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青春逃避派の憂鬱
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「なんで僕まで……」
教師たちにはこってりと絞られるわ学校中のヒソヒソと目線が痛いわで、雪翔にとって散々な一日の放課後。
「そりゃそう」
亜梨華が半笑いで返す。
「ユキちゃんの婚約者? が中学生とか。ぶっちゃけ草生え散らかすわ」
「……うるさい、それもこれも君の弟のせいでもあるんだからな」
図星突かれて苦し紛れの八つ当たりなのは彼自身わかっていた。
なにせ婚約者が五つも年下の中学生で、しかも拡声器持って高校に押しかけて来るとは予想外だったのだ。
当然現場は騒然、からの教師も出動で大騒ぎ。
四人はすぐさま校長室に呼び出されてそれはもうお説教を頂いたのだけれど。
「てっきり謹慎とかされるかと思ってヒヤヒヤしたわよ」
「ほんとにな……小金持ちで良かった、のか?」
地元公立高校なのでどれほど影響力があるかは分からないが、なんとか厳重注意で収まって良かったとは思った。
「それにしても面白い子だったわねぇ」
「うるさい、他人事だと思って。っていうか僕はさすがに認めないぞ」
――中学生が婚約者だなんて。
役立たずだとか無能オメガだとかは聞き飽きたし慣れているが、それにショタコンの罵倒も加わるなんて考えただけでおぞましいと顔をしかめる。
「なにかの間違いに違いないんだ」
母が話した計画はあくまで卒業後にお飾りの妻となるだけで、一年後には不妊によって離婚されるはずなのだ。
しかし相手が中学生ならばそれも叶わない。
「そもそもすぐ結婚なんて無理だろうが!」
「え、結婚したかったの? マジで?」
彼女に軽くドン引きされから雪翔は慌ててかぶりを振り。
「い、いやそういうワケじゃなくてね」
聞いていた話と違うという混乱であって、別にあの彼とどうこうなりたいということでは無いと弁解した。
「まあそれならいいけどさ」
彼女が少し意地の悪い顔をして横腹をつついてくる。
「うちの可愛い弟を誑かして泣かすことだけしないでくれたまえよ、魔性の男さん?」
「……それやめて、マジで違うから」
あれからも大騒ぎだった。
怒鳴り合い殴り合いに発展寸前の高校生と中学生は教師たちに取り押さえられながらも、雪翔への愛の言葉を叫びまくる。
「ありゃあドえらい修羅場だったわ」
「こっちはいい迷惑だよ」
それから学校中に魔性だの小悪魔だの、挙句にはママ活 (だれがママだと小一時間問い詰めたい気分になったと雪翔は後に語った)
「とにかく僕は中学生と結婚する気はないから!」
だからショタコンじゃない、と声を大にするが当然のように問題はそっちではない。
「っていうかえらく気に入られちゃったじゃん、あの婚約者君に」
「だからまだ婚約者じゃ……」
確かに家同士の事もあるが、五つも年上の婚約者など気が進まないどころか下手すれば嫌われても仕方ないだろうに。
「熟女好きとか?」
「だれが熟女だ、だれが」
いつになく毒舌な亜梨華を軽く睨めつければ逆に牽制するような目で一言。
「くれぐれも響也の気持ちを弄ぶようなことはしないでね」
「え゙っ」
弄んだつもりは無い。しかしずっと好意を向けられているのは知っていた。
「でも僕みたいなオメガと付き合うなんて不幸になるだけだろ」
血の繋がった肉親より大切な彼らには幸せになってほしいのは当たり前だ。
「決めつけないでよ。少なくもあの子は本気だし、ユキちゃんのためならどんな地獄の中でも幸せだって笑うっての」
「……」
「そりゃあユキちゃんの気持ちも理解出来る。だからこそムカつくんだよね」
ぽん、とふいに亜梨華に頭を撫でられた。
「私たちの可愛い幼なじみの悪口はそこまでよ、ユキちゃん?」
「亜梨華……」
家族には恵まれなかったがここまで自分を好いてくれる人達がいる。
これはとても幸せなことだ。だからこそ臆病になってしまう。
――僕はどうしたらいいんだろう。
自分がオメガと知った日からずっと自問自答してきた。
希少価値はあれど社会的立場はやはり低いのがオメガ性。大多数がアルファと番ことで庇護されながら生きているのが現状だ。
いくら優秀であろうとも社会的強者であるアルファとは違う。
特に自身のような出来損ないには――というのは口に出せばまた叱られてしまうだろうと笑って誤魔化した。
「ユキちゃんったらまた余計なこと考えてる」
そうふくれっ面した幼なじみの頭を今度は雪翔が撫でる。
「ありがとな、亜梨華」
オレンジ色の光が差す街。
そうこうするうちに日が暮れるだろう。
二人の影を踏む者が現れた。
「姉ちゃん!」
雪翔が飛んできた声に慌てて振り向くとそこには息を弾ませた響也が。
「距離がッ、近い!! 」
「え?」
「いくら姉ちゃんでもユキちゃんはわたさねぇぞ!」
キッと実の姉を睨みつけている様はなんだか勝気な幼児のようだ。
「ユキちゃんオレは絶対に諦めないからな!」
「響也……」
「あんなガキにもわたさないし、絶対に惚れさせてやる」
まるで宣戦布告のような告白。色気のひとつもありゃしない。しかしこれ以上ないというほど真っ直ぐな言葉に雪翔はショックに似た気持ちになる。
――困ったな。
生意気で可愛い弟のように思っていたのに。
だからこそあの時のキスで一瞬だけ揺らいだ自分が許せなかったりする。
「バーカ! アンタにはまだまだ早いわよーだ!!」
助け舟のように代わりに怒鳴り返したのは亜梨華だった。
「もっともっと頑張んないとアタシがかっさらっちゃうもんね!!」
「ふざけんなッ、姉ちゃん!」
「オーッホッホッホ! いつでもかかってきなさーい」
「くそぉぉぉっ!!!!」
はからずとも突如として始まった姉弟喧嘩 (姉の方は遊んでいるようだが)に救われる形になってしまったようだ。
――好き、か……。
青春みたいだなぁ、なんて雪翔はまるで他人事ような気分でいた。
教師たちにはこってりと絞られるわ学校中のヒソヒソと目線が痛いわで、雪翔にとって散々な一日の放課後。
「そりゃそう」
亜梨華が半笑いで返す。
「ユキちゃんの婚約者? が中学生とか。ぶっちゃけ草生え散らかすわ」
「……うるさい、それもこれも君の弟のせいでもあるんだからな」
図星突かれて苦し紛れの八つ当たりなのは彼自身わかっていた。
なにせ婚約者が五つも年下の中学生で、しかも拡声器持って高校に押しかけて来るとは予想外だったのだ。
当然現場は騒然、からの教師も出動で大騒ぎ。
四人はすぐさま校長室に呼び出されてそれはもうお説教を頂いたのだけれど。
「てっきり謹慎とかされるかと思ってヒヤヒヤしたわよ」
「ほんとにな……小金持ちで良かった、のか?」
地元公立高校なのでどれほど影響力があるかは分からないが、なんとか厳重注意で収まって良かったとは思った。
「それにしても面白い子だったわねぇ」
「うるさい、他人事だと思って。っていうか僕はさすがに認めないぞ」
――中学生が婚約者だなんて。
役立たずだとか無能オメガだとかは聞き飽きたし慣れているが、それにショタコンの罵倒も加わるなんて考えただけでおぞましいと顔をしかめる。
「なにかの間違いに違いないんだ」
母が話した計画はあくまで卒業後にお飾りの妻となるだけで、一年後には不妊によって離婚されるはずなのだ。
しかし相手が中学生ならばそれも叶わない。
「そもそもすぐ結婚なんて無理だろうが!」
「え、結婚したかったの? マジで?」
彼女に軽くドン引きされから雪翔は慌ててかぶりを振り。
「い、いやそういうワケじゃなくてね」
聞いていた話と違うという混乱であって、別にあの彼とどうこうなりたいということでは無いと弁解した。
「まあそれならいいけどさ」
彼女が少し意地の悪い顔をして横腹をつついてくる。
「うちの可愛い弟を誑かして泣かすことだけしないでくれたまえよ、魔性の男さん?」
「……それやめて、マジで違うから」
あれからも大騒ぎだった。
怒鳴り合い殴り合いに発展寸前の高校生と中学生は教師たちに取り押さえられながらも、雪翔への愛の言葉を叫びまくる。
「ありゃあドえらい修羅場だったわ」
「こっちはいい迷惑だよ」
それから学校中に魔性だの小悪魔だの、挙句にはママ活 (だれがママだと小一時間問い詰めたい気分になったと雪翔は後に語った)
「とにかく僕は中学生と結婚する気はないから!」
だからショタコンじゃない、と声を大にするが当然のように問題はそっちではない。
「っていうかえらく気に入られちゃったじゃん、あの婚約者君に」
「だからまだ婚約者じゃ……」
確かに家同士の事もあるが、五つも年上の婚約者など気が進まないどころか下手すれば嫌われても仕方ないだろうに。
「熟女好きとか?」
「だれが熟女だ、だれが」
いつになく毒舌な亜梨華を軽く睨めつければ逆に牽制するような目で一言。
「くれぐれも響也の気持ちを弄ぶようなことはしないでね」
「え゙っ」
弄んだつもりは無い。しかしずっと好意を向けられているのは知っていた。
「でも僕みたいなオメガと付き合うなんて不幸になるだけだろ」
血の繋がった肉親より大切な彼らには幸せになってほしいのは当たり前だ。
「決めつけないでよ。少なくもあの子は本気だし、ユキちゃんのためならどんな地獄の中でも幸せだって笑うっての」
「……」
「そりゃあユキちゃんの気持ちも理解出来る。だからこそムカつくんだよね」
ぽん、とふいに亜梨華に頭を撫でられた。
「私たちの可愛い幼なじみの悪口はそこまでよ、ユキちゃん?」
「亜梨華……」
家族には恵まれなかったがここまで自分を好いてくれる人達がいる。
これはとても幸せなことだ。だからこそ臆病になってしまう。
――僕はどうしたらいいんだろう。
自分がオメガと知った日からずっと自問自答してきた。
希少価値はあれど社会的立場はやはり低いのがオメガ性。大多数がアルファと番ことで庇護されながら生きているのが現状だ。
いくら優秀であろうとも社会的強者であるアルファとは違う。
特に自身のような出来損ないには――というのは口に出せばまた叱られてしまうだろうと笑って誤魔化した。
「ユキちゃんったらまた余計なこと考えてる」
そうふくれっ面した幼なじみの頭を今度は雪翔が撫でる。
「ありがとな、亜梨華」
オレンジ色の光が差す街。
そうこうするうちに日が暮れるだろう。
二人の影を踏む者が現れた。
「姉ちゃん!」
雪翔が飛んできた声に慌てて振り向くとそこには息を弾ませた響也が。
「距離がッ、近い!! 」
「え?」
「いくら姉ちゃんでもユキちゃんはわたさねぇぞ!」
キッと実の姉を睨みつけている様はなんだか勝気な幼児のようだ。
「ユキちゃんオレは絶対に諦めないからな!」
「響也……」
「あんなガキにもわたさないし、絶対に惚れさせてやる」
まるで宣戦布告のような告白。色気のひとつもありゃしない。しかしこれ以上ないというほど真っ直ぐな言葉に雪翔はショックに似た気持ちになる。
――困ったな。
生意気で可愛い弟のように思っていたのに。
だからこそあの時のキスで一瞬だけ揺らいだ自分が許せなかったりする。
「バーカ! アンタにはまだまだ早いわよーだ!!」
助け舟のように代わりに怒鳴り返したのは亜梨華だった。
「もっともっと頑張んないとアタシがかっさらっちゃうもんね!!」
「ふざけんなッ、姉ちゃん!」
「オーッホッホッホ! いつでもかかってきなさーい」
「くそぉぉぉっ!!!!」
はからずとも突如として始まった姉弟喧嘩 (姉の方は遊んでいるようだが)に救われる形になってしまったようだ。
――好き、か……。
青春みたいだなぁ、なんて雪翔はまるで他人事ような気分でいた。
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