52 / 78
第三章 堕とされた先で見つけたもの
14.
しおりを挟む
14.
結局、アライラを襲い、シェーンを傷つけたカールがお咎めを受けることはなかった。それは、この世界の女性の扱いというものを改めて感じさせるものではあったけれど、『商品』をキズモノにされて激怒したピロウによって、カールは店への出入りを禁止された。
一つだけ、良かったことがあったとすれば、事件依頼、シェーンやソフィーとの距離が近くなったこと。
元から面倒見のいいシェーンはともかく、明らかにこちらを避けていたソフィーが、あちらから話しかけて来ることが増え、空いた時間には三人で談笑することさえある。
ただ、好奇心旺盛な二人に振られる話題には、答えに困るものもあって―
「そう言えば、アルマはあのヴォルフって男とどこで出会ったの?」
「えっと…」
シェーンの前で、『異なる世界から来た』ことにふれるわけにはいかない。
「…森で迷ってた時に、熊に襲われて、」
「「は!?」」
二人の声が重なった。
「それをヴォルフが助けてくれて」
「ちょっ、待って!は?森?熊?何でよ!?」
「?」
焦ったようなソフィーの姿に首をかしげる。
「何それ!え?誤魔化してるとかじゃなくて本当に!?聖都で、護衛、あんたを守る人間として出会ったとかじゃなくて!?」
その言葉に少し驚く。彼女は、一体、私達のことをどこまで知っているのだろう?
「…初めてあったのは森の中です。気がついたら放り出されてました」
「え?なぁに、それ?あんた、前にも男に捨てられたことでもあるの?」
「シェーンは黙ってて!!」
ソフィーの剣幕にシェーンが圧されている。
「あー!何よ?どういうこと?でも、そうか、確か召喚の時期が早かった気がする!アルマ、あんた神殿に召喚されたんじゃないのね?」
本当に焦っているせいか、『召喚』、『神殿』という言葉を口にするソフィーに、シェーンが訝しげな視線を送っている。ソフィーはそれに気づいた様子もなく、
「ネーエの街でもないの?聖都の隣にある街!そこで、誰かに会ったりしてない?」
「…いえ。神殿に見つかったのはネーエでしたけど、そこまで一緒に居てくれたのはヴォルフだけです」
「マジで??え?本当、なんで?」
真剣に考え込んでしまったソフィーに、シェーンと顔を見合わせる。シェーンが肩をすくめたところで、ノックもなく控え室の扉が開いた。
部屋に入ってきたピロウ、その後に続いた男の姿に息を飲む。
穏やかな、笑みさえ浮かべて佇む男を睨む。
トラオム―
そこには私を拐い、売り飛ばした男が立っていた。
結局、アライラを襲い、シェーンを傷つけたカールがお咎めを受けることはなかった。それは、この世界の女性の扱いというものを改めて感じさせるものではあったけれど、『商品』をキズモノにされて激怒したピロウによって、カールは店への出入りを禁止された。
一つだけ、良かったことがあったとすれば、事件依頼、シェーンやソフィーとの距離が近くなったこと。
元から面倒見のいいシェーンはともかく、明らかにこちらを避けていたソフィーが、あちらから話しかけて来ることが増え、空いた時間には三人で談笑することさえある。
ただ、好奇心旺盛な二人に振られる話題には、答えに困るものもあって―
「そう言えば、アルマはあのヴォルフって男とどこで出会ったの?」
「えっと…」
シェーンの前で、『異なる世界から来た』ことにふれるわけにはいかない。
「…森で迷ってた時に、熊に襲われて、」
「「は!?」」
二人の声が重なった。
「それをヴォルフが助けてくれて」
「ちょっ、待って!は?森?熊?何でよ!?」
「?」
焦ったようなソフィーの姿に首をかしげる。
「何それ!え?誤魔化してるとかじゃなくて本当に!?聖都で、護衛、あんたを守る人間として出会ったとかじゃなくて!?」
その言葉に少し驚く。彼女は、一体、私達のことをどこまで知っているのだろう?
「…初めてあったのは森の中です。気がついたら放り出されてました」
「え?なぁに、それ?あんた、前にも男に捨てられたことでもあるの?」
「シェーンは黙ってて!!」
ソフィーの剣幕にシェーンが圧されている。
「あー!何よ?どういうこと?でも、そうか、確か召喚の時期が早かった気がする!アルマ、あんた神殿に召喚されたんじゃないのね?」
本当に焦っているせいか、『召喚』、『神殿』という言葉を口にするソフィーに、シェーンが訝しげな視線を送っている。ソフィーはそれに気づいた様子もなく、
「ネーエの街でもないの?聖都の隣にある街!そこで、誰かに会ったりしてない?」
「…いえ。神殿に見つかったのはネーエでしたけど、そこまで一緒に居てくれたのはヴォルフだけです」
「マジで??え?本当、なんで?」
真剣に考え込んでしまったソフィーに、シェーンと顔を見合わせる。シェーンが肩をすくめたところで、ノックもなく控え室の扉が開いた。
部屋に入ってきたピロウ、その後に続いた男の姿に息を飲む。
穏やかな、笑みさえ浮かべて佇む男を睨む。
トラオム―
そこには私を拐い、売り飛ばした男が立っていた。
37
あなたにおすすめの小説
傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました
みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。
ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
王女殿下のモラトリアム
あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」
突然、怒鳴られたの。
見知らぬ男子生徒から。
それが余りにも突然で反応できなかったの。
この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの?
わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。
先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。
お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって!
婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪
お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。
え? 違うの?
ライバルって縦ロールなの?
世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。
わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら?
この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。
※設定はゆるんゆるん
※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。
※明るいラブコメが書きたくて。
※シャティエル王国シリーズ3作目!
※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。
上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。
※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅!
※小説家になろうにも投稿しました。
【完結】小公爵様の裏の顔をわたしだけが知っている
おのまとぺ
恋愛
公爵令息ルシアン・ド・ラ・パウルはいつだって王国の令嬢たちの噂の的。見目麗しさもさることながら、その立ち居振る舞いの上品さ、物腰の穏やかさに女たちは熱い眼差しを向ける。
しかし、彼の裏の顔を知る者は居ない。
男爵家の次女マリベルを除いて。
◇素直になれない男女のすったもんだ
◇腐った令嬢が登場したりします
◇50話完結予定
2025.2.14
タイトルを変更しました。(完結済みなのにすみません、ずっとモヤモヤしていたので……!)
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして”世界を救う”私の成長物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー編
第二章:討伐軍北上編
第三章:魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる
夏菜しの
恋愛
十七歳の時、生涯初めての恋をした。
燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。
しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。
あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。
気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。
コンコン。
今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。
さてと、どうしようかしら?
※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。
行動あるのみです!
棗
恋愛
※一部タイトル修正しました。
シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。
自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。
これが実は勘違いだと、シェリは知らない。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる