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4.残滓は裏切り者の味がするか⑥
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ジリジリと狭まる輪。
男達は各々が、銃やナイフ等の武器を持っている。
……鋭い目つきは、闇の中で生きる獣のようだ。
そして、彼もまた。
「さぁて。殺し合おうか」
彼は魔銃一つ。
到底適わないだろう。
いくら凄腕の兵士であっても。
「オレの後ろ側」
「え……?」
ジョージは僕を男達から庇うように、立ちはだかる。
そして振り返ること無く、彼は言った。
「裏に出口がある。もしかしたら錆び付いてるかもしれないが……なんとかしてぶち破れ」
「き、君も」
「オレはここで、あいつらの相手だ」
「じゃあ……」
「振り返るな。そして朝になったら町を出ろ……絶対に、戻ってくるな」
「ジョージ」
『また君は僕を庇うのか』
僕は、そう言いかける。
そうだ、いつもそう。
あの時だって。
「僕だって戦えるよ」
「お前が?」
「知ってるんじゃないの。僕のこと」
……この魔剣であの、鬼女やエルフを殺した男だって。
「やっぱり、それルイだったのか」
「町の噂になってたんでしょ」
「あぁ。魔剣を持った勇者がいる、ってな」
「僕だよ。それ」
「ははっ、見えねぇな」
「酷いなぁ」
「でも今お前……」
「薬? そんなの」
……気合いと、勢いだ。
僕は腕に意識を集中させる。
怒りでなく、憎しみでなく。
ただ一つの感情を持って。
―――ゴォォォォ。
「へぇ! それか」
火を噴くような音と共に、突然現れた黒い剣。
彼はヒュゥ、と口笛を吹いた。
「これ、使うと怒られちゃうんだけどね」
「仲間にか?」
「そう。悪魔の剣だから」
そう言うと、僕は一歩前に出る。
「でも、もう良いや……」
そう呟いた刹那。
―――ドガァァァンッ!
「!?」
「て、敵襲かっ!?」
「うわぁぁぁッ!!」
けたたましい爆発音。
上がる土煙と、男たちの悲鳴。
「これは……」
もうもうと上がる粉塵と、粉々に壊れた教会の入口を見つめる。
木材の破片。瓦礫。
まだ細かく上がる火花の粉が、ぼやける景色に散り散りと瞬く。
―――しかしそれも、入ってきた外気に吹き飛ばされる。
……急激に晴れていく視界。
そこに2人の人影が立っていた。
「王子様登場ー、ってな」
「ルイ、お迎えに来たわよぉ! 」
……バチバチッ。
黒ずくめ。
指先に小さな雷を纏う男。
背中に剣をさし、手の中に拳銃を弄ぶ少女。
「カンナ、マト!」
古い教会のドアを吹っ飛ばした、魔法使いとスライム娘がいる。
僕の仲間達だ。
「ルイ」
「……」
「ルイ?」
マトの何か言いたげな顔と声に、僕はそっと視線を逸らす。
今は喧嘩中だし。
なんなら別れ話すら出てたから。
「こら、そこのバカップル! 痴話喧嘩は後にして……ルイ、剣っ」
「え、あ、うん」
……あー、魔剣は使うなって事か。
投げて寄越された剣も久々の再会だ。
しばらく馴染ませて、握り直す。
「それじゃ、行きましょうか」
カンナの言葉に、頷く。
ジョージの方に視線を向ければ、言葉無くだが微笑まれた。
その代わり、マトにボソリと呟かれたけど。
『浮気だ』って。
―――まず僕が切り込んだ。
向かってくる男達を、同じく走って迎え撃つ。
……ズシュッ!!
一振で2,3人。
なるべく致命傷避けて。
「このガキッ!」
突出され、空を切るナイフ。
大きく振りかぶられた斧は、緩慢だ。
……鬼女やエルフの方が、もっといい動きしてたぞ。
「いい気になりやがってぇぇっ、食らえ!」
―――ガキィィッン!!
当てられた剣の切っ先。
……どうやら敵の数が増えたらしい。
大きく薙ぎ払えば、さらに数度打ち合う。
飛び退いて睨み合い。
「てめぇが勇者様か」
「らしいね」
剣を構えた男。
ブロンドの長髪が揺れている。
「女みてぇなツラして、やるじゃねぇか」
「女みたい、は余計だよ……」
「だが」
「っ!」
男が地を蹴り、大きく踏み込んでくる。
―――ダンッ……ガキンッッ!!
「所詮ガキだ!」
「くっ……」
辛うじて受け止める。
だけど、踏ん張り切れない。
「うあッ!!」
吹っ飛ばされる形で、地面に叩きつけられる。
「ルイっ!?」
「大丈夫か!」
同時に響いたのは、マトとジョージの声。
「よそ見してんじゃあないッ」
「っ!」
―――バキィィィッッ!
一瞬早く飛び退けば、その場の床が砕けた。
破片が頬をかすり、紅い飛沫が飛ぶ。
「すばしっこい奴だな」
「ガキ、なもんでねっ……」
ともあれ、そろそろ決めなきゃヤバい。
さっき飲まされた媚薬のせいか、息切れも早いし。
……すると男はニヤリと相好を崩す。
「見せてみろよ、魔剣を」
「魔剣、ねぇ」
見せたら多分、すっごく怒られるんだけど。
それに。
「貴方、死んじゃいますけど」
僕、魔剣で手加減出来ないから。
「てめぇっ、バカにしてんのか!」
男がギリッ、と歯噛みする。
剣を突きつけて言う。
「このクソガキ、殺してや……」
「「……お前が死ねッ!!!」」
―――パァァンっ!
―――ズギャァァッ!
「ギャァァァァッ!!」
2人の声が同時に響いて、男が悲鳴を上げる。
足を魔銃で撃ち抜かれ、全身を雷でやられたらしい。
プスプスと煙を上げて、その場に倒れた。
「さっきからオレのルイに随分な言い様じゃねーか」
「魔剣を見せろだぁ? お前みてーな、男に……っておい!」
マトがジョージに掴みかかる。
「……今なんつった、お前」
「オレのルイ、ですけど何か?」
「何か、じゃねーよ! 誰がお前のだよっ。お・れ・の・こ・い・び・と!!」
フッ……とジョージは小さく笑った。
「……女々しいねぇ」
「だーれが女々しいんだっ、この間男が!!」
今度はマトが彼をガクガク揺さぶる。
それにムッとしたであろうジョージ。
……長い指を突きつけて、言い返した。
「ゴリラみてぇなナリして、女々しいって言ってんだよっ。バーカ!」
「バカってなんだよっ、このヤリ●ン男が!」
「うっせぇっ、童貞!」
「どどどどどっ、童貞ちゃうしっ」
「動揺し過ぎだろ!?」
突如として始まった口喧嘩に、呆れたのは僕とカンナだ。
「ったく、男って……馬鹿よねッ!」
―――ドガガガッ!!
マシンガン(恐らくスライム体の一部)をぶっぱなしながら、ため息をつく。
「それ、僕も入ってる!?」
―――バシュッ、ザッッ……!
数人同時、敵を剣で薙ぎ払う。
……最初より人数増えてない? なんて考えながら。
「当たり前、でしょッ!」
カンナは思い切り顔を顰めて、答えた―――。
―――終わった。
まさに死屍累々。
ほとんどは死んでないと思うけど。
……それでも、あまり手加減出来なかった。
さすがに肩で息をする状態だ。
「っふぅ、ぁ」
「大丈夫か」
敵が全て地に伏した。
最初に声を掛けたのはジョージ。
「そろそろっ、しんどい、かな」
さすがアレンが自慢するだけある。
この薬は効果が長時間作用するらしい。
……未だ燻り続ける熱。
動いたことによる体温上昇にも反応するのだとか。
「くっ」
全て終わった安堵。
それが次の受難の始まりなのか。
―――ドサッ。
「ルイ!?」
「おいっ、しっかりしろ!」
「大丈夫か!!」
視界が霞む。
疲労と貧血、動悸。
さらに高熱に苦しんだ時みたいな。
……あとは、異常な心拍数の上昇。
心臓が痛いくらいだ。
「も、もう」
駄目かも、と言い終わる前。
意識が引っ張られるように、ゆっくりとブラックアウトした。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫
「はぁ……」
ため息をつけば。
ビクリと震える背中。
「ぐ、具合悪いのか……?」
心配の言葉の割には、こちらに視線すら寄越さない男に小さく俯く。
―――宿の一室。
ここ1週間以上借りてる、見慣れた部屋だ。
でも今夜は、なんか違う景色に見える。
「マト……ごめんね」
こんな僕で。
別れ話した後に、面倒事押し付けちゃう奴。
「お、俺こそ。すまん。むしろ、俺が悪かった。お前が浮気したのも……」
「浮気してないから!」
「そ、そうか……してないのか」
「してないよ」
ジョージは友達だ。
今までも、これからも。
……彼は、あの騒動の後に姿を消した
恐らく事態を収集しに現れた、王国の兵士達から逃れたのだろう。
闇の人身売買や薬の蔓延に関わっていたのだから。
前世の世界でいう『警察』っていうのは、この世界にはない。
その代わり、正義の自警団という組織がある。
ユスティは王国周辺のいつくかの町を守り、取り締まっているとか。
しかも秘密裏に活動している為、その実態や規模等の多くは謎だ。
だけど事態の収集には、こうやって国の兵がやって来ることから『ユスティを率いいるのは国王陛下ではないか』と言われている。
「あいつなら、ちゃんと逃げおおせるさ」
「うん」
マトが優しく肩を叩く。
……なんの言葉も交わせず別れたけど、彼とはまた会える気がする。
「それはそうと」
「え?」
「身体は大丈夫か」
「ん……それなんだけど」
正直、結構辛い。
さっきから持続的に、発熱してるみたいだし。
一番収まらないというか、アレなのが。
「……」
「あー、なるほど」
僕の表情を見て、彼は察したらしい。
居心地悪そうに視線を逸らすけど、それはこっちの方だ。
「なんとかしてやりてーが……」
あぁそうだよね。
別れた男のソレなんて。
……今更ながら、涙が出てくる。
僕ってなんて馬鹿なんだろう。こんないい男をフッちゃうなんて!
「ちょ、お前、泣くなよーっ!?」
「だって……っひ、ぐ……僕……」
マトは別に浮気してたわけじゃなかった。
僕が宿で伏せていると思って、その間は町の人達の人助けしてたんだ。
ロベリアやアルを倒した勇者一行、と知った町の人達。
彼らは他にも頼み事をしてくるのが、この世界だ。
なんだかんだ目に見える形での、警察という存在はないからだろう。
少しでも、強い味方だと思えば全力で頼ってくる。
今回も、周辺の村で娘たちの失踪事件や薬物中毒者の増加を調べて欲しいとの事だった。
『ユスティに協力せよ。なんて脅されたら、さすがに俺も抵抗できねーよ』
『二人を巻き込みたくなかったし、俺自身が人助け禁止令出しちまったし。言えねーよな』
なんて苦笑いされて、卒倒しそうだった。
当然、自分の馬鹿さ加減に。
「ほんとお前馬鹿だなー」
そう言って彼は、抱きついてきた。
……暖かい。少し固い筋肉と、高めの体温が。
そんでもって、すごくドキドキする。
あー、ヤバい。ヤバいかも。
「俺はお前に別れろと言われても、多分無理だ」
「えっ」
「もう離してやれない」
抱き締めた腕に、力がこもる。
まるで胸のうちに閉じ込めるようなその仕草に、胸が痛くなる。
「愛してる……この命を投げ出しても構わないと思う程に」
「マト……」
……この腕を、手放そうとしてたしてたなんて。
僕の涙は止まるどころか、さらに彼の肩を濡らした。
それを咎める事も、焦ることもなく。
マトは待ってくれた。
「ねぇマト」
「ん?」
「ごめんね」
「だからもう良いって……っんんッ!?」
彼が、くぐもった驚愕の声を上げる。
それは僕のせい。
「ぅ、んむ……んっ……」
その厚めな唇を塞いだ。
目を閉じて、彼が以前僕にしたように。
舌をゆっくり伸ばして。
軽く歯列をノックする。
応じてくれた彼のそれに、絡めた味わう。
……すごく稚拙なんだろう。
でもすぐ近くに感じた荒い吐息が、満更でもなく感じてくれてるみたいで。
さらに唇を食むように、口付けを深める。
「っふ、っ……す、ストップ!」
―――少し強引に、引き離される。
目を開けると、難しい顔した彼がいた。
「あ、あの」
……もしかして良くなかった?
むしろ嫌だったかな。
だとしたら。
「勘違いすんなよ!? すっごく嬉しかったし、良かったぜ。まぁ、どこでこんな事覚えてきたって疑問があるが……」
「マトが、この前したじゃん」
「えっ、あーっ! 俺が教えたんだな! あははっ、そうだったか。うん……ん、俺が……あー……」
そう言うと、どんどん布団に沈んでいく。
しまいにはほとんどベットにうつ伏せ状態の彼が、蚊の鳴くような声で一言。
「……俺の理性がもたん」
「え?」
顔は見えないけど、その耳や首筋は真っ赤だ。
さりげなく手で抑えてる箇所も目に入る。
「あー……なるほど」
今度は僕が呟いた。
同じ男だもん、分かる。
「マト、も僕と同じなんだね」
「……そーかよ、悪いか」
悪くない。
むしろ胸がドキドキしてヤバい。
「あ、あのっ!」
「……ん」
「マト」
「……」
……ここで勇気出さなきゃ。
その、初めてだし。今言わなきゃ多分、またはぐらかされちゃう。
僕は拳を握りしめた。
「僕をっ、抱いて……下さいっ!!」
「~~~っ!?」
「ダメ?」
「駄目……じゃねーけど」
「じゃあ」
体重を少し移動させると、ギシリとベッドが軋む。
「本当に、良いのか!?」
「うん」
彼が真剣そのものの顔で、僕を見つめる。
……あぁ、その顔もかっこいい。
媚薬のせいだろうか。
なんだか、恋人がいつも以上に良く見えて困る。
「もっと自分を大事に……」
「もう良いから!」
僕の方が焦れてきた。
ほんと、辛くなってきたんだもの。
「僕、そろそろヤバいんだけど」
「そうか……」
彼は大きく呼吸をする。
そして、僕の肩に手を掛けると言った。
「今度は『やめて』って言っても、止めてやれねーぞ」
「う、うん」
彼のその目。
まるで獰猛な獣のように、薄暗い部屋に煌めく。
「じゃあまず……キスしようぜ」
―――その囁きと共に、彼の唇が僕のそれに重なった。
男達は各々が、銃やナイフ等の武器を持っている。
……鋭い目つきは、闇の中で生きる獣のようだ。
そして、彼もまた。
「さぁて。殺し合おうか」
彼は魔銃一つ。
到底適わないだろう。
いくら凄腕の兵士であっても。
「オレの後ろ側」
「え……?」
ジョージは僕を男達から庇うように、立ちはだかる。
そして振り返ること無く、彼は言った。
「裏に出口がある。もしかしたら錆び付いてるかもしれないが……なんとかしてぶち破れ」
「き、君も」
「オレはここで、あいつらの相手だ」
「じゃあ……」
「振り返るな。そして朝になったら町を出ろ……絶対に、戻ってくるな」
「ジョージ」
『また君は僕を庇うのか』
僕は、そう言いかける。
そうだ、いつもそう。
あの時だって。
「僕だって戦えるよ」
「お前が?」
「知ってるんじゃないの。僕のこと」
……この魔剣であの、鬼女やエルフを殺した男だって。
「やっぱり、それルイだったのか」
「町の噂になってたんでしょ」
「あぁ。魔剣を持った勇者がいる、ってな」
「僕だよ。それ」
「ははっ、見えねぇな」
「酷いなぁ」
「でも今お前……」
「薬? そんなの」
……気合いと、勢いだ。
僕は腕に意識を集中させる。
怒りでなく、憎しみでなく。
ただ一つの感情を持って。
―――ゴォォォォ。
「へぇ! それか」
火を噴くような音と共に、突然現れた黒い剣。
彼はヒュゥ、と口笛を吹いた。
「これ、使うと怒られちゃうんだけどね」
「仲間にか?」
「そう。悪魔の剣だから」
そう言うと、僕は一歩前に出る。
「でも、もう良いや……」
そう呟いた刹那。
―――ドガァァァンッ!
「!?」
「て、敵襲かっ!?」
「うわぁぁぁッ!!」
けたたましい爆発音。
上がる土煙と、男たちの悲鳴。
「これは……」
もうもうと上がる粉塵と、粉々に壊れた教会の入口を見つめる。
木材の破片。瓦礫。
まだ細かく上がる火花の粉が、ぼやける景色に散り散りと瞬く。
―――しかしそれも、入ってきた外気に吹き飛ばされる。
……急激に晴れていく視界。
そこに2人の人影が立っていた。
「王子様登場ー、ってな」
「ルイ、お迎えに来たわよぉ! 」
……バチバチッ。
黒ずくめ。
指先に小さな雷を纏う男。
背中に剣をさし、手の中に拳銃を弄ぶ少女。
「カンナ、マト!」
古い教会のドアを吹っ飛ばした、魔法使いとスライム娘がいる。
僕の仲間達だ。
「ルイ」
「……」
「ルイ?」
マトの何か言いたげな顔と声に、僕はそっと視線を逸らす。
今は喧嘩中だし。
なんなら別れ話すら出てたから。
「こら、そこのバカップル! 痴話喧嘩は後にして……ルイ、剣っ」
「え、あ、うん」
……あー、魔剣は使うなって事か。
投げて寄越された剣も久々の再会だ。
しばらく馴染ませて、握り直す。
「それじゃ、行きましょうか」
カンナの言葉に、頷く。
ジョージの方に視線を向ければ、言葉無くだが微笑まれた。
その代わり、マトにボソリと呟かれたけど。
『浮気だ』って。
―――まず僕が切り込んだ。
向かってくる男達を、同じく走って迎え撃つ。
……ズシュッ!!
一振で2,3人。
なるべく致命傷避けて。
「このガキッ!」
突出され、空を切るナイフ。
大きく振りかぶられた斧は、緩慢だ。
……鬼女やエルフの方が、もっといい動きしてたぞ。
「いい気になりやがってぇぇっ、食らえ!」
―――ガキィィッン!!
当てられた剣の切っ先。
……どうやら敵の数が増えたらしい。
大きく薙ぎ払えば、さらに数度打ち合う。
飛び退いて睨み合い。
「てめぇが勇者様か」
「らしいね」
剣を構えた男。
ブロンドの長髪が揺れている。
「女みてぇなツラして、やるじゃねぇか」
「女みたい、は余計だよ……」
「だが」
「っ!」
男が地を蹴り、大きく踏み込んでくる。
―――ダンッ……ガキンッッ!!
「所詮ガキだ!」
「くっ……」
辛うじて受け止める。
だけど、踏ん張り切れない。
「うあッ!!」
吹っ飛ばされる形で、地面に叩きつけられる。
「ルイっ!?」
「大丈夫か!」
同時に響いたのは、マトとジョージの声。
「よそ見してんじゃあないッ」
「っ!」
―――バキィィィッッ!
一瞬早く飛び退けば、その場の床が砕けた。
破片が頬をかすり、紅い飛沫が飛ぶ。
「すばしっこい奴だな」
「ガキ、なもんでねっ……」
ともあれ、そろそろ決めなきゃヤバい。
さっき飲まされた媚薬のせいか、息切れも早いし。
……すると男はニヤリと相好を崩す。
「見せてみろよ、魔剣を」
「魔剣、ねぇ」
見せたら多分、すっごく怒られるんだけど。
それに。
「貴方、死んじゃいますけど」
僕、魔剣で手加減出来ないから。
「てめぇっ、バカにしてんのか!」
男がギリッ、と歯噛みする。
剣を突きつけて言う。
「このクソガキ、殺してや……」
「「……お前が死ねッ!!!」」
―――パァァンっ!
―――ズギャァァッ!
「ギャァァァァッ!!」
2人の声が同時に響いて、男が悲鳴を上げる。
足を魔銃で撃ち抜かれ、全身を雷でやられたらしい。
プスプスと煙を上げて、その場に倒れた。
「さっきからオレのルイに随分な言い様じゃねーか」
「魔剣を見せろだぁ? お前みてーな、男に……っておい!」
マトがジョージに掴みかかる。
「……今なんつった、お前」
「オレのルイ、ですけど何か?」
「何か、じゃねーよ! 誰がお前のだよっ。お・れ・の・こ・い・び・と!!」
フッ……とジョージは小さく笑った。
「……女々しいねぇ」
「だーれが女々しいんだっ、この間男が!!」
今度はマトが彼をガクガク揺さぶる。
それにムッとしたであろうジョージ。
……長い指を突きつけて、言い返した。
「ゴリラみてぇなナリして、女々しいって言ってんだよっ。バーカ!」
「バカってなんだよっ、このヤリ●ン男が!」
「うっせぇっ、童貞!」
「どどどどどっ、童貞ちゃうしっ」
「動揺し過ぎだろ!?」
突如として始まった口喧嘩に、呆れたのは僕とカンナだ。
「ったく、男って……馬鹿よねッ!」
―――ドガガガッ!!
マシンガン(恐らくスライム体の一部)をぶっぱなしながら、ため息をつく。
「それ、僕も入ってる!?」
―――バシュッ、ザッッ……!
数人同時、敵を剣で薙ぎ払う。
……最初より人数増えてない? なんて考えながら。
「当たり前、でしょッ!」
カンナは思い切り顔を顰めて、答えた―――。
―――終わった。
まさに死屍累々。
ほとんどは死んでないと思うけど。
……それでも、あまり手加減出来なかった。
さすがに肩で息をする状態だ。
「っふぅ、ぁ」
「大丈夫か」
敵が全て地に伏した。
最初に声を掛けたのはジョージ。
「そろそろっ、しんどい、かな」
さすがアレンが自慢するだけある。
この薬は効果が長時間作用するらしい。
……未だ燻り続ける熱。
動いたことによる体温上昇にも反応するのだとか。
「くっ」
全て終わった安堵。
それが次の受難の始まりなのか。
―――ドサッ。
「ルイ!?」
「おいっ、しっかりしろ!」
「大丈夫か!!」
視界が霞む。
疲労と貧血、動悸。
さらに高熱に苦しんだ時みたいな。
……あとは、異常な心拍数の上昇。
心臓が痛いくらいだ。
「も、もう」
駄目かも、と言い終わる前。
意識が引っ張られるように、ゆっくりとブラックアウトした。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫
「はぁ……」
ため息をつけば。
ビクリと震える背中。
「ぐ、具合悪いのか……?」
心配の言葉の割には、こちらに視線すら寄越さない男に小さく俯く。
―――宿の一室。
ここ1週間以上借りてる、見慣れた部屋だ。
でも今夜は、なんか違う景色に見える。
「マト……ごめんね」
こんな僕で。
別れ話した後に、面倒事押し付けちゃう奴。
「お、俺こそ。すまん。むしろ、俺が悪かった。お前が浮気したのも……」
「浮気してないから!」
「そ、そうか……してないのか」
「してないよ」
ジョージは友達だ。
今までも、これからも。
……彼は、あの騒動の後に姿を消した
恐らく事態を収集しに現れた、王国の兵士達から逃れたのだろう。
闇の人身売買や薬の蔓延に関わっていたのだから。
前世の世界でいう『警察』っていうのは、この世界にはない。
その代わり、正義の自警団という組織がある。
ユスティは王国周辺のいつくかの町を守り、取り締まっているとか。
しかも秘密裏に活動している為、その実態や規模等の多くは謎だ。
だけど事態の収集には、こうやって国の兵がやって来ることから『ユスティを率いいるのは国王陛下ではないか』と言われている。
「あいつなら、ちゃんと逃げおおせるさ」
「うん」
マトが優しく肩を叩く。
……なんの言葉も交わせず別れたけど、彼とはまた会える気がする。
「それはそうと」
「え?」
「身体は大丈夫か」
「ん……それなんだけど」
正直、結構辛い。
さっきから持続的に、発熱してるみたいだし。
一番収まらないというか、アレなのが。
「……」
「あー、なるほど」
僕の表情を見て、彼は察したらしい。
居心地悪そうに視線を逸らすけど、それはこっちの方だ。
「なんとかしてやりてーが……」
あぁそうだよね。
別れた男のソレなんて。
……今更ながら、涙が出てくる。
僕ってなんて馬鹿なんだろう。こんないい男をフッちゃうなんて!
「ちょ、お前、泣くなよーっ!?」
「だって……っひ、ぐ……僕……」
マトは別に浮気してたわけじゃなかった。
僕が宿で伏せていると思って、その間は町の人達の人助けしてたんだ。
ロベリアやアルを倒した勇者一行、と知った町の人達。
彼らは他にも頼み事をしてくるのが、この世界だ。
なんだかんだ目に見える形での、警察という存在はないからだろう。
少しでも、強い味方だと思えば全力で頼ってくる。
今回も、周辺の村で娘たちの失踪事件や薬物中毒者の増加を調べて欲しいとの事だった。
『ユスティに協力せよ。なんて脅されたら、さすがに俺も抵抗できねーよ』
『二人を巻き込みたくなかったし、俺自身が人助け禁止令出しちまったし。言えねーよな』
なんて苦笑いされて、卒倒しそうだった。
当然、自分の馬鹿さ加減に。
「ほんとお前馬鹿だなー」
そう言って彼は、抱きついてきた。
……暖かい。少し固い筋肉と、高めの体温が。
そんでもって、すごくドキドキする。
あー、ヤバい。ヤバいかも。
「俺はお前に別れろと言われても、多分無理だ」
「えっ」
「もう離してやれない」
抱き締めた腕に、力がこもる。
まるで胸のうちに閉じ込めるようなその仕草に、胸が痛くなる。
「愛してる……この命を投げ出しても構わないと思う程に」
「マト……」
……この腕を、手放そうとしてたしてたなんて。
僕の涙は止まるどころか、さらに彼の肩を濡らした。
それを咎める事も、焦ることもなく。
マトは待ってくれた。
「ねぇマト」
「ん?」
「ごめんね」
「だからもう良いって……っんんッ!?」
彼が、くぐもった驚愕の声を上げる。
それは僕のせい。
「ぅ、んむ……んっ……」
その厚めな唇を塞いだ。
目を閉じて、彼が以前僕にしたように。
舌をゆっくり伸ばして。
軽く歯列をノックする。
応じてくれた彼のそれに、絡めた味わう。
……すごく稚拙なんだろう。
でもすぐ近くに感じた荒い吐息が、満更でもなく感じてくれてるみたいで。
さらに唇を食むように、口付けを深める。
「っふ、っ……す、ストップ!」
―――少し強引に、引き離される。
目を開けると、難しい顔した彼がいた。
「あ、あの」
……もしかして良くなかった?
むしろ嫌だったかな。
だとしたら。
「勘違いすんなよ!? すっごく嬉しかったし、良かったぜ。まぁ、どこでこんな事覚えてきたって疑問があるが……」
「マトが、この前したじゃん」
「えっ、あーっ! 俺が教えたんだな! あははっ、そうだったか。うん……ん、俺が……あー……」
そう言うと、どんどん布団に沈んでいく。
しまいにはほとんどベットにうつ伏せ状態の彼が、蚊の鳴くような声で一言。
「……俺の理性がもたん」
「え?」
顔は見えないけど、その耳や首筋は真っ赤だ。
さりげなく手で抑えてる箇所も目に入る。
「あー……なるほど」
今度は僕が呟いた。
同じ男だもん、分かる。
「マト、も僕と同じなんだね」
「……そーかよ、悪いか」
悪くない。
むしろ胸がドキドキしてヤバい。
「あ、あのっ!」
「……ん」
「マト」
「……」
……ここで勇気出さなきゃ。
その、初めてだし。今言わなきゃ多分、またはぐらかされちゃう。
僕は拳を握りしめた。
「僕をっ、抱いて……下さいっ!!」
「~~~っ!?」
「ダメ?」
「駄目……じゃねーけど」
「じゃあ」
体重を少し移動させると、ギシリとベッドが軋む。
「本当に、良いのか!?」
「うん」
彼が真剣そのものの顔で、僕を見つめる。
……あぁ、その顔もかっこいい。
媚薬のせいだろうか。
なんだか、恋人がいつも以上に良く見えて困る。
「もっと自分を大事に……」
「もう良いから!」
僕の方が焦れてきた。
ほんと、辛くなってきたんだもの。
「僕、そろそろヤバいんだけど」
「そうか……」
彼は大きく呼吸をする。
そして、僕の肩に手を掛けると言った。
「今度は『やめて』って言っても、止めてやれねーぞ」
「う、うん」
彼のその目。
まるで獰猛な獣のように、薄暗い部屋に煌めく。
「じゃあまず……キスしようぜ」
―――その囁きと共に、彼の唇が僕のそれに重なった。
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