辺境の娘 英雄の娘

リコピン

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第三章(最終章)

3-3.

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3-3.

晩餐の席―生憎、荷物の類いは別便で宿の方へ届いている―礼を失するが旅装のままで、ラギアスの家族と食事を共にする。

帝都や辺境の情勢、多くは魔物の動向についての当たり障りの無い会話が続いた後―先ほど改めてデューター・ヂアーチだと名乗った―ラギアスの父が口を開いた。

「ラギアス、国軍として剣術大会へ参加せよ」

「お断りします。…面倒くせえ」

「何?」

とりつく島も無いラギアスの返答に、デューターの眉間にしわが寄る。睨み合う、よく似た顔の親子を見比べて、どうしたものかと思っていると、アンネリエの仲裁が入った。

「あなた、もう少しきちんと言葉になさって。ラギアスも、何が面倒なの?国軍としてではなく、北方領軍としてなら参加できるの?」

「領軍としても参加したくねえよ。どうしてもやり合いたい奴がいるわけでなし、見世物になるのは元から好きじゃねえ」

「もう、困った子ねえ」

アンネリエがチラリとこちらに視線を送る。

「デューターは言わなかったけれど、前回優勝者が欠席では、剣術大会の意義が欠けてしまうの。『一番強い者が居なかった』、だから優勝できたと思われた者が、どんな扱いを受けるかわかるでしょう?」

「んなもの知るか」

ラギアスとしては、そんなことを言う者など己の力でねじ伏せろということなのだろうが。

「それにね。剣術大会は帝国の強さを知らしめるための公の場。国の安寧のためでもあるの。魔物に怯えていても、強い人が守ってくれると思えば、安心できるでしょ」

「それは我らヂアーチの義務でもある」

デューターの言葉にラギアスは苦虫を噛み潰した顔で黙り込む。彼もそれは理解しているのだ。例え本意ではなくとも、国軍時代に参加し続けていたのは、そのためだろうから。

「ねえ、ヴィアンカさん」

「?はい」

唐突な呼び掛けにアンネリエを振り向く。

「ヴィアンカさんは今まで剣術大会を見たことはある?」

「いえ、ありません」

「そう、じゃあ、」

アンネリエがの笑みが深くなる。

「ラギアスの勇姿、見てみたくはないかしら?」

「おふくろ!?」

ラギアスは驚くが、アンネリエの言葉に、心を惹かれた。

「…そうですね。確かに興味があります」

ラギアスの、魔物相手の何でも有りの戦いなら幾度も見た。格下相手への力加減を行った稽古も目にしたことがある。しかし、この男が本気でその本分たる剣を振るうところなど、滅多に目に出来るものでは無い。

―見てみたい

ラギアスを見やれば、一瞬の怯みの後、がしがしと髪をかき乱す。

「お止めなさい、ラギアス。みっともない」

「っくそ!わかったよ。出るよ。出りゃいんだろうが」 

母親の制止を流して、ラギアスが大会への出場を叫ぶ。その態度から仕方ないという思いがはっきりと伝わる。割りきってはいるようだが、戦意は薄い。

ならば―

「ラギアス、剣のみで勝て」

「あ?」

「魔力付与は無しだ。純粋な剣術だけで優勝して見せろ」

「…なるほどな、おもしれえ」

ラギアスの目に闘争へのたぎりが浮かぶ。

彼がここ最近、剣術に打ち込んでいることは知っている。不滅者に対抗する手段として、魔力無しでの無力化を彼は狙っているのだ。

剣のみで抑え、魔法攻撃による不滅者の魔力拡散を避ける。そこで私が魔力を吸収すれば、私の負担が、私が傷つくことが減る。そう考えてくれているのだ、この男は。

―驕りでなければ、それは、私のために磨かれた剣

「いいぜ、それでいってやる。そうすりゃ試合も面白くなりそうだしな」

「ああ、期待している」

ラギアスが嬉しそうに笑う。

「ラギアスが剣だけで勝ち上がれば、あなたの純粋な剣技に憧れる者達も現れるだろうな」

「…そうか?」

「ああ、魔術偏重の時勢ではあるが、あなたの影響で剣を大切にするものが増えるだろう。かつて、徒手空拳にて戦う英雄に憧れる者達が、身体強化というすべを生み出したようにな」

「は!?身体強化ってのは、そんな理由で考えられたのか!?」 

驚くラギアスに頷いて見せる。

「これからの北、いや帝国には、魔術に寄らない強さはきっと必要になる。ラギアスに憧れて、北へ志願してくる者も増えるといいな」

話の流れを静観していたデューダーが口を開いた。

「…ラギアス、やはり国軍として、」

「それは、絶対にお断りします」

再び睨み合う親子に、アンネリエが処置なしとばかりに首を振った。




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