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第二章
5-2.
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5-2.
要請から十日、光属性魔術師の追加派兵こそ叶わなかったものの、帝都からの増援隊が到着を告げた。
三個中隊からなる増援隊を率いた指揮官の着任の挨拶とは別に、士官学校時代の懐かしい顔から訪問を受けた。
「失礼します。シヴェスタ・セウロン小隊長、着任の挨拶に伺いました。…お久しぶりです。ヂアーチ様」
「元気そうだな、セウロン。士官学校を四年で出て、一年で小隊長か、頑張ってんじゃねえか」
「有り難うございます!まだまだ、これから。精進して参ります」
破顔した顔に幼さが見え、懐かしい光景が蘇る。一瞬、何かがよぎるが、掴み損ねて、直ぐにかき消えた。
任務中ということもあり、一言、二言交わして、セウロンは直ぐに暇を告げる。辞去しようとしたところで、扉を叩く音がした。
「恐らく私です。資料をいくつか頼んでいたので」
言って、マイワットが扉に向かう。部屋の外にいるのは、マイワットの半ば強引な要請に応えて、大隊に協力してくれている女性―
と、目の前の男―
苦い感傷と共に、記憶が繋がった
「!!待て!マイワット!」
一瞬遅く、開かれた扉から現れた女と、振り返り入室者の存在を確かめた男が互いの存在を認め―
「!?ユニファルア!!貴様が何故ここにいる!?」
「!」
「くそっ!っやめろ!セウロン!!」
扉に近い部下二人は、何が起きたのか判断できず、瞬時に動けずにいる。最悪な展開。激昂する男を下がらせようと、肩に手をかけ強く引くが―
「こんなところまで追いかけて来たのか!恥を知れ!!」
「やめろ!」
引いた勢いのまま力任せに床に転がすが、それでも止まらない男の言葉にユニファルアの顔から血の気がひくのがわかる。
―くそ、まただ!
あの時―遠目ではあったが―自分達が追い詰め、脅かした少女の姿と重なる。男の視界から隠すために彼女に近づこうとした瞬間、部屋に施された防衛結界が、外部からの干渉を警告して、赤く明滅した。
一瞬後には転移魔法特有の空間の歪みとともに、ユニファルアの前にヴィアンカが現れる。
「特務官殿!大隊長執務室への強制転移など、暴挙です!」
混乱する場にマイワットの叱責がとぶが、ヴィアンカは気にした風もなく、背後にかばったユニファルアの無事を確認している。
「緊急時だ。特務には許されている。ユニファルアへの脅威を感知した。何があった?」
ユニファルアが自身の手首に触れた。光を反射して揺れる華奢な金の鎖。情動感知型の守護の腕輪か。
問いに誰も答えられずにいると、床に転がるシヴェスタを認めたヴィアンカが、一人納得した。
「…なるほど、状況は理解した。数刻時間をくれ、そちらからの要請もあったことだ、ユニファルアの後見を連れて来よう」
「!」
「彼にはユニファルアの安全を保証している。問題をそのままにしておくわけにもいかない。今はユニファルアを護る存在が必要だしな。転移陣の臨時使用許可を」
己が躊躇う間にも、マイワットから許可書を奪い取ったヴィアンカ。まだ顔色の優れないユニファルアを連れて部屋を出ようとしたところで、セウロンが再び騒ぎ出した。
「逃げるつもりか!?」
「逃げる?」
振り向いた女の瞳に、炎がともった。その激しさに息をのみ、目が離せなくなる―
「言っておくが、私は腹が立っている。ユニファルアを守れなかった自身にも、セウロン、貴様にも。私には貴様を責める権利がない。だからその権利を持つものを連れて来ると言っているのだ。貴様こそ、逃げられると思うな」
ヴィアンカ達が部屋を出てから、長針が2周目を終えようとしていた。己らが残された部屋には沈黙が続く。
彼女達が去った後、二人の部下には、かつてユニファルアとセウロンの間に起きたことを語った。セウロンも、彼女がここにいる理由を話せば、不服そうではあったが、自身の早合点については詫びをいれた。
話が終わったところで、マイワットは彼女らの帰りを待つと転移の間へと向かって、未だ戻らない。
話をしている間も、話が終わってからも黙ったままのダグストアは、ずっと何かを考え込んでいる。
長針が三周目に入ったところで、マイワットが戻り、ヴィアンカ達の帰還を告げた。間もなく訪れるという言葉の通り、直後、扉が叩かれる。
「入れ」
己の許可の後、ヴィアンカの先導に続いて、ユニファルアの手を引きながら現れた男に、瞠目する。
―この、男は
「…ヘスタトル・ダーマンドル、次期辺境伯閣下―」
要請から十日、光属性魔術師の追加派兵こそ叶わなかったものの、帝都からの増援隊が到着を告げた。
三個中隊からなる増援隊を率いた指揮官の着任の挨拶とは別に、士官学校時代の懐かしい顔から訪問を受けた。
「失礼します。シヴェスタ・セウロン小隊長、着任の挨拶に伺いました。…お久しぶりです。ヂアーチ様」
「元気そうだな、セウロン。士官学校を四年で出て、一年で小隊長か、頑張ってんじゃねえか」
「有り難うございます!まだまだ、これから。精進して参ります」
破顔した顔に幼さが見え、懐かしい光景が蘇る。一瞬、何かがよぎるが、掴み損ねて、直ぐにかき消えた。
任務中ということもあり、一言、二言交わして、セウロンは直ぐに暇を告げる。辞去しようとしたところで、扉を叩く音がした。
「恐らく私です。資料をいくつか頼んでいたので」
言って、マイワットが扉に向かう。部屋の外にいるのは、マイワットの半ば強引な要請に応えて、大隊に協力してくれている女性―
と、目の前の男―
苦い感傷と共に、記憶が繋がった
「!!待て!マイワット!」
一瞬遅く、開かれた扉から現れた女と、振り返り入室者の存在を確かめた男が互いの存在を認め―
「!?ユニファルア!!貴様が何故ここにいる!?」
「!」
「くそっ!っやめろ!セウロン!!」
扉に近い部下二人は、何が起きたのか判断できず、瞬時に動けずにいる。最悪な展開。激昂する男を下がらせようと、肩に手をかけ強く引くが―
「こんなところまで追いかけて来たのか!恥を知れ!!」
「やめろ!」
引いた勢いのまま力任せに床に転がすが、それでも止まらない男の言葉にユニファルアの顔から血の気がひくのがわかる。
―くそ、まただ!
あの時―遠目ではあったが―自分達が追い詰め、脅かした少女の姿と重なる。男の視界から隠すために彼女に近づこうとした瞬間、部屋に施された防衛結界が、外部からの干渉を警告して、赤く明滅した。
一瞬後には転移魔法特有の空間の歪みとともに、ユニファルアの前にヴィアンカが現れる。
「特務官殿!大隊長執務室への強制転移など、暴挙です!」
混乱する場にマイワットの叱責がとぶが、ヴィアンカは気にした風もなく、背後にかばったユニファルアの無事を確認している。
「緊急時だ。特務には許されている。ユニファルアへの脅威を感知した。何があった?」
ユニファルアが自身の手首に触れた。光を反射して揺れる華奢な金の鎖。情動感知型の守護の腕輪か。
問いに誰も答えられずにいると、床に転がるシヴェスタを認めたヴィアンカが、一人納得した。
「…なるほど、状況は理解した。数刻時間をくれ、そちらからの要請もあったことだ、ユニファルアの後見を連れて来よう」
「!」
「彼にはユニファルアの安全を保証している。問題をそのままにしておくわけにもいかない。今はユニファルアを護る存在が必要だしな。転移陣の臨時使用許可を」
己が躊躇う間にも、マイワットから許可書を奪い取ったヴィアンカ。まだ顔色の優れないユニファルアを連れて部屋を出ようとしたところで、セウロンが再び騒ぎ出した。
「逃げるつもりか!?」
「逃げる?」
振り向いた女の瞳に、炎がともった。その激しさに息をのみ、目が離せなくなる―
「言っておくが、私は腹が立っている。ユニファルアを守れなかった自身にも、セウロン、貴様にも。私には貴様を責める権利がない。だからその権利を持つものを連れて来ると言っているのだ。貴様こそ、逃げられると思うな」
ヴィアンカ達が部屋を出てから、長針が2周目を終えようとしていた。己らが残された部屋には沈黙が続く。
彼女達が去った後、二人の部下には、かつてユニファルアとセウロンの間に起きたことを語った。セウロンも、彼女がここにいる理由を話せば、不服そうではあったが、自身の早合点については詫びをいれた。
話が終わったところで、マイワットは彼女らの帰りを待つと転移の間へと向かって、未だ戻らない。
話をしている間も、話が終わってからも黙ったままのダグストアは、ずっと何かを考え込んでいる。
長針が三周目に入ったところで、マイワットが戻り、ヴィアンカ達の帰還を告げた。間もなく訪れるという言葉の通り、直後、扉が叩かれる。
「入れ」
己の許可の後、ヴィアンカの先導に続いて、ユニファルアの手を引きながら現れた男に、瞠目する。
―この、男は
「…ヘスタトル・ダーマンドル、次期辺境伯閣下―」
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