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雷仙キリト

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4話

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 カノンと出会ってから1ヶ月が経った。最早暦上にしか存在せず、しかし形骸的には人々がそう呼んでいる「秋」の季節は、すぐさま冬が掠め取っていった。
 肌寒さが増すにつれ、何も置かれていないアパートの1階はもの寂しさが増していくように感じられた。

 餌を食べ終えた猫はどこかへと去り、そこには慧とカノンの二人だけが取り残された。慧はカノンの手に自分の指を絡ませ、軽く引っ張った。空っぽの餌皿を見つめていたカノンが顔を上げる。
 吸い寄せられるように視線を合わせると、どちらからともなく唇を押し当て、舌を絡ませる。心の隙間に生まれた寂しさを、互いの体温で埋め合うみたいに。
 

 *
 
 
 あの日以来、慧は欠かさず毎朝猫に餌を与えるようにしている。餌代を要求されていたことを律儀に覚えていたため、餌袋の隣に小銭を置いておくようにすると、ある朝カノンが待ち構えていた。
 1週間ぶりの再会だった。

「分かったよ。降参だ。君の気持ちはよぉく分かった」

 カノンは小銭の入ったポーチを慧に投げて寄越した。

「こんな端金を渡されたところで、餌代の足しになんてなりはしないよ。これは自分のために使ってやんな」

 慧の隣にしゃがみ込むと、カノンは猫の背中を、背骨に添えるようにして人差し指で撫でる。

「お喋りって」
「え?」
「お喋りって何をすればいいの?」

 友人などと呼べる者は長らくいないから、他愛のない喋り方を忘れてしまった。子供のようなあどけない表情でカノンは言う。彼の言いたいことを理解するにつれ、慧の表情は喜びに満ち溢れていった。
 
 切っ掛けは何であれ、友人として仲よくしたいと申し出たのは自分なのだから、清らかな友人関係を貫くつもりだった。だが、カノンは終着点のない会話が得意ではないようで、慧が何か質問を投げかけても、ぽつぽつと途切れ途切れの返答を寄越すだけで、すぐに黙り込んでしまう。慧としてはカノンと一緒にいるだけで十分幸せだったのだけど、カノンは沈黙に耐えかねて、3日と経たずに慧を襲ってきた。
 
 もちろん、慧はすぐには受け入れなかった。フーガの存在が気掛かりだったのだ。だから、フーガを理由に拒絶を試みるも、カノンは服を剥ぐ手を止めなかった。

「言っておくけど、フーガさんとは君が思ってるような仲じゃないよ。一緒に住んでいるのだって、それが互いにとって都合がいいってだけ」

 カノンのひやりとした手が、心臓の鼓動を確かめるように胸元に当てがわれる。人肌を与えられ温かくなった手を今度は頬へと滑らせ、カノンはうっとりと蠱惑的に微笑んだ。

「だから、何も気にすることはないよ。ねぇ、一緒に気持ちよくなろう?」

 雄としての本能を前に、理性はどこまでも無力だった。一度体に教え込まれた快楽は、麻薬のように肉体と思考を蝕んでいく。
 相も変わらず、隣室から聞こえてくる喘ぎ声は慧を悩ませている。夜は他の男に組み敷かれ、そして朝になると慧を誘う。程よく筋肉が付いてはいるものの華奢であることは明らかなこの体のどこに、そんな体力があるのだろう。

 分からないが、もはや自分の意思だけではこの行為を止められない。己の体によって、彫刻のように整った男をかせられることが、慧の支配欲を何よりも満たしてくれた。
 自分にこのような嗜虐癖があるとは、思ってもみなかったし、できれば気付きたくはなかった。


 *
 

 壁に手を突いたカノンを背後から貫く。接合部はきゅうきゅうと強く引き締まり、熱の杭の侵入を喜んだ。
 過ぎた悦楽から逃れようと捩れる体を、肩を掴むことで固定する。逃げ場のなくなった快楽は下半身へと沈殿し、カノンの内腿をガクガクと痙攣させる。

「あ♡ やぁ♡♡ はげし、すぎぃっ♡も、そんなにつよく、こすられ、たらぁ♡ も、すぐ、いっちゃ、いっちゃうからぁ♡♡」

 使い道のない陰茎は、先端から喜びの涙をだらだらと垂れ流しながら、されるがままに揺さぶられている。汗と先走りの混じった液体が地面に濃い滲みを点々と残した。

「カノンさん、俺も、もうイキそう……っ、出しても、いい、すか」
「うん♡ ナカにだして♡ 僕のナカに、ぁ、きみの濃いせーし、はきだして♡ 僕を孕ませてっ♡♡」
「くっ……もう、でるっ」

 前後に揺さぶる動きを、上下に穿つ動きへと変える。より深く繋がれば、カノンは顎を逸らせて舌を天井に向かって突き出し、狂ったように喘いだ。

「あ、いく、いっちゃう♡♡ や、もうイク、いくぅ……~~~ッ♡♡♡」

 生殖本能に突き動かされ、慧はカノンの腰を掴んだ。痛いほどの締め付けによって、カノンの中で果てる。どくどくと、精液が最奥へと吐き出されているのが感覚で分かった。もしカノンが女性だったなら、本当に妊娠させていたかもしれない。

 たっぷりと時間をかけ吐き出された精液を、かき混ぜるようにして淫筒に塗りたくる。頭が少しずつ現実へと戻ってきた段階になって、ようやく慧は力を失った陰茎をずるっと引き抜いた。
 怪我させてないか不安になってカノンを確認すると、未だ勃起したままの彼の陰茎に気がついた。一度も触れられなかったそこは、真っ赤に充血してしまっている。

 前に手を伸ばし、燃えるように熟しているそこを上下に擦った。全身を震わせて絶頂の余韻に浸っていたカノンは驚いて目を見開く。

「すみません、カノンさん。また俺ばかり気持ちよくなっちまって……。すぐに楽にしてあげますね」

 カノンは抵抗の声を上げていたが、慧の耳には届かなかった。楽にしてやりたいという思いから、一心不乱に竿を扱く。
 やがて、カノンの体が激しく波打った。経年劣化により変色した壁に、白濁が叩きつけられる。塗りたてのペンキのように地面に向かって垂れていくそこに上塗りするように、続け様に透明な液体がぴしゃりと降りかかった。

「え」

 慧は困惑して頭が真っ白になったが、碌に思考が働かないうちに、力を失ったカノンの体が崩れ落ちたので、抱きかかえるようにして、一緒に尻餅を突く。その間も陰茎は握りしめたままだったので、その衝動によって、再びカノンの先端はぷしゅ、と音を立てながら透明な液体を噴き出した。

 抱き留めた腕の中で、カノンはぐったりとした様子で胸を上下させている。強張っていた手を解き、己の顔の前に掲げた。掌どころか裏面まで、ぐっしょりと濡れてしまっている。鼻に近づけてみるも、独特のアンモニア臭はしない。

「え、マジで何すか、これ……しょんべん?」

 カノンは最後の力を振り絞り、慧の頭を軽く小突いた。

「うるさいよ、馬鹿」


 *
 

 戸棚からトイレットペーパーを取り出し、自身の汚れとカノンの全身を拭う。本当はシャワーで洗い流した方がいいのだろうが、そんな時間はなかったので、取り敢えずの応急処置だった。先に上の服を着せ、それから下を着せようとして、無防備に晒された下半身に目がいく。
 男の欲望を幾度となく受け入れてきた後孔。使い込まれたそこは、本来の用途とは違うはずなのに、女性器のような淫靡さをまとっている。慧の視線がそこに釘付けになっていることにカノンは気がついた。嘲るように鼻で笑うと、腹筋に力を入れてみせる。
 孔が緩く開き、先程吐き出した白濁がとろとろと流れ出して地面を汚す。

「ふふ、今日もたくさん出たね」

 慧は顔を真っ赤に茹で上げさせ、ひゃあと悲鳴を上げながら目元を両手で覆った。
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