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第16話 情報
しおりを挟む颯が聖羅のミインをブロックした後日。曜日は火曜日。
聖羅はいつもより早く学校に登校した。普段よりも10分ほど早く学校に到着した。時刻は8時10分だ。
正門を抜け、歩を進め、馴染みある昇降口に辿り着く。ルーティーンのように、ローファーを脱ぎ、校内用スリッパに履き替える。そして、昇降口に面した廊下を進み、2階に居を構えるクラスの教室に向かう。
昨日の晩、聖羅は中々眠りに就けなかった。どことなく、瞼が重そうだ。幸運にも、目の下に隈はできていない。
重い足を上げるように、ゆっくり階段を登る。数10段ほど上がり、2階に足を踏み入れる。そのまま、自身のクラスの教室へ足を運ぶ。
不思議と、廊下に身を置く生徒達が、聖羅に視線を向ける。好奇と嫌悪の混じった視線だった。
「なに? どうして、あたし注目されてるの? 」
眉をひそめ、怪訝な表情を露にし、誰にも聞き取れない声で、聖羅は疑問を呟いた。
現に、名前を知らない多くの男女の生徒達が、聖羅をチラチラ見る。噂するように、皆が大いに興味を示す。
好奇と嫌悪の帯びた視線をグサグサ浴びながら、聖羅はクラスの教室に到着した。
いつもと同じく、後方の引き戸を引いて、入室する。
グイッ。
先に登校していた男女の生徒達の視線が、聖羅へ一気に集中する。大部分の生徒達が、わざわざ後方に振り返り、視線を走らせる。
友人と雑談していた生徒は、ヒソヒソ話を始める。男女関係なくだ。時折、笑顔や不快感を露見する。
「なによ…。なんなのよ…」
唇を尖らせ、消え入りそうな小さな声で、聖羅は不満を口にする。明らかにストレスが溜まっているようだ。
周囲から気を逸らすように、雑に顔を左右に振り、自席を目的地に定め、歩き始める。教室の床に、校内用のスリッパの裏を付く。
先ほどよりも、強い視線を直接的に受けながらも、聖羅は自席に腰を下ろす。机の上に、スクールバッグを置き、筆箱、教科書、ノートなどを、バッグから机の中へ移す。
多数の視線を気にした様子を隠すように、黙々とスクールバッグの中身を机の中に仕舞う。
「ねぇねぇ。伊藤さん。ちょっといいかな? 」
女子のクラスメイトの1人が、聖羅の席まで歩み寄り、声を掛ける。女子の目には、好奇心が宿る。まるでキラキラ光っているようだ。
「う、うん。いいよ」
作業を止め、聖羅は目線をクラスメイトの女子に当てる。クラスメイトの女子はショートカットだった。特段、可愛らしい見た目ではなかった。フツメンであった。
「じゃあ、単刀直入に聞くね。伊藤さんって、あの石井君にやったの? 」
教室全体に行き渡る声のボリュームで、クラスメントの女子は疑問を投げる。
周囲のクラスメイト達は、この話題に関心があるのか、聞き耳を立てる。中にはニヤつく男子もいた。
「え!?…えっと。え~っとね」
衝撃的な言葉に、聖羅は動揺を隠せない。視線をクラスメイトの女子から外し、目を右往左往に彷徨わせる。実に分かりやすい反応だ。
「おいおい。あの反応って」
「ああ。間違いないな。どんな風にヤッたんだろうな。少し興奮してきたぜ! 」
「リアクションで丸分かりだよね」
「うわぁ~。正直、いい気持ちはしないわ~」
聖羅の動揺した反応に、刺激を受け、周囲のクラスメイト達が一斉に会話を開始する。皆が聖羅のヤッたことに関する話を口にする。
「ち、違う!! そんなことは! 」
焦燥感に駆られた聖羅は、勢いよく立ち上がり、否定の言葉を発する。このままヤッたことに関する情報が、クラスメイトに認識されるのは、聖羅にとっては都合が悪い。大いに悪い。
「そうなんだ。じゃあ、色々と教えて欲しいな。さっきの明らかに取り乱した反応のこともね。詳しくお願い」
楽しむように、薄く笑みを浮かべながら、クラスメイトの女子は、再び口を開く。聖羅を追い詰めるように。
「あ、あの。その…」
適切な言葉が見つからないのか。目の前のクラスメントの女子から逃げるように、聖羅は視線を下方に移した。聖羅の視野に、無言の教室の床が映った、当然、床はヘルプを出してくれない。
聖羅の気持ちなど無視し、教室に身を置く大半のクラスメイト達が、聖羅に対して視線を集中砲火した。
その視線は数分ほど継続して向けられ続けた。
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