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人形たちの語らい
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夜、シロトが眠りに就いて少し、屋敷の一室であるリーシャの部屋に彼女たちの姿はあった。
リーシャ、サリア、ミネット、シア、それぞれタイプの違う美しい女性たちである。彼女たちは一つのテーブルを囲むようにして、愛するマスターのことを話していた。
「全くもう、私が見ていないとすぐにマスターを襲おうとするんですから!」
「襲うって表現は納得できないわね……ただ愛を育もうとしただけじゃない!」
リーシャが噛み付いたのは風呂のことだ。サリアとしては確かに襲うつもりなどなく、お互い合意の元で部屋に向かう約束を取り付けたのだが……まあ単にリーシャが気に入らないだけなのだ。
マスターと触れ合う、それは基本的にマスターから誘った時だけと決めている。そうしないといつでもどこでも彼に愛を求めてしまいそうになるからだ。
「まあまあ、いいじゃないですかその辺りで。乙女たるもの、好きな相手には色々と尽くしたくなるものです。リーシャさん、それはあなただって同じでしょう?」
「……それはそうですけど」
ただそれは普通に抱きしめるであったり、些細な触れ合いに関しては無制限だ。……こう考えると人形のメンテナンスと称して迫ったリーシャはなんだという話になるが、どうやら既に忘れているらしい。
「いいじゃないリーシャ。あの後二人で抱いてもらっ……こほんこほん、何でもないわ」
サリアが少し言いかけたその言葉にリーシャはサッと目を逸らし、反対にミネットとシアはダンと音を立てて立ち上がった。
あ、やってもうた。そうリーシャとサリアは心がシンクロしたことだろう。
「詳しく聞きたいですね~、ねえシアさん?」
「そうだね。何があったのか詳しく、じっくり聞かせておくれよ」
シアは刀の切先をリーシャに向け、ミネットは魔法で作り上げた氷の刃をサリアに向けている……一触即発、だがすぐに二人はその凶器をしまった。
「不毛ですしやめますか。私たちは四人とも病的なまでにマスターを愛しています。そういう雰囲気になったなら仕方ないでしょう」
「その代わり、次は私たちの番だよ?」
顔は笑っているものの、目は明らかに笑っておらずリーシャとサリアはコクコクと頷くだけだった。サリアはともかくとして、武力に関しては人形内で一番のリーシャでも、やはり怖いものは怖いらしい。
「リーシャさん、紅茶のお代わりを頂いてもいいですか?」
「はい……」
「うふふ~♪」
小さくなったリーシャを見つめるミネットは本当に楽しそうだ。こいつ、ドSだなと傍に居るシアは思うのだった。
さて、一旦抜け駆けしたことへの追求はこの辺で終わりになり、話題は王都のことへと移った。シロトとサリアが話していた勇者のことである。
「勇者なんて存在必要なんですかね。確かにある程度の抑止力にはなるかもしれませんけど、そんなものに頼って自分たちが苦労することをしようとしない……断言しますよ。王都はおそらく数年のうちに終わります」
ミネットの言葉はある意味国の終わりを意味していた。
王都は確かに屈強な騎士もそうだし、物流も他国からの商人も全てが充実している。だが昔から続く勇者と神への信仰が足を引っ張っていた。
勇者という称号、たとえその人間が全く使えない人間だとしても、勇者として担ぎ出すその考えは救いようがないとミネットは嗤った。
「仮に王都が消えたとしても、このスターリジアは残るのでしょうね」
近郊都市とはいえ、スターリジアはそれこそ中立の都市であるためあまりちょっかいを掛けられることはない。
王都に所属する騎士団等では制約があるものの、ギルドはそう言った柵がないためほぼ自由に動ける。しかも高ランクの冒険者は世界中で重宝されるため、それもまたギルドが権力に屈することのない理由にもなっていた。
「マスターは王都が仮に占領されたりしたとしても、特に気にすることはないんでしょうね」
「そうね。それは私たちも同じでしょう?」
サリアの問いかけに全員が頷いた。
「ここに何かあるなら住む場所を変えればいいだけですよ。マスターが傍に居れば、私たちはどこでも生きていけます」
そう、シロトさえ居れば……それが人形たちの共通認識だ。
忘れてはならないのは彼女たちは人形であり人ではない。限りなく人に近いがそれだけだ。彼女たちが求めるのはシロトの愛と傍に居ることだけ、それ以外の存在がどうなろうと心底どうでもいいのだ。
「そういえば、もうすぐ私が生まれてから二年経つけど、また仲間が増えるのかな?」
シアの言葉に全員がもうそんな時期かと改めて思った。
シロトが人形を創造するのに使用するのは己の魔力で、それは一度の創造ですっからかんになるほどだ。そして再び創造できるまでに魔力が貯まるのが大体二年ほど掛かる。
シロトが12歳の時にリーシャが生まれ、そこから二年を刻む毎に彼女たちは生まれた。そして今年でシロトは20歳、五回目の創造ができる周期なのである。
「マスターはこれ以上増やさないと言ってた気がします」
リーシャはいつだったか、シロトがそう呟いたのを聞いたことがあった。
「へえ、理由があるのかい?」
「体が持たないそうです……」
……そのリーシャの言葉に、全員がいくらシロトを愛しているとはいえもう少し我慢しようと心を新たにするのだった。
「まあ、無理でしょうけど」
くすくすと笑いながらミネットがそう言い、その同時刻に眠っていたシロトがくしゃみをしたのを四人が知ることはなかった。
リーシャ、サリア、ミネット、シア、それぞれタイプの違う美しい女性たちである。彼女たちは一つのテーブルを囲むようにして、愛するマスターのことを話していた。
「全くもう、私が見ていないとすぐにマスターを襲おうとするんですから!」
「襲うって表現は納得できないわね……ただ愛を育もうとしただけじゃない!」
リーシャが噛み付いたのは風呂のことだ。サリアとしては確かに襲うつもりなどなく、お互い合意の元で部屋に向かう約束を取り付けたのだが……まあ単にリーシャが気に入らないだけなのだ。
マスターと触れ合う、それは基本的にマスターから誘った時だけと決めている。そうしないといつでもどこでも彼に愛を求めてしまいそうになるからだ。
「まあまあ、いいじゃないですかその辺りで。乙女たるもの、好きな相手には色々と尽くしたくなるものです。リーシャさん、それはあなただって同じでしょう?」
「……それはそうですけど」
ただそれは普通に抱きしめるであったり、些細な触れ合いに関しては無制限だ。……こう考えると人形のメンテナンスと称して迫ったリーシャはなんだという話になるが、どうやら既に忘れているらしい。
「いいじゃないリーシャ。あの後二人で抱いてもらっ……こほんこほん、何でもないわ」
サリアが少し言いかけたその言葉にリーシャはサッと目を逸らし、反対にミネットとシアはダンと音を立てて立ち上がった。
あ、やってもうた。そうリーシャとサリアは心がシンクロしたことだろう。
「詳しく聞きたいですね~、ねえシアさん?」
「そうだね。何があったのか詳しく、じっくり聞かせておくれよ」
シアは刀の切先をリーシャに向け、ミネットは魔法で作り上げた氷の刃をサリアに向けている……一触即発、だがすぐに二人はその凶器をしまった。
「不毛ですしやめますか。私たちは四人とも病的なまでにマスターを愛しています。そういう雰囲気になったなら仕方ないでしょう」
「その代わり、次は私たちの番だよ?」
顔は笑っているものの、目は明らかに笑っておらずリーシャとサリアはコクコクと頷くだけだった。サリアはともかくとして、武力に関しては人形内で一番のリーシャでも、やはり怖いものは怖いらしい。
「リーシャさん、紅茶のお代わりを頂いてもいいですか?」
「はい……」
「うふふ~♪」
小さくなったリーシャを見つめるミネットは本当に楽しそうだ。こいつ、ドSだなと傍に居るシアは思うのだった。
さて、一旦抜け駆けしたことへの追求はこの辺で終わりになり、話題は王都のことへと移った。シロトとサリアが話していた勇者のことである。
「勇者なんて存在必要なんですかね。確かにある程度の抑止力にはなるかもしれませんけど、そんなものに頼って自分たちが苦労することをしようとしない……断言しますよ。王都はおそらく数年のうちに終わります」
ミネットの言葉はある意味国の終わりを意味していた。
王都は確かに屈強な騎士もそうだし、物流も他国からの商人も全てが充実している。だが昔から続く勇者と神への信仰が足を引っ張っていた。
勇者という称号、たとえその人間が全く使えない人間だとしても、勇者として担ぎ出すその考えは救いようがないとミネットは嗤った。
「仮に王都が消えたとしても、このスターリジアは残るのでしょうね」
近郊都市とはいえ、スターリジアはそれこそ中立の都市であるためあまりちょっかいを掛けられることはない。
王都に所属する騎士団等では制約があるものの、ギルドはそう言った柵がないためほぼ自由に動ける。しかも高ランクの冒険者は世界中で重宝されるため、それもまたギルドが権力に屈することのない理由にもなっていた。
「マスターは王都が仮に占領されたりしたとしても、特に気にすることはないんでしょうね」
「そうね。それは私たちも同じでしょう?」
サリアの問いかけに全員が頷いた。
「ここに何かあるなら住む場所を変えればいいだけですよ。マスターが傍に居れば、私たちはどこでも生きていけます」
そう、シロトさえ居れば……それが人形たちの共通認識だ。
忘れてはならないのは彼女たちは人形であり人ではない。限りなく人に近いがそれだけだ。彼女たちが求めるのはシロトの愛と傍に居ることだけ、それ以外の存在がどうなろうと心底どうでもいいのだ。
「そういえば、もうすぐ私が生まれてから二年経つけど、また仲間が増えるのかな?」
シアの言葉に全員がもうそんな時期かと改めて思った。
シロトが人形を創造するのに使用するのは己の魔力で、それは一度の創造ですっからかんになるほどだ。そして再び創造できるまでに魔力が貯まるのが大体二年ほど掛かる。
シロトが12歳の時にリーシャが生まれ、そこから二年を刻む毎に彼女たちは生まれた。そして今年でシロトは20歳、五回目の創造ができる周期なのである。
「マスターはこれ以上増やさないと言ってた気がします」
リーシャはいつだったか、シロトがそう呟いたのを聞いたことがあった。
「へえ、理由があるのかい?」
「体が持たないそうです……」
……そのリーシャの言葉に、全員がいくらシロトを愛しているとはいえもう少し我慢しようと心を新たにするのだった。
「まあ、無理でしょうけど」
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