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13.嫉妬の華
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「お前、あいつとどういう関係だ」
「え」
―――唐突だった。
いつもより、大きな足音を立てて入って来たマト。
僕もアラウネ達もお喋りをやめて、振り返る。
「あ、あいつって……メルム様の事かな」
親子? 保護者? 居候?
眷属、ではないし。部下でもない。
『この子はメルム様の特別よ!』
『そうよ!』
『親子以上の関係よ!』
『アンタなんかに付け入る隙はないワ!』
呆然としている僕の代わりとばかりに、アラウネ達が叫ぶ。
「特別……! 愛人か」
「あああああ、愛人!?」
僕が彼の?
「んな訳ないでしょ!?」
だいたい僕は男だ!
もう幼い子供じゃないから、ある程度分かってるつもりだし。
この前も、家臣と『跡継ぎが』とか『そろそろ御結婚を』なんて言われて、苦々しい顔していたっけ。
魔王でも、人間と同じで生き物としての種の保存には逆らえないのだと思う。
もし、メルム様にお嫁さんが……上手くやれると良いのだけれど。
贅沢言うと、可憐で穏やかで可愛いタイプの人だと嬉しいかも。
城に仕えるメイド妖精のサールみたいな。
……別に僕の好みがって訳じゃないけど。
「じゃあなんだよ」
「何って。君しつこいなぁ」
なんか今日のマト、変だ。
距離は近いし、顔は怖いし。
僕は考え考えて渋々、答える。
「強いて言うと。養父かな?」
「お前は父親とキスするのか」
「え゙」
見てたの、なんて聞けなかった。
視線を何故か泳がせながら、言い訳めいた言葉を口にする。
「お休みのキス、みたいなものだよ? 」
「唇にしねぇだろ。舌も入れねぇし」
「え……? そう、なの」
「……」
恐る恐る聞くと、信じられないモノを見るような目で見られる。
途端、ぶわっと色んな感情が湧き上がってきた。
……罪悪感、疑問、困惑、羞恥。
唇を震わせて立ち尽くす僕は、彼が距離を詰めて来たことに気が付かなかった。
「おい」
「っ!?」
僕とマトの距離は、ほとんど鼻先が触れ合う程までで。
思わず仰け反ろうとすれば、後頭部を掴まれて腰を強く抱き寄せられる。
「な、何!?」
「父親代わりと、こんなキスなんて有り得ねぇだろ」
「だって、だって、僕は……」
言えなかった。
……小さい頃から、これがメルム様との生活だった、なんて。
壊れた玩具のように、繰り返す僕。
エメラルドグリーンの瞳が、苛立ったように細められる。
「じゃあ、俺ともしてみようぜ」
「え?」
「キス、しろよ」
「ま、マト!?」
「ほら。お休みのキス、みたいにさ」
「っ、そんな……駄目、だよ」
既に、唇同士が触れるか触れないかの距離。
……逃げられない。
「なんでだよ」
マトが苛立ったように、囁く。
「なぜ、俺は駄目なんだ。あいつは良くて、俺は駄目なんだ」
「それ……は……」
心のどこかで分かり始めていたのかもしれない。
このキスは、他に意味があるって。
だから罪悪感も感じていたし、何より怖かった。
口にしたら、大切な何かが変わってしまうかも、って……。
―――わずかに触れたのを感じて、僕が目を強く瞑った瞬間。
「……薄汚い、ガキが」
吐き捨てられる、冷たい声。
「っぐぁ!」
くぐもった打撲音と、悲鳴。
……慌てて目を開ける。
「マト!?」
1mほど吹っ飛んで、倒れ込む姿。
そして、ゆらりと隣に人影が立った。
「め、メルム様」
「ルイ。大丈夫か?」
黒い瞳。
まるで塗りつぶしたように深い色。
優しげな声で、僕を覗き込む。
「はい……でも」
マトが、と彼を見ると。
よろよろと起き上がる最中で、少し安堵した。
どうやら、横からメルム様が彼を殴り飛ばしたらしい。
魔法も使ったのかもしれない。
地面がえぐれ、薄く煙が上がっている。
「人間の言葉に『泥棒猫』という表現があるが、正にそれだな……ふん、その卑小さは猫と言うより鼠だが」
「くっ、くそ。この、変態野郎が!」
ぺっ、と血の混じった唾を吐いてマトは睨み付けた。
対して、メルム様はうんざりとした様子でため息をつく。
「変態? お前も言うか……ったく。揃いも揃って」
「なんにも知らねぇこいつに、何してんだよッ」
「……それはお互い様だろう。人のモノに手を出して説教とは、片腹痛い」
「こいつはお前のモノじゃねぇ!」
「いいや、私のものだ。なんびとたりとも渡さぬ。例え貴様とて。分かったらサッサと失せろ……死にたくなければな」
「くっ……」
マトは唇を噛み締めながら、足を引きずるように出て行った。
それに心配する声を掛けることも出来ず、その場に馬鹿みたいに佇む。
そんな僕を、メルム様は包み込むように抱き締めた。
「ルイ、可哀想に。怖かっただろう」
「メルム様、僕……」
「何も言わなくて良い。私の部屋に来なさい」
それは有無を言わせぬ声色。
しっかりと抱き込まれた肩に感じる微かな痛み。
心に感じた違和感……警報のように、胸が重く痛む。
「ルイ」
もう一度呼ばれた名に、僕は辛うじて頷いた―――。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□
「まずは、紅茶でも飲みなさい」
「はい……ありがとうございます」
目の前に出された、ティーカップ。
繊細な薔薇の模様が、目に鮮やかだ。
立ち上る湯気と香りは、いつものとは少し違う……ハーブティーだろうか。
甘いような、胸の中がゾワゾワする香り。
「どうした」
「い、いえ……頂きます」
唇をそっと、カップに付ける。
砂糖が入っているらしく、軽い甘みが舌に触れた。
「この前、サールが買ってきてね。なかなか良い香りだろう?」
「えぇ。そうですね」
確かに不快ではない。
むしろ飲めばさらに感じる花のような香り……でも、やっぱりその奥に感じる不穏な気配。
―――メルム様は二人がけの長椅子の、隣に座って言う。
「ルイ。もうあの少年と会うのはやめなさい」
「……」
穏やかな声だった。
メルム様は、剣も魔法の腕も優秀だ。
それでも無闇に力を振るう方ではない。そんな方が、あれほどまでに怒るなんて。
「マトは、悪くないんです」
「……ほぅ?」
僕の言葉に、目の前の黒い瞳が剣呑さを帯びる。
その一瞥で、喉が干からびてしまう錯覚に陥って、慌てて紅茶を飲む。
「僕が、多分……悪いんです」
……突然強引に迫られて、キスされた。
そんなことをされて、何故僕は彼を庇うのだろう。
自分でもよく分からない。
ただ、このままメルム様がマトを怒り続けるのだけは避けたかった。
「ルイ。彼とお前はどういう関係なのか」
「ど、どういう?」
「……答えなさい」
メルム様は微笑んだままだ。
でも、同時にすごく怒ってるのが分かった。
「と……友達、です」
「友達か」
「はい……」
出会ってまだ日は浅いけど、一緒に居るだけでなんだか落ち着くというか。
穏やかな温かさを感じるというか。
僕には、友情とか分からない。
でも多分、こういう感情なんだと思う。
「そうか」
メルム様は、少し思案する表情をした。
それからさっきよりも優しい笑みで。
「じゃあ彼を処分するのはやめておこう……でも会っては駄目だ」
「なんで……」
「ルイ。教えてあげよう」
「え?」
メルム様は僕の手から、そっとカップを取るとソーサーの上に置く。
カチャ、という微かな音。
耳の端で聞きながら、彼の瞳がじっと僕に注がれているのが居た堪れない気持ちになる。
「お前は、私のものだ」
ほとんど囁くような言葉が、耳朶に触れた。
ゾクリ、と悪寒に似た感覚が背中を駆け登る。
思わず顔を背け、距離を取ろうとしたが。
「逃げるな」
「っ、ぁ」
抱きすくめられた。
強く、まるで胸の中に閉じ込めるように。
苦しさに喘ぐと、彼が満足そうに笑うのが見えた。
「もう少し待つべきかと思ったが。仕方あるまい」
「っうぁ……!」
―――突然、心臓が大きく跳ね上がる。
急激に身体に熱が篭もり始め、先程の悪寒がひっきりなしに襲う。
「ぁ……、っ、はぁ、こ、これ、は……!?」
「効いてきたか。やはりお前にはこれくらいじゃないと、効き目が出ないのだな」
「えっ……な、何を……」
「私が調合させたのだよ。天使の嬌態。素敵な名前だろう」
「く、薬?」
……まさか、あの紅茶に盛られたのか。
既にテーブルの端に寄せられた茶器が、えらく遠くに思える。
視界まで、おかしくなってしまったらしい。
メルム様は、混乱する僕の頬を優しく撫でた。
「お前は少し特殊らしいね。大抵の毒や薬は解毒してしまい、効きやしない。だけど」
「あっ……ぅ、ふ……っ」
その大きくて華奢な指が、僕の顔や身体に触れる度に。
いや。空気のわずかな動きですら、不穏な熱と感覚を煽る。
「ようやく見つけたよ。お前を、気持ちよくさせてやれる薬を」
「っや、ぁ……こ、こわ、いぃ……」
高熱に魘された時のような。いや、比べ物にならない。
ぞわぞわと鳥肌が立って、身体が不用意に震えて跳ねてしまう。
あと……。
「ふむ。ここはどうかな」
「ひ、ぃっ……な、何を……っ」
完全に、長椅子に押し倒された身体。
大きな手が這い回る。
力なく抗おうと、上げた腕も纏めて押さえられてしまう。
―――下半身……おおよそ他人が触れることの無かった所。
下着ごと、強引に下げられる。
「ふふっ、なるほど」
空気に触れたソコは、目にすることも憚られる状態だ。
笑みをたたえた言葉に、僕は泣き出してしまいそうだった。
「み、見ない、でぇぇ……や、だ……ぁ」
「恥ずかしがる事はない。あぁ、綺麗だ。誰も受け入れたことの無い……私だけの」
メルム様こそ、熱に浮かされたような。
そんな声色で囁く。
そして薄く形の良い唇を舐めて、言葉を継ぐ。
「ずっと待ってた。この時を……なぁ、瑠偉」
―――僕はこの日、魔王に穢された。
「え」
―――唐突だった。
いつもより、大きな足音を立てて入って来たマト。
僕もアラウネ達もお喋りをやめて、振り返る。
「あ、あいつって……メルム様の事かな」
親子? 保護者? 居候?
眷属、ではないし。部下でもない。
『この子はメルム様の特別よ!』
『そうよ!』
『親子以上の関係よ!』
『アンタなんかに付け入る隙はないワ!』
呆然としている僕の代わりとばかりに、アラウネ達が叫ぶ。
「特別……! 愛人か」
「あああああ、愛人!?」
僕が彼の?
「んな訳ないでしょ!?」
だいたい僕は男だ!
もう幼い子供じゃないから、ある程度分かってるつもりだし。
この前も、家臣と『跡継ぎが』とか『そろそろ御結婚を』なんて言われて、苦々しい顔していたっけ。
魔王でも、人間と同じで生き物としての種の保存には逆らえないのだと思う。
もし、メルム様にお嫁さんが……上手くやれると良いのだけれど。
贅沢言うと、可憐で穏やかで可愛いタイプの人だと嬉しいかも。
城に仕えるメイド妖精のサールみたいな。
……別に僕の好みがって訳じゃないけど。
「じゃあなんだよ」
「何って。君しつこいなぁ」
なんか今日のマト、変だ。
距離は近いし、顔は怖いし。
僕は考え考えて渋々、答える。
「強いて言うと。養父かな?」
「お前は父親とキスするのか」
「え゙」
見てたの、なんて聞けなかった。
視線を何故か泳がせながら、言い訳めいた言葉を口にする。
「お休みのキス、みたいなものだよ? 」
「唇にしねぇだろ。舌も入れねぇし」
「え……? そう、なの」
「……」
恐る恐る聞くと、信じられないモノを見るような目で見られる。
途端、ぶわっと色んな感情が湧き上がってきた。
……罪悪感、疑問、困惑、羞恥。
唇を震わせて立ち尽くす僕は、彼が距離を詰めて来たことに気が付かなかった。
「おい」
「っ!?」
僕とマトの距離は、ほとんど鼻先が触れ合う程までで。
思わず仰け反ろうとすれば、後頭部を掴まれて腰を強く抱き寄せられる。
「な、何!?」
「父親代わりと、こんなキスなんて有り得ねぇだろ」
「だって、だって、僕は……」
言えなかった。
……小さい頃から、これがメルム様との生活だった、なんて。
壊れた玩具のように、繰り返す僕。
エメラルドグリーンの瞳が、苛立ったように細められる。
「じゃあ、俺ともしてみようぜ」
「え?」
「キス、しろよ」
「ま、マト!?」
「ほら。お休みのキス、みたいにさ」
「っ、そんな……駄目、だよ」
既に、唇同士が触れるか触れないかの距離。
……逃げられない。
「なんでだよ」
マトが苛立ったように、囁く。
「なぜ、俺は駄目なんだ。あいつは良くて、俺は駄目なんだ」
「それ……は……」
心のどこかで分かり始めていたのかもしれない。
このキスは、他に意味があるって。
だから罪悪感も感じていたし、何より怖かった。
口にしたら、大切な何かが変わってしまうかも、って……。
―――わずかに触れたのを感じて、僕が目を強く瞑った瞬間。
「……薄汚い、ガキが」
吐き捨てられる、冷たい声。
「っぐぁ!」
くぐもった打撲音と、悲鳴。
……慌てて目を開ける。
「マト!?」
1mほど吹っ飛んで、倒れ込む姿。
そして、ゆらりと隣に人影が立った。
「め、メルム様」
「ルイ。大丈夫か?」
黒い瞳。
まるで塗りつぶしたように深い色。
優しげな声で、僕を覗き込む。
「はい……でも」
マトが、と彼を見ると。
よろよろと起き上がる最中で、少し安堵した。
どうやら、横からメルム様が彼を殴り飛ばしたらしい。
魔法も使ったのかもしれない。
地面がえぐれ、薄く煙が上がっている。
「人間の言葉に『泥棒猫』という表現があるが、正にそれだな……ふん、その卑小さは猫と言うより鼠だが」
「くっ、くそ。この、変態野郎が!」
ぺっ、と血の混じった唾を吐いてマトは睨み付けた。
対して、メルム様はうんざりとした様子でため息をつく。
「変態? お前も言うか……ったく。揃いも揃って」
「なんにも知らねぇこいつに、何してんだよッ」
「……それはお互い様だろう。人のモノに手を出して説教とは、片腹痛い」
「こいつはお前のモノじゃねぇ!」
「いいや、私のものだ。なんびとたりとも渡さぬ。例え貴様とて。分かったらサッサと失せろ……死にたくなければな」
「くっ……」
マトは唇を噛み締めながら、足を引きずるように出て行った。
それに心配する声を掛けることも出来ず、その場に馬鹿みたいに佇む。
そんな僕を、メルム様は包み込むように抱き締めた。
「ルイ、可哀想に。怖かっただろう」
「メルム様、僕……」
「何も言わなくて良い。私の部屋に来なさい」
それは有無を言わせぬ声色。
しっかりと抱き込まれた肩に感じる微かな痛み。
心に感じた違和感……警報のように、胸が重く痛む。
「ルイ」
もう一度呼ばれた名に、僕は辛うじて頷いた―――。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□
「まずは、紅茶でも飲みなさい」
「はい……ありがとうございます」
目の前に出された、ティーカップ。
繊細な薔薇の模様が、目に鮮やかだ。
立ち上る湯気と香りは、いつものとは少し違う……ハーブティーだろうか。
甘いような、胸の中がゾワゾワする香り。
「どうした」
「い、いえ……頂きます」
唇をそっと、カップに付ける。
砂糖が入っているらしく、軽い甘みが舌に触れた。
「この前、サールが買ってきてね。なかなか良い香りだろう?」
「えぇ。そうですね」
確かに不快ではない。
むしろ飲めばさらに感じる花のような香り……でも、やっぱりその奥に感じる不穏な気配。
―――メルム様は二人がけの長椅子の、隣に座って言う。
「ルイ。もうあの少年と会うのはやめなさい」
「……」
穏やかな声だった。
メルム様は、剣も魔法の腕も優秀だ。
それでも無闇に力を振るう方ではない。そんな方が、あれほどまでに怒るなんて。
「マトは、悪くないんです」
「……ほぅ?」
僕の言葉に、目の前の黒い瞳が剣呑さを帯びる。
その一瞥で、喉が干からびてしまう錯覚に陥って、慌てて紅茶を飲む。
「僕が、多分……悪いんです」
……突然強引に迫られて、キスされた。
そんなことをされて、何故僕は彼を庇うのだろう。
自分でもよく分からない。
ただ、このままメルム様がマトを怒り続けるのだけは避けたかった。
「ルイ。彼とお前はどういう関係なのか」
「ど、どういう?」
「……答えなさい」
メルム様は微笑んだままだ。
でも、同時にすごく怒ってるのが分かった。
「と……友達、です」
「友達か」
「はい……」
出会ってまだ日は浅いけど、一緒に居るだけでなんだか落ち着くというか。
穏やかな温かさを感じるというか。
僕には、友情とか分からない。
でも多分、こういう感情なんだと思う。
「そうか」
メルム様は、少し思案する表情をした。
それからさっきよりも優しい笑みで。
「じゃあ彼を処分するのはやめておこう……でも会っては駄目だ」
「なんで……」
「ルイ。教えてあげよう」
「え?」
メルム様は僕の手から、そっとカップを取るとソーサーの上に置く。
カチャ、という微かな音。
耳の端で聞きながら、彼の瞳がじっと僕に注がれているのが居た堪れない気持ちになる。
「お前は、私のものだ」
ほとんど囁くような言葉が、耳朶に触れた。
ゾクリ、と悪寒に似た感覚が背中を駆け登る。
思わず顔を背け、距離を取ろうとしたが。
「逃げるな」
「っ、ぁ」
抱きすくめられた。
強く、まるで胸の中に閉じ込めるように。
苦しさに喘ぐと、彼が満足そうに笑うのが見えた。
「もう少し待つべきかと思ったが。仕方あるまい」
「っうぁ……!」
―――突然、心臓が大きく跳ね上がる。
急激に身体に熱が篭もり始め、先程の悪寒がひっきりなしに襲う。
「ぁ……、っ、はぁ、こ、これ、は……!?」
「効いてきたか。やはりお前にはこれくらいじゃないと、効き目が出ないのだな」
「えっ……な、何を……」
「私が調合させたのだよ。天使の嬌態。素敵な名前だろう」
「く、薬?」
……まさか、あの紅茶に盛られたのか。
既にテーブルの端に寄せられた茶器が、えらく遠くに思える。
視界まで、おかしくなってしまったらしい。
メルム様は、混乱する僕の頬を優しく撫でた。
「お前は少し特殊らしいね。大抵の毒や薬は解毒してしまい、効きやしない。だけど」
「あっ……ぅ、ふ……っ」
その大きくて華奢な指が、僕の顔や身体に触れる度に。
いや。空気のわずかな動きですら、不穏な熱と感覚を煽る。
「ようやく見つけたよ。お前を、気持ちよくさせてやれる薬を」
「っや、ぁ……こ、こわ、いぃ……」
高熱に魘された時のような。いや、比べ物にならない。
ぞわぞわと鳥肌が立って、身体が不用意に震えて跳ねてしまう。
あと……。
「ふむ。ここはどうかな」
「ひ、ぃっ……な、何を……っ」
完全に、長椅子に押し倒された身体。
大きな手が這い回る。
力なく抗おうと、上げた腕も纏めて押さえられてしまう。
―――下半身……おおよそ他人が触れることの無かった所。
下着ごと、強引に下げられる。
「ふふっ、なるほど」
空気に触れたソコは、目にすることも憚られる状態だ。
笑みをたたえた言葉に、僕は泣き出してしまいそうだった。
「み、見ない、でぇぇ……や、だ……ぁ」
「恥ずかしがる事はない。あぁ、綺麗だ。誰も受け入れたことの無い……私だけの」
メルム様こそ、熱に浮かされたような。
そんな声色で囁く。
そして薄く形の良い唇を舐めて、言葉を継ぐ。
「ずっと待ってた。この時を……なぁ、瑠偉」
―――僕はこの日、魔王に穢された。
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すごい面白いです!マトをトマトと見間違えてしまうことがあり、その度にめっちゃ笑いました。
これからも応援してます!
感想をありがとうございます。
気が合いますね!
俺もよく打ち間違えます……そして名付けの難しさを再確認するのです。
笑って頂けて嬉しいです。
続きが気になる展開で面白かったです!!
更新頑張ってください🥺
ありがとうございます!
頑張って書きますので、また覗いてやって頂けたら幸いです。
前世の記憶と引き換えに今世の記憶を忘れるというのは新しいなぁと思います……!
前世の親友と今の彼と主人公の記憶と不思議な剣……!謎がいっぱいで先が気になります。
詳しいことが分からないだけにこれからが楽しみです♪
嬉しい感想ありがとうございます!
頑張って書きますので、また覗いてやって頂けたらありがたいです。