神から与えられたスキルは“ドールマスター”

みょん

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森へ行こう

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「ふふ、マスターとのデートはやはりいいですねぇ」
「デートと言う割にはブラブラするだけですまんけどな」
「いえいえ、私はマスターと一緒に居られるならそれだけで幸せです」

 大切そうに俺の腕を抱くようにしているミネットがそう言った。今日は珍しく……いや、別に普段から出歩かないわけではないが、今日はミネットと一緒に外出していた。
 その時々の空気と言うものがあって、ちょっと出かけようかなと思ったのだ。最初はリーシャが付いてこようとしたけど、通りがかったミネットに押し通される形で同伴者は彼女になった。

「リーシャ悔しがってたなぁ」
「昨日抜け駆けしたんですから良いんです。それもあってシアさんも誘おうとは思ったんですが既に出ていましたから」

 基本的にシアは朝早くから出掛けている。俺に甘えたい時とか、俺が用があると言えば家から出ないしすぐに飛んできてくれるものの、仕事が途中でも抜け出してくるのでそこだけは俺も気を付けていることだ。

「それではマスター、行きましょうか」
「あぁ」

 それからしばらくミネットとののんびりとした時間が続いた。以前ミネットのことに関して話した時に、小悪魔のような子だと言ったけど……こうやって隣で笑っている彼女は見た目相応だった。
 ジッと見つめていたのが悪かったのか、ミネットは俺と視線を合わせてニヤリと悪い笑みを浮かべ、そしてキスが出来そうな距離まで顔を近づけて来た。

「マスターからの熱い視線を感じてしまっては私、我慢できなくなってしまいそうです。そんなにマスターに私は可愛く見えましたか?」

 綺麗に、ではなく可愛く見えたかと聞くあたり自分のことが良く分かっているようだ。俺としても隠すつもりはなく、素直に頷くとミネットは嬉しそうに頬を緩めた。

「そういう所……いえ、全部好きですよマスター」

 頬にチュっと小さなリップ音を立ててミネットは顔を離した。普段は余裕を持って物事にも当たるし、蠱惑的な言動でリーシャたちを手玉に取るような彼女も、こういうことにはやはり恥ずかしさを感じてしまうようだ。
 少し癖のある髪を優しく撫でるようにすると目を細めて気持ちよさそうにしてくれる。そんな姿もミネットに似合っていて可愛かった。

「さ、次に行こう」
「はい♪」

 しかし……やはりと言うべきか、ミネットと歩いていると視線が集まるのを感じる。他の子たちもそうだが、この世界に生きる女性たちに比べて遥かに完成された美を誇っている。冒険者の中には女好きのクズ、或いはアクセサリーのように傍に置きたがるナルシストも居るし、そういう連中からすればミネットを含め他の子たちはどんな宝石よりも価値があるんだろう。

「鬱陶しい視線ですねぇ……思わず使っちゃいそうになります」
「気持ちは分かるけど抑えてくれな。流石に街中で手を出してはこないさ」

 冒険者は基本的にそこまでの柵はないが、一つの犯罪を犯しただけでも資格を剥奪されるくらいには厳しいことで有名だ。一度資格を剥奪されれば再取得することは叶わず、手の甲に剥奪された過去の証明として永遠に消えることのない紋章を刻まれてしまうほど、そうなってしまっては普通に生きていくだけでも他者から蔑みの目で見られることになってしまう。

 ただこういう厳しいルールのせいもあってか、世の中にはその紋章を刻まれた連中が集まった集団もあるようだけど俺はまだ会ったことはない。

「大丈夫ですよ。でも、マスターの身に危険が迫った時には問答無用で使わせてもらいます。それはご容赦くださいね?」
「分かってるよ……ありがとなミネット」
「いえ、マスターを想えばこそです」

 ミネットの固有能力、他の三人も十分に強力だがミネットに関してはそもそもの話として次元が違う。俺自身、よくもこんな能力が人形とはいえ宿ったなと腰が抜けそうになったほどだ。
 まあ、いくら強力とは言っても全力解放をさせないだけである程度抑えた状態なら使用することを許可はしている。それはそれで便利な力だし。

「さてと、次は……?」
「マスター?」

 ミネットと共に歩いていると、目の前で途方に暮れている小さな少年を見つけた。こんなところで何をしているのかと考えているとミネットが耳打ちをした。

「どうやら母親が倒れてしまい薬を求めているみたいですね。ちょうど材料が切れているようで店にはなかったみたいです。最近流行りの病気みたいで普通の回復薬では意味がなく、東の森に生える薬草が必要とのことですが、その依頼を頼めるほどの資金もないようです」
「ありがとうミネット」

 的確に欲しい情報だけを彼から“読み取って”くれたみたいだ。そうだな、偶には都市の外に出るのもありかもしれない。ミネットに視線を向けると俺の意図が伝わったのか彼女は頷いた。
 あんなに小さな子供が母親のために……それを考えてしまうと、その健気な思いに応えたいと思ってしまうものだ。

「少しいいかい?」

 そう声を掛けると、少年はクリッとした大きな目を俺に向けた。俺は少年に対してどうして知っているんだと悟られない程度に薬草の話をした。幼いだけあってあまり疑うことを知らなそうなのは少し今後が不安だけど、それでもこの子は俺とミネットを信じて頭を下げた。

「俺、シャズって言います! その、お願いします! 母さんを助けてください!」
「賜った」
「お任せください」

 さて、この子は子供だし家に帰ってもらって俺たちだけで森に行こうと思ったがなんとこの子は付いてくると言い出した。ミネットが居る以上万が一はあり得ないが、それでもこんなに幼いのに付いてくると言ったその勇気、この子は将来大物になりそうだな。

「まあいいでしょう。社会見学ということで、いい経験になるのでは?」
「とんだ社会見学もあったもんだな……」

 ただ、少年……シャズはシャズで出たことがない外に興味があるらしく目を輝かせている。ミネットがこう言ってしまったし、本当に大丈夫か? そう聞くとシャズは真剣な顔になって頷いた。

「はい!!」
「……はは、分かった。それじゃあ行くとしよう」

 さてと、実を言うと俺も少し楽しみではある。ただ、ミネットが居れば万が一はないと言ったけど、保険は掛けておくことに越したことはない。俺はパスを繋げて一人の子に連絡を取った。





スターリジアの中央、ギルドの正面に位置する広場にシアは居た。ただ、シアは一人ではなくとあるパーティに囲まれた状態ではあったが。

「シアさん、どうか俺たちとパーティを組んでくれないか? 本当に俺としては不安なんだよ」
「……………」

 シアに事あるごとにパーティに入ってくれと頼む男、Aランクパーティである“白銀の爪”のリーダーを務めるシュバルツだ。彼は確かにシアを心配しているが、一番はシアに淡い想いを抱いているのが大きいだろう。
 ただ、何度も言うがシアは本当に興味がない。何ならこの勧誘事態めんどくさいと常々思っているくらいである。

「ねえシアさん、決して悪い提案ではないと思うのよ。彼は本当にあなたを心配しているの」
「そうだよ。ねえシアさん、どうかパーティに入ってくれないかな?」

 同じパーティに所属している女性二人もシアにそう言う。他の二人の男たちもシアにパーティに入ってほしいとその瞳が語っていた。

「確かに悪い提案じゃない、でも私は一人の方が性に合ってる。誰かと慣れ合うのは好きじゃないんだよね」
「……! ねえ、アンタいい加減に!」

 とはいえ、何度も何度もお願いしているのに断られ続ければ気分が悪くなるのは仕方ない。それは善意の押し付けでもあるが、シュバルツに恋をしているこの女性はどこかシアのことをあまり良くは思ってないのだろう。

「やめろリナ!」
「でも!!」

 傍で始まったやり取りにシアは興味無さそうにそっぽを向く。だが、そこで愛するマスターとのパスが繋がったのをシアは感じた。

『シア、今から東の森に行くことになったんだがどうする? ミネットが居るとはいえ幼い少年も居てな。シアが忙しくなければ是非来てほしいんだけど――』
『行くよ、待っててねマスター』
『お、おう……』

 食い気味に返した言葉にシロトが若干引いたような気もするが、それをシアが気にすることはなかった。愛する彼に呼ばれたならば、たとえどこであっても馳せ参じるのがシアの役目なのだから。

「用事が出来たから行くね。それじゃあ」
「あ、待ってくれ!!」
「待ちなさいよこら!!」
「………………」

 ガシっと肩を掴んだ女、その腕を根元から斬り落としてやろうかとも思ったがそれをやってしまうと後々めんどくさくなる。シアは沸騰しそうになる頭を落ち着け、あることを思い付いた。

「それじゃあこうしよう。私一人、あなたたち五人で戦う。相手の武器を落とした方が勝ちで何でも言うことを聞くというのはどう?」

 正直な話とっととこのやり取りを済ませたいがためのシアの提案だ。ただこの提案を聞いて逆に怒りを抱いたのは女を含めたあちら側。いくら勧誘を蹴るためとはいえそんなあり得ない提案をするなんて明らかに舐めている……そう思ったのだ。
 ただ、シュバルツとしてはそれで言うことを聞かせられるならいいかと自分を納得させた。

 ほんの少しだけ待ってとシロトに伝え、シアを含めた全員が向かったのは摸擬戦を行える大きな空間だった。
 剣士、弓矢使い、魔法使い、盾使い、大剣士、一つのパーティとしてはこの上なくバランスのいい五人を前にしてもシアは表情を変えない。考えているのは早くシロトの傍に行きたい、ただそれだけだ。

「シアさん、本当に――」
「いいから早くして。とっとと済ませたいんだ」
「っ……分かった」

 いくら恐るべき速さでAランクになったとはいえ、少し実力を過信しているようだとシュバルツは考えた。なのでこの戦いが彼女に現実を思い知らせ、少しでも周りを頼る様になればとシュバルツは願う。

 ギルドの人間に審判を頼み、舞台は整った。

「それでは……始め!!」

 審判が手を振り下ろした瞬間、シュバルツたちは目を疑った。

「……え?」
「どこに……」

 一瞬でも決して目を閉じたりしたわけではない。脳がそう認識したのだ――シアの姿が消えてしまったと。一体どこへ、全員がそう思った瞬間何かが懐を駆け抜けた。そう思った時には既に五人の体勢は大きく崩され、そして……

「終わり」

 五人の懐を駆け抜けたシアは背後へと周り、刀に魔力を纏わせて大きく一閃した。まるで巨人が大木を振り回すようなイメージを連想させるように、魔力の波が大きなうねりとなって五人を襲った。
 声を上げる間もなく、五人は吹き飛ばされ意識を失う。

「……しょ、勝者……シア……?」

 その惨状を見た審判が勝者を宣言した時には既に、シアの姿はそこにはなかったのだった。
 
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