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罠を仕掛けるマッチ売りの少女♂
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オレは朝からイライラしていた。
久しぶりに立ち寄った家で、母さんとその客だろう男が朝っぱらからみっともなく盛ってるのを目にしちまったからだ。
「チッ」
あー、胸糞悪ぃ。
なにが悲しくて、あんな化粧濃いババアと汚らしいオッサンとのセックス見せられなきゃならないんだよ。
しかもオレに気づいた母さんの第一声はこれ。
『何見てんの、見物料とるよ』
そしてケラケラ笑いやがるからムカつく。
まったく恥じらいってもんがねえのかよ、この淫売が。
そりゃあオレがガキの頃から身体売って生計立ててたんだから、そんな感覚ないだろうけどな。
でもやっぱり目にして楽しいもんでもない。
むしろウンザリする。
しかもだ、オッサンの方もイカれてんのかオレに向かって言いやがった。
『おぉ、野郎のわりには綺麗なナリしてんじゃねえか。どうだ、お前にもイイ客紹介してやるぜ』
俺はオトコに興味ねぇからお前の母ちゃんとヤるけどな、なんて黄ばんだ歯を剥き出しにしながらまたセックス再開するクソ野郎共。
『やぁんっ♡♡ もうっ、ダメよぉ♡♡ あの子はもっと……あぁんっ♡♡ ほらノア、いつまで見てんよ、この変態!』
母さんにそんな言葉を投げつけられ、オレは情けなくも何も言えず立ち去った。
「あの色キチガイめ」
注射針の痕、散乱する酒瓶。男と女の嬌声をベッドで震えながら聞く夜。
もうウンザリだ。全部がイヤになる。
別に自分自身が特別悲惨だとか、可哀想だなんて思ってない。でもどう足掻いたって、こんなの底辺這いずり回ってるだけだろ。
「くそっ!」
路地で眠っている猫を蹴飛ばして八つ当たり。
メス猫はふぎゃっ、とわめいて走って消えていった。
やっぱりなんの気も晴れない。
「ハァ」
十数日目になるが、そろそろキツくなるんじゃないか。この稼ぎ方は。
面が割れてきて警戒だってされる頃だろうし、下手すりゃ路地裏に引きずり込む前に警察のお世話になるかもしれない。
でも次にどう稼げばいいかなんて思いつかないんだけどな。
「うーあー、マッチいりませんかー」
もうやけっぱちの棒読み。だってやる気なんて微塵もない。
人だってまばらだし、そろそろ警戒されてるのか潮時なのか客が引っかかる気配すらないんだ。
「めんどくせ……帰るか」
色々とイヤになってきた。つーか、なんでこんなバカみたいな格好してんだろ。
もうやめた。すぐに仲間の元に帰って、他の稼ぎを探すように言おう。もしくはこの街を出ることも考えなきゃならないかもしれない。
また一つ深いため息をつき歩き出そうとすると。
「おい、君」
聞き覚えのある声がかけられた。
振り返るのが億劫だが仕方ない。首だけ向けると。
「今日はおしまいか」
と、やはりこの前の男。
また少し嫌な予感がした。
「あ……だ、旦那」
慌てて女声をつくるが表情は取り繕えただろうか。
「買いたいのだが」
今日もマッチが欲しいのか、この男。
相変わらず見るからに上等そうなスーツを隙なく着こなして、薄く笑みを浮かべている。
そこが妙に胡散臭いというか不気味というか。
下手に顔が良すぎるからかもしれない。これでどこにでもいるだらしない身体のオッサンなら、オレだってこうまで警戒しないんだけど。
「あ、はい。どうぞ……」
カゴからマッチを手にして差し出す。しかし。
「いや。違うな」
「え?」
男は半歩、距離を詰めた。
「買いたいのは君だ。ノア」
「!?」
ちょっと待て、こいつなんでオレの名前知ってんだ。
本名は誰にも晒してないはず。名前を聞かれてもはぐらかすか、 アリスとかマリアとかの適当な名前を名乗ってたのに。
「お、お前なんで」
「ふむ。やはり素の君が一番魅力的だな」
「~~~っ!!!」
オレの頬にやつの指が触れた。その瞬間、背中がゾワッとする。
慌てて後ろに飛びのこうとしたが。
「おっと、逃げないでくれよ」
「!」
相手の方が上手だったらしい。素早くマッチを持ってた方の手首を捕まれた。
鈍い痛みに顔が歪むのがわかる。
「い゙っ……!?」
「おや。すまない」
全然悪びれた様子もなく、むしろどこか楽しそうな声で男は続けた。
「お手当てなら、いくらでもはずもうじゃないか。この前の倍か、別に三倍でもいいが」
「なっ、なに言ってんだテメェ」
本気で金は払う気なのか? だとしてもかなり怪しい。
でもこのままじゃ、どちらにせよあまり良いことにはならなさそうだな。
まずはこの状態をなんとかしないと。
「痛ぇ……いや、痛いから離して欲しい」
つとめて平然と。でもあまり生意気に聞こえないように口を開く。
「わかったから、金はあとで要相談ってことで。まずは手を離して。痛くて仕方ないよ」
あまり哀れっぽく言うのも得策じゃないな。ナメられすぎるのもダメだ。あくまでこっちが主導権にぎらないと。
「ああなるほど。それは悪かった」
男はあっさり手を離し――たかと思いきや。
「でも逃げられては困る」
「!」
そのままひねり上げられ、もう片方もまとめて背中にまとめて拘束しやがった。
「くそっ、離せって言ってんだろオッサン!!」
暴れようにもガッチリ捕まえられて身動きすら取れない。周りの奴らも怪訝そうな不審げな視線をチラチラ送るだけで通り過ぎていく。
なんだってんだこいつ。やっぱりやばいヤツだったじゃないか!
「あまり騒がない方がいい。騒ぐと――」
そこで耳打ちするように。
「勢い余って、その綺麗な服を引き裂いてしまうかもしれないな。そうすれば君が女装癖のある少々ややこしい趣味の持ち主であると、周りにばれてしまうかもしれないが」
「は、はぁぁっ!?」
なにバカなって一瞬思ったが、確かにそうだ。
服の下は男物の下着だし、それすらもし下ろされたら……。
悔しくてムカついて仕方ないがしぶしぶうなずく。
すると男は満足そうに笑った。
「よし賢い子だな。さあ、案内してもらおうか」
「へ?」
案内ってなんだ。
「こういう商売は初めてではないのだろう? だとしたら、サービスを受けさせる場所も確保してると思うが」
なるほど。こいつガチでオレが身体売ってると思ってんのかよ、バカめ。
でもそれならそれでいい。
「あ、ああ。わかった」
上等だクズ野郎。あとで顔真っ青にして小便でもチビりやがれってんだ。
ほくそ笑むのをおさえながら、とりあえず大人しく従うことにした。
やつはこれ以上は抵抗されない思ったんだろう、片手だけ解放して。
「いい子だ」
カツラをかぶった頭をなでる。
オレは奥歯を強く噛み締めて耐えた。
久しぶりに立ち寄った家で、母さんとその客だろう男が朝っぱらからみっともなく盛ってるのを目にしちまったからだ。
「チッ」
あー、胸糞悪ぃ。
なにが悲しくて、あんな化粧濃いババアと汚らしいオッサンとのセックス見せられなきゃならないんだよ。
しかもオレに気づいた母さんの第一声はこれ。
『何見てんの、見物料とるよ』
そしてケラケラ笑いやがるからムカつく。
まったく恥じらいってもんがねえのかよ、この淫売が。
そりゃあオレがガキの頃から身体売って生計立ててたんだから、そんな感覚ないだろうけどな。
でもやっぱり目にして楽しいもんでもない。
むしろウンザリする。
しかもだ、オッサンの方もイカれてんのかオレに向かって言いやがった。
『おぉ、野郎のわりには綺麗なナリしてんじゃねえか。どうだ、お前にもイイ客紹介してやるぜ』
俺はオトコに興味ねぇからお前の母ちゃんとヤるけどな、なんて黄ばんだ歯を剥き出しにしながらまたセックス再開するクソ野郎共。
『やぁんっ♡♡ もうっ、ダメよぉ♡♡ あの子はもっと……あぁんっ♡♡ ほらノア、いつまで見てんよ、この変態!』
母さんにそんな言葉を投げつけられ、オレは情けなくも何も言えず立ち去った。
「あの色キチガイめ」
注射針の痕、散乱する酒瓶。男と女の嬌声をベッドで震えながら聞く夜。
もうウンザリだ。全部がイヤになる。
別に自分自身が特別悲惨だとか、可哀想だなんて思ってない。でもどう足掻いたって、こんなの底辺這いずり回ってるだけだろ。
「くそっ!」
路地で眠っている猫を蹴飛ばして八つ当たり。
メス猫はふぎゃっ、とわめいて走って消えていった。
やっぱりなんの気も晴れない。
「ハァ」
十数日目になるが、そろそろキツくなるんじゃないか。この稼ぎ方は。
面が割れてきて警戒だってされる頃だろうし、下手すりゃ路地裏に引きずり込む前に警察のお世話になるかもしれない。
でも次にどう稼げばいいかなんて思いつかないんだけどな。
「うーあー、マッチいりませんかー」
もうやけっぱちの棒読み。だってやる気なんて微塵もない。
人だってまばらだし、そろそろ警戒されてるのか潮時なのか客が引っかかる気配すらないんだ。
「めんどくせ……帰るか」
色々とイヤになってきた。つーか、なんでこんなバカみたいな格好してんだろ。
もうやめた。すぐに仲間の元に帰って、他の稼ぎを探すように言おう。もしくはこの街を出ることも考えなきゃならないかもしれない。
また一つ深いため息をつき歩き出そうとすると。
「おい、君」
聞き覚えのある声がかけられた。
振り返るのが億劫だが仕方ない。首だけ向けると。
「今日はおしまいか」
と、やはりこの前の男。
また少し嫌な予感がした。
「あ……だ、旦那」
慌てて女声をつくるが表情は取り繕えただろうか。
「買いたいのだが」
今日もマッチが欲しいのか、この男。
相変わらず見るからに上等そうなスーツを隙なく着こなして、薄く笑みを浮かべている。
そこが妙に胡散臭いというか不気味というか。
下手に顔が良すぎるからかもしれない。これでどこにでもいるだらしない身体のオッサンなら、オレだってこうまで警戒しないんだけど。
「あ、はい。どうぞ……」
カゴからマッチを手にして差し出す。しかし。
「いや。違うな」
「え?」
男は半歩、距離を詰めた。
「買いたいのは君だ。ノア」
「!?」
ちょっと待て、こいつなんでオレの名前知ってんだ。
本名は誰にも晒してないはず。名前を聞かれてもはぐらかすか、 アリスとかマリアとかの適当な名前を名乗ってたのに。
「お、お前なんで」
「ふむ。やはり素の君が一番魅力的だな」
「~~~っ!!!」
オレの頬にやつの指が触れた。その瞬間、背中がゾワッとする。
慌てて後ろに飛びのこうとしたが。
「おっと、逃げないでくれよ」
「!」
相手の方が上手だったらしい。素早くマッチを持ってた方の手首を捕まれた。
鈍い痛みに顔が歪むのがわかる。
「い゙っ……!?」
「おや。すまない」
全然悪びれた様子もなく、むしろどこか楽しそうな声で男は続けた。
「お手当てなら、いくらでもはずもうじゃないか。この前の倍か、別に三倍でもいいが」
「なっ、なに言ってんだテメェ」
本気で金は払う気なのか? だとしてもかなり怪しい。
でもこのままじゃ、どちらにせよあまり良いことにはならなさそうだな。
まずはこの状態をなんとかしないと。
「痛ぇ……いや、痛いから離して欲しい」
つとめて平然と。でもあまり生意気に聞こえないように口を開く。
「わかったから、金はあとで要相談ってことで。まずは手を離して。痛くて仕方ないよ」
あまり哀れっぽく言うのも得策じゃないな。ナメられすぎるのもダメだ。あくまでこっちが主導権にぎらないと。
「ああなるほど。それは悪かった」
男はあっさり手を離し――たかと思いきや。
「でも逃げられては困る」
「!」
そのままひねり上げられ、もう片方もまとめて背中にまとめて拘束しやがった。
「くそっ、離せって言ってんだろオッサン!!」
暴れようにもガッチリ捕まえられて身動きすら取れない。周りの奴らも怪訝そうな不審げな視線をチラチラ送るだけで通り過ぎていく。
なんだってんだこいつ。やっぱりやばいヤツだったじゃないか!
「あまり騒がない方がいい。騒ぐと――」
そこで耳打ちするように。
「勢い余って、その綺麗な服を引き裂いてしまうかもしれないな。そうすれば君が女装癖のある少々ややこしい趣味の持ち主であると、周りにばれてしまうかもしれないが」
「は、はぁぁっ!?」
なにバカなって一瞬思ったが、確かにそうだ。
服の下は男物の下着だし、それすらもし下ろされたら……。
悔しくてムカついて仕方ないがしぶしぶうなずく。
すると男は満足そうに笑った。
「よし賢い子だな。さあ、案内してもらおうか」
「へ?」
案内ってなんだ。
「こういう商売は初めてではないのだろう? だとしたら、サービスを受けさせる場所も確保してると思うが」
なるほど。こいつガチでオレが身体売ってると思ってんのかよ、バカめ。
でもそれならそれでいい。
「あ、ああ。わかった」
上等だクズ野郎。あとで顔真っ青にして小便でもチビりやがれってんだ。
ほくそ笑むのをおさえながら、とりあえず大人しく従うことにした。
やつはこれ以上は抵抗されない思ったんだろう、片手だけ解放して。
「いい子だ」
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オレは奥歯を強く噛み締めて耐えた。
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