神から与えられたスキルは“ドールマスター”

みょん

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浴室で

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「いい湯だなぁ」
「そうね。体の芯まで温まるようだわ」

 夕飯を済ませれば後は風呂に入って寝るだけだ。シャワーを浴びて体を清めるのも気持ちいいが、やっぱり湯船がある以上こうやって浸かるのが本当に気持ちいい。

 特に何もしてないけど、こうして風呂に入ってる瞬間が一番今日も生きたなぁと実感できる。さて、そんな風呂を満喫していた俺なのだが……同じく湯船に浸かる金髪の美少女に目を向けた。

「どうしたの?」
「いや、相変わらず綺麗だなって」
「不思議なことを言うのね。あなたがそうさせたのに」
「まあ……な」

 確かにそうであれと創造したのは俺で、土台を作ったようなものだ。けど彼女もそうだし他の三人もそうだけど、そこから自らを磨き上げたのは彼女たちだ。俺に応えるために、俺の理想を今もなお体現しているのは間違いなく彼女たちの努力と言える。

「自分の好みを凝縮した女の子が傍に居るんだもんなぁ。そりゃ幸せってもんか」

 本当に何度だってそう思える。
 今俺の目の前で美しい裸体を晒しているのはサリア、俺が二番目に作り上げた人形である。眩しいほどの黄金の髪に白い肌、炎を思わせるような深紅の瞳と整った顔、リーシャに負けず劣らずのスタイル……うん、これは趣味全開ですわ。

「ねえ、そっちに行ってもいい?」
「あぁ」

 頷くとサリアは嬉しそうに傍に来た。
 二人とは言わず全員で入っても大きいこの浴室はミネットがデザインしたものだ。昔では考えられなかったけど、ミネットのおかげでうちの財政事情が飛躍的に向上したためこんな贅沢も出来ている。だから今住んでいる屋敷はそれなりに大きいのだが、周りにも金持ちがそこそこ家を建てているので外観は特に珍しくはない。

「リーシャたちに嫉妬されそうだけど、偶然同じ時間にお風呂に入ったんだか仕方ないわよね」
「……偶然ね」
「気にしてはダメよマスター?」

 そう言ってしなだれかかってくるサリアを見て絶対に偶然じゃないと言い切れた。
 ただでさえ日々色々と我慢してるのに、こうやって誘惑されると俺も困る。本当に、現在進行形で困っている。

「別に我慢しなくていいじゃない。別にしたことないわけじゃないんだし」
「……そりゃそうだけどさ」

 サリアが言ったように俺は彼女たちとやることは既にやっていた。人形相手にお前……みたいな嘲笑をする奴はいるかもしれないが、本当に彼女たちの体は人間と変わらない。だからそういったことも問題なく出来るというのは新しい発見だった。

「せめて部屋に戻ってからにしてくれ」
「約束ね?」

 たぶんこの言葉を待っていたんだろうなとは思った。何故ならサリアはそれっきり誘惑をやめて大人しくなったからだ。
 ……ため息の一つでも吐きたくなるけど、そう出来ない理由があるのも確かで、こういった仕草の全てもまた俺が望んだ形だからである。

「業が深いよ俺は……」
「ふふ、いいじゃない別に。それに、私たちは正真正銘あなたを愛してる。それは作られたものではなくて、あなたと過ごした時間と共に芽生えたものなのよ? 自信を持ちなさいマスター。私たちは……私はあなたのことが好き。あなたはどうなの?」

 そんなもの、答えはずっと変わらない。

「大好きに決まってる。愛してるよサリア」
「知ってるわ。だからマスター、どうか私たちを捨てないでね?」

 その捨てないでにはとてつもない圧力が込められていた。捨てたら許さない、それこそ地の果てまで追い詰める、そんな意志を俺に感じさせた。

「そんなあり得ないことを言われても困る。サリア、君こそ覚悟してくれ。俺は君たちを手放すことは絶対にない。俺が死ぬまで、君たちがその機能を停止するまで永遠に俺の物だ」
「っ……ええ、それでいいわ」

 ぷいっと顔を逸らしたサリアだった。
 それから俺たちはのんびりと語らい、話題は最近の情勢についてである。

「王都の方では勇者がどうとかって話になってるけど、本人の意思を無視するのはどうかと思うわね」
「確かになぁ……あいつら、国のためとか綺麗事並べてるけど自分たちの益しか考えてないし」

 本来勇者ってものは人々の希望となる存在なのに、国はこぞってその適正者を抱え込もうとしている。大した力はなくとも、勇者という肩書きが欲しいだけでな。

「自らの意思に関係なく国のゴタゴタに巻き込まれるんだ。不運な称号だよな」

 小さい子供はみなこぞって憧れる称号を不運と口にする俺は変わってるのかもしれないけど、事実そうだと思っているから仕方ない。

「そうやって不憫に思うようなことは口にしても、正直どうでもいいんでしょう?」
「もちろんだ。俺には君たちが居てくれるならそれでいい」
「あ……」

 傍に居たサリアを抱きしめた。人間と変わらない温もりと柔らかさ、本当に俺を安心させてくれる。そうだ、この子たちさえ居れば俺は何もいらない。

「……その積極性をいつも発揮してくれると嬉しいんだけど」
「リーシャには発揮してるぞ」
「それはそれでムカつく!」

 痛い、こら頭を叩くんじゃない!
 まあでもそれだけリーシャとの付き合いは長いからな。二番目に生み出したサリアよりも、二年は長く付き合っているのだから。
 しばらくポカポカとサリアに叩かれていたが、ボソッと彼女はこう呟いた。

「ま、国の在り方を変えようと思うなら簡単でしょう? マスターがミネットにそう命令すれば済む事だけど」
「確かにそうだが、何度も言うけど俺は関わるつもりはないし、どうでもいいと思ってるんだ。直接こちらに害がない限りは……って分かってて聞いたな?」
「分かってたわ。本当にマスターは優しいのね。その優しさを全部私たちだけに向ければいいのに」

 優しくなんかあるもんかよ。一度ミネットの固有能力を際限なしに使わせた俺に、この子たち以外に向ける優しさなんてあるはずがない。
 俺の表情から察したのか、サリアはごめんなさいと言って俺の頭を撫でる。

「そういうところが優しいのよマスター。でも大丈夫、私たちがあなたの不安全てを吹き飛ばしてみせる。それはきっと、他のみんなも同じだから」
「君たちが傍にいれば不安なんてないよ」
「……ふふ、それもそうね」

 それから俺たちは揃って風呂を出たのだが、腰に手を当ててリーシャが外で待ち構えていた。思わず叫び出さなかった俺を褒めてほしい、だってそれくらいサリアを見るリーシャの目が怖かったからだ。

「……リーシャ? 別に何もしたわけじゃないの! ちゃんと部屋で」
「うん?」
「ごめんなさい!!」

 やっぱリーシャを怒らせたらダメだわ。俺はそう心に誓うのだった。
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