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嫌い
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わたしの両親は、大学の映画同好会で出会ったらしい。
在学中に父が監督、母が主演の映画をコンテストに出品し、大賞を受賞。
父は海外留学を経て映画監督の道へ。そして母は俳優の道へと進んだ。
父の帰国後、母はたびたび父の映画で主演を務め、二人がずっと目標にしていた海外の大きな映画賞の受賞を機に結婚。
『大型カップル誕生』と、当時世間では相当騒がれたらしい。
もちろんわたしの生まれる何年も前の話だから、当時のことはよく知らないのだけど。
そして、わたしが小学校に上がるまでは仕事をセーブしていたお母さんが、また仕事をバリバリ受けるようになると、両親はすれ違い生活になってしまった。
「決して嫌い同士になったわけじゃない。だけど、そうならないためにも、これしか方法がなかったんだよ」
わたしが中学を卒業するタイミングで離婚することになったとき、そう言って両親はわたしに何度も謝った。
嫌いじゃないのに、どうして離婚しなくちゃいけないの?
わたしはお父さんともお母さんとも一緒にいたいのに、どうして離婚するしかないなんて言うの?
いっぱい言いたいことはあった。
けど、なにも言えなかった。
わたしの家族がめちゃくちゃになったのは、お父さんとお母さんの仕事のせい。
そう思ったわたしは、芸能界を嫌うことで、なんとか気持ちを保ってきた。
でも、ひょっとしたら、わたしもおじいちゃんと同じなのかもしれない。
仕事で予定より帰りが遅くなったときも、絶対に見に来てくれるって約束してくれたのに、運動会にも学芸会にも来てくれなかったときも。
「大丈夫だよ」って笑顔で言いながら、心の中で泣いていた。
大好きって思いながら、大っ嫌いって思ってた。
そっか。だから噓ばかり吐く悠李くんにも、こんなに敏感になっていたんだ。
それなのに、悠李くんにわたしの大嫌いな嘘を吐かせてしまったなんて……。
「申し訳ありません。本当の名前は、双葉悠李と申します。俳優をやらせていただいてます。今日は、日菜さんにおじいさんの畑が見てみたいと無理にお願いしてしまいました。ご迷惑でしたら、すぐに失礼します」
「おじいちゃんのトマトをあげたらね、悠李くん、太陽の味がしてすっごくおいしいって言ってたの。だからね――」
「なら、採れたてトマト、食ってけ」
それだけ言うと、おじいちゃんは玄関で靴を履いて、外へと出ていった。
わたしの方をちらっと見た悠李くんに小さくうなずいて見せると、悠李くんもおじいちゃんの背中を追って玄関を出た。
二人で庭のトマト畑に入っていくのを、玄関からそっと覗き見る。
おじいちゃんが、真っ赤に熟れたトマトをひとつ手に取ると、枝からハサミで切り取って、悠李くんに差し出した。
きゅきゅっと服で拭ってから、ガブリとかぶりつく。
「うんまっ! ……あっ、すみません。すごくおいしいです」
「そうかしこまらんでいい。宿泊先に冷蔵庫があるなら、少し持ってけ」
「えっ、本当にいいんですか!?」
真夏の太陽の下で、悠李くんの笑顔がキラキラと輝いている。
本当にトマトが大好きなんだね。
しばらくおじいちゃんと一緒に庭の畑にいた悠李くんが、大きなカゴいっぱいに野菜を収穫して、玄関に戻ってきた。
「日菜、見ろよ、このでかいキュウリ。スーパーのやつの4本分くらいあるぞ。こっちはゴーヤ。つやっつやだろ!?」
居間から玄関に出迎えに行くと、悠李くんがわたしに向かって嬉しそうにゴーヤを掲げて見せる。
「ふふっ。昔の隆さんを見ているみたいだわ」
そんな悠李くんを見て、おばあちゃんがつぶやいた。
隆さん――お父さんのことだ。
そっか。昔は仲が良かったんだね、おじいちゃんとお父さん。
それに……今、思い出した。トマトは、お母さんの大好物だ。
東京にいるときも、夏になるとおじいちゃんがよく宅配便で送ってきてくれていたっけ。
トマトが届くと、お母さんは嬉しそうにおじいちゃんに電話をしていた。
そう、さっきの悠李くんみたいな、本物の笑顔を浮かべて。
在学中に父が監督、母が主演の映画をコンテストに出品し、大賞を受賞。
父は海外留学を経て映画監督の道へ。そして母は俳優の道へと進んだ。
父の帰国後、母はたびたび父の映画で主演を務め、二人がずっと目標にしていた海外の大きな映画賞の受賞を機に結婚。
『大型カップル誕生』と、当時世間では相当騒がれたらしい。
もちろんわたしの生まれる何年も前の話だから、当時のことはよく知らないのだけど。
そして、わたしが小学校に上がるまでは仕事をセーブしていたお母さんが、また仕事をバリバリ受けるようになると、両親はすれ違い生活になってしまった。
「決して嫌い同士になったわけじゃない。だけど、そうならないためにも、これしか方法がなかったんだよ」
わたしが中学を卒業するタイミングで離婚することになったとき、そう言って両親はわたしに何度も謝った。
嫌いじゃないのに、どうして離婚しなくちゃいけないの?
わたしはお父さんともお母さんとも一緒にいたいのに、どうして離婚するしかないなんて言うの?
いっぱい言いたいことはあった。
けど、なにも言えなかった。
わたしの家族がめちゃくちゃになったのは、お父さんとお母さんの仕事のせい。
そう思ったわたしは、芸能界を嫌うことで、なんとか気持ちを保ってきた。
でも、ひょっとしたら、わたしもおじいちゃんと同じなのかもしれない。
仕事で予定より帰りが遅くなったときも、絶対に見に来てくれるって約束してくれたのに、運動会にも学芸会にも来てくれなかったときも。
「大丈夫だよ」って笑顔で言いながら、心の中で泣いていた。
大好きって思いながら、大っ嫌いって思ってた。
そっか。だから噓ばかり吐く悠李くんにも、こんなに敏感になっていたんだ。
それなのに、悠李くんにわたしの大嫌いな嘘を吐かせてしまったなんて……。
「申し訳ありません。本当の名前は、双葉悠李と申します。俳優をやらせていただいてます。今日は、日菜さんにおじいさんの畑が見てみたいと無理にお願いしてしまいました。ご迷惑でしたら、すぐに失礼します」
「おじいちゃんのトマトをあげたらね、悠李くん、太陽の味がしてすっごくおいしいって言ってたの。だからね――」
「なら、採れたてトマト、食ってけ」
それだけ言うと、おじいちゃんは玄関で靴を履いて、外へと出ていった。
わたしの方をちらっと見た悠李くんに小さくうなずいて見せると、悠李くんもおじいちゃんの背中を追って玄関を出た。
二人で庭のトマト畑に入っていくのを、玄関からそっと覗き見る。
おじいちゃんが、真っ赤に熟れたトマトをひとつ手に取ると、枝からハサミで切り取って、悠李くんに差し出した。
きゅきゅっと服で拭ってから、ガブリとかぶりつく。
「うんまっ! ……あっ、すみません。すごくおいしいです」
「そうかしこまらんでいい。宿泊先に冷蔵庫があるなら、少し持ってけ」
「えっ、本当にいいんですか!?」
真夏の太陽の下で、悠李くんの笑顔がキラキラと輝いている。
本当にトマトが大好きなんだね。
しばらくおじいちゃんと一緒に庭の畑にいた悠李くんが、大きなカゴいっぱいに野菜を収穫して、玄関に戻ってきた。
「日菜、見ろよ、このでかいキュウリ。スーパーのやつの4本分くらいあるぞ。こっちはゴーヤ。つやっつやだろ!?」
居間から玄関に出迎えに行くと、悠李くんがわたしに向かって嬉しそうにゴーヤを掲げて見せる。
「ふふっ。昔の隆さんを見ているみたいだわ」
そんな悠李くんを見て、おばあちゃんがつぶやいた。
隆さん――お父さんのことだ。
そっか。昔は仲が良かったんだね、おじいちゃんとお父さん。
それに……今、思い出した。トマトは、お母さんの大好物だ。
東京にいるときも、夏になるとおじいちゃんがよく宅配便で送ってきてくれていたっけ。
トマトが届くと、お母さんは嬉しそうにおじいちゃんに電話をしていた。
そう、さっきの悠李くんみたいな、本物の笑顔を浮かべて。
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