辺境の娘 英雄の娘

リコピン

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第一章 

6-3.

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6-3

人気の無くなった室内、男は手元に残った書類を眺めて、知らず詰めた息を吐く。ここしばらくの懸案事項が片付いたにも関わらず、感じるのは解放感ではなく、一抹の後味の悪さ。

ギシリ、男が立ち上がるに合わせて椅子が鳴った。隣室で待たせている者たちの元へ向かうが、扉を開ける手が一瞬、躊躇する。開けた扉の向こう、半ば予想していた通り、部屋には居心地の悪い沈黙が広がっている。

それでも、男の入室に、若者達は立ち上がり頭を下げた。

「ご助力に、感謝致します」

リーダー格の青年が代表して礼を述べる。男はそれには鷹揚に頷いてみせるだけで、着席を促す。青年達の中心にある少女は俯いたままだ。少女の前の机には、淡い魔力の光を放つ鏡。今は、誰もいない部屋が映し出されている。

「…何にしても、一件落着でしょ。彼女の起こした問題は酷すぎたからね。出ていってもらうしかなかった」

「…」

沈黙を破って、何てことの無いように軽口を叩く男の声。しかしそれに返る返事はない。

「…あーはい、うん、まぁ確かに?最後はちょっと変な感じになっちゃったとは思うけど」

男は一人ごちて、ヒョイと肩をすくめてみせる。並ぶ顔は皆、何を考え込んでいるのか一様に厳しい表情を浮かべている。

「…あそこでああもあっさりと身を引くとは思いませんでした」

眼鏡の奥、漆黒の瞳が揺らぐ。

「まぁ、何というか、フーバー教授のこと庇ってたよね。そんなことするタイプには見えなかったというか、あれはびっくり」

己らが、敵と見定めていたはずの少女の退場。そのあまりに鮮やかな幕引きに―最後に少女が初めて見せた表情も相まり―胸にこびりついた罪悪感。

「…もういいだろ?ディノールが言った通りなんだよ。クソ女がサリアリアにやらかしたことは、今更謝ろうが何しようが、ぜってぇ許せねえ。ここでゴチャゴチャ言ってもしょーがねえだろが」

「うん、そうだね。僕もそう思うよ。って言うか、ラギアス、その顔」

「んだよ?」

「いやいや、どう見ても君が一番『全然納得してません!』って顔してるでしょ!」

「ッ!んなわけねーだろが!」

悪と断じた少女の、成したはずの追放に、けれど勝利の美酒にも酔えず。何か、見えなかった何か。自らの手から溢れ落ちていったものを想う。




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