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第三章(最終章)
8-4.
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8-4.
―彼女が泣いている
暗い室内、帝都の屋敷とは比べ物にならないほどに質素なその部屋に、聞こえてくるのは、ただ―
私は、どこで、何を間違ったのだろうか。
―マクライド、そなた、英雄の娘と親しいそうだな。ならば、知りおけ。余の軍にあの娘はいらぬ
―あの娘は、危険すぎる。過ぎた虚像を与えられ、それを御することも出来ずに、周囲を巻き込む愚者だ
―甘いことを。己の力に無自覚で、騒乱の元たり得ることに無防備。それだけで、帝国の、皇家にとっての厄災であろうよ
ただ、愛する彼女に笑っていて欲しかった。
―英雄の娘との結婚ですって?…いいでしょう。産まれてくる子は、皇家に嫁しなさい、それが条件です
―飲めないと言うのならば、家の為に他家に婿入りするか、家を出てその平民の娘をめとるか
―あなたが、選びなさい
自分は最良の選択をしたはずで。けれど今、
―え?ここから、出られるの?…旅、お父さんみたいにって…
―…ただのサリアリア…。それって、べブスファーの名前も、アンブロシアの名前も捨てちゃうってこと?…私には無理だよ
―そんなの出来ない!だって、私は英雄の娘なんだよ!皆が憧れる英雄の、たった一人の娘なんだから!
―やめて!マクライド!そんな目で見ないで!私を憐れまないで!私は、可哀想なんかじゃない!!
ここは、大戦を無傷で生き残った地、カティア。魔物の脅威の遠いここで、サリアリアを『英雄の娘』と崇める者はいない。
―彼女が泣いている
たった一人の女のため、跡継ぎの座を捨て、築いた地位と名誉を失って笑う、友の顔が浮かんだ―
―彼女が泣いている
暗い室内、帝都の屋敷とは比べ物にならないほどに質素なその部屋に、聞こえてくるのは、ただ―
私は、どこで、何を間違ったのだろうか。
―マクライド、そなた、英雄の娘と親しいそうだな。ならば、知りおけ。余の軍にあの娘はいらぬ
―あの娘は、危険すぎる。過ぎた虚像を与えられ、それを御することも出来ずに、周囲を巻き込む愚者だ
―甘いことを。己の力に無自覚で、騒乱の元たり得ることに無防備。それだけで、帝国の、皇家にとっての厄災であろうよ
ただ、愛する彼女に笑っていて欲しかった。
―英雄の娘との結婚ですって?…いいでしょう。産まれてくる子は、皇家に嫁しなさい、それが条件です
―飲めないと言うのならば、家の為に他家に婿入りするか、家を出てその平民の娘をめとるか
―あなたが、選びなさい
自分は最良の選択をしたはずで。けれど今、
―え?ここから、出られるの?…旅、お父さんみたいにって…
―…ただのサリアリア…。それって、べブスファーの名前も、アンブロシアの名前も捨てちゃうってこと?…私には無理だよ
―そんなの出来ない!だって、私は英雄の娘なんだよ!皆が憧れる英雄の、たった一人の娘なんだから!
―やめて!マクライド!そんな目で見ないで!私を憐れまないで!私は、可哀想なんかじゃない!!
ここは、大戦を無傷で生き残った地、カティア。魔物の脅威の遠いここで、サリアリアを『英雄の娘』と崇める者はいない。
―彼女が泣いている
たった一人の女のため、跡継ぎの座を捨て、築いた地位と名誉を失って笑う、友の顔が浮かんだ―
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