続・性春時代

あかいとまと

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永遠の誓い(最終話)

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### 永遠の誓い(最終話)

 12月25日、雪が静かに降り積もる冬の朝。  
 空は白く曇り、街の灯りがまだ消えずに点滅している。  
 とある小さな教会の前に、四人の人影が立っていた。  
 カズ、マサシ、ハヤト、そしてカズの兄・ハル。  

 教会の木製の扉は、赤いリボンと松かさで飾られ、中からはオルガンの静かな旋律が漏れていた。  
 今日は、カズとマサシが「永遠の愛」を誓う日。  
 正式な婚姻届はまだ出していないが、二人にとっては、この日が「結婚式」であり、心の結びつきを神と友人たちの前で確認する、最も大切な儀式だった。

「お前ら、本当にやるんだな⋯⋯」  

 ハルは、コートの襟を立てながら、少し目を細めた。  

「まさか俺の弟が、漫画家と結婚する日が来るとはな」

「兄貴、今日だけは祝福してよ」  

 カズは笑いながら、兄の肩を軽く叩いた。  
 27歳のカズは、売れっ子の小説家として知られ、その繊細な文章と人間ドラマで多くの読者を魅了している。  
 しかし、家に帰れば、完璧な主夫。  
 朝食のパンを焼く音、コーヒーの香り、洗濯物を干す手つきまで、すべてが丁寧で、マサシを心から愛していることが伝わってくる。

「別に祝福してないわけじゃない。ただ⋯⋯マサシがちゃんとお前を幸せにできるか、気になるだけだよ」  

 ハルはそう言いながらも、ポケットから小さなカメラを取り出した。  

「まあ、撮っとくか。母さんたちにも見せたいしな」

「マサシは、もう十分に幸せにしてくれてるよ」  

 カズの声は、どこか夢を見ているような、柔らかなトーンだった。

 教会の中に入ると、小さなパイプオルガンが「アベ・マリア」を奏でていた。  
 ステンドグラスから差し込む光が、雪の白さと混ざり合い、まるで祝福の光のように感じられた。  

 マサシはすでに祭壇の前に立っていた。  
 黒のスーツに、赤いネクタイ。  
 いつもは乱れた髪も、今日は丁寧にセットされ、目元には少し緊張の色が浮かんでいる。  
 27歳の彼は、人気マンガ家として、少年誌で連載を持つ売れっ子。  
 しかし、その裏には、幼少期からの家庭の暗い影があった。  

 父からの暴力、母の沈黙、兄弟からの疎外。  
 マサシは20歳の時に家を飛び出し、それ以来、家族とは一切の連絡を絶っている。  
 「家族」という言葉に、彼が抱くのは、痛みと孤独。  
 だからこそ、今日のこの誓いは、彼にとって「新しい家族の始まり」だった。

「マサシ⋯⋯」  

 カズが近づくと、マサシはゆっくりと顔を上げた。  

「カズ⋯⋯キレイだな」

「は? 男がキレイって何だよ」  

 カズは笑ったが、目尻に涙が浮かんでいた。  

「でも⋯⋯嬉しいよ。マサシがそう言ってくれるだけで、今日が本当に幸せだ」

 二人は手を取り合い、祭壇の前に立った。  
 牧師が静かに語りかける。

「今日ここに集まった皆さん、そして神の前で、カズさんとマサシさんは、互いに永遠の愛を誓います。  
 心から愛し、支え合い、どんな困難にも立ち向かい、生涯を共に歩むことを約束しますか?」

「誓います」  

 二人の声は、重なり合い、教会の天井まで届いたかのようだった。

「では、指輪の交換を行いましょう」

 ハヤトが、小さな木箱を手渡した。  
 27歳の彼は、カズの幼なじみで、現在は人気作家として、詩やエッセイで多くの支持を得ている。  
 カズとは幼少期からの親友で、マサシともすぐに意気投合。  
 三人は今、片田舎のカズのマンションで共同生活をしている。

「お前ら、本当に結ばれるんだな⋯⋯」  

 ハヤトは少し声を震わせながら言った。  

「高校の頃、カズが『将来、愛する人と田舎の教会で結婚式をしたい』って言ってたの、覚えてるよな? まさかそれが、マサシとの式になるとはな」

「お前が証人を引き受けてくれて、本当にありがとう」  

 マサシはハヤトの手を握った。  

「お前がいなかったら、俺たちここまで来られなかったよ」

「当たり前だろ。お前ら二人は、俺の人生の半分を占めてるんだから」  

 ハヤトは笑ったが、目には光るものが浮かんでいた。

 指輪は、シンプルなプラチナのリング。  
 カズがマサシの指にはめ、マサシがカズの指にはめる。  
 その瞬間、教会の鐘が鳴った。  
 ちょうど正午。  
 外の雪は、さらに深くなり、世界が白く包まれていた。

「それでは、カズさんとマサシさん。  
 あなたがたは、ここに愛を誓い、指輪を交わしました。  
 私は、あなたがたを夫婦と認めます。  
 どうぞ、キスを交わしてください」

 二人は顔を近づけ、唇を重ねた。  
 静かで、温かく、すべての感情が込められたキス。  
 ハルはカメラを構え、シャッターを切り続けた。  
 ハヤトは、ポケットから小さなノートを取り出し、その瞬間を詩にしたためた。



 式の後、四人は近くの古民家を改装したカフェへ向かった。  
 カズとマサシが高校時代に通っていた喫茶店で、今は地元の人たちの憩いの場になっている。  
 暖炉が赤く燃え、木のテーブルには手作りのケーキと温かいココアが並んだ。

「まさか、俺たちがここで結婚式の後会をするなんてな」  

 マサシは、温かいココアをすすりながら言った。  

「高校の頃、ここでカズと初めて二人きりで話したの、覚えてる?」

「もちろん。お前、『恋愛漫画なんてバカらしい』って言ってたよな」  

 カズは笑った。  

「なのに、今じゃラブコメの連載やってるくせに」

「⋯⋯あれは、お前と出会ってから変わったんだ」  

 マサシの声は、少し低くなった。  

「それまで、愛とか、絆とか、信じられなかった。でも、カズは⋯⋯俺が傷ついてることを、何も言わなくても分かってくれた。怒らないで、逃げないで、ただそばにいてくれた」

 カズは黙って、マサシの手を握った。

「オレも、マサシに出会って、初めて『家』って何か分かったよ」  

 カズは静かに言った。  

「作家として成功したって、お金があっても、心が満たされない日が続いた。でも、マサシと暮らすようになって、朝ご飯を作る意味も、洗濯物を干す意味も、全部、愛なんだって気づいた」

 ハヤトは、それを聞いて、深くうなずいた。  

「お前ら、本当に似てるよな。カズは、言葉で人を癒す作家。マサシは、絵で人を救う漫画家。でも、お互いの傷を、一番よく理解してる」

「⋯⋯俺たち、似てるどころか、運命だと思ってる」  

 マサシはカズを見つめた。  

「家族に拒まれた俺が、こんなにも愛される日が来るなんて、思ってもみなかった。カズが、俺のすべての答えだ」

「じゃあ、オレも言うよ」  

 カズは立ち上がり、マサシの前に跪いた。  

「マサシ・タカハシ。俺は、お前と一生を共にしたい。明日も、来年も、10年後も、50年後も。お前が笑うために、俺は小説を書き続ける。お前が疲れた時には、俺が料理を作って、肩を揉んで、寝顔を見て過ごす。俺は、お前の『家』であり続けたい。だから――正式に、結婚してくれないか?」

 カズは、ポケットから小さな箱を取り出した。  
 中には、もう一つの指輪。  
 今度は、婚約指輪だった。

 マサシの目から、涙がこぼれた。  

「⋯⋯バカだな。もう、俺たち、心で結ばれてるくせに」

「でも、形にしたいんだ」  

 カズの声は震えていた。  

「世界に、俺たちの愛を、ちゃんと見せたい」

 マサシは立ち上がり、カズの手を取って立たせた。  
 そして、その場で抱きしめた。

「⋯⋯うん。俺も、カズと正式に夫婦になりたい。家族になりたい。俺の、すべての未来を、お前に預けたい」

 二人は、その場で拍手を送った。  
 ハルは、涙を拭いながらカメラを構え、ハヤトは、その瞬間を詩にしたためた。



 ――夜。  
 雪はまだ止まず、空は星一つ見えないほどに曇っていた。  
 だが、カズとマサシの家の中は、暖かく明るかった。  

 片田舎のマンションに戻った四人は、リビングでワインを飲みながら、今日のことを語り合った。  
 カズはキッチンでチーズケーキを作り、マサシはそれを待つ間に、新しい漫画のラフを描いている。  
 ハルはソファで寝ていて、ハヤトはカズの小説の原稿に目を通していた。

「⋯⋯俺たち、本当に幸せだよな」  

 マサシが、ペンを置きながら言った。  

「こんなに、心が温かい日が来るなんて」

「これからも、ずっとこうでありたいね」  

 カズはケーキをオーブンから取り出し、マサシの隣に座った。  

「喧嘩もするだろうし、疲れる日もある。でも、そのたびに、今日のこの気持ちを思い出すよ。俺たちが、互いを選んだ日を」

 マサシは、カズの頭をそっと撫でた。  

「カズが、俺の光だ」

「マサシも、オレのすべてだよ」

 外では、雪が静かに降り続け、世界を白く包んでいた。  
 でも、この家の中には、孤独も、痛みも、闇もなかった。  
 そこにあるのは、愛と、絆と、永遠の誓いだけだった。



 数年後。  
 カズの小説『永遠の誓い』は、ベストセラーとなり、映画化もされた。  
 マサシの漫画『ふたりの距離』は、ラブコメの金字塔と呼ばれ、多くのカップルに愛された。  
 ハルは、二人の物語を描いたイラスト集を出版。  
 ハヤトは、そのエピローグを担当した。

 そして、カズとマサシは、再びあの教会で、正式な婚姻届を提出した。  
 今度は、二人の子どもたちも一緒に。  
 小さな手が、二人の指輪を運ぶ姿に、教会中が涙した。

「お父さん、パパ、また結婚するの?」  

 長男がきょとんとした顔で聞く。

「うん。毎年、毎年、結婚し続けるよ」  

 カズは笑った。  

「だって、愛してるって、言わなきゃいけないからね」

「俺たちの愛は、終わらない」  

 マサシは、カズの手を握りしめた。  

「永遠に、続いていく」

 雪はまた降り始めた。  
 でも、その冷たさは、二人の心には届かない。  
 なぜなら――。  
 彼らの胸には、永遠の炎が、今も燃え続けていたから。  

 ――そして、彼らの物語は、まだまだ、終わらない。




☆☆☆END☆☆☆




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