神から与えられたスキルは“ドールマスター”

みょん

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リーシャVSシア

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 夜、薄暗い山の中に俺は居た。別に俺一人というわけではなく、傍にはミネットが控えていた。食事を済ませ、今日は色々あって眠たそうにしていたカナデはサリアが面倒を見てくれている。さて、どうして俺はこんな所に居るかというとそれは目の前に答えがあった。

「リーシャと戦うのは久しぶりだね」
「ふふ、私も久しぶりに体を動かしたいと思ったので」

 二人とも自らの得物を持って対峙していた。

「それにしても、これで汗掻いてまた風呂に行くことになるんだろうな」
「でしょうね。ふふ、マスターも私もここまで歩いてきて汗を少し掻きましたし、これは再び混浴ですね♪」

 ミネットの言葉に俺は小さく溜息を吐いた。まあ確かに少し背中に汗を掻いているしこのまま寝るのは気持ち悪そうだ。混浴に向かうかどうかはともかく、もう一度風呂の世話にはなりそうだな。

「それにしても、まさか二人の戦いを見れるとは思いませんでした」
「そうだな。言い出しっぺがリーシャとは言え珍しいことだ」

 今回どうしてこんなことになったかというと、飯の最中にリーシャが久しぶりに体を動かしたいと口にしたのだ。それでシアがその言葉に乗り、摸擬戦という形でこの状況が用意されたというわけだ。
 一応周りには何の気配もないことはミネットのスキルのおかげで分かっている。なのである程度なら暴れても問題はない。ただ今回に関してはお互いにスキルの発動はなし、完全に武器と僅かな魔法を使った戦いだ。

「マスターはどちらが勝つと思いますか?」
「……う~ん、そうだな」

 リーシャとシア、正直なことを言えばどちらかが勝つかなんて決めたくはない。でもそうだな……俺の答えは――





 シロトとミネットが見つめる中、リーシャとシアは武器を持って見つめ合う。リーシャは大鎌を、シアは刀をその手に持っている。いつものように笑みを浮かべているリーシャとは別に、シアはいつにない緊張を感じているようだった。
 シロトの人形として、シアは戦いに関しては天賦の才を持っている。刀の扱いに関しては我流だが、それでも今までシアは大凡敗北というものをあまりしたことはなかった……このリーシャを前にする以外では。

「……こういう機会は本当にそうそうないからね。胸を借りる気持ちで行くよ」
「はい。どこからでもどうぞ」

 戦うからには勝ちたい、シアはその意気込みを示すように力強く踏み込んだ。まずは一撃、挨拶代わりに叩き込む。真っ直ぐにリーシャに向かって突き進み、シアは思いっきり刀を振り抜いた。神速の抜刀、しかしそれはリーシャに軽く止められた。

「っ……はあ!!」

 止められたなら次の一手、相手の反応速度を上回る速さで斬り付ける。そうすれば刃は通る……そう思えるが、やはりリーシャは甘くない。
 一手、二手、そうやって鎌と刀がぶつかった直後リーシャの体が消えた。まるで風に溶けるように消えたリーシャにシアは驚くが、これもリーシャの持ち味だ。速度はシアも相当なもの、しかしそんなシアの速さすらも上回るのがリーシャの身体能力なのだ。

「……くっ!?」

 音もなく振るわれる鎌の刃は虚空からシアの首を刈り取らんと迫る。シアは寸でのところでその刃を防いだものの、シアの腕力を超える強烈な力を受けてシアの体は吹き飛んだ。

 吹き飛ばされることで距離を取ること出来たが、今までの経験上この隙をリーシャが逃すことはない。リーシャの場合相手に休息なんて与えることなく、怒涛の攻撃で攻めてくることをシアは知っていた。だからこそ、体勢を整えてシアは攻撃に備えたが……そんなシアの目の前に現れたのは空気を斬るように飛んでくる鎌だった。

「……っ!!」

 まるでブーメランのように回転して飛んでくる鎌を弾くと、その衝撃を受けてかどうかは分からないが鎌から大量の黒い蝶々が羽ばたいた。まるでシアの視線では見えない刃の内側、そこに潜んでいたように蝶々の群れは舞う。シアはその蝶々がリーシャの魔法だと気づいた。

「弾けなさい」

 リーシャが短くそう言うと、蝶々がそれぞれ光を放ち――そして爆ぜた。ただシアとしてはしっかりガードをしていたので爆発をもろに受けることはなかったが、その爆風を切り裂くようにリーシャの足が目の前に広がった。
 シアは素早く籠手で防御するようにするも、そんなものがリーシャの蹴りの威力を弱めてくれるわけもなく、シアの体は地面に叩きつけられることになった。

「がはっ!?」

 肺から空気を全て抉り出されるような衝撃、そんな痛みを受けてもシアは体を起こした。体をバネにするようにしてその場から跳躍すると、シアが寝ていた場所にリーシャが鎌を振り下ろしながら落下してくるのだった。

 スパっと、小さな音がして地面に亀裂が入る。相変わらずスピードもパワーも桁外れだなと、シアは苦笑しながらリーシャを眺めた。今の一撃はそのまま寝ていたら間違いなく体が二つになっていただろうが、それはその場にシアが居なかったから加減をする必要がなかったのだ。もちろんシアがあれで動けなくなればリーシャは即座に攻撃を中断していた。

「あぁ本当に強いなぁ……でも、負けたくないんだよね!!」

 強い、強すぎる、それでも負けたくない。影の間で自分の影と戦った時にも説明したがシアは相当な負けず嫌いだ。だからこそ、どんな形の戦いであれ絶対に負けたくはない。

「はああああああああああっ!!」

 構えるリーシャにシアは突っ込む。猪突猛進の一撃、そう思われるかもしれないがシアには秘策があった。構えたリーシャの鎌に刀が激突し、大きな轟音を立てる。そのままどちらも譲らずに鍔競り合いをする中、徐々にリーシャが押し始めた。リーシャはこれで終わりだと力を込めて鎌を振るうと、シアの刀は意図も容易く押し返されるのだった。

「これで終わり――」

 防御を失ったシアの体に向けて、リーシャは鎌を振るう……かと思われたが、その鎌を振るうことは出来なかった。背後を振り返ったリーシャは目を見開いて驚く。一体何が起きたのか、それは一つの鎖だった。地面から生えるように白銀の鎖がリーシャの鎌を拘束していた。魔法はあまり得意ではないものの、サリアに教わっていた拘束系の魔法の応用だ。今までリーシャはシアが魔法を使っている場面を見たことがないからこそ、この手に掛かってしまった。

 しかし、リーシャは笑っていた。

「いいタイミングですね。しかし、やはり強度が弱い」

 ギシギシと音を立てて鎖にヒビが入っていき、そして砕けた。白銀の鎖が粉々に砕けたそれはまるで雪のように幻想的だが、リーシャの鎌を止めていたそれが消えたということはつまり、その刃がシアに向かうということだ。

「……ふふ」
「っ!?」

 だが、次に笑ったのはシアだった。リーシャの鎌がシアの体を裂こうとした瞬間だった。シアの体が先ほどのリーシャのように消え、そして背後からリーシャはシアの気配を感じ取った。
 リーシャ同様にシアも圧倒的な速度を実現できるからこそ発生する残像、それがこのように消えたシアの正体だった。リーシャの背後は無防備、この一撃で勝てる……正にこれがシアのラストアタックだった。

「……え?」

 刀を振ろうとしたシアだったが、ガシっと何かに刀が掴まれた。まさか、そう思ってシアが振り向くと刀が無数の鎖に繋がれていた。まるでさっきのやり返し、自分がこうしたいと考えた光景を思いっきりリーシャに再現されてしまった。
 唖然としたシアだったが、仮に刀を奪われても拳で……刀から手を離し追撃を掛けようとしたシアの首元にリーシャの鎌が添えられた。

「はい。私の勝ちですね」

 その言葉を聞いて、シアはまた勝てなかったと肩を落とした。悔しい、確かに悔しいがやっぱりリーシャは強いなと改めて思った。

「シアさんも凄く強くなりましたね。まさか服を斬られるとは思いませんでした」
「え?」

 リーシャの胸元、そこに一閃の切れ込みが入っていた。ある程度踏ん張っていたが力を失ったように、胸元が露わになるようにペロッと服が切れてしまうのだった。

「あ、ごめん!」

 シアの謝罪にリーシャは縫うので大丈夫ですと笑みを浮かべた。勝負が終わったことでシロトとミネットが向かってくる中、リーシャは豊満な胸を隠すように腕を当てて汗を拭く。

「いい汗掻きましたね」
「あはは、そうだね。温泉に行きたいな」

 額からもそうだし、背中からもダラダラと汗が流れている。女の子として汗の臭いが気になってしまうくらいには汗が流れていた。

「お疲れさまでしたリーシャさん、シアさん」

 ミネットからタオルを受け取って汗を拭く中、リーシャがシロトに抱き着く。

「マスター、おっぱいが丸見えなのでこうやってホーロー館まで戻りましょう」
「いや上着貸すけど」
「?? 上着って何ですか?」

 リーシャもそれなりに汗を掻いているのに引っ付ける勇気、それは見習うべきなのかなとシアは本気で悩んだ。ただ、汗の臭いが気になるからとはいっても全然変な臭いはしない。むしろ汗と共に女性の良い香りが溢れているのだが、それをシアが理解するのはもう少し先になりそうだ。





 夜の王都、その外壁に二つの影があった。
 一つは男で一つは女、男は外壁から城下を見下ろして小さく呟く。

「ようやくだ……ようやく辿り着いた」

 その瞳に憤怒を宿しながら男は城を睨む。

「……………」

 そんな男を見て軽薄そうに嗤う……ことはせず、女はただ苦しそうに表情を歪めていた。男はそれに気になりはしたが、女が何も言わないので聞くことはしなかった。

「……レイト」

 女は魅了の魔眼の虜だった。しかし、その支配が弱まったのだ。女に記憶はないがあの夜の出来事、リーシャとの出会いによって生まれた死への恐怖が魅了の力を大きく上回ってしまったせいだ。
 剣聖への想いは残っている……しかし、それは本物なのかという疑問がずっと女を苦しめていた。そしてそれに苦しめば苦しむほど、女の脳裏に蘇るのは大好きだった婚約者の笑顔だった。

「……っ」

 なんにせよもう後戻りはできない、あの城に向かった時に答えが出るはずだと女は男に付き従うように動き出すのだった。
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