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23話

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 翌日。
 
 今日も朝からお手伝いをして、オリアナさんとリーゼと庭園にやってきた。
 
「さて、リーゼちゃんは昨日と同じことをしてちょうだい。昨日の瞑想では見えなかったものが見えるはずだから、しっかり見るようにね」
 
「あいっ!」
 
「では、ハウくん。昨日までやっていた瞑想だけれど……これからは瞑想せずに同じことをやってごらん」
 
「……ひぇ?」
 
 オリアナさんが何を言っているのかわからなくて変な声が出た。
 
 隣で瞑想の準備に入っていたリーゼが笑い転げる。
 
「今まで目を瞑って心の中を覗き込んでいたわよね? それを目を瞑らずにやるの」
 
「ほえ……」
 
「ほら、悩むより慣れろよ。やってみよう」
 
「はい……!」
 
 と言ったものの、どういうことなんだろう?
 
 心の中……? いつもはどんな感じだったかな……。
 
 暗い世界の遠くに見える芽。
 
 オリアナさんに言われてみれば、目を瞑る動作をしないと見えなかった。けれど、それはそうだと思い込んで・・・・・いるだけなのかな?
 
 あの暗い世界からは寂しさが感じられた。もしあの芽に世界を見せられたら、幸せだと思ってくれるのだろうか?
 
 そういえば、あの芽って、じっと集中しないと見えなかった。
 
 今見える景色に目を奪われるんじゃなくて、集中して僕の心の中にある緑色の芽を探し始める。
 
 僕の足下に風が吹き始める。
 
 ほんの少しだけ世界の色が緑色を帯びていく。
 
 この感覚って……! あの日、リーゼを守りたくて夢中になったときと一緒だ!
 
 ポ~ン!
 
「変なこと考えないの。もう一回」
 
「はいっ!」
 
 今の僕の目に映っている景色は、美しい庭園が広がっている。
 
 僕が吹かせた風に植物達が気持ち良さげに揺れている。
 
 今まであの芽に風を吹かせる発想はなかった。でも昨日はちゃんと吹かせた風に揺れていた。
 
 もしあの芽を外に・・連れてくることができるなら、あのタンポポ達も世界を自由に見て周り、僕の風だけじゃなく気持ちいい風も、時には冷たい風にも、荒々しい風にも、そよ風にもたくさん出会えるはずだ。
 
 ――――おいで。
 
 僕は自然と両手で水をすくうように風をすくい上げた・・・・・・・・
 
 すると僕の手の中から今までとは違う風が吹き出す。
 
 さらに僕の全身に緑色のオーラのようなものが灯り、世界が淡い緑色を帯びているように見える。
 
「オリアナさん!」
 
「いいわね。では次はモモ達から力を貸して・・・・・もらってみて」
 
 言われたまま僕を見つめているモモ達から、力を借りてみる。
 
 ああ……あのときの……力だ。そうか……やっぱり僕に力を貸してくれたのは、モモ達だったんだね。
 
「――――精霊魔法『恵風』発動」
 
 自然と口から出た僕の両手から、勢いよく暖かい風が吹き出す。
 
 風は一気に庭園に広がっていくと、花は色鮮やかになり、木々には艶やかな実が実り、大地から芽吹く小さな命の音が聞こえる。
 
「「「「きゅぴ~っ~!」」」」
 
「ハウくん! 二つの魔法を同時に使うのよ! モモ達みんなから力を借りるのではなくて、それぞれから借りるの!」
 
 モモ達は同じ姿をしているけど、実はみんな性格が違う。
 
 一番上の子は、お兄ちゃんとして誰よりも優しくて弟達を見守ってくれる。
 
 二番目の子は、常に先に立ちみんなを引っ張る存在だ。
 
 三番目の子は、一番勇敢で、誰よりも先に困難に立ち向かうけど、お兄ちゃん達はそれが心配みたい。
 
 四番目の子は、三番目のお兄ちゃんに憧れているけど、実は臆病でいつも追いかけている。でもお兄ちゃん達が困ったら誰よりも先に頑張る子だ。
 
 五番目の子は、弟をとても大切にしていて、いつも弟を心配している優しい子。
 
 末っ子は、いつも甘えん坊でお兄ちゃん達にすぐ体を寄せるけど、みんな体を寄せることがちょっぴり恥ずかしかったけど、この子のおかげで恥ずかしいと思わなくなった。
 
 そんな六匹兄弟の可愛らしいモモ達。それぞれが得意な力がある。
 
「イチロウの『恵風』、ジロウの『旋風』、サブロウの『突風』、シロウの『流風』、ゴロウの『強風』、ロクロウの『微風そよかぜ』」
 
 それぞれの特徴があって、お互いの力が混ざり合うことでより強くなる。
 
 ジロウとゴロウの力を混ぜる。
 
「――――精霊魔法『大旋風』発動!」
 
 あの日、僕達を救ってくれた力だ。
 
「っ! ハウくん! もう一つ混ぜてみて!」
 
 オリアナさんに言われたまま、僕はさらにもう一つの力を発動させてみる。
 
 ジロウとゴロウの力を混ぜた『大旋風』にイチロウの『恵風』を。
 
「――――大精霊魔法『春風』発動!」
 
 僕の体からは信じられないくらい強烈で優しい恵みの風が吹き出し、庭園の中を包み込んだ。
 
 そして、僕はそんな幸せな光景を見ながら――――気を失った。
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