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2話
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慧の住むアパートは3階建てだが、主に使われているのは2階と3階のみで、1階は現在入居者がいない。と男は言った。
不動産の管理人からも似たような話を聞いていた。「1階は諸事情により現在入居者は募集していない」と。ネズミの死体を幾度となく見かけ、この街の衛生観念に疑念を抱いていた慧としては、そもそも1階に部屋を借りるつもりはなかったのでどうでもよかった。
男はカノンと名乗った。カノン、と言われた瞬間、男が言っていた「ふうが」という名前が、和名ではなく音楽用語における「フーガ」なのかもしれないと思い至る。
関連性のある名前だ。毎晩のように睦み合っている時点で、二人がただならぬ仲であるのは間違いないが、どういった関係なのかを聞く勇気はまだなかった。
仮に二人がパートナーだとすれば、これから始まる行為はフーガという男への裏切りになるのだろうか。だが、外の街とは違うルールで動いているこの街に、浮気などという観念が存在するのかは不明である。
1階は全ての部屋の壁が取り壊され、大きな一室となっていた。朝になるとそこには餌を求めた猫達が大量に集まってくる。
慧は部屋の外から、少しだけ扉を開け、カノンの様子を窺っていた。猫の手の届かない高い場所に置かれた棚には餌皿とキャットフードが入っていて、カノンは足元にまとわりついてくる猫を軽やかに避けながら、餌の入った皿を地面に置いた。
「この街の人は動物が嫌いなんだ。そのおかげで、僕だけの安息の居場所がここに出来上がったってわけ」
餌を食べ終えた猫は満足するとすぐに去っていった。わずか10分にも満たない短いやり取りだった。
カノンは餌皿を元あった場所に片付け、慧を壁際に置いてあった椅子に座らせた。開かれた太腿の間に体を滑り込ませ、カノンは上目遣いに慧を見る。本当に始まるのだ、と思うと、触れられてもいないそこが更に熱を増すのを感じた。痛みを感じるほどに窮屈に張り詰めている怒張に人差し指で触れ、カノンは楽しそうにしている。
窓から差し込む生まれたての陽光が、カノンの顔に降り注ぐ。まだ朝だというのにこんな淫らな行為に耽ろうとしている倒錯感に、背筋がゾクゾクと震える。
おかしい。自分はここまで変態だったつもりはないのに。
「もうこんなに大きくなってる。若いねぇ」
「さ、最近ヌく余裕なんてなかったから」
「へぇ。こうやって誰かに触られたことはある? 君って男もイケるタイプ? 用済みの餌袋がそこに仕舞ってあるんだけど、使う?」
次々と質問を投げかけられ、何から答えればいいのか分からなかった。黙り込む慧に、カノンは「純情だねぇ」と笑う。実際、片想いの経験はあっても恋人がいたことはないので、何の反論もできなかった。
小学生時代の自分は消しゴムを貸してくれた隣の席の女子に仄かな思慕を抱いていた。ぬるま湯のような世界で生きていた彼は、まさか自分が将来実家を追い出されることになるとは、同性の痴態に興奮する変態に成り下がっているとは思いもしないだろう。
たった1枚の鑑定結果がこうも人生を左右することになるなんて、つくづくこの世界は何が起こるか分からない。
カノンはウインクを投げると、慧のワイドパンツに手をかけた。カノンが下着をゆっくりと下ろしていくのを、腰を上げて手伝う。慧の浅ましい性欲を嘲笑うように、朝の冷たい空気が勢いよく露出した陰茎にまとわりつく。
他人と比較したことがないので、自分のものがどれほどの大きさなのかは分からない。だが、カノンはお気に召したようだ。頬をうっとりと紅潮させ指で軽くつつく。陰茎はびく、と激しく揺れて腹を打った。
「持ち主に似て初心なんだねぇ。見た目はこんなに立派なのに」
カノンは続けて、ふっと息を吹きかけた。焦らすような愛撫に、もっと直接的な刺激が欲しいと腰を揺らしてしまう。
「カノンさん、もう、時間ねーから。大学……」
「ごめんごめん。君みたいな可愛らしい反応を見せる子を相手したことがないから、つい楽しくなっちゃった」
カノンは今度こそ顔を股座に近づける。生温い感触が陰茎を襲った。恐る恐ると下を見ると、陰茎を根本を片手で支えるように持っているカノンと目が合う。
真っ赤な舌が根本から先端を這い上がるように伝っていく。鈴口に浮かんだ先走りにキスを落として吸い上げ、それを何度も繰り返すうちに陰茎の全身がてらてらと怪しく艶めいた。
「ぐ、ぅ……っ」
男としてのプライドから、声を上げるような真似はしたくなかった。歯を食いしばると、ふーっ、ふーっ、と鼻息が荒くなる。まるで獣のようだ、と脳の理性的な部分が己を馬鹿にするも、とめどなく訪れる快楽に全ての思考は塗りつぶされていく。
最後のおまけとばかりに先端を強く吸われ、ちゅぽんと音を立てて解放される。慧は椅子の背もたれに全身の力を預け、情けなくカノンを見下ろした。
「ふふ……、雄臭い顔してる。気持ちいいんだ?」
カノンはずっと楽しげだった。昨晩余裕なく喘いでいたのが嘘みたいに、主導権を握っている。
「そんな顔されたら、もっとサービスしてあげたくなっちゃうな。でも、時間がないみたいだし、これ以上焦らすのは可哀想だよね」
カノンは小ぶりな唇を大きく広げると、ご馳走を掬ったスプーンを口に含むみたいに、陰茎をぱくりと咥え込んだ。
陰茎全体が生暖かいものに包まれ、思わずため息がこぼれ落ちる。気持ちよさというよりは、母の腕の中に抱きしめられたような不思議な安心感がそこにはあった。母の記憶など、全くと言っていいほど残っていないのに。
どこか遠くへと彷徨い始めた意識を、下腹部への直接的な刺激が引き戻す。カノンは歯を立てないように唇で陰茎を喰み、感触を楽しんでいる。肉厚な舌が茎の下側をなぞり、溢れ出る液を喉の奥で啜り、飲み込んだ。
ごきゅり、と喉が上下する。それが合図だった。カノンは頭を前後に動かし出した。
「ぅ……っ」
こちらの様子を上目遣いに窺い、痛がっている素ぶりはないと分かると、少しずつ速度を上げていく。粘膜が擦れ合い、ぐちゅ、ぐちゅ、とはしたない水音が立つ。
聞いてられなかった。耳を塞ぎたいと思うのに、だらしなく下がった手は鉛が付けられたかのように重たくて、持ち上がらない。これまで経験したことのない強烈な快楽に翻弄されているうちに、行為は激しさを増していく。
カノンの柔らかな髪が乱れ、じわりと滲んだ汗で首筋に貼り付く。喉に先端が当たるたびに、ごちゅ、とグロテスクな音が上がる。カノンは苦しげに目を細め、呼吸を乱しながら、それでも口を離そうとしない。
太腿がひくひくと痙攣し、行為の終わりを予告する。欲を吐き出したい、と耳の中で激しく暴れ回る鼓動とは裏腹に、もっとこの気持ちよさを味わっていたいと思ってしまう。
「カノンさん、も、もう、出るから……っ」
離して、と言いたかったのだけど、カノンは違うように捉えてしまったようだった。こくりと頷くと、更に激しく頭を動かした。
震える手を持ち上げ、カノンを引き剥がそうと彼の頭に手をかけるも、指先は汗ばんだ髪の隙間を虚しく掻くだけだった。
「あっ、もぅ、出る……」
素早く尿道を駆け抜けていく感覚。止めようと脚に力を込めたが叶わなかった。勢いよく飛び出したザーメンを喉奥に叩きつける。カノンの体がびくっと震えた。しかし口を離すことはやはりせず、顔を苦渋に歪めながら、嚥下する。
くたりと力を失った陰茎は咥内から這い出る。カノンは口を開けたまま舌を出すと、陰茎を何度か扱き、尿道に残っていたものを全て受け止めた。
赤く熟れた舌をどろりと濁った白が汚す。カノンは見せびらかすように口を閉じると、最後の一滴まで余さず飲み干した。
二人分の荒い呼吸が、広く虚しい空間に響き渡る。椅子に体を預けながら、慧は自身の思考が冷静になりつつあるのを悟った。
嫌いではなかった。だからこそ恐ろしい。同性にフェラをさせたことではなく、同じ人間をモノのように扱ってしまった自分の浅ましさが恐ろしかった。
自己嫌悪に陥った慧を見て、口元を手の甲で拭いながらカノンは笑う。
「せっかくタダでやってあげたんだから、もっと嬉しそうな顔をしてほしいところではあるけど……まあ、仕方ないか。君、この街に住むにはもったいないほど純情そうだしね」
カノンは餌の入っている戸棚からトイレットペーパーを持ってきて、慧の濡れた場所を拭き取った。その柔らかな刺激だけで再び熱を持ちそうになる体を内心で叱りつけながら、カノンの様子をまじまじと観察する。
下着を履いていないのか、もしくは下着の素材のせいなのか、カノンの陰茎の形がはっきりと見える。慧は手を出してはいないが、カノンはフェラをするだけで勃起してしまうほどに興奮しているらしい。だけどそんな自分に慣れているのか、何の欲も知らないような澄ました顔をしているものだから、そのアンバランスさが却っていやらしさを助長している。
男の陰茎なんて見たところで嬉しくも何ともない。以前の慧ならばそう思っていただろう。だが、何故か今の自分は酷く興奮を覚えていて、そこに触れたいとさえ、カノンの澄まし顔を剥がし、その下にあるぐつぐつと煮え立つような男の欲を暴きたいとさえ思ってしまう。
自分だけが快楽を享受してしまったことへの自戒なのかもしれなかった。彼のことも同じように気持ちよくさせて、全てを精算して、清らかな関係になりたかった。偶然鉢合わせてしまった時に、気まずさを覚えずに世間話ができる程度には。そして何より、カノンとの関係をこれっきりにしたくないと思っている。
「時間、大丈夫?」
カノンの問いかけに我を取り戻す。そうだ。自分は大学に行かなければならないのだ。
ワイドパンツをたくし上げ、慌てて立ち上がる。部屋を出る直前で振り返り、後片付けをしてくれているカノンに手を振った。カノンは笑いながら、「早く行きなよ」と追い払うようなジェスチャーをした。
不動産の管理人からも似たような話を聞いていた。「1階は諸事情により現在入居者は募集していない」と。ネズミの死体を幾度となく見かけ、この街の衛生観念に疑念を抱いていた慧としては、そもそも1階に部屋を借りるつもりはなかったのでどうでもよかった。
男はカノンと名乗った。カノン、と言われた瞬間、男が言っていた「ふうが」という名前が、和名ではなく音楽用語における「フーガ」なのかもしれないと思い至る。
関連性のある名前だ。毎晩のように睦み合っている時点で、二人がただならぬ仲であるのは間違いないが、どういった関係なのかを聞く勇気はまだなかった。
仮に二人がパートナーだとすれば、これから始まる行為はフーガという男への裏切りになるのだろうか。だが、外の街とは違うルールで動いているこの街に、浮気などという観念が存在するのかは不明である。
1階は全ての部屋の壁が取り壊され、大きな一室となっていた。朝になるとそこには餌を求めた猫達が大量に集まってくる。
慧は部屋の外から、少しだけ扉を開け、カノンの様子を窺っていた。猫の手の届かない高い場所に置かれた棚には餌皿とキャットフードが入っていて、カノンは足元にまとわりついてくる猫を軽やかに避けながら、餌の入った皿を地面に置いた。
「この街の人は動物が嫌いなんだ。そのおかげで、僕だけの安息の居場所がここに出来上がったってわけ」
餌を食べ終えた猫は満足するとすぐに去っていった。わずか10分にも満たない短いやり取りだった。
カノンは餌皿を元あった場所に片付け、慧を壁際に置いてあった椅子に座らせた。開かれた太腿の間に体を滑り込ませ、カノンは上目遣いに慧を見る。本当に始まるのだ、と思うと、触れられてもいないそこが更に熱を増すのを感じた。痛みを感じるほどに窮屈に張り詰めている怒張に人差し指で触れ、カノンは楽しそうにしている。
窓から差し込む生まれたての陽光が、カノンの顔に降り注ぐ。まだ朝だというのにこんな淫らな行為に耽ろうとしている倒錯感に、背筋がゾクゾクと震える。
おかしい。自分はここまで変態だったつもりはないのに。
「もうこんなに大きくなってる。若いねぇ」
「さ、最近ヌく余裕なんてなかったから」
「へぇ。こうやって誰かに触られたことはある? 君って男もイケるタイプ? 用済みの餌袋がそこに仕舞ってあるんだけど、使う?」
次々と質問を投げかけられ、何から答えればいいのか分からなかった。黙り込む慧に、カノンは「純情だねぇ」と笑う。実際、片想いの経験はあっても恋人がいたことはないので、何の反論もできなかった。
小学生時代の自分は消しゴムを貸してくれた隣の席の女子に仄かな思慕を抱いていた。ぬるま湯のような世界で生きていた彼は、まさか自分が将来実家を追い出されることになるとは、同性の痴態に興奮する変態に成り下がっているとは思いもしないだろう。
たった1枚の鑑定結果がこうも人生を左右することになるなんて、つくづくこの世界は何が起こるか分からない。
カノンはウインクを投げると、慧のワイドパンツに手をかけた。カノンが下着をゆっくりと下ろしていくのを、腰を上げて手伝う。慧の浅ましい性欲を嘲笑うように、朝の冷たい空気が勢いよく露出した陰茎にまとわりつく。
他人と比較したことがないので、自分のものがどれほどの大きさなのかは分からない。だが、カノンはお気に召したようだ。頬をうっとりと紅潮させ指で軽くつつく。陰茎はびく、と激しく揺れて腹を打った。
「持ち主に似て初心なんだねぇ。見た目はこんなに立派なのに」
カノンは続けて、ふっと息を吹きかけた。焦らすような愛撫に、もっと直接的な刺激が欲しいと腰を揺らしてしまう。
「カノンさん、もう、時間ねーから。大学……」
「ごめんごめん。君みたいな可愛らしい反応を見せる子を相手したことがないから、つい楽しくなっちゃった」
カノンは今度こそ顔を股座に近づける。生温い感触が陰茎を襲った。恐る恐ると下を見ると、陰茎を根本を片手で支えるように持っているカノンと目が合う。
真っ赤な舌が根本から先端を這い上がるように伝っていく。鈴口に浮かんだ先走りにキスを落として吸い上げ、それを何度も繰り返すうちに陰茎の全身がてらてらと怪しく艶めいた。
「ぐ、ぅ……っ」
男としてのプライドから、声を上げるような真似はしたくなかった。歯を食いしばると、ふーっ、ふーっ、と鼻息が荒くなる。まるで獣のようだ、と脳の理性的な部分が己を馬鹿にするも、とめどなく訪れる快楽に全ての思考は塗りつぶされていく。
最後のおまけとばかりに先端を強く吸われ、ちゅぽんと音を立てて解放される。慧は椅子の背もたれに全身の力を預け、情けなくカノンを見下ろした。
「ふふ……、雄臭い顔してる。気持ちいいんだ?」
カノンはずっと楽しげだった。昨晩余裕なく喘いでいたのが嘘みたいに、主導権を握っている。
「そんな顔されたら、もっとサービスしてあげたくなっちゃうな。でも、時間がないみたいだし、これ以上焦らすのは可哀想だよね」
カノンは小ぶりな唇を大きく広げると、ご馳走を掬ったスプーンを口に含むみたいに、陰茎をぱくりと咥え込んだ。
陰茎全体が生暖かいものに包まれ、思わずため息がこぼれ落ちる。気持ちよさというよりは、母の腕の中に抱きしめられたような不思議な安心感がそこにはあった。母の記憶など、全くと言っていいほど残っていないのに。
どこか遠くへと彷徨い始めた意識を、下腹部への直接的な刺激が引き戻す。カノンは歯を立てないように唇で陰茎を喰み、感触を楽しんでいる。肉厚な舌が茎の下側をなぞり、溢れ出る液を喉の奥で啜り、飲み込んだ。
ごきゅり、と喉が上下する。それが合図だった。カノンは頭を前後に動かし出した。
「ぅ……っ」
こちらの様子を上目遣いに窺い、痛がっている素ぶりはないと分かると、少しずつ速度を上げていく。粘膜が擦れ合い、ぐちゅ、ぐちゅ、とはしたない水音が立つ。
聞いてられなかった。耳を塞ぎたいと思うのに、だらしなく下がった手は鉛が付けられたかのように重たくて、持ち上がらない。これまで経験したことのない強烈な快楽に翻弄されているうちに、行為は激しさを増していく。
カノンの柔らかな髪が乱れ、じわりと滲んだ汗で首筋に貼り付く。喉に先端が当たるたびに、ごちゅ、とグロテスクな音が上がる。カノンは苦しげに目を細め、呼吸を乱しながら、それでも口を離そうとしない。
太腿がひくひくと痙攣し、行為の終わりを予告する。欲を吐き出したい、と耳の中で激しく暴れ回る鼓動とは裏腹に、もっとこの気持ちよさを味わっていたいと思ってしまう。
「カノンさん、も、もう、出るから……っ」
離して、と言いたかったのだけど、カノンは違うように捉えてしまったようだった。こくりと頷くと、更に激しく頭を動かした。
震える手を持ち上げ、カノンを引き剥がそうと彼の頭に手をかけるも、指先は汗ばんだ髪の隙間を虚しく掻くだけだった。
「あっ、もぅ、出る……」
素早く尿道を駆け抜けていく感覚。止めようと脚に力を込めたが叶わなかった。勢いよく飛び出したザーメンを喉奥に叩きつける。カノンの体がびくっと震えた。しかし口を離すことはやはりせず、顔を苦渋に歪めながら、嚥下する。
くたりと力を失った陰茎は咥内から這い出る。カノンは口を開けたまま舌を出すと、陰茎を何度か扱き、尿道に残っていたものを全て受け止めた。
赤く熟れた舌をどろりと濁った白が汚す。カノンは見せびらかすように口を閉じると、最後の一滴まで余さず飲み干した。
二人分の荒い呼吸が、広く虚しい空間に響き渡る。椅子に体を預けながら、慧は自身の思考が冷静になりつつあるのを悟った。
嫌いではなかった。だからこそ恐ろしい。同性にフェラをさせたことではなく、同じ人間をモノのように扱ってしまった自分の浅ましさが恐ろしかった。
自己嫌悪に陥った慧を見て、口元を手の甲で拭いながらカノンは笑う。
「せっかくタダでやってあげたんだから、もっと嬉しそうな顔をしてほしいところではあるけど……まあ、仕方ないか。君、この街に住むにはもったいないほど純情そうだしね」
カノンは餌の入っている戸棚からトイレットペーパーを持ってきて、慧の濡れた場所を拭き取った。その柔らかな刺激だけで再び熱を持ちそうになる体を内心で叱りつけながら、カノンの様子をまじまじと観察する。
下着を履いていないのか、もしくは下着の素材のせいなのか、カノンの陰茎の形がはっきりと見える。慧は手を出してはいないが、カノンはフェラをするだけで勃起してしまうほどに興奮しているらしい。だけどそんな自分に慣れているのか、何の欲も知らないような澄ました顔をしているものだから、そのアンバランスさが却っていやらしさを助長している。
男の陰茎なんて見たところで嬉しくも何ともない。以前の慧ならばそう思っていただろう。だが、何故か今の自分は酷く興奮を覚えていて、そこに触れたいとさえ、カノンの澄まし顔を剥がし、その下にあるぐつぐつと煮え立つような男の欲を暴きたいとさえ思ってしまう。
自分だけが快楽を享受してしまったことへの自戒なのかもしれなかった。彼のことも同じように気持ちよくさせて、全てを精算して、清らかな関係になりたかった。偶然鉢合わせてしまった時に、気まずさを覚えずに世間話ができる程度には。そして何より、カノンとの関係をこれっきりにしたくないと思っている。
「時間、大丈夫?」
カノンの問いかけに我を取り戻す。そうだ。自分は大学に行かなければならないのだ。
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