神から与えられたスキルは“ドールマスター”

みょん

文字の大きさ
17 / 28

煩悩との戦い

しおりを挟む
 影の間での勝負、シアの勝利に俺は自分のことのように喜んだ。シアの強さは誰よりも理解しているつもりだけど、その相手はシア自身と言っても過言ではない。だからこそ、拮抗する戦いに息を吞むような展開も多かった。

 そんな勝負を制したシアが戻ってきた時、俺は思いっきり彼女を抱きしめた。リーシャたちも嬉しそうに見守る中、シアは何故か恥ずかしがって俺から離れようとしていたが、その理由もまた可愛らしかった。

『汗凄く搔いてるから……恥ずかしいよマスター』

 そんなことを気にするな、そう言いたかったけど女の子からしたら大きな問題なのは察することが出来る。今からホーロー館へ戻ればちょうど夕飯前になりそうだったので、俺たちはそのまま風呂に入るために戻ることにした。

 男は俺一人、そして他のみんなが女四人ということで……なんだ。どうやらあのあんちゃんがちょっと気を利かせてくれたらしい。混浴を貸し切りにしたからゆっくりしてくれとサムズアップしていた。

「……それはいいとして」
「マスター?」

 俺の目の前で綺麗な背中を向けているシア、影の間での勝利に関するご褒美で彼女は背中を流してくれと言ってきた。別に断るつもりはなかったし、それくらいなら喜んでと俺は頷いたわけだ。
 ……でだ。

「気持ちいいよマスター……」
「……そう言ってくれると嬉しいよ」

 俺は彼女の玉のような肌を決して傷つけないように優しく泡を立てて流していたのだが、そんな俺の背中から感じる圧倒的なボリュームの柔らかさ、それがむにゅりと形を変えるように俺の背中に押し当てられていた。

「マスター、いかがですかぁ? 気持ちいいですよね?」
「……あい」
「ふふ、マスター好きですものねこういうのが」

 男なら誰だって好きだろうさ。
 シアの背中を流す俺の背中をリーシャが流すように、ただ彼女の場合はわざわざタオルを使わず自分の体を使っていた。

 決して嫌とは言えない、ていうか嫌って言える男は居ないだろうよ。リーシャの大きな胸の柔らかさを肌で感じていると、手の平を少し強く抓られるような痛みを感じた。

「マスター? リーシャさんだけでなく、私たちも奉仕しているんですから忘れないでくださいね?」
「そうよ。幸せ者ねマスター、こんな美女三人に体を洗われるなんて」

 本当にその通りだよ。
 背中をリーシャに洗われているとするなら、足をミネットに、首から胸元辺りをサリアに洗われていた。
 大凡羨ましがられるような光景だけど、色んな意味で我慢しないといけない俺の気持ちも考えてほしい。これが家なら……まああれなんだけど、流石に旅先ともなると色々我慢しないと……。

「……むぅ、こういう時は素直に反応すればよろしいのに」
「そうよ。思い切り押し倒してくれればそのまま……ね?」
「ふふ、ではその気にさせてあげましょうか」

 そうして段々と手つきがいやらしいものへと変わり、背後に居るリーシャの手が下半身に伸びようとしたその時だった。

「三人とも、せっかくの旅先なんだからあまりマスターを困らせるのはやめよう?」

 そっと振り向いたシアがそう言った。別に怒っているわけでもなく、純粋に俺のことを考えてくれての言葉だった。もしこれが怒ってたりするものであればちょっと変わったのかもしれないけど、シアの目は純粋に今はやめようと語っていた。シアの言葉を受けた三人はというと。

「……はい」
「ごめんなさい」
「今の言葉、心に刺さりました……」

 末っ子に注意をされた姉たちの構図だった。とりあえずシアのおかげで普通に体を洗うことが出来た。後は空に浮かぶ星々でも眺めながら、お湯に浸かって風景を楽しむことにしよう。

「……なんかデジャブなんだが」

 お湯に浸かりながら俺はそう零した。温泉だからこそお湯に浸かるのは至極当然でまあいいだろう。こうして星を眺めながら温まるのは本当に素晴らしい……だが、今の構図はさっきよりもマズかった。

「温まりますね」

 さっきと同じようにリーシャが俺の後ろを取り、

「そうね。それに綺麗な星空だわ」

 サリアが俺の右腕を取り、

「ずっと眺められます。ね? マスター」

 ミネットが左腕を取り、

「……ふふ、こうしてると幸せ」

 前から俺に体を預けるようにシアが背中をくっつけていた。
 四方からサンドイッチされる形、これは色々とさっきよりもマズい状況だ。シアも加わっているとはいえ、彼女に下心は一切なく今感じている幸せに身を任せているようなものだ。

「……………」

 ……まあしかし、俺も同様に彼女たちと一緒に居られることを幸せに思う。それだけは間違いないしずっとこれから先も望んでいることだ。

「……?」
「リーシャ?」

 背後でリーシャの纏う雰囲気が少し変化したような気がして俺は振り向いた。俺の視線を受けたリーシャは何でもないと笑みを浮かべたが……そうだな、何回かこういうことがあったけどリーシャに“任せる”ことにしよう。

「お任せください、マスター」
「……そっか」

 別に声に出したつもりはなかったけど、やっぱり俺たちは繋がっているんだと実感できる。お互いの感情の機微もそうだけど、ある程度なら考えていることが分かる時がある。俺はそうでもないけど、彼女たちは本当に俺のことを理解してくれていた。

 旅行にまで来て面倒ごとはないとは思っていたけど、どうやらそうではなかったようだと俺は小さく溜息を吐くのだった。





「……あはは♪ ご主人様好みの女の子たちだなぁ」

 草陰に身を隠しながら、温泉を楽しんでいるシロトたちを見つめる女が居た。彼女はシロトと、彼に仕える四人の女を見て唇に手を当てる。

「あの人には悪いけど、目を付けちゃったからごめんね? 私もご主人様にご褒美をもらいたいからさ」

 そう口にした女の姿はシロトがホーロー館で見た二人組の男女、その片割れと同じ姿をしていた。もう一人の男は傍に居らず、この口振りからご主人様というのが男を指すものだと思ったが……どうやらそれは違うらしい。

「シュダ様ぁ……早くお会いしたいですよぉ。あんな男の面倒を見させるなんて酷すぎますぅ!」

 シュダ、それは王都を拠点にしている剣聖の名前だった。そして今口にしたあんな男という言葉、それこそがおそらく今同行している男のことだと思われる。この女にどんな思惑があるのか分からないが、一つだけミスをしてしまった。
 それはシロトたちに対して敵意を向けてしまったこと。

「……っ!」

 シロトたちが温泉から出て行ってすぐ、女は背後から感じた殺気にすぐその場所から飛び退いた――だが。

「あぐっ!?」

 女が飛び退いた先にあったのは地面、女は自ら地面へと垂直に落下するように飛んだ。もちろんこれは女の意思ではない、だからこそ飛んだ先が地面だったことに一番の驚きを示したのは女だ。

「……どうして……何が……あれ?」

 顔面に受けた痛み、それもあるが妙な感覚に女は首を傾げる。目の前でぐわんぐわんと揺れるような、それこそ自分の感覚そのものが強制的に狂わされるような何かを女は感じた。

「……くそっ!」

 毒か、幻覚か、或いはまた別の何かか、とにかくここから逃げようとしても女は再び地面へと激突する。どう体を動かしても上手く動けず、まるで平衡感覚すらグシャグシャにされているような恐怖を女は抱く。

「無駄ですよ」

 女の鼓膜を震わせたのは冷たい声だった。
 焦点の合わない目を無理やりにでも合わせるように、女が向いた先に居たのはさっきまでシロトとイチャついていた女……己が心酔する剣聖に捧げようと考えていたリーシャの姿だった。

「アンタ……どうしてここに!」
「何もする気がないのなら見逃すつもりでした。しかし、そんな薄汚い欲望に付き合わされるのは不愉快です。まあ、アナタみたいなゴミにも劣る畜生が心酔するような相手です。その相手も屑なのでしょう」
「っ……ぶっ殺す!!」

 ぷっつんと、女の中で何かが切れた。女は腰に差していた短刀を握ってリーシャに突き立てようとして……その刃は自らの脇腹に刺さった。

「ああああああああああっっ!! なんで……何が起こってるのよ!?」

 リーシャが何かをした様子もない、女は自分で自分の脇腹にその短刀を刺したのだ。だが当然それを女が理解できるわけでもなく、短刀に塗られていた毒を解毒するために間抜けにも所持している薬を急いで飲んだ。

「無様ですね本当に」
「黙りなさい……っ!!」

 解毒は出来ても刺さった刃の痛みは残っている。リーシャは薄く嗤いながら、その刺された短刀に手を当て、そして――。

「っ……!!!!!」

 更に深く突き刺さるように押し込んだ。
 響く女の絶叫、しかし不思議なことに誰もこの場には現れない。女は激痛を感じながらもリーシャへの敵意を抑えることはない……しかし、今の状況に心が折れかけているのも確かだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON
ファンタジー
核戦争で死んだ俺は、神災級と呼ばれるチートな力を持ったまま異世界へ転生した。 目的はひとつ――行方不明になった“妹”を探すことだ。 だがそこは、大量の転生者が前世の知識と魔素を融合させた“魔素学”によって、 神・魔物・人間の均衡が崩れた危うい世界だった。 そんな中で、魔王と女神が勝手に俺の精神世界で居候し、 挙句の果てに俺は魔物たちに崇拝されるという意味不明な状況に巻き込まれていく。 そして、謎の魔獣の襲来、七つの大罪を名乗る異世界人勇者たちとの因縁、 さらには俺の前世すら巻き込む神々の陰謀まで飛び出して――。 妹を探すだけのはずが、どうやら“世界の命運”まで背負わされるらしい。 笑い、シリアス、涙、そして家族愛。 騒がしくも温かい仲間たちと紡ぐ新たな伝説が、今始まる――。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜

咲月ねむと
ファンタジー
この乙女ゲーの世界に転生してからというもの毎日教会に通い詰めている。アランという貧乏貴族の三男に生まれた俺は、何を目指し、何を糧にして生きていけばいいのか分からない。 そんな人生のアドバイスをもらうため教会に通っているのだが……。 「アランくん。今日も来てくれたのね」 そう優しく語り掛けてくれるのは、頼れる聖女リリシア様だ。人々の悩みを静かに聞き入れ、的確なアドバイスをくれる美人聖女様だと人気だ。 そんな彼女だが、なぜか俺が相談するといつも様子が変になる。アドバイスはくれるのだがそのアドバイス自体が問題でどうも自己主張が強すぎるのだ。 「お母様のプレゼントは何を買えばいい?」 と相談すれば、 「ネックレスをプレゼントするのはどう? でもね私は結婚指輪が欲しいの」などという発言が飛び出すのだ。意味が分からない。 そして俺もようやく一人暮らしを始める歳になった。王都にある学園に通い始めたのだが、教会本部にそれはもう美人な聖女が赴任してきたとか。 興味本位で俺は教会本部に人生相談をお願いした。担当になった人物というのが、またもやリリシアさんで…………。 ようやく俺は気づいたんだ。 リリシアさんに付きまとわれていること、この頻繁に相談する関係が実は異常だったということに。

処理中です...