【悲報】マッチ売りの少女♂とあるモノを売ってしまう

田中 乃那加

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マッチ売りの少女♂と、とある紳士

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 生まれてこの方、この街を出たことがない。
 まあまだ十代のガキと言われる歳だし、なにぶん金がない。金さえあれば、さっさとこんなクソみてぇな場所からおさらばするだろうよ。

「あー、だりぃ」

 思わずつぶやくくらい気分は最悪だった。
 なんせ天気がよくない。
 こんな掃き溜めみたいなところでも、晴れていたらそれなりに空も青いからな。

 それが今日はどうだ。
 どんよりとした灰色の雲が、今にも垂れ下がってきそうじゃないか。これで雨でもふってくれたら、さっさと撤収するんだがな。

「ふぁ……」

 やばい、ついに眠くなってきた。この天気のせいか客 (という名のカモ) になりそうな男もいないし。
 もうマジで今日はやめよっかな。

 と、思った時だった。

「――君、少し良いかね」
「へ?」

 えらく上から聞こえてきた低い声にオレは振り返る。そして思わず絶句して少し後ずさった。

「!」

 で、デカい。なんかすごくデカい男が目の前に立ちはだかっていたからだ。
 二メートルくらいはゆうにあるよな。いや、それ以上かも? とにかく背が高いだけじゃなくてガタイもすごい。

 決して太っていない。
 むしろ上等そうなスーツの上からでもわかる盛り上がった胸筋。腕もきっとかなり太いだろう。
 足は長くて、スタイルのめちゃくちゃ良いガチマッチョっていえばいいのか。

 こんな奴、ここらでも見たことない。だから驚いちまって声も出せなかった。

「どうした?」
「えっ……あ、す、すいません!」

 いぶかしげに男が口を開いて、ようやく言葉が継げる。

 そうだ、ビックリしたのは筋肉だけじゃない。その顔もだ。

「驚かせてしまったな、すまない」

 少し下げた濃い眉毛は凛々しく、エメラルドグリーンの瞳の周りには長くて濃いまつ毛。
 鼻筋も通っていて、その下の少し厚めな唇もなにもかも形が良い。

 つまり超絶美形だってこと。よく知らないが、女たちがもてはやす舞台俳優ってのはきっとこういう色男のことをいうんだろう。

 男とか女とか以前に、未知の美術品みたいだなんて思った。

「い、いえ。すいません。あ、あたし……ボーッとしちゃって」

 ようやく女声で返事出来たがどうにも調子が出ない。
 見たところ、年齢もそんなにいってないから一体なんの用でオレに話しかけてきたのか。

「ええっと。マッチいかがですか?」

 ここは一応、商売しておけばいいか。
 我ながらマヌケな顔してると思うが、なんとかいつもみたいに幸薄そうな笑みを浮かべる。

「ふむ。もらおうか」
「あ、はい」

 とりあえずカゴの中のマッチを取りつつ、上目遣いで男をみつめる。

「これでいい、ですかぁ……?」

 これはもう普通にマッチ買わせて帰ってもらった方がいいのかもしれない。
 なんかこいつに美人局するのはマズイ気がするんだよな。

「いや違うな」
「えっ!」

 男の手がオレの腕を掴む。慌てて引っ込めようとするが遅かった。

「全部だ」
「へ?」

 サッと取り上げられたカゴ。男は小さく微笑んだ。

「全て買う。これで足りると良いが」

 そう言うと中身である安物のマッチを取ってポケットに詰め込んで、代わりに。

「!!!」

 見たこともない分厚い札束をいくつもカゴに放り込んで、こちらにわたしてきた。

「こ、こんなに……」
「それは正当な対価だ、受け取りなさい」

 これホンモノかと確かめたいが耐えつつ。

「本当に良いんですか」

 と精一杯の媚び顔を作ってやった。
 なんていうか、少しだけサービス? やっぱりこっちも商売だからな。
 それにこれでこの男に美人局をする理由はないだろう。変に欲張っても、ロクなことにならない。

 そんな気がする。

「ありがとうございます」

 ぺこりと頭をさげると。

「いや良い。言っただろう、これはと」
「は、はぁ……」

 なんかよく分からんがいいか。

 男の姿を何度も頭を下げて見送って、オレは意気揚々と仲間たちの元へ帰った。




※※※

「おいマジかよ、これ!」
「どうやってたらしこんだんだ!?」
「やべぇ!! 大金じゃねーか!」

 口々に声をかけられながら、オレはとりあえず自分を落ち着けるためにタバコを吸う。
 そろそろこれも残り少ないな。あ、でも今回で買えるのか。

「ノア。こんな金、どうやって手に入れた?」

 リーダーにいぶかしげに問われたが、そんなもんこっちが聞きたいね。
 
 あの男、結局なにも要求することなく大量のマッチだけ買って去って行きやがった。
 なんつーか。それはそれで……いや、別に何かされたかったとかじゃないぞ。オレは変態でもなんでもないからな。

 でも妙な気分なのは拭いきれない。嫌な予感? というか。

「とにかく、今日はノアの手がらだ。これからもしっかり頼むぜ」
「あ、あぁ……」

 周りやリーダーにそう言われ肩を叩かれ、何だか釈然としないがうなずく。
 ていうか、いつまでこんな事すりゃいいんだろう。

 自分の格好を見下ろし、ひどく惨めな気持ちになった。








 
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