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アキラ篇 (3)

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「ミロちゃん。あの脱走の後、ホームに戻ってから導師に何をされたの?」
ミロは、ベッドの上で体の向きを変え、アキラを見た。
「何を、って?」
「ホームで脱走して連れ戻されると導師に折檻される、って。みんな噂してた。実は、僕はすごく気になってた。あの後も僕たちは、その……こうして関係を続けてた。導師にバレないように。僕、正直に言うけれど、あんなふうに脱走した女の子たちと寝てた。ミロちゃんだけじゃない。でも、ホームに戻った後も続けてたのはミロちゃんだけだった」
アキラは、まるで積年の思いを吐き出さずにいられないかのように、言葉を止めることができなかった。
ミロは、アキラが脱走した他の少女たちとも関係しているのを知っていた。
「ミロちゃんだけは、他の女の子とは違っていた。僕にとって、ミロちゃんは僕の空洞を埋めてくれる人だった。僕は……」
ミロは、人差し指を立ててアキラの唇に当てた。
「ミロちゃん……僕は…」
ミロは、自分にはアキラを救えないことをわかっていた。アキラは、彼自身の地獄と向き合うしかない。ミロがそうしているように。
ミロにできるのは、アキラと寝ることだけだった。ミロはアキラに救われていたと思っていたけれど、実際に、アキラを救っていたのはミロだった。
心が疲弊してどうしようもないとき、誰かに抱きしめられたい、と願う。そのとき、たまたまそこにいる相手が、ミロにとってはアキラであり、アキラにとってはミロだった。身体の筋肉が疲労して痛むときに、手近な温泉につかるようなものだ。それ以上でもそれ以下でもない。ミロは、アキラとの関係がそういうものであることを、当に理解していた。それは、恋愛でもなければ、ましてや愛と呼べるものでもない。アキラにそれがわからないのは、ミロの問題ではない。ミロには、アキラの空洞を埋めることはできない。ミロにはそれがわかっていたけれど、アキラはミロに幻想を抱き続ける。

導師が、ミロにした「折檻」は、ミロにとってはさほど耐え難いものではなかった。導師はミロの性器の中にいろいろなものを入れて、ミロがいくのを観察した。ときどき「ホーム」の他の幹部たちが、その様子を観察しに来たり、時にはその場で導師の許可を得て、ミロの性器に触れたり舐めたりした。ミロの陰毛を剃り落として、興奮する幹部もいた。
性器の中にペニスを入れるのは、導師だけだったけれど、そのときには必ずコンドームを着けた。二人が性交するのを、女性に限って他の幹部が観察することもあった。そんなときであっても、ミロは耐えられずに何度も絶頂に達した。ミロは、性欲や性的な快感と精神的な結びつきは、別物であることを、かなり早いうちに理解していた。
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