕跡が残っておりまして⋯⋯」

「⋯⋯!」

 三人は同時に顔を見合わせた。

「あ、それは⋯⋯」

「いや、誤解です! あれは、ただの⋯⋯」

「影です! 照明の影です!」

 マサシが必死に弁解する。

 女将は苦笑いしながら、そっと手を振った。

「まあ、いいんです。若い方々の活力は、歓迎ですよ」

 三人は顔を赤くしながら、急いで旅館を後にした。

 車の中。

「⋯⋯あれ、どう見ても、俺たちの“射精したモノ”の跡だろ⋯⋯」

 ハヤトが呆れ顔で言う。

「でも、女将、優しかったな。怒らなかったし」

「ああ。でも、二度とあの旅館には行けないな」

 カズがため息をつく。

「でも、悪くない思い出だ。オレたちの絆が、また一つ深まった」

「⋯⋯お前ら、本当に、終わってんな」

 ハヤトはそう言いながら、窓の外の山々を見た。

 そして、ふと、微笑んだ。

 男同士の、他愛ない、でもかけがえのない時間。

 それが、彼らの創作の原動力でもあった。





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