34 / 143
再会は壁ドンで
再会は壁ドンで③
しおりを挟む
急遽行われた私の歓迎会には、十数名の医局員が来てくれた。
元々、常時大学病院に勤務しているのはこれくらいの人数らしい。
残りは関連病院と大学病院を行ったり来たりしていて、なかなか全員がそろうということはないそうだ。
大学近くの焼き肉屋『いちばん』で歓迎会が始まる。
他科と違い、現在脳外科医局の医局員はほぼ男性。
今回の歓迎会でも、女性は私と菜々ちゃんだけだった。
そんな状況だけど、菜々ちゃんは臆することなく、とても自然に溶け込んでいた。
2年勤務しているわけだから当然か……。
この9月から教授に就任されたという黒川教授は、父親より少し上の世代でとても優しい先生だった。
菜々ちゃん談だが、黒川教授は他大学から来た先生ではなく、もともと誠仁館医科大学脳外科の准教授で、順当に教授になった方だそうだ。そのため医局員との雰囲気はとても良いらしい。
黒川教授を筆頭に、皆が私たち二人に肉を焼いたり、ドリンクを注文してくれたりと至れり尽くせりだった。
汐宮先生は少し遅れてやってきた。
チラッと目が合ったけれど、私がいる教授や医局長などの役職者のテーブルには座らず、若手ドクターのテーブルに座った。
最初は緊張していたけれど、黒川教授が私に気を遣って喋りかけてくださるので、とても居心地のいい宴席だった。
「伊原さんは鹿島准教授の紹介だったね」
「はい。鹿島先生には誠仁館医療センターに父が入院していた時、お世話になりました」
そう、私が医局秘書になったのは、父の主治医の鹿島先生の推薦だった。
◇ ◇ ◇
父が退院して一ヶ月後の受診時のこと。
「異動が決まりましてね、誠仁館医療センターでの診察は今日が最後になるんですよ」
「異動! どちらに行かれるんですか?」
「大学の医局人事で、誠仁館医科大学病院の方に戻ることになりました。9月から新教授のもと新しい体制になり、私は……ゴホン、准教授になることになりまして……」
「准教授! それはおめでとうございます!」
「ありがとうございます。
それで、伊原さんの今後なんですが、引き続き私が大学病院の方で診させていただくか、もしこちらの方が慣れていていいということであれば、信頼できる先生をご紹介しますが、どうされますか?」
鹿島先生は、どちらでも大丈夫ですよ、と微笑みながら言った。
すると、父が言ったのだ。
「もちろんついていきますよ。僕はこの先もずっと鹿島先生にお世話になりたいと思っていますから」
「ありがとうございます。ではそのように紹介状を私宛に……」
「……そうですか、大学病院の准教授におなりで……」
「……?」
「先生、うちの娘、大学病院で雇っていただけませんか?」
「……は? お父さん!? 突然何言うのよ!」
父の突然の発言に、それまで黙っていた私は思わず叫んでしまった。
「いや、父さんも仕事に復帰できたことだし、叶恋もそろそろ社会復帰する頃合だろう。お前にばかり負担をかけてしまったからな。父さんは心配で」
だからって、こんなところで就職先の斡旋をお願いするなんて!
あまりの恥ずかしさに、父を肘で突いてしまった。ところが、鹿島先生は……。
元々、常時大学病院に勤務しているのはこれくらいの人数らしい。
残りは関連病院と大学病院を行ったり来たりしていて、なかなか全員がそろうということはないそうだ。
大学近くの焼き肉屋『いちばん』で歓迎会が始まる。
他科と違い、現在脳外科医局の医局員はほぼ男性。
今回の歓迎会でも、女性は私と菜々ちゃんだけだった。
そんな状況だけど、菜々ちゃんは臆することなく、とても自然に溶け込んでいた。
2年勤務しているわけだから当然か……。
この9月から教授に就任されたという黒川教授は、父親より少し上の世代でとても優しい先生だった。
菜々ちゃん談だが、黒川教授は他大学から来た先生ではなく、もともと誠仁館医科大学脳外科の准教授で、順当に教授になった方だそうだ。そのため医局員との雰囲気はとても良いらしい。
黒川教授を筆頭に、皆が私たち二人に肉を焼いたり、ドリンクを注文してくれたりと至れり尽くせりだった。
汐宮先生は少し遅れてやってきた。
チラッと目が合ったけれど、私がいる教授や医局長などの役職者のテーブルには座らず、若手ドクターのテーブルに座った。
最初は緊張していたけれど、黒川教授が私に気を遣って喋りかけてくださるので、とても居心地のいい宴席だった。
「伊原さんは鹿島准教授の紹介だったね」
「はい。鹿島先生には誠仁館医療センターに父が入院していた時、お世話になりました」
そう、私が医局秘書になったのは、父の主治医の鹿島先生の推薦だった。
◇ ◇ ◇
父が退院して一ヶ月後の受診時のこと。
「異動が決まりましてね、誠仁館医療センターでの診察は今日が最後になるんですよ」
「異動! どちらに行かれるんですか?」
「大学の医局人事で、誠仁館医科大学病院の方に戻ることになりました。9月から新教授のもと新しい体制になり、私は……ゴホン、准教授になることになりまして……」
「准教授! それはおめでとうございます!」
「ありがとうございます。
それで、伊原さんの今後なんですが、引き続き私が大学病院の方で診させていただくか、もしこちらの方が慣れていていいということであれば、信頼できる先生をご紹介しますが、どうされますか?」
鹿島先生は、どちらでも大丈夫ですよ、と微笑みながら言った。
すると、父が言ったのだ。
「もちろんついていきますよ。僕はこの先もずっと鹿島先生にお世話になりたいと思っていますから」
「ありがとうございます。ではそのように紹介状を私宛に……」
「……そうですか、大学病院の准教授におなりで……」
「……?」
「先生、うちの娘、大学病院で雇っていただけませんか?」
「……は? お父さん!? 突然何言うのよ!」
父の突然の発言に、それまで黙っていた私は思わず叫んでしまった。
「いや、父さんも仕事に復帰できたことだし、叶恋もそろそろ社会復帰する頃合だろう。お前にばかり負担をかけてしまったからな。父さんは心配で」
だからって、こんなところで就職先の斡旋をお願いするなんて!
あまりの恥ずかしさに、父を肘で突いてしまった。ところが、鹿島先生は……。
46
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる