元アラフィフ男の異世界転生記 〜新しい家族とともに異世界を謳歌する〜

あかいとまと

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第7話:闇組織

第7話:闇組織

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    ある日のことだった。  

    俺がトイレで用を済ませて出て来ると、風呂場から声が漏れ聞こえて来た。  

「おっ⋯⋯あっ、あぁ⋯⋯」  

「んっ⋯⋯あぁ、あぁぁ⋯⋯」  

    その声は、甘く、熱を帯びており、どこか恍惚とした響きを含んでいた。
    耳を澄ませば、水音と混じり合い、湿った空気の中で律動するようなリズムが感じ取れた。
    何をしているのかと思って、俺は思わず足を止め、そっと脱衣所の風呂場の戸の隙間から覗き込んだ。  

    そこには、フェイとアレンの2人がいた。  

    2人とも裸のまま、湯気に包まれた空間の中で、互いの股間を手で扱いていた。
    フェイの銀髪が湯気で濡れ、背中に流れる。
    アレンの黒髪は湯に浸かり、額に張り付いている。
    2人の顔は赤らみ、息は荒く、瞳はとろんと潤んでいた。  

「お前ら、昼間から何をしてるんだ!」  

    思わず声をかけてしまった。  

    二人はビクッと身体を震わせ、こちらを振り返った。
    目が合うと、一瞬の間があった後、「あはは⋯⋯」と苦笑いを浮かべた。  

「隠れてしているのは感心だが、子供たちには絶対にバレない様にしろよ?」  

    呆れたように俺が言うと、2人は顔を見合わせ、声を揃えて応えた。  

「勿論だとも!」  

「子供たちにはまだ早い!」  

「約束だからな?」  

    俺は念を押すように言い、それから踵を返して風呂場を後にした。  

    庭を歩きながら、俺は小さくため息をついた。  

    ――まったく、あいつらも随分と仲良くなったもんだよ。  

    アレンはエレスティア王国の第一王子。
    本来なら、身分や立場を重んじ、厳格な教育を受けてきたはずの人物だ。
    だが、彼は意外にも、自由な精神の持ち主だった。
    フェイは騎士団長としての誇りを持つ銀髪の男。
    戦場では無慈悲なまでに敵を切り捨てるが、仲間に対しては深い信義を持つ。  

    そんな二人が、こうして互いの身体を求め合う関係にあるとは――正直、俺も最初は驚いた。  

    だが、星の守護者としての絆は、人間の常識や倫理を越えるものだ。  

    彼らの関係は、単なる肉欲の発露ではない。  

    それは、戦いの果てに得た信頼。
    共に死線を越えてきた者同士の、魂の共鳴。  

    俺はそれを、理解している。  

    だからこそ、怒りもしなかったし、咎める気にもなれなかった。  

    ただ、子供たち――ネロやリオたちには、まだ早い。  

    彼らはまだ、戦いの意味も、命の重さも、愛の形も、すべてを理解するには幼すぎる。  

    だから、俺は2人に「約束」をさせた。  

    ――子供たちには、バレてはいけない。  

    そして、二人はそれを守ると、誓った。  

    俺は囲炉裏端へと向かった。  

    そこには、すでにネロとリオが座っていた。
    ネロは小さな手に古びた書物を抱え、ページをめくっている。
    翡翠色の瞳は真剣そのものだ。
    リオは黒髪を乱し、囲炉裏の火をぼんやりと見つめていた。
    彼の背後には、薄く黒い狼の影が浮かんでいた。
    星の守護者の末裔としての証――再び、力が目覚めつつある証だった。  

「シュウ兄ちゃん、戻ったの?」  

    ネロが顔を上げる。
    未来を見通す眼を持つ彼は、時折、俺の行動を予知しているように振る舞うが、今回は何も言ってこなかった。  

「うん。ちょっと、お風呂場で騒がしいのがいたから、注意してきたよ」  

「誰が?」  

    リオが興味深そうに尋ねる。  

「⋯⋯それは秘密だ」  

    俺は笑って誤魔化した。  

「あ、でも、何か話があるって言ってたよね?」  

    ネロが書物を閉じ、真剣な目で俺を見る。  

「ああ。ギルドから、新たな情報が入った」  

    俺は腰を下ろし、囲炉裏の火を眺めながら言った。  

「王室調合ポーションの闇市場流出事件についてだ。俺たちが調査を始めた結果、最終的に辿り着いたのは――第二皇后、リューズの名だった」  

「リューズ⋯⋯?」  

    リオが眉をひそめる。  

「アレン王子の母じゃないんだよね?」  

    ネロが確認する。  

「そうだ。アレンの母は既に亡くなっている。リューズは、父王の後添いとして迎えられた女性だ。政治的結婚で、出自は辺境の貴族。表向きは穏やかな女性として振る舞っているが⋯⋯どうやら、小遣い稼ぎに手を染めていたらしい」  

「ポーションを売って、金を稼いでいた⋯⋯?」  

    リオが目を見開く。  

「ああ。しかも、それだけじゃない。彼女が流したポーションの一部が、闇の魔術師たちの手に渡り、禁忌の儀式に使われていた可能性がある」  

「まさか⋯⋯」  

    ネロの声が震える。  

「死者を操る『冥霊召喚』の材料にされた⋯⋯?」  

「その可能性が高い。ギルドの情報網によれば、最近、辺境の村で『死人が歩いている』という報告が相次いでいる。しかも、それらの死者は、王室調合ポーションの特徴的な香りを残しているという」  

「⋯⋯これは、重大な事態だ」  

    リオが立ち上がる。
    背後の黒い狼の影が、一瞬だけ大きく揺らめいた。  

「アレン王子が知ったら、どうするだろう?」  

    ネロが尋ねる。  

「すでに知っている。俺たちが調査を始めた直後、アレン自身がリューズの元を訪ね、『二度としないように』と念を押していた」  

「それで、止まったの?」  

「⋯⋯いや。彼女は表面上は謝罪したが、その後も密かに取引を続けていた。ギルドの密偵が、彼女の側近と闇商人の会話を盗み聞きしている」  

「⋯⋯嘘だろ」  

    リオが歯を食いしばる。  

「王室の権力者――しかも皇后が、こんなことを⋯⋯」  

「人間は、欲に弱いものだ」  

    俺は静かに言った。  

「特に、金や権力に飢えた者ほど、簡単に堕ちる。リューズは、表では優しい皇后を演じているが、裏では金に困っていた。王室の予算は厳しく、彼女の領地からの収入も減っている。だからこそ、小遣い稼ぎと称して、ポーションを闇に流していた――」  

「でも、それじゃあ⋯⋯」  

    ネロが小さく呟く。  

「死者が歩き、闇の魔術が蔓延する⋯⋯星の均衡が崩れる」  

「そうだ。我々、星の守護者として、これを許してはならない」  

    俺は火を見つめながら、声を低くした。  

「だが、ここで強引に動くのは得策ではない。リューズはまだ、表向きは無実の立場にある。証拠を突きつけなければ、王族としての権利で逃げられる。我々には、彼女を裁く力はない」  

「じゃあ、どうするの?」  

    リオが尋ねる。  

「待つ。そして、証拠を集める。彼女が再び取引を行う瞬間を、確実に捕らえる。その時こそ、ギルドと連携し、彼女の罪を暴く」  

「⋯⋯アレン王子はどうするの?」  

    ネロが心配そうに言う。  

「彼は、自分の母ではないとはいえ、リューズを『父王の妻』として見ている。その立場を否定するのは、王室への反逆に近い」  

「だからこそ、アレン自身が、彼女の罪を認めさせなければならない」  

    俺は言った。  

「感情ではなく、事実として。彼が、真実を受け入れる時――その時こそ、我々は動ける」  

    ――夕刻。  

    俺たちが囲炉裏端で話を終え、それぞれの部屋に戻ろうとしたその時だった。  

    ドアが静かに開き、アレンとフェイが姿を現した。  

    二人とも、湯上がりのようで、髪は濡れている。
    アレンの顔には、どこか重苦しい影が浮かんでいた。  

「シュウ⋯⋯話は、聞こえていた」  

    アレンが言った。  

「リューズが、まだ⋯⋯?」  

「ああ。証拠は揃いつつある。だが、君が決断しない限り、我々は動けない」  

    俺は正直に答えた。  

    アレンは黙り込み、膝をつき、囲炉裏の火を見つめた。  

「⋯⋯彼女は、父王を愛していると言っていた。だからこそ、王室のため、父王のため、自分にできることをした――と」  

「それは、言い訳だ」  

    フェイが冷たく言った。  

「死者を操る魔術に、王室のためなどという大義は通用しない。彼女のしたことは、星の秩序への反逆だ」  

「⋯⋯わかってる。でも、父王が彼女を失ったら、どうなる? 彼はもう、アリシア母后を失っている。今、リューズまで失えば⋯⋯」  

    アレンの声が震える。  

「⋯⋯それでも、守るべきものは一つだけだ」  

    俺は立ち上がり、アレンの前に立った。  

「星の均衡。我々が守るべきは、世界そのものだ。個人の感情や、王家の事情よりも、遥かに大きなものだ」  

「⋯⋯シュウ⋯⋯」  

「君は王子だ。だが、今はそれ以上に――星の守護者だ。その立場を、忘れてはいけない」  

    アレンは、長く息を吐いた。  

    そして、ゆっくりと顔を上げた。  

「⋯⋯わかった。証拠が揃ったら、俺が彼女と向き合う。父王の前で、すべてを暴く。それが、王子としての俺の責任だ」  

「よし」  

    俺は頷いた。  

「その覚悟があれば、あとは準備だけだ」  

    ――数日後。  

    ギルドの密偵から、決定的な情報が届いた。  

    リューズの側近が、再び闇商人と接触。
    今度は、大量の王室調合ポーションに加え、『星の欠片』――星の守護者たちの力の源となる神秘の結晶の一部を、闇市場に流そうとしているという。  

「⋯⋯これは、許せん」  

    フェイが剣を握りしめる。  

「星の欠片を売ろうとするなど、もはや狂気の沙汰だ」  

「星の均衡を崩す気か⋯⋯?」  

    リオの背後で、黒い狼の影が唸った。  

「ネロ、未来の眼で見たか?」  

    俺が尋ねる。  

    ネロは目を閉じ、翡翠色の瞳を金色に輝かせた。  

「⋯⋯見えた。闇商人たちが、星の欠片を使って、『星喰いの儀式』を始める。それが成功すれば、この世界の星が一つ、消える⋯⋯」  

「⋯⋯それだけは、阻止する」  

    俺は立ち上がり、全員を見渡した。  

「ウォルフ、ラム。協力をお願いできるか?」  

    森の守護者、銀狼のウォルフが、低く遠吠えを上げる。  

「星の守護者たちの戦いに、森も共に歩む」  

    九尾の銀狐、大精霊ラムが、九尾を輝かせながら微笑んだ。  

「幾万年の時を生き、智慧を紡いし者として――貴き者たちの正義に、光を灯そう」  

「よし。全員で動く。アレン、君は最後の判断を下す。フェイ、戦闘は任せた。リオ、ネロ、君たちは星の力で儀式の阻止を。ウォルフとラムは、周囲の警戒と援護を頼む」  

「了解!」  

「任せろ!」  

「⋯⋯俺も、全力で戦う」  

    アレンが剣を抜き、火のように燃える瞳で言った。  

    ――そして、その夜。  

   闇市場の隠れ家へと、我々は潜入した。  

    月のない夜。
    星さえも隠された空の下、廃墟と化した地下倉庫に、闇商人たちとリューズの側近が集まっていた。  

    中央には、黒い祭壇。
    その上に、星の欠片が置かれ、闇の紋様が刻まれていた。  

「⋯⋯間に合った」  

    俺は壁の陰から、その光景を凝視した。  

「ネロ、儀式の停止方法は?」  

「祭壇の四隅にある魔力の結節を、同時に破壊すれば、儀式は中断される」  

「了解。フェイ、リオ、左と右を頼む。ウォルフ、ラム、周囲を制圧。アレン、君は中央へ。リューズの側近を捕らえ、真実を語らせる」  

「⋯⋯ああ」  

    全員が動き出す。  

    静かに、しかし確実に。  

    フェイが銀閃を放ち、リオが黒狼の影と共に戦い、ネロが未来の眼で敵の動きを予測する。  

    ウォルフが森の気配を操り、敵の足を止め、ラムが九尾の力で幻を生み出す。  

    そして――。  

    アレンが、中央へと駆けた。  

「⋯⋯待っていたぞ、アレン王子」  

    側近が笑う。  

「皇后陛下のためなら、我々は喜んで星を売る。この世界が滅ぼうと、我々には関係ない」  

「⋯⋯お前たちも、リューズも、星の均衡を理解していない」  

    アレンは剣を構え、声を震わせながら言った。  

「星が一つ消えれば、世界の命の流れが狂う。人々が死に、森が枯れ、海が腐る。それがわからないのか?」  

「⋯⋯我々には、金があればいい」  

「⋯⋯ならば、覚悟しろ」  

    アレンの剣が、光を放った。  

    その瞬間、祭壇の四隅が、同時に砕け散った。  

「なっ⋯⋯!?」  

    闇商人たちが叫ぶ。  

    黒い紋様が崩れ、星の欠片が光を失う。  

「儀式、中断成功!」  

    ネロが叫ぶ。  

「全員、撤退だ!」  

    俺が号令をかける。  

    敵たちが混乱する中、我々は速やかに撤退。
    そして――。  

    三日後。  

    王城の玉座の間。  

    アレンは、父王の前に立ち、すべての証拠を提出した。  

    リューズは、顔を青ざめ、震えながらも、最後まで否定しようとした。  

    だが、側近の証言、闇商人の供述、そして星の欠片の回収記録――すべてが、彼女の罪を裏付けていた。  

「⋯⋯王よ⋯⋯私は、ただ⋯⋯」  

「黙れ」  

    王が静かに言った。  

「お前は、星の秩序を、我が国の名誉を、踏みにじった。これ以上、口は利かせるな」  

    リューズは、無言のまま、侍女たちに連れられていった。  

    その後、彼女は幽閉され、第2皇后の地位を剥奪。
    王室調合ポーションの管理は、新たに設立された監査委員会に移された。  

    ――そして、その夜。  

    星の守護者たちが、再び集まった。  

    囲炉裏端。火が静かに燃える。  

「⋯⋯終わったな」  

    フェイが酒杯を掲げる。  

「ああ。だが、これが最後じゃない」  

    アレンが微笑んだ。  

「闇は、常に蠢いている。我々が目を離せば、また何かが起きる」  

「だからこそ、俺たちはここにいる」  

俺は全員を見渡した。  

「星の守護者として。世界を、未来を、守るために」  

「⋯⋯約束だ」  

    リオが言った。  

「二度と、星の光が消えることはない」  

    ネロが未来の眼を閉じ、静かに呟いた。  

「⋯⋯次の試練は、遠くない。だが、その時も、俺たちは共に立ち向かう」  

    ウォルフが遠吠えを上げ、ラムが九尾を輝かせた。  

    風が囁く。  

    ――星の守護者たちの絆は、もう二度と、断たれることはない。  

    そして、その火は――  

    永遠に、燃え続ける。


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