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第一章
6-2.
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6-2
「ヴィー!ヴィアンカ!お前、ちょっと待て!」
シューベインに抗議を続けていたサイラスだが、こちらが先に退室したところで、後を追って部屋を飛び出して来た。人気の無い廊下を並んで歩き出す。
「お前、本当に何考えてるんだ。さっさと退学決めちまって!俺のここんとこの苦労はいったい何だったんだよ?」
「サイラスには感謝している。他の推薦人達のところにも回ってくれていたのだろう?」
「ああ、うん、まあ…。結局、役には立たなかったけどな。って、ああもう!」
サイラスはブラウンの―元から櫛も通らなそうだった―髪をガシガシと乱暴にかきむしる。
「すまない。ここで学ぶ機会を与えてくれたサイラス達の期待を裏切ってしまった。アグワナ閣下やヘスタトル様にもご迷惑をおかけしてしまったな」
「俺らのことはいいんだよ。アグワナ様たちだって、お前にどうこう言うこたない。あいつらにキレることはあってもな。そうじゃなくて、お前のここまでの努力が無駄になっちまうことが、悔しいんだろうが」
見下ろす瞳に、やりきれなさが浮かんでいる。
「大丈夫だ。実際、落ち込んでもいない。今の私の力ではここまでだったということだろう。命のかからない気楽な演習、疑似情報戦だったとでも思えばいい。負けはしたが、死にはしていない」
「まあた、お前はそういう…」
納得はいかないが、諦めたのだろう。声に呆れがにじむ。
「サイラス。私はサイラスがここに来るまでしてきた努力を、ここから造ろうとする未来を知っている。それを犠牲にするほどの価値、私はここにそれを見出だせなかった。ここにいるべきなのは私ではなく、あなただ」
瞳が逡巡に揺れる。だがそれも一瞬のこと。
「…あー、わかった!俺はここで好きにやる!それでいんだろ?多分…んで?お前はこれからどうするつもりだ?」
「閣下の元へ戻る。ヘスタトル様に報告の必要があるしな。今後については、あちらで相談して決めるつもりだ」
「…そうだな。こうなっちまったもんは、もうどうしようもないか」
サイラスにいつもの余裕が戻ってくる。
「ヴィー。今日うちに来い。向こうに帰る前にアナの飯でも食ってけ」
「アナは元気にしているか?」
「ああ、あいつは元気、元気。丸々してる」
辺境から恋人を帝都まで追いかけてきた女性の、温かい笑顔が浮かぶ。生活力が皆無の―目を離すとすぐに草臥れてしまう―目の前の男のため、故郷を遠く離れてやって来た押しかけ女房。帝都ではなかなかありつけない北方の郷土料理は、彼女の得意とするところだ。
「では、言葉に甘えてお邪魔させてもらおうか。彼女に会えるのが楽しみだ―」
「ヴィー!ヴィアンカ!お前、ちょっと待て!」
シューベインに抗議を続けていたサイラスだが、こちらが先に退室したところで、後を追って部屋を飛び出して来た。人気の無い廊下を並んで歩き出す。
「お前、本当に何考えてるんだ。さっさと退学決めちまって!俺のここんとこの苦労はいったい何だったんだよ?」
「サイラスには感謝している。他の推薦人達のところにも回ってくれていたのだろう?」
「ああ、うん、まあ…。結局、役には立たなかったけどな。って、ああもう!」
サイラスはブラウンの―元から櫛も通らなそうだった―髪をガシガシと乱暴にかきむしる。
「すまない。ここで学ぶ機会を与えてくれたサイラス達の期待を裏切ってしまった。アグワナ閣下やヘスタトル様にもご迷惑をおかけしてしまったな」
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見下ろす瞳に、やりきれなさが浮かんでいる。
「大丈夫だ。実際、落ち込んでもいない。今の私の力ではここまでだったということだろう。命のかからない気楽な演習、疑似情報戦だったとでも思えばいい。負けはしたが、死にはしていない」
「まあた、お前はそういう…」
納得はいかないが、諦めたのだろう。声に呆れがにじむ。
「サイラス。私はサイラスがここに来るまでしてきた努力を、ここから造ろうとする未来を知っている。それを犠牲にするほどの価値、私はここにそれを見出だせなかった。ここにいるべきなのは私ではなく、あなただ」
瞳が逡巡に揺れる。だがそれも一瞬のこと。
「…あー、わかった!俺はここで好きにやる!それでいんだろ?多分…んで?お前はこれからどうするつもりだ?」
「閣下の元へ戻る。ヘスタトル様に報告の必要があるしな。今後については、あちらで相談して決めるつもりだ」
「…そうだな。こうなっちまったもんは、もうどうしようもないか」
サイラスにいつもの余裕が戻ってくる。
「ヴィー。今日うちに来い。向こうに帰る前にアナの飯でも食ってけ」
「アナは元気にしているか?」
「ああ、あいつは元気、元気。丸々してる」
辺境から恋人を帝都まで追いかけてきた女性の、温かい笑顔が浮かぶ。生活力が皆無の―目を離すとすぐに草臥れてしまう―目の前の男のため、故郷を遠く離れてやって来た押しかけ女房。帝都ではなかなかありつけない北方の郷土料理は、彼女の得意とするところだ。
「では、言葉に甘えてお邪魔させてもらおうか。彼女に会えるのが楽しみだ―」
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