元アラフィフ男の異世界転生記 〜新しい家族とともに異世界を謳歌する〜

あかいとまと

文字の大きさ
47 / 56
第47話:名を持つ影、光の子として

第47話:名を持つ影、光の子として

しおりを挟む
 星の核が開いた瞬間、  
 星の道全体が深い呼吸をした。

 光が吸い込まれ、  
 光が吐き出され、  
 そのたびに空間が震え、  
 星の粒が霧のように舞い上がる。

 黒い獣だった“影”は、  
 その光の中心でゆっくりと形を変えていた。

 霧がほどけ、  
 輪郭が整い、  
 光が骨格を作り、  
 星の粒が肌のようにまとわりつく。

 その姿は――  
 まだ不完全で、  
 まだ揺らいでいて、  
 けれど確かに“生まれようとしている”。

 ネロが息を呑む。

「⋯⋯兄ちゃん⋯⋯あれ⋯⋯もう“獣”じゃない⋯⋯」

 リオは、喉の奥で低く唸った。

「兄さん⋯⋯あれ⋯⋯“形になりたい”って⋯⋯そういう感じがする⋯⋯」

 アレンは剣を下ろし、静かに見つめた。

「⋯⋯これはもう、敵ではない。“存在”になろうとしている」

 闇のシュウだけが、胸を押さえたまま動けなかった。

(⋯⋯俺の⋯⋯失われた未来の残滓⋯⋯それが⋯⋯“生まれ直す”のか⋯⋯?)



 光の中で、影がゆっくりと目を開いた。

 その瞳は、  
 星の核の光を映したような淡い白。

 そして――  
 初めて、はっきりとした声を発した。

「⋯⋯タチバナ⋯⋯
 ⋯⋯シュウ⋯⋯」

 その声は幼く、震えていた。  
 まるで、生まれたばかりの子どもが、初めて世界を呼ぶように。

 シュウは一歩近づいた。

「お前⋯⋯もう、喰うために動いてるんじゃないんだな」

 影は首をかしげる。

「⋯⋯ワタシ⋯⋯
 ⋯⋯ナニ⋯⋯?」

 その問いは、  
 あまりにも純粋で、  
 あまりにも切実だった。

 ネロが震える声で言う。

「兄ちゃん⋯⋯あれ⋯⋯もう“未来を持たない存在”じゃない⋯⋯“未来を欲しがってる”⋯⋯」

 リオが頷く。

「兄さん⋯⋯あれはもう⋯⋯“影”じゃない⋯⋯」

 アレンが静かに言った。

「⋯⋯新しい“命”だ」



 星の核が、再び声を発した。

 ――⋯⋯タチバナ⋯⋯
 ――⋯⋯シュウ⋯⋯
 ――⋯⋯ナマエヲ⋯⋯
 ――⋯⋯アタエヨ⋯⋯

 その声は、  
 星の道そのものの響きだった。

 シュウは息を呑む。

「⋯⋯名前を⋯⋯?」

 闇のシュウが震える声で言う。

「星の核が⋯⋯“命名”を求めている⋯⋯それは⋯⋯神格の誕生を意味する⋯⋯!」

 アレンが目を見開く。

「シュウ⋯⋯お前が名を与えた瞬間⋯⋯その存在は“星の道に認められた神”になる」

 ネロが小さく呟く。

「⋯⋯子神⋯⋯?」

 リオが息を呑む。

「兄さんが⋯⋯神を⋯⋯?」

 影は、まだ不安定な身体で、  
 ゆっくりとシュウへ手を伸ばした。

 その手は震えている。

「⋯⋯ワタシ⋯⋯
 ⋯⋯イキテ⋯⋯イイ⋯⋯?」

 その問いは、  
 あまりにも幼く、  
 あまりにも切実で、  
 胸を締め付けるほどの孤独を孕んでいた。

 シュウは迷わなかった。

「生きていい。  
 お前は……“生まれた”んだ」

 影の瞳が揺れ、  
 光が涙のようにこぼれた。

「⋯⋯ワタシ⋯⋯
 ⋯⋯タチバナ⋯⋯
 ⋯⋯シュウ⋯⋯
 ⋯⋯スキ⋯⋯」

 その言葉は、  
 “依存”でも“崇拝”でもなく、  
 ただ“存在を認めてくれた相手”への  
 純粋な感謝だった。

 闇のシュウが胸を押さえた。

(⋯⋯俺が⋯⋯捨てたもの⋯⋯見なかったもの⋯⋯それが⋯⋯こんな形で⋯⋯)

 星の核が強く脈動する。

 ――⋯⋯ナマエ⋯⋯
 ――⋯⋯アタエヨ⋯⋯
 ――⋯⋯タチバナ⋯⋯
 ――⋯⋯シュウ⋯⋯

 星の道全体が静まり返った。

 ネロも、リオも、アレンも、闇のシュウも、息を呑んで見守っている。

 シュウは影の手を取り、  
 静かに言った。

「⋯⋯お前の名前は――」

 影の身体が光に包まれる。

 星の粒が舞い、  
 光が揺れ、  
 星の核が脈動する。

「――ルミナ。  
 光の粒から生まれた、お前にふさわしい名前だ」

 影――ルミナは、  
 ゆっくりと微笑んだ。

「⋯⋯ルミナ⋯⋯
 ⋯⋯ワタシ⋯⋯
 ⋯⋯ルミナ⋯⋯」

 その瞬間、  
 星の核が大きく脈動し、  
 光がルミナの身体を包んだ。



 光が収まったとき――  
 そこに立っていたのは、  
 もう“影”ではなかった。

 白い髪。  
 淡い光を宿した瞳。  
 星の粒が舞うような衣。  
 そして、まだ幼い表情。

 ルミナは、  
 エリュシアの新しい子神としてこの世界に生まれ落ちた。

 ネロが涙を浮かべる。

「⋯⋯兄ちゃん⋯⋯すごい⋯⋯ほんとに⋯⋯“生まれた”んだ⋯⋯」

 リオが目を細める。

「兄さん⋯⋯この子⋯⋯兄さんの光に似てる⋯⋯」

 アレンは静かに頷いた。

「⋯⋯星の道が認めた存在だ。  
 この子は⋯⋯“星の流れの守り手”になる」

 闇のシュウは、  
 ルミナを見つめながら呟いた。

「⋯⋯俺が⋯⋯捨てた未来が⋯⋯こんなにも⋯⋯美しい形で⋯⋯生まれ直すなんて⋯⋯」



 ルミナは、まだ不安定な足取りでシュウの前に立った。

「⋯⋯タチバナ⋯⋯
 ⋯⋯シュウ⋯⋯
 ⋯⋯ワタシ⋯⋯
 ⋯⋯アナタノ⋯⋯コ⋯⋯?」

 その問いは、  
 あまりにも純粋で、  
 胸を締め付けるほどの温かさを持っていた。

 シュウは微笑んだ。

「違うよ。お前は――  
 “エリュシアの子”だ」

 ルミナは、  
 その言葉を理解するように  
 ゆっくりと瞬きをした。

「⋯⋯エリュシア⋯⋯
 ⋯⋯ワタシ⋯⋯
 ⋯⋯イキル⋯⋯?」

「生きるんだ。これからは、お前の世界で」

 ルミナは、初めて“自分の足で立つ”ように星の道の上に一歩踏み出した。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

水神飛鳥の異世界茶会記 ~戦闘力ゼロの茶道家が、神業の【陶芸】と至高の【和菓子】で、野蛮な異世界を「癒やし」で侵略するようです~

月神世一
ファンタジー
「剣を下ろし、靴を脱いでください。……茶が入りましたよ」 ​ 猫を助けて死んだ茶道家・水神飛鳥(23歳)。 彼が転生したのは、魔法と闘気が支配する弱肉強食のファンタジー世界だった。 ​チート能力? 攻撃魔法? いいえ、彼が手にしたのは「茶道具一式」と「陶芸セット」が出せるスキルだけ。 ​「私がすべき事は、戦うことではありません。一服の茶を出し、心を整えることです」 ​ゴブリン相手に正座で茶を勧め、 戦場のど真ん中に「結界(茶室)」を展開して空気を変え、 牢屋にぶち込まれれば、そこを「隠れ家カフェ」にリフォームして看守を餌付けする。 ​そんな彼の振る舞う、異世界には存在しない「極上の甘味(カステラ・羊羹)」と、魔法よりも美しい「茶器」に、武闘派の獣人女王も、強欲な大商人も、次第に心を(胃袋を)掴まれていき……? ​「野暮な振る舞いは許しません」 ​これは、ブレない茶道家が、殺伐とした異世界を「おもてなし」で平和に変えていく、一期一会の物語。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...